街に、ルネッサンス UR都市機構

平成22年度 UR地域懇談会 東京都心支社 東京の国際競争力強化に向けて

支社長
今日は、東京の国際競争力の強化という視点で、現在の東京の課題や、外国の諸都市との競合関係、これからの都市再生に何が必要か、などについて、東京の都市政策に関わってこられたお二人と共に考えて行きたいと思います。

世界第4位の東京

支社長
市川先生は、日本初の都市ランキングである「世界の都市総合力ランキング」の策定に関わっておられますね。
市川先生
世界では、多くの人が都市のランキングに注目しています。ただし、ランキングにもいろいろあって、都市の特定の機能に焦点を当てたものが多いのです。例えば、シティ・オブ・ロンドンが発表している「世界金融センターランキング」などは金融機能の視点で見たものです。今回、私が座長を務めて策定した「世界の都市総合力ランキング」では、世界で初めて「都市の総合力」に着目したのです。
支社長
都市にはいろいろな側面がありますからね。
市川先生
都市の力を表す主要な6分野(「経済」「研究・開発」「文化・交流」「居住」「環境」「交通アクセス」)に69の指標を振り分けて、総合力を見たのです。結果としては、かねてから世界4大都市と言われていましたが、第1位ニューヨーク、第2位ロンドン、第3位パリ、第4位東京でした。やはり、この4都市は抜きん出ている。その次に、第5位シンガポール、6位以降は、ヨーロッパの首都(ベルリン、ウィーンなど)が続いています。
支社長
東京の強みと弱みは何ですか。
市川先生
東京の強みは、まず、経済、研究・開発の分野です。そして、最近では環境政策にも力を入れていますから、環境も強い。弱い部分は、居住環境や国際交通アクセスの問題です。国際空港までのアクセスは、4大都市の中で一番弱いんです。第4位なのですから、東京の都市総合力はなかなかのものだということが客観的に証明されたわけで、最近、東京悲観論が散見されますが、東京はもっと自信を持って良いと思います。一方で、「国際交通アクセス」と「経営者から見た評価が低いこと(世界第7位。上位はロンドン、ニューヨーク、シンガポール、香港、上海、パリ)」が課題だと具体的に見えてきています。
支社長
課題が見えてくれば、処方箋も考えられそうですね。
市川先生
東京の経済力はニューヨークとトップを競いあう状況でありながら、世界のビジネスマンから見て、働きたいか、住みたいか、という観点では、アジアの諸都市に負け始めています。これは相当に危惧すべき点だと思います。東京の力を上げるには、海外との接点となる交通アクセスの改善や経済活動をしやすくするなど、世界のビジネスマンがそこで働き、住みたい街にすることが必要だと思います。
支社長
具体的にはどういう手が考えられますか?
市川先生
シミュレーションしてみると、都心から国際空港へのアクセス時間をシンガポール並み(都心から約30分)にして航空便数を増やし、経済自由度をロンドンと同程度の水準にして、海外企業の進出しやすい環境を作ることで、東京はニューヨークを抜いて第1位になるという分析結果が出ました。東京は、基盤としてすでにそれなりのものを持っていて、改善すべき方向も見えているということは我々に示唆を与えてくれます。また、「国際競争力」を考える上では、具体的な競合相手を見定めるのが大切です。東京の場合は、大きく二つあって、世界の中での東京と、さらに成長著しい東アジアの中での東京です。これまでとおり、世界の3極構造(ニューヨーク、ロンドン、東京)の中で考えることは大事ですが、今、アジアの研究者の中では、東アジアの一日圏にある4都市、東京、ソウル、北京、上海の関係に着目している人が増えています。これらの都市の中で、東京が何を持つべきか。他の都市が弱いところは何かというように考えて発想する必要があると思います。
河島技監
国際アクセスの観点から言うと、東京はアジアとのネットワークが比較的弱い一方で、欧米とのネットワークは便数も多くて強いようです。逆に、ソウル(インチョン)の強みはアジアのネットワークです。考えてみると、アジアの諸都市との近さでいうと、地理的優位性は上海やソウルにあるのでしょうね。
市川先生
アジア諸都市の中では、上海が伸びてくるんじゃないかというのが私の予感です。
河島技監
上海は歴史もあるし、都市力の厚みがあります。私も上海は意識しますね。
支社長
上海を具体的な競争相手だと考えたときに、どういうことがポイントになるのでしょうか。
河島技監
大事なのは、都市活動の規模と質の高さでしょうね。東京の独自の優越性、グローバルなつながりの優越性をベースにして、アジアのセンターであり続けるというイメージではないでしょうか。具体的には、国際コンベンションの誘致やグローバル企業の誘致をこれからも考えていくべきではないでしょうか。
市川先生
都市開発にはその需要存在の前提がありますから、アジアからの需要を引き出せるかも大きなポイントだと思います。魅力的なものを作れば、必ずヒトとおカネが集まってくるのが真理だと思います。

