【特集】“セッション”でつながる場に学童保育施設が仲間入り 学童保育施設 うさぎっこはうす (北本団地 埼玉県北本市)
JR高崎線・北本駅からバスで約7分。誕生から50年を超える北本団地の商店街がここ2年で大きく変化している。空き店舗が次々に生まれ変わり、7月には学童保育施設もオープンする。
多彩な活動を展開し多世代が集まる場に
北本団地のアーケード商店街の変化のきっかけとなったのは、2021(令和3)年に「ジャズ喫茶 中庭(以下、中庭)」がオープンしたことだ。運営しているのは、北本市の30代メンバーで構成されるまちづくりの合同会社「暮らしの編集室」。高齢化が進み、商店街の空き店舗が目立つなか、団地に子どもや若者の居場所、活躍できる場をつくりたいとの思いで、プロジェクトを立ち上げ、実現した。
そのメンバーに誘われて、北本団地に引っ越してきたジャズベーシストの落合康介さんと妻の加奈子さんが中心となって「中庭」を運営。週末の音楽ライブはもちろん、平日にもさまざまな活動が行われている。ライブ出演をきっかけに開催されるようになったジャズピアニストによるピアノ教室やタップダンサーによるタップダンス教室。他にも手話で多様な交流を生む「手話べりかふぇ」や不登校の子どもたちも参加する寺子屋「中庭スーク~ルゥ」、生活のなかでの困りごとを相談できる訪問相談会「さくらんぼ会」など内容も幅広い。自治会との連携活動も多く、団地内外からさまざまな人が出入りするようになり、多世代交流が進んでいる。
「あちこちで行われていた活動が集まってきた感じです」と落合さん。イベントで中庭にやって来て雰囲気に魅かれ、北本団地に引っ越してくる若い世代も増えている。
団地の商店街になぜ学童保育施設が?
「中庭」効果で、商店街には22年5月にシェアギャラリー&アトリエ「まちの工作室 てと」がオープン。今年6月には植物と陶芸の店「エンバイボックス」、フォトスタジオ「うえのへや写真館」も開店するなど賑やかになってきた。
7月21日には学童保育施設「うさぎっこはうす」もオープン。運営するのは、北本市内で40年以上にわたり学童保育施設を運営しているNPO法人うさぎっ子クラブだ。その理事長である青柳恭義(たかよし)さんは市内在住で、以前から落合康介さんのファン。落合さんが北本団地に越してきたことを「松田聖子が近所に引っ越してきたような衝撃でした」と話す。今ではライブだけでなく、平日のタップダンス教室や「中庭スーク~ルゥ」にも参加している。
一方で学童保育は、需要が高まりながらも行政のインフラ整備が追いつかず不足している状況。そこで自分たちで民間の学童保育施設をつくろうと場所を探していたところ、落合さんから「団地でやればいいのでは?」と。
「自然が身近にあり、公園もあって、施設のスペースも広い。小学校から離れているとはいえ、子どもにとって北本団地ほど恵まれた環境はないと思いました」と青柳さんはいう。団地で大人も子どもも一緒に学び、笑い、楽しい時間が過ごせたら素晴らしいと。
もともと塾講師であり、ITのソフトエンジニアやプログラミングの仕事をしてきた青柳さん。学童保育施設では、STEAM教育※を取り入れ、自身の得意分野や人脈を生かして、プログラミングスクールや学習塾、体験学習などの学びの場も提供する予定だ。子どもたちに体験の機会を与え、好きなことを見つけてほしいと願うとともに、平日に子どもが習い事をできないという、学童保育を利用する保護者の悩みにも応える。
6月24日に開かれた「北本団地中庭2周年イベント」では、オープン前のうさぎっこはうすもピザスタンドを出店。プレオープンとして学童保育施設も公開した。自身もライブに出演した青柳さんは、「落合さんはベースで基盤をつくりながら、うまいことリードして多様な人たち、個性の強い人たちを調和させて、いいところにもっていく」とその魅力を語る。
「そのときのメンバー、いろんなキャラクターとセッションしてつなげていく。即興性、そして現場力。それが音楽だけでなく、中庭で求められる自分の役割ですね」と話す落合さん。 「コミュニケーション能力を試されるんで、僕自身もすごく勉強になります。団地は人との距離が近く、みんなで生活している感じがあります」
北本団地での“セッション”は、まだまだ新たなつながりを生み出し、あちこちに広がっていきそうだ。
※科学(Science)、技術(Technology)、工学(Engineering)、芸術・リベラルアーツ(Arts)、数学(Mathematics)を対象とした理数教育に創造性教育を加えた分野横断的な学び。
【妹尾和子=文、菅野健児=撮影】
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