【特集】交流人口増を目指して新しい陸前高田が本格始動!(岩手県陸前高田市)
東北の被災3県の中で、被災面積が最大の陸前高田市。
市とともに復興まちづくりを進めてきたURの事業が、今年の3月でついに完了した。
生まれ変わった陸前高田を、よりよいまちにしようと活動する人々にお話を伺った。
スピード最優先で走り続けた10年間
被災面積が最大だった陸前高田市。URにとっても、300ヘクタールもの復興市街地整備事業は被災地域でも最大だ。
「この10年間、スピードを最優先に、速度調整をすることなく、全速力で走り続けてきました。その事業がこの3月で、すべて完了しました。感慨深いです」
2019(令和元)年に着任し、最後の仕上げを担当したUR陸前高田復興支援事務所の五十嵐隆宏はこう振り返る。
津波で被害を受けた土地をかさ上げするために、URは市内の今泉地区の山を削り、その土を全長3キロのベルトコンベアで高田地区に運ぶ方法を採用。2014年4月から15年9月まで、ベルトコンベアは途中に流れる気仙川をまたぎ、1日2万立方メートル、ダンプカー4000台分もの土を運び、6年以上工期を短縮した。運搬した土砂は全部で東京ドーム4杯分にもなった。同時にURは調査、測量、設計および施工まで一体的にマネジメントを行う復興CM方式を導入して、事業のスピードアップを図っていった。
2017年4月には高田地区に災害公営住宅と商業施設「アバッセたかた」、公共施設などが完成。昨年1月には、URが担当したすべての宅地の引き渡しが終わり、今年1月に換地処分が終了、事業が完了した。
「換地処分というのは、新しい自分の土地が登記され、法的なお墨付きがつくことです。これが土地区画整理事業の仕上げになります」と五十嵐が説明する。


地番が決まり新しいまちが生まれた
差し出された名刺には、「高田町字馬場前302–2」と記載されている。「この名刺、できあがったばかりなんです。換地処分が終わり、きちんと地番ができて、ようやく落ち着いた感じですね」
こう話すのは「アバッセたかた」近くに酒と器の店「いわ井」を再建した磐井正篤さん。震災前、磐井さんの店は、今の「アバッセたかた」のある辺りにあったという。
「震災前の商店街には30軒ほどの店がありましたが、商売を再建できたのは5、6軒です。コロナ禍もあり、課題は多いです。でも、誰もが震災後、このまちを我がことのように考えるようになりました。私たち商売人は、お客さんに喜んでもらえるいい店をつくれば、きっと地元の役に立つ、そう考えて仲間とともにやってきました。URさんとも何度も腹を割って話しましたよ。URの方は、『みなさんがどうしたいのかを聞かせてほしい』と言ってくれて、私たちの思いを大切にしてくれました」




まちの魅力を広く発信する
陸前高田市建設部都市計画課で区画整理事業を担当してきた佐藤賢さんは、高台に造った土地を権利者に引き渡したとき、ひとつの希望が見えたと振り返る。
「市にはこれほどの大規模な面整備の経験はないので、URさんのこれまでの知見を生かし、一緒に考え、助けてもらいながらここまできました。特に引き渡し前の換地作業は大変でしたが、URの担当者と一緒に交渉して、無事に調整することができました」
これからいよいよ新しい陸前高田のまちづくりが始まる。陸前高田市は「ノーマライゼーションという言葉がいらないまちづくり」を目標に掲げるとともに、内閣府の「SDGs未来都市」に選定された。
「ユニバーサルなまちづくりに力を入れていることを広くPRしながら、商業者やまちづくり会社、宅建業者と協力して、交流人口や移住者を増やすことに取り組んでいきたい」と佐藤さん。
「高田松原の復元にも取り組んでいます」と聞き、さっそく訪ねてみた。
震災前、白砂青松で名高い「高田松原」は、年間30万もの人が訪れる陸前高田一の観光スポットだった。現在、ここには防潮堤が造られ、奇跡の一本松を囲むように「高田松原津波復興祈念公園」が整備されている。
この防潮堤の向こう、海岸までの間に、小さな松の苗木が整然と植えられていた。その数、約3万5000本。そう遠くない未来、再生した松並木と美しい白砂を散策する、たくさんの人々の姿が目に浮かんだ。



【武田ちよこ=文、菅野健児、青木 登=撮影】
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