特集: 品川駅北周辺地区土地区画整理事業
都心南の玄関口、品川駅の北側に大規模な国際交流拠点をつくるプロジェクトが始まった。
URは新しく生まれるこのまちの、基盤づくりを担っている。
数多い関係者をつなぐ調整役
「山手線に30番目の新駅誕生」
2014(平成26)年6月、そんな見出しが新聞各紙をにぎわせた。このとき併せてJR東日本品川車両基地跡地の再開発計画も報じられた。その計画が今、本格的に動き出している。「国家戦略特区の認定を受け、国と東京都も大きな期待をかけている事業です」とURでこの事業のエリア計画を担当する高橋顕博が語る。
場所は、品川駅の北に近接し、JRの線路に沿って広がる南北に細長いエリア。かつてJRの車両基地だった名残りの線路がまだある敷地は、走行する電車からも眺められる。
この跡地を主とする「品川駅北周辺地区」の再開発は、総面積が14・7ヘクタールと大規模なものだ。品川はかつて、東海道の宿場町で江戸の玄関口だった。このエリアはその歴史を引き継ぎ、都心南の新たな玄関口となる、国際的なビジネス拠点が構想されている。
現在、URが進めているのは、新しくできるまちの基盤づくり、「品川駅北周辺地区土地区画整理事業」だ。道路や公園など都市基盤施設の設備や、建物を建てる敷地の整備などを行う。
しかし、単に図面を引いて造れば済むものではない。むしろ「施工に入るまでのさまざまな調整が、計画課の重要な仕事」だという。「この現場は関係者が多いんです。地権者のほか、鉄道はJR東日本さん以外にも都営地下鉄さんと京浜急行さんの事業がかかわります。国、都や区との調整も頻繁にありますし」 それら関係者と、こと細かなすり合わせを繰り返し、合意づくりをしていかなければ、事業は前に進まない。時間も労力もかかる。「しかし、これだけ大きなプロジェクトですから、一つ調整が終わると一歩の前進も大きい。そこにやりがいを感じます」と高橋は言う。
JR山手線・京浜東北線の新駅のイメージ図。日本の伝統的な折り紙をモチーフとした大屋根や、木を多用して「和」を感じさせる駅が誕生する予定だ。さらに駅から街を見通すことができる大きなガラス面を設けるなど、「エキマチ一体」を実現する(パースは現時点でのイメージ)。
JR東日本提供
円滑に進めるためにノウハウを駆使
品川駅北周辺地区には、どのようなまちができるのだろう。整備の方向性を示す「品川駅北周辺地区まちづくりガイドライン」が、今年3月に発表されている。
地権者の筆頭であるJR東日本をはじめ、URを含む関係事業者、行政に学識者を加えた委員会により策定されたものだ。
まず同地区は、南側で同じく区画整理が進められる品川駅街区地区とつながり、品川駅とも一体化したまちになる。
品川駅は、JR東日本、JR東海の新幹線、京浜急行が乗り入れるターミナル駅。さらに品川駅北周辺地区に接して、都営地下鉄浅草線の泉岳寺駅がある。
交通の便利さから、JR東日本は「グローバルゲートウェイ品川」をまちづくりのコンセプトに掲げている。「都心の新しい玄関口にふさわしい国際交流拠点にしたい」とJR東日本総合企画本部品川・大規模開発部の村上祐二副課長は言う。「国際空港化が進む羽田空港へも近いですし、品川駅は27年に開業予定のリニア中央新幹線の始発駅となる予定です。世界中から先進的な企業と人材が集まり、多様な交流から新たな文化が生まれる。そんなまちを目指しています」
ガイドラインでは、超高層ビルが立ち並ぶまちの中央を南北に貫くメインストリートが構想されている。これは歩行者専用の空間で、2階レベルでは、駅と直結する歩行者デッキが建物を結ぶ。
ここには、まちの空間づくりに「人」を中心に据えたパブリック・レルムという考え方が取り入れられている。建物の内と外や、異なるレベルを空間的に緩やかにつなぐ。このまちで働く人、住む人、訪れる人、誰もが心地よい居場所を見つけられるようにしようという考え方だ。「出会いがあり、新しいチャレンジができるまち。企業が最先端のテクノロジーを使い、実証実験の場としても利用できるようなまち。そんなイメージを持っています」と村上氏は語る。
分断されていた東西のまちをつなぐ
品川駅北周辺地区の基盤づくりで重要なものに、東西道路の新設・改修がある。このエリアは、鉄道路線と車両基地があるため、西側の高輪地区と、東側の芝浦地区が長く分断されていた。
