街に、ルネッサンス UR都市機構

【特集】兵庫県西宮市 浜甲子園団地

URPRESS 2019 vol.58 UR都市機構の情報誌 [ユーアールプレス]


多様な世代が
ゆるやかにつながる
新しいまちを育てていく

関西を代表する大規模団地である浜甲子園。
1962年に完成した建物を建て替え、
民間企業や住んでいる人たちを巻き込んで、
多様な世代がつながる魅力あるまちづくりを進めている。

新旧の交流を促す仕掛けをつくる

「まちピカ大作戦」に集まった皆さん。毎月第2・4土曜の朝、エリアの中央を走る通り「ブールバール」周辺のゴミを拾う活動を続けている。
子どもたちも楽しくゴミ拾い。
URの松下はエリマネの会議にも参加。URも積極的に関わっていきたいと話す。

土曜日の朝9時。前日の雨が上がった浜甲子園団地広場に、子どもから大人まで20人近い人々が集まってきた。今日は月2回行われる地域の清掃活動「まちピカ大作戦」の日だ。ゴミ拾い用のトングとゴミ袋を手にすると、皆それぞれに歩き出し、子どもたちはたばこの吸い殻や弁当の空き箱などを器用につまみ上げ、お母さんやお友達とおしゃべりしながら楽しんでいる。

30分後、集まったゴミを分別して袋にまとめ、参加者にはこの広場にあるカフェ「OSAMPO BASE」の100円券が配られて、解散となった。

この清掃活動が行われている浜甲子園団地エリアは、西宮市の甲子園球場の近く。かつてここには浜甲子園団地の5階建ての住棟が並んでいた。浜甲子園団地は1962(昭和37)年に完成、約4500戸を有する大規模団地だ。

だが完成から35年近くたった平成12年度、部屋の設備や間取りが古くなったのを機に、団地の建て替え事業がスタート。建物の高層化を図りながら、生み出された余剰地を民間に売却。そこに戸建て住宅やマンションを建設し、新たな住民を迎えて、多世代が暮らす魅力あるまちをつくろうという計画だ。

「団地に住んでいた人たちと、新しくやってきた人たちとのコミュニティーを形成し、暮らしやすいまちをつくる。そうしてこのエリアの価値向上につなげたいという思いから、エリアマネジメントの手法を取り入れ、一般社団法人『まちのね浜甲子園』を立ち上げました」

こう説明するのはURの松下順一。エリアマネジメントとは、住民や事業主などが主体的に地域の課題解決や魅力発信などを行っていく取り組みだ。

まちのね浜甲子園のスタートは2016年。新街区のマンションや戸建て住宅のデベロッパー7社と、そこにお住まいの人たちで構成され、近隣にある武庫川女子大学、もともとあった浜甲子園団地の自治会、それにURが連携・協力関係を結んでいる。

開かれたリビングルームでゆるやかな交流が生まれる

マンション1階にある「HAMACO:LIVING」。スペースデザインは武庫川女子大の学生たち。作品の展示・販売ができる「ちいさな物語BOX」や簡易キッチンもあり、多様な利用の仕方ができる。下の写真は「HAMACO:LIVING」の奥にある、まちのね浜甲子園のオフィス。

まちのね浜甲子園が進める新しいコミュニティーづくりの仕掛けは、大きく3つある。冒頭で紹介した清掃活動のほか、新街区のマンション1階にある「HAMACO:LIVING」、それにカフェ「OSAMPO BASE」だ。

「HAMACO:LIVING」は誰でも気軽に立ち寄れる開かれたスペース。運営を担う事務局のオフィスもここにある。事務局長の奥河洋介さんが説明する。

「立ち上げた当初は、週に1回以上イベントやワークショップを行って、とにかく認知してもらうよう努めました。今では皆さんにここの存在が浸透して、お住まいの人が自主的に企画するイベントも増えました。毎日ふらりと立ち寄ってくれる人が20人以上いますし、小学生たちが放課後を過ごす場所にもなっています。子育て中のママたちの情報交換の場でもありますね」

新街区の人たちには2週間に一度、イベントなどを告知するメールマガジンを配信し、団地を含むすべてのエリアの掲示板にも案内を掲出して、情報を発信している。

「今の時代、積極的にご近所付き合いをしたいと思って、このマンションに引っ越してくる人はまずいません。でもたまたまこのリビングで知り合い、そこから自然に広がっていくゆるやかなつながりが、確実に生まれています」

清掃活動に参加していた男性も、ここで活動を知ったと言っていた。もちろんイベントには団地にお住まいの人も参加して、活動を通していくつものコミュニティーが生まれている。

浜甲子園団地にお住まいの松田悦一さんは79歳。 「まちピカ大作戦」で子どもたちがゴミ拾いをしているのを見て、 「健康のためにも、自分も何かやらないと」と自主的にこのエリアの草刈りをするようになった。 すると、清掃活動に参加したパパたちが、松田さんが集めた草を袋にまとめて片付けていく。 世代を超えたつながりが生まれている。