市川宏雄

明治大学専門職大学院長/公共政策大学院ガバナンス研究科長・教授
1947年東京生まれ。
早稲田大学理工学部建築学科、同大学院博士課程を経てカナダ政府留学生としてウォータールー大学大学院博士課程修了(都市地域計画、Ph.D.)。専門は、都市政策、都市地域計画、次世代政策構想。政府・自治体の審議会等の会長・委員を数多く歴任。
現在、日本テレワーク学会会長、日本自治体危機管理学会常務理事。東京都住宅政策審議会・委員他。

東京の都市再生のこれから

支社長
東京都心部の活力が国際競争力の源になるのではないかと思うのです。河島技監は、「東京の都市づくりビジョン」の策定に関わってこられて、その辺はどう見られていますか?
河島技監
市川先生にも参加していただいて最初の都市づくりビジョンを作った平成13年(2001年)は、日本全体がバブル崩壊後の経済の低迷期にありました。都市づくりの基本理念を「世界をリードする魅力とにぎわいのある国際都市東京の創造」としました。
市川先生
「センターコア」と名づけた都心部(中央環状線の内側のエリア)に複合的な都市機能が集積するというビジョンを出しましたね。
河島技監
都市づくりを通じて、経済の活力を上げて行こうという意味合いもありました。それ以降、三環状道路を始めとして、集中的に事業が進められてきました。すでにその成果が出てきています。例えば、中央環状新宿線の開通により、首都高の流れが良くなったというのも皆さん実感していると思います。渋滞長も全体で2割くらい減ったというデータもあるのです。
支社長
確かにそうですね。羽田空港の国際化も大きなインパクトですよね。
河島技監
市川先生が指摘された国際空港へのアクセスですが、先ほどのランキングは東京と成田との距離が遠いために第4位という結果なのです。これが、今年10月から羽田空港が国際化すれば、そのような空港が都心から約16kmのところにあるという近接性は世界のどの主要都市にもひけをとらないものになります。
支社長
都心とのアクセスもよくなりますよね。
河島技監
鉄道、モノレール、高速道路網で都心部や他の拠点エリアと結びついていきます。例えば、平成25年には中央環状新宿線が品川まで延びて湾岸エリアに結びつく。そうするとセンターコア全体で羽田に接続するというイメージになるのでしょう。そのようなベースの上で、さあ東京の国際競争力をこれからどうしようか、と考えるのは非常に楽しみです。
支社長
センターコアでは、大手町・丸の内・有楽町エリアはじめとした拠点整備も進んできています。
河島技監
老朽化した都市機能を、面的な整備により、もう一度世界のトップレベルの市街地に再生する取組みということができます。これからの日本は成熟した国家として、都市の魅力を高めていくことで国際競争力を維持し、強化していくために力を入れて行くべきじゃないかと思います。
支社長
URも大手町の連鎖型再開発を始めとして様々な拠点整備に関わってきています。最近では、渋谷駅周辺、環状二号線新橋周辺や池袋駅周辺の再生など、エリア的にも広がりを見せています。
市川先生
東京のセンターコアエリアの力は世界のトップクラスです。都心の力を上げていくことによって、都市の国際競争力を上げていくことが絶対条件だと思います。それをどう実現するかが課題ですよね。
河島技監
昨年、都市づくりビジョンを改定しました。基本理念も新たな視点を加えて、「世界の範となる魅力とにぎわいを備えた環境先進都市東京の創造」としました。これからは、人々の意識も経済だけに着目するのではなく、生活の質を高める多様な価値を重視する時代になると思います。もちろん、国際競争力を備えた上での話ですが、環境、緑、景観などにも配慮した魅力ある都市、これが東京の目指すべき姿だと思っています。

河島 均

東京都 技監
1952年東京生まれ。
東京大学工学部卒業後、入都。都市計画局参事、マスタープラン担当部長、06年知事本局次長、都市整備局理事(航空政策担当)などを歴任し、東京の都市再生を方向付けるビジョンの策定などに関わる。09年都市整備局長、10年より現職。

