街に、ルネッサンス UR都市機構

UR事業における社会支援の取組みについて(本編)

テーマ1.UR賃貸住宅における時代のニーズへの取組み

  • UR賃貸住宅の居住者の高齢化も著しく、世帯主が65歳以上の世帯割合が昭和60年に約5%だったのが平成22年は約35%に急増。世帯主の平均年齢も全国平均を上回っている。
  • これまで、高齢者支援施設の誘致や住宅のバリアフリー化、生活支援アドバイザーの配置などを実施。中でも、見守りサービスや生活相談等を行う生活支援アドバイザー等、ソフト面での支援が重要になっている。
  • 今後は、民間事業者の方等と協力し、「医療」「介護」「生活支援」「介護予防」などの機能と連携させ、高齢者が住み慣れた団地や地域に安心して住み続けられることを実現したい。
  • 例えば、「医療」では在宅医療を行う病院等と連携し、家でも安心して看取られるような仕組みを検討したい。「介護」では団地が有料老人ホームに置き換わるイメージであるが、仮にそうした場合、スプリンクラー等の消防設備が必要になるなどの法規制があり、費用面での課題が発生する。
  • まだ今年度は構想段階だが、来年度以降はモデル事業に取り組む予定。
難波
団地と老人ホームがつながるというイメージとはどのようなものですか。
UR小林
今の有料老人ホームは、「住宅」と「食事」「介護」「生活相談」等のすべてがパッケージになっており、費用も高い。一方、団地では建物や敷地内に行政の地域包括ケアのサブセンターや訪問介護施設があり、生活支援アドバイザーがいて、自宅にいながら必要な時に必要なサービスを受けることができるイメージ。また、今の有料老人ホームは閉じた施設内でのサービスだが、そうではなく地域に開かれた仕組みが理想。
藤井
同じようなサービスを必要とする人が団地に複数いれば、事業者側の視点でも、まとめてサービスを提供できるので、効率がよく、コストが抑えられる。このため、事業者にとっても利用者にとっても団地の活用はお互いのメリットが出せるだろう。

UR吉澤より、足立区新田三丁目地区における子育て支援の取組みについて説明。

  • かつて隅田川沿いは多くの水運利用の工場が立地していたが、昭和40年代中頃から工場の大規模化やモータリゼーションなどにより、沿川の工場は次々と移転。URでは工場跡地の遊休地開発を行ってきており、当地区もそのうちのひとつ。
  • 当地区の面積は約20ha、公共空間の整備やUR賃貸住宅を始め約2800戸の多様な住宅を供給。
  • 平成16年の入居開始から平成24年までの8年間に三丁目地区で人口が約5800人増加し、このうち、30歳代と4歳未満の乳幼児の子育て世帯の増加が著しい。
  • 足立区とURでは確認書に基づき、子育て・高齢者支援について連携している。ハートアイランド新田では、UR賃貸住宅を活用して「グループ保育」「キッズルーム」「学童保育室」に取り組んでいる。
  • URは場所を提供し、民間事業者の方に実際の運営を、区に助成金等による運営支援をお願いしているという役割分担になっている。
  • 「グループ保育」は、住宅2戸を提供し、複数の保育ママが家庭的な雰囲気で保育にあたっている。空きがない状況で、問い合わせが絶えないと聞く。「キッズルーム」は、NPO法人が親子ひろばと幼稚園送迎ステーションを運営。幼稚園送迎ステーションでは周辺の幼稚園と連携し、バス通園児の登園前後の預かり保育を行っている。「学童保育室」は、団地の集会室を提供し、民間事業者が放課後の時間の小学生低学年を預かりしている。
足立区新田三丁目地区の空撮とキッズルーム内部
姫島
事業当初、子供がこれほど増加すると想定していなかったのか?
UR吉澤
居住者層としてはDINKS等も当初想定していたが、交通手段がバスのため、家賃が比較的安く、新しい公園や区立の小中一貫校など子育て環境の良さもあり、結果的に子育て世帯が想定を上回ってきた。その結果、区もURも子育て支援に注力する必要が出てきた。
姫島
区との連携協定について、高齢者支援はどのような内容か?
UR吉澤
別の大谷田団地で取り組んでいる。
姫島
子育て支援施設の家賃は?
UR吉澤
URは子育て支援施設について施設賃料を50%減額する制度があり、当地区の学童保育室も対象となっている。グループ保育は住宅賃料であり、事業者は区から家賃補助を受けている。キッズルームはURとして試行の段階であり無償貸与し、光熱費等は事業者負担としている。

