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【特集】南新地土地区画整理事業(熊本県荒尾市)

URPRESS 2019 vol.59 UR都市機構の情報誌 [ユーアールプレス]

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競馬場跡地に新しいウェルネス拠点をつくる

かつて炭鉱のまちとして栄えた熊本県荒尾市。
有明海に面した広大な競馬場の跡地にウェルネス拠点として新たなまちをつくる計画が進んでいる。
さらに今年、荒尾市の事業は国交省のスマートシティ重点事業化促進プロジェクトに選定され、全国からも注目を集めている。

ラムサール条約に登録された干潟が広がる有明海は、夕陽の名所でもある。正面に見えるのは雲仙普賢岳。

新たなまちをつくり市の活性化をはかる

熊本県の西北端に位置する荒尾市は、人口約5万人。世界文化遺産の万田坑(まんだこう)を擁する炭鉱のまちとして大いに栄えた歴史をもつ。だが、1997(平成9)年の炭鉱閉山に伴い人口が減少。荒尾競馬場も2012(平成24)年に閉鎖された。

このとき市の担当として現場にいたのが、現在、南新地の土地区画整理事業を担う荒尾市都市計画課長の末永淳一さんだ。「競馬場で働いていた方たちが200人近くいましたから、市としても廃止の決定は断腸の思いでした。だからこそ、この競馬場の跡地を有意義に活用し、荒尾市の未来に寄与できる事業にしなければ、という思いが人一倍あります」

荒尾市は競馬場の跡地とその周囲を含めた土地、約35ヘクタールの活用を考える検討委員会を立ち上げた。

荒尾市から相談をもちかけられたURは、「荒尾市のもつ観光資源やまちとしての高いポテンシャルに可能性を感じて、事業にご協力することになりました」

こう説明するのは、UR九州支社でこの事業を担当する田中 直(ただし)だ。

こうしてURも参加して荒尾市が競馬場跡地での新たなまちづくりの整備検討を進め、2016(平成28)年11月、「南新地土地区画整理事業」の計画が決定した。

その1年前には、有明海沿岸道路の延伸と荒尾北IC(仮称)の整備も決定。このことが南新地のまちづくり計画の大きな弾みとなったことは言うまでもない。

URの田中は、「誰も見たことのない新しいまちをつくるため、URの実績と経験を活かしていきたい」と意気込む。
有明海に面して広がる事業用地。競馬場跡地と周辺を含めた約35haの土地に新たな道路が通り、ウェルネスをテーマにしたコンパクトなまちに生まれ変わる。
上空から見た荒尾市(荒尾駅周辺)と今回の事業地区。

「ウェルネス」をテーマに観光客も呼び込みたい

新しいまちづくりのコンセプトは「人、自然、新たな交流を育むウェルネス拠点」。

ウェルネスとは「輝くように生き生きとしている状態」、「身体的、精神的、そして社会的に健康で安心な状態」等と定義されている。今回の計画では、競馬場跡地につくる新しいまち全体で、心豊かに健康で快適な暮らしをプロデュースする。

有明海沿岸道路が通る新しいまちは居住、公園・緑地、生活利便施設、公益施設、馬事文化娯楽施設の5エリアに分かれ、道の駅や温浴施設・宿泊施設をはじめ、保健・福祉・子育て支援施設などの整備が検討されている。

「この場所は荒尾駅にも近く、昔は一番栄えていた市の中心地です。新しい道路が通れば、福岡空港だけでなく、佐賀空港にも約50分で行くことができるようになります。ここにコンパクトに住める魅力あるまちをつくって、減少傾向にある人口を盛り返し、地域経済を活性化したい。同時に、ラムサール条約湿地の荒尾干潟や世界文化遺産の万田坑という観光資源をもつ荒尾市を、もっと知ってもらうチャンスにもしたい。これらの観光資源と新たなまちの温浴施設や宿泊施設、道の駅などを連携させれば、国内外からの観光客を呼び込むことができるのではないか。そうやって交流を促進、経済を活性化させていくのが、われわれ行政マンの使命だと思っています」