自然と会話が生まれるみんなのカフェ

まちのね浜甲子園事務局長・奥河洋介さんと、「OSAMPO BASE」を担当する青山めぐみさん。「将来的には、この活動がここに住んでいる人たちだけで自走できるようになることが目標」と話す。
「OSAMPO BASE」は自家製パンとフレッシュな野菜を中心に、健康を意識した料理を提供。スタッフとお客さんとのコミュニケーションも円滑だ。
  • 店は浜甲子園団地広場に面している。営業は金・土曜の8~14時。月に1、2回は住人たちの持ち寄りパーティにスペースを貸したり、ワイン会などのイベントも開いている。

広場に面した場所にあるカフェ「OSAMPO BASE」は、オープン前に入念なリサーチを行った。まちのね浜甲子園事務局でカフェを担当する青山めぐみさんによると、

「店の前の道を朝、ウォーキングしているシニアの方々からは、朝開いている店があるとうれしい、という声をいただきました。また、健康に気を配っている人が多いこともわかりました」

その結果、開店は朝8時に。メニューは健康とシンプルをキーワードに、サラダとスープ、さまざまなトッピングをしたトーストが中心。パンは自家製。動物性の食材は使わず、健康志向のシニアにも受け入れられるものにした。

店内にはコミュニケーションが生まれる仕掛けが随所にある。店に入ると壁に沿って幅の広いベンチが置かれている。そこに座ると、カウンターにいるスタッフとお客さんたちが三角の線で結ばれ、相互に声がかけやすくなる。もちろんスタッフは積極的にお客さんに声をかけるが、注文のときや水を取りに来るときなどにも、自然に会話が生まれている。

「赤ちゃんから91歳のおじいさんまでご利用いただいています。その91歳のおじいさんは団地でひとり暮らしをしていましたが、『この場所があってよかった』とおっしゃってくださいました。ところが最近、近隣の高齢者住宅に転居したので、たまたま近くに行った折に訪ねたら、とっても喜んでくれて。それから息子さんに連れられて、また毎週この店に来てくださるようになりました。ここに来ることが、ひとつのモチベーションになったようで、とてもうれしいです」(青山さん)

団地自治会にもいい刺激が生まれた

昨年10月にまちのね浜甲子園が主催して団地広場で開いた青空マーケット「まちのねピクニック」。
まちのね浜甲子園と武庫川女子大学が連携して開いた食育講座「健康ランチ交流会」。
写真提供/まちのね浜甲子園(2点共)
浜甲子園団地自治会で開かれた夏祭りの準備会議。奥河さんたちも参加。
広大な敷地にゆったりと建物を配し、快適な環境をつくっている。

浜甲子園団地は、もともと自治会活動が活発で、それは建て替えが進んでも変わらない。夏祭りは市長もあいさつに来られるほどで、秋の文化祭などのイベントをはじめ、数年前からひとり暮らしの高齢者への見守り活動なども行っている。とはいえ団地は高齢化が進み、子どもの数も減っている。まちのね浜甲子園との連携が始まり、うれしい変化があったとURの齋藤潤一は言う。

「夏祭りには団地の人だけでなく、新街区の人たちもやってきます。こちらは子育て世代が多いので、祭りに子どもの姿が増えたと、自治会の皆さんも喜んでいます。会場設営をまちのね浜甲子園の若いスタッフに手伝ってもらうなど、相互の交流が少しずつ進んでいます」

取材に伺った日には、自治会メンバーが今年の夏祭りの1回目の打ち合わせ会議を開き、まちのね浜甲子園から奥河さんたち2人が参加した。

「エリアマネジメントの手法を使って団地を再生し、新しいミクストコミュニティーをつくるこの試みは、関西で初。これがモデルケースになるよう、URとしても交流をさらに進めるために何ができるか考えていきたい」

子ども同士や家族連れが行き交い、高齢者らがのんびり散歩する通りを眺めながら、URの松下順一はそう言葉を結んだ。

「さまざまなイベントを通して、団地の人々と新街区の人たちの交流が進んでいる」と話すURの齋藤。

武田ちよこ=文、青木 登=撮影

  • 兵庫県西宮市 浜甲子園団地

    多様な世代がゆるやかにつながる
    新しいまちを育てていく

  • 東京都大田区 南六郷二丁目団地

    子どもの居場所を作りたい
    「ラーメンこども食堂」の挑戦

  • 東京都日野市 多摩平の森

    大学生と高齢者が自然に出会う
    古くて新しい団地

  • 東京都八王子市 ベルコリーヌ南大沢

    大学院生と共に、食を通して
    あたたかなつながりを

  • 千葉県千葉市 千葉県立保健医療大学×UR

    地域の大学と連携
    高齢者の健康寿命を延ばし孤立化を防ぐ

  • LINEで送る(別ウィンドウで開きます)

UR都市機構の情報誌 [ユーアールプレス]

UR都市機構の情報誌[ユーアールプレス]の定期購読は無料です。
冊子は、URの営業センター、賃貸ショップ、本社、支社の窓口などで配布しています。

メニューを閉じる

メニューを閉じる

ページの先頭へ