福島県 大熊町
完成した役場とともに
人々が戻り新たなまちの一歩が始まる
避難指示区域だった大熊町に、復興の槌音が響いている。
新しい町役場が完成し、災害公営住宅の入居も始まる。
少しずつ新たなまちが姿を現わし始めた。
住民と一緒にまず役場を戻す
東日本大震災に伴う東京電力福島第一原子力発電所事故により、全町が避難指示区域となっていた福島県大熊町。復興のスタートは2017(平成29)年9月、大川原地区の18・3ヘクタールで復興再生拠点市街地形成施設事業から始まった。
URは大熊町の要請を受け、新しい役場庁舎や災害公営住宅をはじめ交流施設、商業施設や宿泊温浴施設、福祉施設などを整備するエリアの土地の基盤整備を、町とともに進めてきた。
取材に訪れた3月上旬、地元の木材を多用した新庁舎はそのシンプルな外観を現わし、災害公営住宅は最後の仕上げにかかっていた。周囲には新しい道路が造られ、その上を工事関係の車が行きかう。まさに復興の槌音が響いていた。
新庁舎の完成まで、大熊町役場はいわき市、郡山市、会津若松市の3カ所に役場機能を分散した状態だった。
「大熊町は住民と一緒にまず役場を戻そう、そしてみんなが戻る場所をつくるんだ、という強い思いをお持ちでした。URの仕事は、その思いを実現するためのお手伝いです。土地の造成はもちろん、新庁舎の建設に関しても設計段階から工程、品質、コストにかかわる技術的な支援を行い、町のパートナーとして復興計画全体に携わっています」
URで事業計画を担当する細谷奎介がこう説明する。この区域は今春にも避難指示が解除される見通しで、町民待望の新庁舎は5月に業務を開始。そして6月には、災害公営住宅の入居も始まる。
最初に完成する町民向けの災害公営住宅50棟には、定員以上の応募があった。第二期として約40棟を来年度末に、さらに町民でなくても入居できる福島再生賃貸住宅(集合住宅)も整備する。
「役場と住まいの完成が間近になり、少しずつですが、まちが生まれてきています。この後、商業施設などの整備が行われ、役場を中心にたくさんの人がここに戻り、にぎわいが生まれることを期待しています」と細谷は現場を見つめて力強く話す。
町職員とともに大熊の将来を考える
URは大熊町のソフト面の支援にも積極的にかかわっている。担当の一人である鈴木亜耶乃は、町の若手職員有志が集まり、大熊町の将来を考える「ふるさと未来会議」の事務局となり、会議を支えている。だが、昨年4月に赴任した当初は、町の人にどのように話を聞けばいいのかわからず悩んだという。
「でも、そのうち地元の方がバーベキューや餅つきなどに呼んでくださって、会話を重ねるうち、積極的に対話することが大事だと学びました。同じ目線に立ちながらさまざまな思いを受け止め、それをまとめていくのがURの役割なのかなと考えています」
未来会議では、廃炉作業が終わる40年後のまちの姿を考えている。重点となる三つの柱があるとURの鈴木が説明する。
「一つは古民家再生を中心にしたエリア全体のリノベーション。二つめは町のツーリズムを考えること。三つめは40年後の新たな町の産業をどうつくっていくかです」
未来会議の立ち上げメンバーの一人である大熊町役場企画調整課の石田祐一郎係長は、URのメンバーが入ることのメリットを、「これまでの役場の仕事では、外部の方と付き合うことがあまりなかったので、URを介して外部の専門家などと接する機会が生まれたのは、よい刺激になります。広い視野や違う視点に気づくきっかけにもなりますね」と話す。
大熊町出身の石田さんは、「新しい役場にまたみんなが集まれば、新しい発想も浮かび、何か楽しいことができるのではないか」と期待を寄せる。
町の思い、町民の思いをすくいあげながら、URの大熊町復興支援はまだまだ続く。
武田ちよこ=文、菅野健児=人物撮影
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