【特集】広場と緑のあるこの空間が人気カフェを生んだ カフェ「手紙舎」 神代団地 (東京都調布市・狛江市)
団地はもとより、今や全国にファンがいるカフェ「手紙舎」。どこか懐かしいレトロな店は、年月を重ねた団地にしっとり溶け込み、得も言われぬ魅力を醸し出す。開業の決め手は、団地ならではの空間にあった。
ヒマラヤスギの目の前の商店街にあるカフェ
京王線つつじヶ丘駅から、住宅街を歩いて10分ほど。神代(じんだい)団地に入ると、大きく育った木々に囲まれて、まるで広い公園を散歩しているような気分になる。
団地中央の広場には、ヒマラヤスギの巨木が3本。その周りには子どもたちの遊び場と団地の集会所、商店街とスーパーがある。訪れた平日の午後、広場では小学生たちが遊び回り、ベビーカーを押した母親たちが談笑していた。
このヒマラヤスギの広場に面した商店街にあるのが、全国からファンが訪れる人気のカフェ「手紙舎」だ。
ちょっとレトロで、手づくりのぬくもりが感じられる店で、中にはさまざまな本を並べた書棚があり、自家製の焼き菓子なども販売している。ガラス窓越しに団地の広場とヒマラヤスギを眺めながら、好きな本を読むのもよし、友達とおしゃべりするのもいい。どこをとっても絵になるカフェのたたずまいは、入居開始からそろそろ60年になるという神代団地の雰囲気にぴったりとフィットしている。
この「手紙舎」を営むのは、雑誌編集の仕事をしていた手紙社代表の北島 勲さん。もともと神代団地の近くに編集事務所を構えていたが、そこを出ることになり、新たな物件を探していたときに、たまたまここを通りかかった。 「この広場を見た瞬間、東京とは思えない気持ちのいい緑の空間に、一目惚れしたんです。そのときにはお店をやることなど、考えもしていなかったのですが……」
北島さんはこう振り返る。それまで仕事で地方の店を取材するたびに、こういう店をやるのもいいなと思うことはあった。また、イベントを通じて知り合った作家さんたちの作品を扱いながら、カフェができたらいいなと考えたこともある。この場所との運命的な出会いが、そんな思いとともに北島さんをカフェ開業へと導いていった。
新たな仲間が増えて商店街に活気が生まれた
「でも、始めてからが大変でしたよ」と北島さん。オープンは2009(平成21)年。最初の数年は来店客が少なくて苦労したという。商店街にも空き店舗が多く、団地の人もやってこない。
「開業するときには、URさんのチャレンジスペースという制度を利用したので、契約してから半年間は家賃が無料でした。普通は、ひとたび賃貸契約を交わしたら、すぐに家賃がかかります。それが改装工事の間だけでなく、開業後も含めて半年間無料というのは、開業を後押ししてくれるうれしい制度で、本当に助かりました」
さらにURは管理がしっかりしていて「周辺をいつもきれいに掃除してくれるのも、ありがたい」と北島さん。更新料がないのもURならではだ。
今では“手紙舎効果”で、商店街に次々と新しい店が入居しはじめている。
「開店当初はお客さんが少ないので、店の奥に机を置いて、そこで編集の仕事をしていた時期もありました。そのうちにここで開いたイベントで知り合った仲間が、この場所を気に入って、商店街で開業することに。2店、3店と集まればパワーが出るし、相乗効果が生まれ、多くの人たちが来店するきっかけにもなります。そうやってだんだんお客さんが増えていきました。今では店舗に空きが出るのを待っている仲間もいるほどです。人の行き来が増えることで、団地の活性化にも多少は貢献しているかなと思っています」
現在、「手紙舎」の隣には山本牛乳店、1軒おいて隣には型染めとオリジナルクラフトの店「katakata」がオープン。それぞれにファンを持ち、よそにはない魅力を醸し出している。
「お店を始めようと思ったら、人の多い駅前立地がいいなど、普通は先に市場調査をしてから始めると思いますが、僕の場合は、まずこの場との出会いがあり、それから商売を考えました。それほど緑が多くてゆとりのある、この団地の空間が気に入っています。この雰囲気は、年月を重ねた団地でなければ生み出せません。手紙舎のお客さまも、ここに魅かれるのだと思います」
「手紙舎」は神代団地とともにゆっくりと時を刻みながら、この小さなカフェを目指して団地の小径を歩いてくる人々を待っている。
手紙舎 つつじヶ丘本店
TEL:042-444-5331
営業時間:11~16時(土日祝日は~17時)
定休日:月・火曜(祝日は営業)
【武田ちよこ=文、菅野健児=撮影】
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