東京の魅力について~マルティプル・コアによる成長の連鎖~

支社長
お二人は、東京の魅力、面白さについてどう見ておられますか?
市川先生
東京は、複数の核(マルティプル・コア)を持った都市なんです。これは世界で例がないと思います。そして、東京はそのマルティプル・コアを動かしながら、成長してきたのです。
支社長
「コアを動かしながら」というのはどういう意味ですか?
市川先生
歴史を振り返ると、江戸時代の賑わいのコアは浅草でした。それが明治時代に日本橋に下りてきて、銀座が栄える。次にターミナル駅の新宿・渋谷。そして、東京オリンピックを契機に、赤坂・六本木が出てきます。また、最近では、エリア的な広がりも見せながら、汐留・品川、臨海部へと動いてきた。このように延々とコアが動いて成長を続けている都市は世界に例がないんですよ。
河島技監
多心型都市構造ということで、一極集中を避ける意味で副都心を作ってきたわけですが、それが別の意味で東京の活力を維持しているんですね。丸の内などの都心部は計画的なリニューアルが進んできた。戦後の副都心である渋谷、新宿もこれからリニューアル期に入っていく。複数のコアがあるので、時代を引っ張るコアが少しずつシフトしていく。そのように複数のコアが他を補いながら更新を繰り返していく都市構造というのは、システム工学的イメージでうまくできているなと感じます。また、これはURが多面的に活躍する場ができるということも意味するんですよね。
支社長
確かに、まちづくりには熟度の違いがあります。具体的な整備が始まっているところもあれば、構想を作る段階のところもあります。実際に、URは現在、いろいろな熟度の地区を同時並行的に手がけています。常に新しく生まれ変わるまち「東京」の都市再生を前に進めることができればと思っています。
市川先生
東京の将来のイメージは、アジアの成長を引き込んで、真のインターナショナルなメガロポリスになるということだと思うのです。そうすると、いくつかのコアは欧米系とか、アジア系とかに分かれるんじゃないでしょうか。たとえば、新宿は伝統的にアジア系という感じがするし。そういう発想もまちづくりの中に入ってくるのではないでしょうか。
支社長
面白い視点ですね。それぞれのまちの個性を大事にしたいと常日頃思っているんです。
市川先生
東京のコアは、盛衰を繰り返していて、浅草から始まった流れは、大きくは南に流れて、臨海部まで降りてきたわけです。私は、これが新東京タワー(スカイツリー)の建設でまた北に戻る動きが出てくるかもしれないと見ているんです。すでに、浅草エリアが新たなにぎわいを取り戻そうと活気づいています。そういう意味で東京は世界をこれからも驚かしていく面白い都市です。その活力の源が、実は東京の中のコア間での競争なんです。
河島技監
確かに多様性の中での魅力がありますね。
市川先生
課題はこれから20年、30年と持続できるかです。そのためには、急速に経済力を上昇させているアジアという歴史的・風土的近接性を持った地域のなかで、東京がそのパワーを呼び込むことが必要です。
河島技監
その点では、観光とビジネスの両輪が必要だと思っています。また、文化の面でも東京はアジアの中心になってきていますよね。
市川先生
それをもっと日本人が自覚して、欧米ばかりを向かずに、アジアにも向いて、対欧米と対アジアの両方の特質を持てるのが東京の強みとなっていくとよいと思います。
河島技監
それと、集積のメリットというものがあると思うのです。都市づくりビジョンから10年くらい経過して、最近では、国の成長戦略も「大都市圏戦略」ということが言われてきており、集積のメリットを生かした大都市づくりをやっていかないといけないというのが大分浸透してきた気がします。
市川先生
集中・集積というと、富の偏在かと誤解される傾向があります。しかし、東京は集積で発生する外部不経済というマイナス要因を実際に解決してきました。逆に集積のスケールメリットが明らかになってきました。歴史を振り返ると、20世紀のまちづくりは、1924年のアムステルダム国際都市計画会議(大都市膨張抑制、衛星都市による人口分散、グリーンベルトなど7原則を決議)というのがあって、大都市化は避けるべきという思想があったんです。しかし、東京は、自らの歴史の中で都市問題を克服し、大都市に集中しても運営できることを証明してきたと言えるんです。そのことを我々はもっと自覚していい。大都市の可能性は、まだまだ、広がっていると思います。
支社長
全く同感です。URが23区の都市再生事業に注力してきたことの都市政策的な背景をお二人に明快にご指摘いただいた気がします。URが都市再生を始めた10年くらい前は、何もないところに基盤整備をする、ボトムアップをというか、底辺を持ち上げようという時代だったような気がします。いまはトップを更に持ち上げることが国際競争力の向上のために大事になってきているのではないかと思います。
河島技監
これまでは、マイナスをゼロに持っていくのに大変だった感じです。これからはゼロをプラスに、プラスをよりプラスにすることが出来る時代だと感じます。
支社長
首都東京の都市再生には高度なノウハウと国の成長戦略を担うような大規模な事業を組成する力が必要だと思います。URは国の機関として、東京の首都機能の維持と再生を担う東京都や特別区と連携して都市再生を推進したいと考えています。特に、東京都とURとの間で言うと、お互いが都市づくりや都市再生に関して培ってきた経験とノウハウを生かして、相互に連携協力することが首都東京における都市づくりの更なる推進に寄与するという認識を共有し、この6月に都市再生に係る連携協力協定を締結したところです。
河島技監
我々はURの事業推進力を非常に頼りにしています。
支社長
是非一緒に頑張って行きたいと思います。ひとつのポイントは「スピード感」だと思っています。成長著しいアジアの諸都市との競争に打ち勝つためにも、民間事業のスピードを殺さずに、政策的なまちづくりを実現するために、URの機動性や中立性・公平性を発揮すべき場があると思います。また、一方では、東京における木造密集エリアの防災性の向上も、地震大国日本の首都の問題として大きいものがあると考えています。広い意味で、防災という観点も大事なポイントだと思います。
河島技監
そうですね。東京都は防災都市づくり推進計画を改定して取組みを強めています。防災的な課題のあるエリアで、試行錯誤でやってきましたが、土地(所有)への意識が高いわが国において、共同化だけでは難しいと気づいて、個別建替えも促進しようとしています。木密の再生産にならないように、新防火地域を定めて、準耐火建築物でもいいとしました。このような施策により、不燃領域率は計画を上回るスピードで上昇していることがわかったので、重点整備地域では、従来の平成27年度目標を5%高めて、65%としました。
支社長
URも密集法改正(平成19年)以来、地方公共団体からの要請で従前居住者のための受け皿住宅を整備するなど、メニューを充実させてサポートしています。防災性の向上と人が住む街としての居住環境の良さ、ヒューマンスケールな東京の良さを残しながら再生をしていきたいものだと思っています。