UR小松原より、台東区根岸三丁目地区における密集市街地でのまちづくりについて説明。

  • 東日本大震災後、「事前復興」の重要性が改めて指摘されているが、密集市街地でのまちづくりは、まさにこれに当たる。
  • 阪神淡路大震災の時、戦災を免れて古い建物が多く残る地域や高度成長期の急ごしらえの木賃アパートが密集した地域等で、建物倒壊や火災の延焼等で多くの被害を出した。
  • これを受け、国は平成14年度時点で全国約8千ha、基準の見直しがあり約6千haの密集市街地を平成32年度までに概ね解消することを目標に改善に取り組んでいる。
  • URも東京都内を中心に行政との役割分担のもと、コーディネート業務や防災街区整備事業をはじめとする各種事業などを通じて密集市街地改善のための様々な取り組みを行っている。
  • 根岸三丁目地区は取り組みの中の代表例の一つ。当地区は交通利便性が高く、昔から文化人が多く住んでいた情緒ある街だが、一方で戦災を免れ、戦災復興の区画整理が行われなかったため、老朽建物が多く、狭い道が入り組み、防災上問題があった。
  • 区は地区内の病院跡地を買って、防災広場と代替地を整備したが、街区の内部から防災広場へのアクセスは悪いままで、いざという時の避難路ネットワークの整備が必要だった。
  • そんな折にURは区から、区の土地を活用した道路整備について相談を受けた。
  • 道路整備予定地は南北の細長い土地で道路部分を買収すると残りの土地の使い勝手が悪くなるなどの課題があり、また、沿道には借家人が約30名おり、高齢者が多く(平均年齢70歳超!)、狭くて家賃の安い部屋に住んでいるため、行政から移転してほしいと言われても、民間の賃貸住宅を借りにくく、空いている公営住宅も少ないため、移転先を見つけるのが難しいといった2つの大きな問題があった。
  • これらの課題に対応するため、区画整理によって宅地と道路を再配置し、密集法の改正で制度化された従前居住者用賃貸住宅を区の要請を受けて整備する提案を行い、事業に至った。
  • 平成23年鉄筋コンクリート5階建て34戸の住宅が完成。昨年8月に道路が完成。関係者で道の渡り初めイベントを行い、完成を祝った。
従前居住者用賃貸住宅への引っ越し風景と、渡り初めイベント(平成24年8月)

ディスカッション

許斐
民間企業の人事部に所属しているが、社員の仕事と介護の両立は大きな課題と認識している。介護のための制度整備や情報提供を強化しているが、会社ができることには限界があり、最終的に個人の問題に帰着する。介護には様々な情報が必要になるが、個人で収集するのは大変なこと。例えば、ケアマネージャーは介護保険制度の範疇でのケアプランを作成してくれるが、それを実行するには、介護事業者の連携が不可欠。また介護保険外のサービスを組合わせようと思うと更に情報が必要になる。働きながら介護をするのは簡単ではないのが現状。URの取組みを聞いていると、互助の精神が感じられる。ワンストップで相談し、解決できるコミュニティがあるとありがたいと思う。
私も子育てしながら働いているが、保育園の待機児童解消は切実な問題。国は文科省と厚労省の垣根を越えて、認定こども園を整備すると言っているが、なかなか進んでいない。事例のように幼稚園の登園前・後に預かってくれる施設が身近にあれば、働く親も幼稚園を利用しやすくなる。行政の枠組みを超えた取り組みだ。このような団地空間の活用策を知らなかった。今日は感銘を受けた。
難波
日本が高度経済成長の最中にあった昭和40年代には、多くの賃貸住宅が建設され、入居者はいつかはマイホームにという夢を持ち、政策もそれを後押ししてきた。しかし今は、単独世帯等の増加や夫婦と子供世帯の減少などの世帯構成が変化し、空き部屋を抱えたまま、持家に住み続けるなど、人と家とがミスマッチな状態も起きている。
これからはそのような世帯構成の変化に柔軟に対応できる住まい方の選択肢を多くつくっていくことが重要なのではないか。URが、今後、日本最大の大家という強みを生かして、社会に対してどのような取組みを行っていくのか非常に関心がある。
UR小林
根岸三丁目の引越し写真があったが、歳を取るにつれ、住み替えの体力も意欲もなくなる。終の棲家を体が動かなくなってから考えるのでは遅い。我々はPRが下手だが、住み替え動機の掘り起しから取り組みたい。
姫島
町田市の都市政策に携わっている。町田市は人口の1割がURとJKKの団地や公営住宅に住んでいて、今回、非常に参考になるお話を聞けた。また、URの取組みは公共性が高いと改めて感じだ。一部、将来のオールドタウンを生み出しそうな高度成長期の延長の取組みも見受けられたが、それを防ぐための取り組みもURに率先して取り組んでもらいたい。
職員の方はある意味、職人的で完璧を目指す指向が強く、また、そのノウハウも蓄積されている。ただ、職人的であるがゆえ、ある一部分や地区単位のスペックの高さに終始してしまっていたり、やや縦割りの印象。例えば団地再生で、各部署が個別に協議に来るが、行政としてはまず団地全体としてどうなるのと思う。一方で、市の福祉行政は全市一律・公平に施策を行う考え方が根強く、特定の地域・団地で取り組むのが難しい面もあるが、これからは両者が連携して、できることから事業展開できればいいと思った。儲けられるところでは儲けてもらって、公共性の高い取組みとあわせて積極的に展開してほしい。
PRに関連して、リニューアル住戸の見学で、外観の古さと比べて、住戸内はとてもきれいに改修され、ギャップに驚いた。内の良さを伝えるためにも、外の見栄えをもう少しよくすればいいのに思った。様々な場面で外からの見え方に気を配り、国民にもっと(存在感を)アピールしてほしい。
藤井
日本人は住まいに対してストイックで、多少不便でも我慢してしまう。高齢になった時に「もっと楽をしていい」という考え方に変えていきたい。URには、団地が高齢者にとって魅力的な住まいの選択肢となるよう実例を増やし、積極的に発信していってほしい。米国では「懸命に働いて、リタイア後は家事等からも解放され、楽しく生活する」という考え方がすでに浸透している。高齢者が、家事サービスや見守りサービスを受けながら、生涯学習やイベント等を楽しみながら生活するアクティブ・シニア・コミュニティ、リタイアメント・コミュニティという施設や住宅地が多数整備されている。URの団地が、そのような魅力を備えた高齢者の住まいとなることを期待している。 密集市街地の改善については、首都直下型地震の発生が懸念されており、非常に重要な取組みである。地域の拠点整備とあわせて、周辺の防災性能の向上にも寄与するような面的な広がりのある取組みも積極的に行ってほしい。墨田区等では長い時間をかけて、少しずつ防災性能が改善されているが、全体としてまだまだ課題が残っている。その際、急激に生活が変わってしまうような事業ではなく、根岸三丁目の事例のように地域に住み続けられる取り組みが望ましい。

