中心市街地ににぎわいを!地域に寄り添うまちづくり
新潟県長岡市 大手通坂之上町地区第一種市街地再開発事業
中心市街地ににぎわいを!地域に寄り添うまちづくり
新潟県のほぼ中央に位置し、信濃川に沿って市街地が広がる長岡市。
その中心市街地である長岡駅前ににぎわいを取り戻そうと、100年後を見据えたまちづくりが進められている。
URは市に職員を派遣するとともに現地事務所を構え、まちづくりを全面的にサポートしている。
「100年先の長岡のために」そんな未来を見据えたスローガンのもと、まちづくりに取り組む長岡市。
長岡駅前の中心市街地の再生に長岡市が取り組み始めたのは、今から30年近く前のこと。
その後、信濃川の対岸に大型商業施設やシネマコンプレックスができて人の流れが変わったり、中心市街地にあった老舗の大和百貨店が閉店したりなど環境の変化を経ながらも、長岡の人たちはまちのにぎわい再生を考え続けてきた。
その再生まちづくりの一環として、URが関わる前から進められてきた市役所やアリーナが入る交流施設「アオーレ長岡」や、子育て支援の拠点が入る「フェニックス大手」などの4つの再開発事業はすでに終了している。
こちらはいずれも関係者による「組合施行」または「個人施行」という形態で進められたが、現在進行中の5つめとなる「大手通坂之上町地区第一種市街地再開発事業」は、権利者が個人、金融機関を含む民間企業、行政と多岐にわたり、事業規模も大きいこともあり、URが施行要請を受けた。
市にUR職員を派遣しきめ細かなニーズに対応
URは2012(平成24)年から長岡市に職員を派遣。行政と一体となって、長岡のまちづくりをトータルかつきめ細かくサポートしている。現在出向している成田昌弘は、赴任当初は、それまで手がけてきた都心の再開発との違いに戸惑う面もあったと振り返るが、今では長岡市中心市街地整備室長として、地域の事情を踏まえながらまちづくりに関わっている。
11の市町村が合併した長岡市の面積は東京23区の約1・4倍と広大。市内に分散している公的機能を中心市街地に集める『まちなか型公共サービス』を、まちの活性化の柱として展開している。
「ただし市役所を含め公共施設を高層にして1カ所に集中させるようなことはせず、近くに分散させて人の回遊性を高める工夫をしています。また、すべてを建て直すのではなく、まちのランドマークでもある北越銀行の建物など使えるものは残し、必要なものを必要なだけつくっていくのも長岡のまちづくりの特徴です」
と成田室長は説明する。高層にして床面積を増やせば高い家賃収入が得られる都心の再開発とは状況が異なり、予算も限られたなか、この地に即したよりよいあり方を共に考えながら進めているのだ。
【長岡の心(1)】
人づくりの大切さを示す「米百俵」
長岡藩の大参事・小林虎三郎は、戊辰戦争で敗北後、窮乏に陥った長岡藩に寄贈された百俵の米を、食すことなく資金に替えて、身分に関係なく学べる国漢学校の設立資金に充てた。
「人づくり」の大切さを説いた虎三郎の「米百俵」の精神は、小泉純一郎元首相の所信表明演説で引用され注目を集めた。今回の事業エリアである大和百貨店があった場所は、国漢学校の跡地であり、米百俵の精神が息づく大切な場所である。
誇りがもてるまち帰ってきたくなるまち
「長岡には『米百俵』や『互尊思想』(コラム参照)に代表されるような人づくりの伝統があり、真剣にまちのことを考えている人がたくさんいます。今回計画されている公共施設ゾーンもベースは図書館で、学校と異なる体験ができる『子どもラボ』や『若者ラボ』が計画されているのも特徴的です」と成田室長。
また機械産業が盛んな土地柄を生かして産業界と大学や高専が連携し、若者が希望をもって働ける場を創出する『長岡版イノベーション』の構築も重要な計画のひとつ。すでに「NaDeC BASE」(ナデックベース)で試験的にスタートしていて、その検証結果を新たな場に反映させる予定だ。
「地元を離れたとしても出身地に誇りがもてること。そして鮭が遡上するように、いつか帰ってきたくなるまちづくりが理想です」
と語る成田室長。若い人たちにそのように感じてもらえる環境や施設をつくろうと、地元の大人たちは頑張っていると話す。
人の回遊を促すにぎわい空間を創出
URが施行する今回の「大手通坂之上町地区」は、上越新幹線と信越本線が行き交うJR長岡駅の西側のエリア。国道351号と市道401号線に面して、「米百俵プレイス(仮称)」を形成し、中心市街地の回遊性を高めることが目的だ。
具体的には、商店などが集まる「A-1街区」をにぎわいの創出と、まちなか居住を促進するための商業施設と集合住宅に。大和百貨店跡地等の「A-2街区」および隣接する「B街区」は北越銀行や商工会議所のほか、「人づくり・学び・交流エリア」として公共公益施設や事務所などの機能を持つ米百俵棟を整備。カフェ併設の「まちなか図書館」や「子どもラボ」なども整備する予定だ。
そして「C街区」は、まちなか来訪者の利便性を高めるため、商業施設などを備えた複合型立体駐車場にする計画だ。
人生をリスタートする人たちに寄り添う
事業が本格的に動き出すにあたり、2018年4月、URは現地に長岡都市再生事務所を開設。UR職員等7名が再開発事業の推進に当たっている。その一人、URの長谷川諒は「計画を事業化するのが我々のミッションであり、許認可申請など重要な業務が続くこの1~2年が肝になる」と考えている。事業が滞りなく進むように力を尽くす一方で、権利者一人ひとりの意向を確かめながら、生活再建策や補償などについて説明・相談にのるなど、細かなフォロー、ソフト面での支援も丁寧に行っている。
「地区内で商売をしている方であれば、今後も商売を継続するのか、移転するとしたら店舗の広さはどうするのか、自分でやるのか、オーナーとなって貸すのか……など大きな決断を迫られます。丁寧に寄り添わなければなりません」
再開発事業がその方の人生をリスタートする場になっているのだ。
URのメンバーは市民の意見を聞くワークショップにもオブザーバーとして参加しているが、米百俵プレイス(仮称)へのまちの人たちの期待をひしひしと感じるという。
「つくって終わりではなく、維持、管理も含め、自走していく仕組み・継続していく体制づくりを考えながら業務にあたっています」
と語る長谷川。数年越しで地に足をつけて取り組む仕事だと現地に来て実感し、昨年末には家族を長岡へ呼び寄せた。これまで以上に長岡に根を張った暮らしがスタートし、今後は子育て世代の目線も持ってまちづくりをサポートしていくつもりだ。
歴史と文化、そして人づくりを大切にする長岡の人たちの熱い想い、堅実な人柄に触れ、心に刻むURのメンバー。まちづくりのパートナーとして、新たなにぎわい創生の拠点づくりを全力でバックアップする日々が続く。
【長岡の心(2)】
互いを認め合い人間形成を促す「互尊思想」
明治維新後、身分の格差が広がるなか、人間はそれぞれ同等の価値があり、互いの個性を認め合うことが大切であると「互尊思想」を唱えた長岡商人の野本恭八郎(互尊翁)。文化都市の形成が市民生活の向上に、図書館が市民の人間形成につながるとの思いで、恭八郎は私財を投じて互尊文庫を寄附した。
今回の事業では「まちなか図書館」の計画があり、互尊文庫をこちらに移転予定。互尊思想を受け継ぐ図書館は、これからも人づくりの一翼を担う。
妹尾和子=文、青木 登=撮影
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