廣兼周一

都市再生機構 東京都心支社長
1950年東京生まれ。
早稲田大学理工学部卒業後、日本住宅公団に入社。東京支社再開発課長、土地有効利用事業本部業務企画第一課長などを歴任し、東京都心部の都市再生に関わる。07年本社業務企画部長を経て、08年より現職。

人の喜びにつながるまちづくり

支社長
これ(下図)は隅田川沿いでURが関わったプロジェクトをプロットしたものです。昭和50年頃から始めて、かれこれ40年くらい関わってきたことになります。上流部、中流部、下流部という感じで、神谷の密集、吾妻橋周辺、大川端という感じでずっとやってきて、つながっているんです。
河島技監
ああ、つながっていますね。先日、都施行の白鬚西地区再開発事業の完成式典に出席したのですが、地元の人が喜んでくれていました。大都市での合意形成はなかなか大変ですが、都市づくりは喜びにつながると思うんです。その思いをつないでいけば、みんなが喜ぶまちになると思うんです。
支社長
URは長期的な視点でじっくりまちづくりに関わっていける組織でありたいと思います。時間的にも、空間的にもつながりを大事にして行きたいですね。
河島技監
そういう意味で、これからは、水辺空間というのも大きな特徴となるでしょうね。
市川先生
ロンドンはテムズ川、パリはセーヌ川ですが、東京は隅田川ですからね。
支社長
浅草の辺りでは川幅も広く、堂々とした流れですよね。
河島技監
白鬚西の汐入公園からは、水と緑があって、都市スケールの高速道路があって、その向こうにスカイツリーが見える。この景観は素晴らしいと思いますよ。
支社長
日本橋にも観光船着場ができるようです。これからのまちづくりは、水辺とうまく付き合うことがますます大切になる時代がくるかもしれませんね。
河島技監
防災船着場を活用できないかという検討も始まっています。川から都市が注目されるようになるというのは面白いですよね。これまでの拠点整備というと、建物から発想しがちでしたが、例えば景観ということから発想するというような考え方が機軸になる時代が来たのかもしれませんね。
【図:隅田川沿川のプロジェクト】
支社長
今日は、我々がこれからの仕事をする上で、非常に励みになるお話しをいただきました。東京には一杯やるべきことがあるのだと再認識しました。お二人には貴重なお話をありがとうございました。

(平成22年6月22日(火) 西新宿にて)

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