街に、ルネッサンス UR都市機構

日経 地方創生フォーラムより

URPRESS 2019 vol.56 UR都市機構の情報誌 [ユーアールプレス]


2018年12月14日開催
「Society5.0」で解決するまちづくりと地方創生

日経 地方創生フォーラムより
「官民連携と地域連携で実現する地方創生」をテーマに、昨年12月14日と今年の1月22日に東京の日経ホールで地方創生フォーラムが開かれました。
URも協賛した、その内容の一部をご紹介します。

パネルディスカッション

久間和生氏 農業・食品産業技術総合研究機構理事長
柏木孝夫氏 東京工業大学特命教授・名誉教授
大南信也氏 認定NPO法人グリーンバレー理事
岩坪慶哲氏 富士通デジタルフロント事業本部 デジタルビジネス事業部 ソーシャルエコノミー推進室
コーディネーター 坂井 文氏 東京都市大学教授

経済発展と社会的課題の解決を両立する新しい社会「Society5.0」
増田寛也氏 東京大学公共政策大学院客員教授

インターネットなど仮想の「サイバー空間」と、私たちが暮らす現実の「フィジカル空間」を高度に融合させ、経済発展と社会的課題の解決を両立する人間中心の社会が「Society(ソサエティー)5.0」です。第5期科学技術基本計画で、わが国が目指すべき未来社会の姿として初めて提唱されました。

これまで人類は狩猟社会(Society1.0)→農耕社会(2・0)→工業社会(3・0)→情報社会(4・0)と進み、その先にあるのがSociety5.0です。5・0はAIやIoT(Internet of Things)、ロボットといった先端技術によって、さまざまな地域のハンディや課題を解決するだけでなく、多様な創造力を用いて価値創造につなげていく「超スマート社会」ということができます。

Society5.0では、次のような社会が実現すると考えられています。

●地域、年齢、性別や言語による格差がなくなり、多様で潜在的なニーズにきめ細かく対応したモノやサービスの提供が可能になる。
●経済的発展と社会的課題の解決を両立した社会になる。
●快適で活力に満ちた質の高い生活が送れるようになり、人間中心の社会が実現する。

Society5.0は社会にさまざまな変化をもたらし、企業活動も大きく変わるでしょう。デジタルテクノロジーがもたらす社会のさまざまな変化とその可能性。それをどうやってハンディの解決につなげ、新しい価値創造につなげていくか、そこが問われています。

重要なのは他者を排除せず、多様な文化や価値観を受け入れる寛容性の高さです。地方においても寛容性の高さを競いあい、多様な人材をどれだけ備えることができるか。Society5.0が地方創生に大きな成果をもたらす鍵は、そこにあると思っています。

久間和生氏
農業・食品分野とSociety5.0

農業分野では、(1)2025年までにほぼすべての担い手がデータを活用、(2)スマート農業技術の1000億円以上の市場獲得、(3)19年までに農林水産物・食品の輸出額を1兆円に増大させ、その実績をもとに新たに30年に5兆円の実現を目指すという目標を掲げています。

目標達成のためにSociety5.0の農業・食品版を実現します。それにはスマートフードチェーンの実現が必要。つまり、育種、生産、加工・流通、消費にわたるフードチェーンすべてのプロセスを「AI+データ連携基盤」でスマート化し、生産性向上、無駄の排除、コスト削減、高付加価値化を実現します。

人工知能と農業データの連携基盤を整備、各プロセスのデータが自動的に収集され、人工知能で解析し、各プロセスにフィードバックする。それが農業・食品分野におけるSociety5.0です。

柏木孝夫氏
再生エネルギーを生かすSociety5.0

昨年9月の北海道胆振東部地震で起こった全道ブラックアウト。あのとき稚内では風力発電が80基以上稼働していましたが、稚内も停電になりました。これは風力を主力電源化できていなかったからです。

しかし、ここにSociety5.0のサイバーレイヤーが入れば、不安定で変動性のある電源もつなげられるようになります。大規模発電に風力、太陽光など分散型の電源が入ってきて、それがサイバーレイヤーとともに一体になります。

風力や太陽光に内蔵されているコンピューターをはじめ、複数のコンピューターがすべての情報を共有し、コンピューター間で監視してデータを検証する。それをチェーン状につないで制御していくかたちです。

こうすれば変動性のある再生可能エネルギーを主力電源化できます。これからのエネルギーシステムはどんどんふくらんでいくので、Society5.0で定義されたサイバーレイヤーとフィジカルレイヤーの一体感が実証されてはじめて、日本は脱炭素社会の先進国になると思います。

