【特集】東京都日野市 多摩平の森
大学生と高齢者が自然に出会う
古くて新しい団地
大正時代には宮内庁の御料林でもあった多摩平の森。
その緑を大切に残しながら、
建て替えを機に新しいまちづくりを進めた多摩平団地。
大学生から子育て世代、高齢者が自然に出会い、
ゆるやかにつながる魅力あるまちが生まれている。
古い団地の建物が魅力的に生まれ変わった
「たまむすびテラス」。なんともかわいい名前の付いた一角が、「多摩平の森」の中にある。
そこには4階建ての昔ながらの建物が5棟、ゆったりとした間隔で立っている。最寄りのJR豊田駅に近いほうから、団地型シェアハウス「りえんと多摩平」が2棟、菜園付き賃貸住宅「AURA(アウラ)243 多摩平の森」が1棟立ち、コロニーガーデンと貸し菜園「シェア畑多摩平 ひだまりファーム」が広がる。その先には「ゆいま~る食堂」が併設された高齢者向け住宅「ゆいま~る多摩平の森」が2棟。
住棟の間には長い年月をかけて成長した木々が枝葉を広げ、気持ちのよい木陰を生みだしている。ここが多様な世代の人々が行き交う、古くて新しい団地「たまむすびテラス」だ。
建て替えを機に複合的なまちをつくる
1958~60(昭和33~35)年に入居開始となった多摩平団地。JR豊田駅から徒歩圏内と近く、しかも緑豊かな土地であることから人気が高く、募集倍率が数百倍にもなるほどだったという。だが、建設から50年近く経ち、設備や間取りが古くなったのを機に、1996年、大規模な建て替えと新たなまちづくりの計画がスタートした。その経緯をURの山内広美はこう説明する。
「まず団地にお住まいの皆さまと地元の日野市、URの三者で、建て替えのテーマを話し合う勉強会を立ち上げました。この団地は自治会の活動が活発で、団地に愛着をお持ちの方が多いので、その勉強会で皆さまからの意見も伺い、合意形成をしながら建替事業を進めていきました」
その結果、それまで29haの敷地に247棟あった団地の建物を高層化して、11ha、30棟に集約。生み出された余剰地には、図書館や保育園などの公共施設をはじめ大型商業施設、民間業者の戸建てや集合住宅などを誘致。歩いて暮らせる、複合的で安全なまちづくりが進められた。これを機に、団地の名前も「多摩平の森」に改めた。
さらに団地再生の手法として、URが実験的に取り組んだのが「ルネッサンス計画2」と名付けられた既存住棟の活用だ。
民間事業者から5つの住棟の活用アイデアを募集し、コンペを経て3社のアイデアを採用。これが2011年から入居が始まった「たまむすびテラス」だ。
子育て世代から大学生高齢者までが一堂に
さっそく「たまむすびテラス」を見ていこう。
「りえんと多摩平」は3Kだった住戸を、3室+共用ミニキッチンで1ユニットに改装したシェアハウス。1階は共用スペースとし、キッチンやラウンジ、シャワールームなどを備えた。外にはイベントやパーティに利用できるウッドテラスもある。1棟は近隣にある大学が学生寮として利用、もう1棟も大学生をはじめ圧倒的に若い人が多い。
「AURA(アウラ)243 多摩平の森」の1階住戸には専用庭が付いている。すぐ隣に貸し菜園「ひだまりファーム」があり、農機具用の作業小屋や休憩スペースがつくられ、とにかく緑があふれている。入居ターゲットは20代からシニア層までの2人暮らし。小さな子どものいる若い夫婦も多く、リビングルームを広くとった間取りが好評だ。
貸し菜園の利用者には、団地にお住まいの方だけでなく、近隣から通う人も多い。農園スタッフの宇賀神(うがじん)康夫さんによると、「利用者は20代後半から70代までで、特に子育て世代が多い」とのこと。取材で訪れたときは、菜園中央のテラスでカレーパーティーが開かれていた。もちろんカレーに入れるニンジンやジャガイモは畑で収穫したもの。
カレーをほおばりながら、同じ趣味を持つ人たちの交流が生まれていた。
食堂に集まりゆるやかにつながる
「ゆいま~る多摩平の森」は、㈱コミュニティネットが運営する高齢者住宅。併設する「ゆいま~る食堂」は365日、昼食と夕食を安価で提供する食堂だが、「ゆいま~る」に住む人だけでなく、誰でも利用できる。高齢者向けに食べやすく調理された料理は、小さなお子さん連れのママたちにも好評だ。
「ここは栄養バランスのとれた食事を提供する、地域に開放された食堂であると同時に、人々のコミュニケーションの場でもあるんです」
責任者の清水敦子さんが説明する。
木を基調にしたガラス張りの明るい店内では、ランチと夕食の合間の時間に、体操や絵手紙の教室、ハンドベルやコーラスの練習会といったイベントが、週に数回開かれている。
「『りえんと多摩平』の寮長さんが、ここで語学教室を開いたこともありますし、近隣の保育園の子どもたちがこちらの庭に遊びに来れば、高齢者がその様子を見守っていたり。うちにお住まいの方で、「ひだまりファーム」を借りて野菜づくりをしている方もいます。ここではごく自然に、さまざまな世代の人たちの無理のない交流が生まれています。また、住んでいる人が何かやりたいと思ったら、『たまむすびテラス』の3つの事業者間で相談して、お手伝いできる関係が生まれています」と清水さん。
「ゆいま~る」が一番にぎわうのは、12月のもちつき会。「りえんと」の大学生が積極的に手伝いに来てくれる。「去年はフランスからの留学生が、一生懸命にあんこを練ってくれました」と清水さんもうれしそうだ。
「たまむすび」の3事業者が共同で開催するさくらまつりや、団地自治会が主催する「夕涼み会」では、自治会と「たまむすびテラス」が相互に協力する。
さらに今年4月には「たまむすびテラス」の北側に新しい街区「多摩平の森て・と・てテラス」が完成した。「手と手を取り合って、多世代が行き交うまちに」との思いを込めて名づけられたこの街区には、日野市の社会教育センターや認可保育園、特別養護老人ホーム、リハビリ施設のある病院、スポーツクラブやデイサービス、カフェが集まる健康増進複合施設などを誘致。保育園児が病院を訪問したり、スポーツクラブが近隣の病院と連携するなど、相互の交流が図られつつある。
地域の人々が魅力あるまちの原動力
この事業に携わるURの山内広美は、「自分もこのまちに住みたい」と言う。
「建て替え計画のスタートから20年以上の年月をかけ、どういうまちをつくるかを、お住まいの皆さまをはじめ行政とURが一緒になって考えてきた、その歴史の重みを感じます。そうしてできあがったまちは魅力的で、自分も住みたいなと思います。このまちの魅力は、利便性だけではありません。ここに住む人々が、まちの魅力を高めています」
現在、この地域の小学校は児童数が増え、校舎の増築が計画されている。歴史ある団地に新しい命が吹き込まれ、森の木々が育つように、まちも豊かに枝を伸ばしている。
武田ちよこ=文、青木 登=撮影
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