【特集】米本団地(千葉県八千代市)
“さりげない見守り”を軸に
「地区防災計画」策定を目指す
半世紀の歴史がある米本(よなもと)団地は、内閣府から派遣される防災アドバイザーの協力を得て、「地区防災計画」の策定に乗り出した。
自治会を中心とした活動は、地道な話し合いと検討の積み重ねだ。
防災アドバイザーによるワークショップを開催
米本団地は、1970(昭和45)年に千葉県北西部の八千代市に建設された106棟の大規模団地だ。
管理戸数約3000戸の米本団地では、昨年春から自治会が中心となり、「地区防災計画」の策定に取り組んでいる。
「地区防災計画」は、地区の居住者が共同して行う自発的な防災活動に関する計画で、地域コミュニティーにおける共助による防災活動の一環として、東日本大震災後に災害対策基本法によって作られた制度だ。
米本団地で「地区防災計画」の取り組みのきっかけを作ったURの山口和人は言う。
「団地自治会では住民アンケートを行っていたものの、具体的な計画や実際の活動については悩んでいる様子が見えました。そこで、内閣府の防災アドバイザー派遣制度を紹介したのです」
自治会は、早速この制度を利用することを決め、昨年3月から4回にわたって、内閣府から派遣された防災アドバイザーによるワークショップを開催。現状と課題を確認し、安否確認方法の検討、訓練などを行った。参加者は、自治会防災委員会、自治会役員、米寿会、団地内に事務所をおく地域包括支援センター、社会福祉協議会等の代表者で、八千代市、内閣府防災担当、UR、民間研究機関等の支援を得て、昨年12月には、震度5強以上の地震発生時の災害対応シナリオを作成し、安否確認と情報伝達の流れを整えることができた。
自治会長の鎌田豊彦さんは、「自治会の枠を超えて、社会福祉協議会や地域包括支援センターなど、団地を取り巻く他団体の考えや、彼らが持つ情報をお互いに知ることができました。これは今後につながる大きな成果だと思っています」と話す。
安否確認の土台は普段からの見守り
一連の取り組みの成果の一つに、安否確認がある。約3000戸の米本団地では安否確認は容易ではなく、これまでなかなか良い方法が見つからなかったが、今回、震度5強以上の地震発生時に在宅していて無事な人は、ベランダの手すりに八千代市指定のゴミ袋をくくりつけるという方法に落ち着いたのだ。ゴミ袋ならどの家庭にもあるから、新たなコストも発生しない。
災害時の安否確認の土台となるのが、米本団地が長年大切にしてきた“さりげない見守り”だ。「あの人どうしているかな」と住民同士が互いに気にかけ合う自然な見守りは、災害時に限らず毎日の暮らしの安心感に欠かせないものだ。そんな“さりげない見守り”のためには、住民が互いを知ることが大切だと考えた自治会では、1年以上をかけて全戸訪問を実施した。家族構成や年齢などを聞きとり、見守りが必要か、見守り活動に参加できるかについても聞いた。
さらに防災アンケートを全戸に実施。災害への不安、備え、防災意識、防災活動への意見などを記入してもらい、災害時に支援が必要な人が家族にいるか、逆に支援する側に回れる専門職の人(医療・福祉・建築関係等)がいるかについても確認した。
昨年11月の安否確認訓練では、災害対応シナリオに沿って安否確認、応急手当などの訓練を実施し、その後の幹事会で検証を行っている。今後はこれらの情報と経験をもとに、見守りネットワークを構築する計画だ。
ワークショップ→会議→アンケートを繰り返してきた自治会では、今年8月、「地区防災計画」の素案をまとめた。今後、住民の意見・要望を確認した上で最終案をまとめ、来年2月には八千代市に提出する予定だ。
より多くの住民の関心を高めるために
「今後ますます高齢化が進みますが、若い世代にも情報を共有して、いくつになっても安心して暮らせる団地にしていきたいです」と自治会事務局長の大橋真知子さん。
「災害への備えに終わりはありません。幅広い世代の住民に関心を持ってもらう努力を続けたい」と自治会長の鎌田さんも語る。
そのための工夫として、自治会が発行する「自治会だより」や「みんなの防災ニュース」などの広報は、自治会に加入していない世帯も含めた全戸に配布。行事や活動について知ってもらおうと努めている。年内には家具などに地震対策を施したモデルルームも自治会が設置する予定だ。
住民の意見をくみ取りながら一つひとつ課題を解決し、災害に備える。米本団地のきめこまかな取り組みは続いていく。
【牧岡幸代=文、菅野健児=撮影】
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