大南信也氏
徳島県神山町における「創造的過疎」の取り組み

1955年に2万1000人いた人口が、2015年には5300人に減少した神山町。過疎の現状を受け入れ、「創造的過疎」を目指して地域活性化に取り組んできました。

スタートは1999年のアートから。芸術家を招へいし、2005年には光ファイバー網を整備し、ウェブサイト「イン神山」を構築。次は「ワーク イン レジデンス」。仕事を持っている人に移住してもらってまちをデザインしようと考え、まちの将来に必要と考えられる働き手、起業家を逆指名しました。その結果、商店街が再生。新たな人の流れと、地域内の小さな経済循環が生まれました。

10年からはサテライトオフィスを始め、13年にはコワーキングスペースをつくり、現在は15社、26名がサテライトオフィスとして利用しています。ここにはクリエイティブな人材が集まり、クラフトビールづくりや、間伐材を使った商品開発など、いくつものプロジェクトが生まれています。

人が移住する、還る、留まることを選択する背景には、地域に可能性が感じられる状況が不可欠です。働き方や働く場所の自由度を高め、地域に「高度な職」を呼び込むとともに、新たなサービスを生み出す。そして観光などとの連携によって域外から適度な外貨を取り込み、地域内経済の循環による自律的発展を図る。これが、私たちが進める「選択的過疎」の取り組みです。

岩坪慶哲氏
Society5.0で解決するまちづくりと地方創生

シェアリングエコノミーを通じた社会課題解決のビジネス化に取り組んでいます。シェアリングエコノミーとは個人等が持つ利用可能な資産(スキルや空いている時間などの無形のものも含む)を、インターネット上のマッチングプラットフォームを介して、他の個人も利用可能にする経済活性化活動です。

北海道天塩町の事例「相乗りプロジェクト」を紹介します。天塩町は病院などがある稚内市まで70キロも離れており、直行する公共交通機関がなく、交通弱者は生活が困難です。そこで、稚内市に移動する車の空席をICTによって「見える化」し相乗りする、「相乗り交通」を始めました。

ここでポイントになるのは、これまで見えなかった「マイカーの空席」がデータとして可視化されたこと。デジタル化されることによって、現実空間とサイバー空間が結び付き、生活の利便性向上につながったのです。

Society5.0の実現に必要なIoT、ビッグデータ、AI、ロボットといった技術は手段に過ぎません。それよりも現実世界で起きているどのような社会課題を解決するかというテーマ設定が重要です。これらの手段を活用して社会課題の解決を図るには、サイバー空間で処理するために、いかにしてデータにするかが課題。そのときにデジタル化、オープン化、ネットワーク化が鍵となるでしょう。シェアリングエコノミーやオープンデータ、IoTは、超少子高齢社会のわが国が直面するさまざまな社会課題の、解決の糸口になると考えています。

2019年1月22日開催
地方都市再生の実現に向けて

パネルディスカッション

後藤健市氏 スノーピーク地方創生コンサルティング会長兼社長
松本大地氏 商い創造研究所/賑わい創研代表取締役
コーディネーター 坂井 文氏 東京都市大学教授

地方都市再生に取り組むURにご期待ください
UR都市機構 理事長 中島正弘

私たちURは、東日本大震災の発災以降、東北の復興事業に全力で取り組んできました。これからURは、今までの経験やノウハウを活かし、地方都市再生に本気で取り組みます。

この日経ビルのある大手町の再開発にもURは関わっていますが、こういうスケール感のあるものだけでなく、地方都市における多様なニーズに対しても向き合ってまいります。これまで団地の再生でかかわりのできた、ネットワークも活用するつもりです。団地ではコミュニティーづくりも進めてきました。私どもはそういった小さな工夫にも、いささかノウハウがあります。そして、いつも時代の要請に応え、地域に求められる開発やまちづくりを行ってきたプライドがあります。

新しい挑戦に取り組みたい。今、私たちは気合を入れ直しているところです。

地域の宝を見つけ野遊びで楽しむ

後藤

地域の「もったいない資源」を見つけ、それを使った挑戦を実行し続ける。小さな挑戦ができる仲間と出会い、連携してともに行動する。「楽しい」と「おいしい」で場所と人をつなぎ、地域に新たな価値を生み出すきっかけをつくる。私の活動をひと言でいえば、こういうことになります。

テーマは「野遊び」。野遊び=アウトドアで、自然と人、人と人をつなぎ、さまざまな分野と連携しながら活動しています。

日本はいま、「物」から「コト」の経済へ移行しているところです。「遊び」とは楽しいことをすることで、レジャーとは違います。「遊び」は地域活性化の軸になると思います。

また、景観を楽しむには、しつらえが大切だと考えています。私は「S級」にこだわります。地域の中にすごい鍵があるんです。資源の宝庫です。それらをうまく仕掛けて、日本の地方をグローバルトップリゾートにしていきたいのです。

