「希望」が見えてきたまちへ(宮城県 石巻市)
ここに再び新しいまちとコミュニティーが誕生する
宮城県 石巻市
石巻市の南側に広がる新門脇地区では、復興公営住宅がすべて完成し、宅地と道路もほぼ完成を迎えた3月、新たなまちのお披露目が行われた。
安全に暮らせる新しいまちをつくる
「震災前よりにぎわっているまち」
「今以上に店や住宅が建っているまちになってほしい」
3月19日に開かれた石巻市新門脇(しんかどのわき)地区の「かどのわき復興まちびらき」。ステージ上で「どんなまちになってほしいか」と聞かれた中学生の答えに、参加した地元の皆さんも笑顔でうなずいている。
今日は門脇が新たなまちとしてスタートを切る日。式典は元気な石巻日高見太鼓で幕を開けた。
新門脇地区は旧北上川の右岸、石巻湾に開けた平野で、日和山(ひよりやま)のふもとに広がっている。ここに再び人々が暮らしを営む安全なまちをつくるため、石巻市から事業を委託されたUR都市機構は、高盛土道路や一部市街地を盛土し宅地整備を行うなど、土地区画整理事業を進めてきた。
宮城県が整備を進めている石巻湾沿いの高さ7.2メートルの海岸防潮堤と、その内側の高さ3.5メートルの高盛土道路、この二重の備えでまちを津波から守る。さらに、日和山への避難階段に至るルートは道路幅を広げ、復興公営住宅の最上階に備蓄倉庫を備えるなど、津波に強いまちがつくられている。
工事により50センチ〜3メートルの盛土をして整えられたかつての住宅地には、少しずつだが再建した住宅が見られるようになった。まちの東西に立つ2つの復興公営住宅は合計151戸。すでに新たな暮らしが始まっている。
UR都市機構石巻復興支援事務所長の松原弘明は、この日のまちびらきでたくさんの地元の方々から声をかけられ、ホッとした表情を浮かべていた。
「工事が予定通り進まず、お叱りを受けることもありましたから、皆さんから『ありがとう』と言われ、感激しています」
コミュニティーづくりにカーシェアの工夫
江戸時代には仙台藩の米を江戸に運ぶ船でにぎわった門脇。寺社の歴史も古く、よそに移ってもお墓はここにある人が多い。
「そんな人たちがお彼岸で墓参りに来るのに合わせて、まちびらきイベントを開き、復興したまちを見てもらいたかったんです」
そう話すのは、新たに組織された「かどのわき町内会」会長の本間英一さん。本間さんは昨年末、町内唯一の商店「まねきショップ」を、東街区の復興公営住宅の目の前にオープンさせた。
この店は食料品から生活雑貨、地元の特産品などを並べ、簡単な食事とお茶も楽しめる。同時に店内で震災被害の展示を行い、まちを訪れた人たちへの情報発信も担う。店には頻繁にお客さんがやってきて、地元の人とよそからの来訪者たちの情報交換の場、コミュニティーの中心になっている。
震災前の門脇は町内会が5つもあり、それぞれ活動が活発で、コミュニティーが濃密な地域だった。
「新しく整った門脇に、たくさんの人に戻ってきてほしい。10年後、20年後、住宅や店でいっぱいのまちになればいいと思っています」と本間さんも期待を寄せる。
新しいコミュニティーづくりに注目したいのが「コミュニティ・カーシェアリング」。これは石巻市と日本カーシェアリング協会、UR都市機構が協定を結び推進するもので、各地区でボランティアで運転する人を含む数人のグループをつくり、車を相互に利用し合うシステムだ。新門脇地区でもすでに十数人が参加するグループができたという。
被災地にこのシステムを導入するねらいを、UR都市機構宮城・福島復興支援本部で事業を担当する井ノ上真太郎が説明する。
「仮設住宅から公営住宅に移り、知り合いのいない人たちが、カーシェアリングでつながって、コミュニティーをつくることができます。車を利用したい人と、運転する人の間で会話が生まれ、じゃあグループで一緒に出かけよう、という話も出るかもしれません。新しい仲間を増やす手助けになればと思っています」
新しい門脇にはもう、新しい芽が顔を出していた。
石巻市長 亀山紘さん
安心して暮らせる快適なまちをつくるため、道路や公園が整備され、復興公営住宅も入居が始まりました。町内会も発足し、今後のコミュニティー再生に向けて大いに期待しています。土地は整備され、基盤は整いましたが、本当の復興はこれからです。この土地に戻りたい人、すべての人の再建ができたときが、本当の復興です。その実現に向けて、これからも皆さんとともに努力していきます。
【武田ちよこ=文、佐藤慎吾=撮影】
動画
宮城県 塩竈(しおがま)市
「災害公営住宅の整備に係る基本協定」に加え、「コミュニティー形成と地域の支え合い活動の推進に関する協力協定」も結び、安心して暮らせる環境づくりを共に進めてきたUR都市機構と塩竈市。担当する最後の災害公営住宅が完成し、節目となる日がやってきた。
岩手県 陸前高田市
2月、俳優・村上弘明さんが、テレビ番組の収録で、震災から6年たった故郷・陸前高田を訪れた。地震と津波で壊滅的な被害を受けた陸前高田。そこで進む復興まちづくりを支える人々に、笑顔があった。
Before&After 2011→2017
大震災から6年。復興の槌音は、確実な響きとなって被災地にこだましています。新たなまちづくりが進む東北3県のなかで、今回、本誌で紹介した6つの地区の、6年前と今の姿を写真でお届けします。
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阪神・淡路大震災、新潟県中越沖地震、東日本大震災と復興支援に取り組んできたUR都市機構。これまでの経験やノウハウを生かし、災害からの復旧・復興に取り組む自治体と連携し、復興を支援している。
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