テーマ2.URの復興支援の取組み

UR桑波田より、岩手県陸前高田市における復興支援の取組みについて説明。

  • URでは震災直後から復旧支援に取組み、平成24年から復興まちづくりに取り組み、H24.10.1現在、岩手・宮城・福島の3県に計213名の人員を派遣。
  • 陸前高田市は複数の整備地区を抱え、市だけで全地区実施するのは困難なため、URに要請。現在、URでは復興市街地整備2地区、災害公営住宅整備を受託中。
  • 業務内容、生活環境、自身の経歴について
  • 課題として、身の丈に合ったコンパクトなまちづくりを展開する必要があること、現場では様々な事業(道路、河川、防潮堤、農地復旧、区画整理等)が錯綜し、各事業を調整しながら進捗させる必要があることが挙げられる。
  • また、高台の住宅整備等に相当の時間がかかり、先行整備エリアでも移転まで数年かかる。早期移転を希望する権利者意向に沿えるよう(仮設住宅暮らしを早期に解消できるよう)工期短縮策を図りながら事業を推進する必要がある。

ディスカッション

許斐
全国民が復興まちづくりの行方に注目している。ぜひ発信を続けてほしい。当社でもボランティアを派遣するなど、できることを続けている。
難波
震災3か月後に陸前高田に行き、想定以上の大災害が起こることを肌で感じた。大規模工場などは比較的早く再開しているようだが、まちの高台移転等にはさまざまな課題があると思う。しかし、それらの情報をオープンにすることが、産官学のセクターを超えて、課題の解決策を議論するきっかけになるのではないか。日本人のきめ細やかさや柔軟性が、復興事業においても充分に発揮されたらと思う。
ところで、桑波田さんが学生の頃、阪神・淡路大震災を経験し、支援を受ける側にいたところから、東日本大震災では支援する立場として、最前線の厳しい生活環境の中で復興にかかわってきたという説明には臨場感と説得力が感じられた。とくに、将来、社会に貢献する分野で働きたいと望む学生には、強いメッセージとして伝わると思う。
藤井
震災を契機に基盤整備や団地開発等のノウハウを有する組織として、URを見直した。規模の小さい自治体等ではまちづくりの経験や人材が少なく、ノウハウの継承が難しくなってきている。今後も災害は起こりうること。知識と経験を持った人材がそろっているURの役割は重要性を増していくと思う。類似の例では、建築確認の民間主事の導入がある。行政事務の効率化は図られたが、いざ重要案件が出てきた時、自治体に審査できる人材がいないという問題が指摘されている。復興事業にURが加わるのは、自治体にとって心強いだろう。まちづくりの人材がそろっていることがURの大きな強み。全国を対象としたまちづくり支援集団としてのURの役割は、ますます重要になると思う。
手県陸前高田市の写真

UR田辺
予定時刻を過ぎてしまい、後半は充分な議論ができず申し訳ありませんでしたが、さまざまな貴重なご意見をいただき、大変有意義な会になりました。ありがとうございました。
テーマ2.URの復興支援の取組み

関連ページ

メニューを閉じる

メニューを閉じる

ページの先頭へ