【特集】ここは“団地のリビング” 高齢者の健康を支える惣菜屋 団らん処 和菜屋 金田一丁目団地(福岡県北九州市)
「食事」を通して高齢者の暮らしをサポートしたい。そのような思いで団地内に誕生し、健康面だけでなく精神面でも多くの人を支えている惣菜屋が北九州にある。
日替わりのお惣菜が次々に提供される人気店
JR小倉駅から南へ2・5キロ。目指す「団らん処 和菜屋」は、小倉城の先、金田一丁目団地内にあった。平日のお昼前に到着。多くのお客さんが出入りしている。
瀟洒な扉を開けると、カウンターに並ぶお惣菜の数々が目に飛び込んできた。きんぴらごぼうや八宝菜などの定番メニューから、そら豆煮や芝海老と玉ねぎのかきあげなどの旬のメニューまで。炊き込みごはんやお赤飯、カレーもあれば、おはぎや抹茶ババロアなどスイーツメニューも充実していて驚いた。お惣菜は日替わりで、いずれも地元農家や市場から仕入れた旬の新鮮な食材を、ベテラン主婦たちが早朝から手間を惜しまず調理しているとのことで、できたてが次々に提供される。どれもおいしそうだ。お弁当や白米を注文した人には、お店の人から「ごはんの量はどうしますか? 何を添えますか? ゆかり? ごま塩?」と声がかかる。なんとも細やかなサービスだ。
お客さんは10代から90代までと幅広い。
「おいしくてバランスのよい食事がとれるので、ほぼ毎日のように通っています。このお店がなくなったらとっても困ります」と話す山本明子さんのように団地に住んでいる人もいれば、近隣在住の人、近くで用事があるときには必ず立ち寄るという人、遠方からやって来てまとめ買いをしていく人も。店内にはイート・イン・スペースもあり、ここで食事したり、ひと休みしながらスタッフとおしゃべりを楽しむ人もいる。新鮮な野菜やお米、こだわりの乾物やお酒なども販売されている。
「団らん処」に込められた思い
「団らん処 和菜屋」がオープンしたのは、2015(平成27)年。店主の三村和礼(みむらかずゆき)さんは、かつて市内の病院で回復期リハビリテーションに従事していた作業療法士だ。入院患者の在宅生活復帰を支援するなかで、高齢者の抱える「食事」や「社会的孤立」などの問題に直面したという。
「退院した方の自宅を訪問し、大規模団地に住む高齢者が食事の買い物に困っていることを知りました。また親族などが近くにいない、近隣住民との交流の機会がほとんどない、困ったときに気軽に相談できる相手がいない。そんな人が多い状況でした」
そのような社会課題を前に、三村さんは惣菜屋を始めることを決意する。
「おいしい家庭料理を食べて健康的な生活を送ってもらいたい、気軽に立ち寄ることができる団らんの場をつくりたいと思いました」
市営住宅やUR団地などを中心に店舗を開業できる場を探すなかで、高齢者が徒歩圏内に多く、コミュニティースペースを確保できる広さがあるなど、理想とする環境の整ったURの金田一丁目団地の商店街に出会った。
働きながら大学院で経営学を学んでいたものの、起業したことも飲食業に関する知識や経験もなく、当初は苦労したと振り返る三村さん。周囲の人たちの応援を受けながら開業して8年。
「団らん処 和菜屋」は実に心地よい空間に育っている。床や天井に使われた大分県の日田杉は味わいを増し、三村さんやスタッフとお客さんのゆるやかなつながりは拡大。誰もが安心して通えて社会との接点をもつことができる場に、団地の中のリビングのような場に、という三村さんの思いが実現していることが、お店にいるとよくわかる。
17年には同じ並びに「デイサービス 和才屋」も開業して連携。認知症で徘徊していた人が、お店に来るようになってから落ち着いて徘徊が減ったり、お客さんが店先で転んだことをきっかけに自宅を訪問して介護保険サービス利用につなげたこともある。必要な介護サービスの情報を提供して家族をサポートすることも少なくない。「団らん処 和菜屋」は高齢者はもちろん、多世代の人々の健康面、精神面の拠り所になっている。こんなお店が近くにあったら幸せだ。
団らん処 和菜屋
TEL:093-953-7570
営業時間:10時30分~18時30分
定休日:日曜・祝日
【妹尾和子=文、菅野健児=撮影】
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