現在、エリア内で東西をつなぐ道路は、俗に「提灯殺し」と呼ばれる高輪橋架道橋しかない。ガード下の1車線道路で、高さ制限は1・5メートル。タクシーが通行するとき、屋根の上の表示灯(提灯)がつかえて壊れることがあるので、この異名がついた。
URは区画整理事業地区内の道路を整備するのと併せ、この提灯殺しを掘り下げて2車線道路にする計画だ。このほか、都が環状4号線を延伸して高輪と芝浦を結ぶ計画もあり、これまできわめて不便だった交通が円滑になり、東西のまちがつながる。地元の人々の暮らしもぐんと便利になるだろう。
泉岳寺駅に駅前広場、品川駅に北口広場の計画もあり、複数の主体による事業が、これから並走することになる。また、一部に移転・換地を求めなければならないビルやマンションがあり、その交渉もURの仕事だ。「今は事業初動期の段階ですが、新しいまちに住める、これを機に会社の事業を刷新したいなどといった期待から、むしろ好感を持って話を聞いてくださる方が多いです」とURで事業を担当する小幡雄一郎は言う。
移転・換地の交渉は、権利者ごとにその要望を聞き、理解を求めていく地道な作業。基盤づくりの主題は、建物を建てるための整備だけでなく、まちづくりにかかわるすべての人の思いを調和させていくことにあるようだ。
着実な仕事ぶりに関係者の期待も高い
山手線の新駅は、東京オリンピック・パラリンピックの開催前、2020年春に暫定開業予定。そして24年にはエリアの一部を開業する「まちびらき」が予定されている。その頃には駅前に何棟かのビルが建ち、目指す国際交流拠点の片鱗を見せているかもしれない。
URの山口香世は「国際的ななかにも、日本の良さが自然に感じられるようなまちになったらうれしい」と期待を語る。
この部署に着任して日が浅い。業務をこなし、過去の経緯を勉強するだけでも手一杯。それでも時間を割いて、品川のまちを歩き、博物館なども訪ねている。
赤穂浪士四十七士が眠る泉岳寺、旧品川宿に桜の名所の御殿山と、周囲に名所・旧跡も多い。「人が住みたくなるまち」をつくるには、その土地の来歴や空気を知ることも大切だと考えている。小幡もまた「新しさと歴史あるものが、バランスよく融合したまちになれば」と夢を語る。
着任3年目の高橋は、これまでほぼ順調に計画を進めてこられたことに仕事の喜びを感じている。「準備が始まって2年半。国家戦略特区の認定を受けたのが2016年4月。間髪を入れず土地区画整理事業の認可を申請して、3カ月後の7月には認可を受けました」
異例というほどではないが、プロジェクトの規模と関係者の多さを思えば、かなりのスピードだと、その進捗を振り返る。
一方、前出のJR東日本の村上氏は「URの着実な仕事の進め方に感謝している」と言う。「都心でこれほどの再開発は、今後ないだろうといわれるほどの規模の事業で、弊社もこれまであまり経験がありません。しかし、URさんには数々の大規模再開発を手掛けてきた経験がある。そのノウハウ、コーディネート力に期待しています」
品川駅北周辺地区における土地区画整理事業は、31年まで続く。およそ10年にわたる時間をかけて、新たな国際交流拠点の基盤づくりが進められる。そこに描き出される魅力的な未来へ向け、まちづくりは今、端緒についたばかりである。
【高橋盛男=文、青木 登=撮影】
品川
新たな国際交流拠点の礎を築く大プロジェクト
都心南の玄関口、品川駅の北側に大規模な国際交流拠点をつくるプロジェクトが始まった。URは新しく生まれるこのまちの、基盤づくりを担っている。
渋谷
世紀の大規模再開発を縁の下から支える
駅舎や百貨店が解体され、新しいビルの骨組みが建ち上がってきた。広場の地下では川が移設され、雨水の貯留槽が着々と整備されている。今、渋谷で進行している大規模な再開発。注目を集めるその現場に、UR職員の姿があった。
虎ノ門
にぎわいを生むまちに新しい駅をつくる
いま、虎ノ門が大きく変わろうとしている。地下鉄新駅の整備を含む都市基盤の強化・拡充が進んでいるのだ。URは国際的なビジネス拠点を創造するこの事業に、さまざまなかたちで参画している。
羽田
空の玄関口に誕生する新しいまちの土台をつくる
世界5位の利用者数を誇る羽田空港(東京国際空港)。その広大な敷地の一角が跡地化され、官民一体となって新たなまちづくりの計画が進められている。URは土地区画整理事業を担当、まちの土台づくりに汗を流している。
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