荒尾市政策企画課課長の田川秀樹さんは熱い思いを語る。

「荒尾が注目され、視察が増えています」と田川さん。
炭鉱が栄えていたときは大いににぎわった荒尾競馬場。写真は2011年(平成23年)最終日の様子。多くのファンが詰めかけ、荒尾競馬場との別れを惜しんだ。

市と二人三脚で換地設計を促進

江戸時代末期に埋め立てられた南新地地区と周辺の事業地区には、約150人の地権者がいる。荒尾市とURがまず行ったのは、土地を整理・再編する「換地設計」の作業だ。

「土地を貸したい、売りたいなど、一人ひとりの要望に沿って換地設計を進めていきました。非常にスムーズに、短期間でこの作業を終えることができました。それはURさんのノウハウがあったからこそ。さらに浅田市長自らが地権者の皆さんへの説明会で、『この事業は責任を持って絶対にやります!』と宣言したことも大きかったと思います」

末永さんはこう振り返る。

「有明海沿岸道路が開通すれば、インバウンドも荒尾に呼び込みたい」と話す末永さん。
荒尾市に生まれる新しいまちのイメージ図(平成27年11月時点)※今後変更されていきます。
荒尾競馬場の碑。

誰も見たことのないスマートシティへ飛躍

さらに今年5月、荒尾市は国交省が進めるスマートシティモデル事業に応募し、見事に重点事業化促進プロジェクトに選定された。

スマートシティとは、次世代の都市。スマートシティモデル事業は、IoTや人工知能(AI)、ビッグデータなどの新技術や官民データをまちづくりに取り込み、都市の抱える課題を解決するための事業を提案するもの。国交省が管轄し、荒尾市を含む全国の23カ所が重点事業化促進プロジェクトに選定された。

これは荒尾市がURをはじめJTB総研、三井物産など5社とともに構想したもの。具体的には、本人同意ひとつで個人情報を安全にオンラインでやり取りできる仕組みの実証実験や、鏡の前に立つだけで健康状態が分かるセンシング技術等を活用した健康づくり、蓄電池等を統合制御した停電しないまちづくり、自動運転循環バスの導入も検討される。まさにエネルギー、モビリティ、ヘルスケアにおける最先端をゆくまちが生まれるのだ。

「URさんが南新地の事業にJTB総研を紹介してくださり、そこから大学の先生へとご縁が広がって、あっと言う間にスマートシティ構想ができあがっていきました。まさに人のネットワークが生み出した快挙です」と末永さん。

「これは参画された皆さんが荒尾市に魅力を感じ、その可能性に期待した結果です。URはこれからも接着剤の役目を果たし、市と国、民間企業などをつなぐお手伝いをしていきます。政策と企業誘致の両輪で、市と二人三脚で動いていきます」と田中も意気込む。

荒尾市は今後、ハード面の区画整理事業と、ソフト面のウェルネス拠点構想ならびにスマートシティ事業を組み合わせて、南新地にこれまで誰も見たことがない新しいまちをつくりあげていく。荒尾市はいま、日本をはじめ世界からも注目を集める先進都市へと変身を遂げる、そのスタートラインに立ったところだ。市の職員たちも、部署の垣根を越え、新しいまちづくりに向けて一丸となって取り組んでいる。

「これは荒尾市が変わる大きなチャンス。行政マンとして、これほど大きな事業に関われるのは幸せです」と田川さんが言えば、「このくらいの規模の地方都市でも、やればできるということを示したい」と末永さんも熱意を語る。

荒尾市の可能性、その未来の姿に注目が集まっている。

あらおスマートシティ推進協議会設立総会でビジョンを語る浅田敏彦荒尾市長。
あらおスマートシティ推進協議会のメンバーたち。

【武田ちよこ=文、青木 登=撮影】

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