ポートランドに学ぶエコ・コンパクトシティ

松本

生活を豊かにするライフスタイルをどうつくっていけばいいのかをテーマに活動しています。

アメリカ西海岸にあるオレゴン州ポートランドの研究を長く続けています。1950年代から60年代にかけて、ポートランドは車社会の形成でダウンタウンは荒廃。再生不能といわれたまちが、今では全米のまちづくりの賞を総なめにし、世界中から注目されるまちになっています。民間、行政、住民が一体になってつくりあげたまちのポリシーは、「サスティナビリティ(持続可能で人にやさしい暮らし方)」と「ウィアード(個性や自分らしさを大切にする)」です。

まちの中心はエコ・コンパクトシティで、主役は人。車社会のアメリカで、中心部から車をなくして、歩きやすいまちをつくりました。加えて、ミクストユースによるまちづくりです。住む、学ぶ、働くがひとつになったまちには、定住人口、交流人口とも増え、にぎわいが自然に生まれています。人々が集う空間に、すばらしいコミュニティーが育っています。

地域の宝を生かすローカルファースト

坂井

手がけてこられた地方創生の成功事例をご紹介ください。

後藤

地方の人には場所のコンプレックス、劣等感があります。自分たちの地域をマイナスにとらえている。違いがあることは個性ですが、個性と認められない、もったいない状態です。

ですが私は、場所のコンプレックスを意識してほしいと思います。なぜなら、コンプレックスとの対峙が、自我を拡大するからです。コンプレックスと対峙することで、人間の心が育ち、地域の成長につながります。

個性を磨き仕掛けるために、地域の方言、景観、料理や建物なども含めてどう生かすか。重要なのは量ではなく質です。

私はこれまで小麦畑でワインとチーズのひと時を過ごすしつらえをつくったり、雪原にS級のレストランをつくりました。圧倒的なローカルな景観のなかで、極上の食を楽しむ場です。「まるで海外にいるみたい」とお客さまが感動します。「~しかない」ではなく、「~がある」と考えることが重要です。

松本

「ローカルファースト」と「CSV」は、地方創生の突破口になると思います。

ローカルファーストとは、地域を第一に考えようということで、ローカルファーストな商品やサービス、環境づくりがあります。ポートランドでは、人々はチェーン店よりローカルファーストの地縁店で買い物をします。

CSVはCreating Shared Valueで、企業が企業の利益と社会的課題の解決を両立させることで社会貢献を目指す経営理念です。例えばポートランドでは、ナイキがシェアサイクル用の自転車ステーションを市内に1000台分設置しています。ローカルファーストとCSVによって、メリットのある企業や団体がリーダーになり、住民と行政を動かす時代になっていくと思います。

地域のよいものを最大限利活用するカルチャー

坂井

これからの地方都市再生の課題はどこにあるでしょう。

後藤

真面目すぎないこと。皆さん真面目すぎて、新しいチャレンジをしない、楽しくないまちづくりが多いように思います。大事なのは、自分が楽しく、他から見てもかっこいいことです。

ぼくは「IDまちづくり」と言っています。よくPDCAサイクルといいますが、まちづくりはPPP……とずっと考えてしまい、いつのまにか失敗しないアクションになってしまう。これでは何も生まれません。そうではなく、I(インスパイア、インスピレーション)+DO、考えて動く体質に変えること。とりあえずやってみることです。「成功する」ではなく、「成功をめざした」まちづくりでいいんです。

松本

スペインのバスク地方のまち、サン・セバスチャンは人口18万人ですが、世界中から人々がやってくる世界一の美食のまち。まち全体で新しいバスク料理をつくろうと運動を始め、店同士でレシピを教え合い、お互いが協力して食文化をつくってきた歴史があります。旧市街の路地にはバルが100店もあり、もちろん地元の人々もそこで飲み、食べ、語らっている。みんなが集まる場所がまちの中心にあるのです。

この根底にはカルチャーがあります。どこかの模倣をするのではなく、地域のよいものを最大限利活用する。そこにこれからの地域のあり方が示されているのではないかと思っています。

世界との関わりとこれからの地方都市

後藤

グローバルバリュー、グローバルエッジ。世界で価値があるか、エッジがきいているかを常に考えてほしいと思いますね。

物だけではなく、景観を含めた場所の価値、それに人。この3つを組み合わせることで、真のグローバルバリューが生まれます。

松本

地方の商店街を、ギャザリングできる、心ときめく場所にしたいですね。ギャザリングは社交的でアットホームな集まりのこと。パリにはパサージュと呼ばれる魅力ある路地が100カ所も残っています。こういう人々が集まる通りをつくりたい。

坂井

ありがとうございました。
最後に、このフォーラムを共催するURは大きな技術者集団で、経験も豊富です。地方都市再生のプラットフォームとして、コーディネート業務をどんどん進めていただきたいと思います。

青木 登=撮影

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