街に、ルネッサンス UR都市機構

特集:団地の未来 アートする団地 > 団地の歴史と景観を借りて人の営みを描きたかった

URPRESS 2018 vol.47 UR都市機構の情報誌 [ユーアールプレス]

阪本順治監督インタビュー
団地の歴史と景観を借りて人の営みを描きたかった

今年公開された映画『団地』は、阪本順治さんが脚本から監督まで務めた完全オリジナル。
団地には、適度な開放感と淋しさ、そして人とのつながりによる安らぎがある、だからこそ団地を舞台に映画を撮りたかったという阪本監督。20代も80代も共に暮らすコミュニティーも団地ならではの魅力で、団地再生の鍵を握るのは若者だと語ります。

阪本順治(さかもと・じゅんじ)

映画監督。1958年生まれ、大阪府出身。
大学在学中より石井聰互(現:岳龍)、井筒和幸、川島透らの各監督の現場にスタッフとして参加。89年に『どついたるねん』で監督デビューし、数々の映画賞を受賞。2000年の『顔』では、日本アカデミー賞最優秀監督賞、毎日映画コンクール日本映画大賞・監督賞などを受賞した。そのほか『亡国のイージス』『北のカナリアたち』『ジョーのあした 辰吉丈一郎との20年』など作品多数。最新作『エルネスト』は2017年全国公開予定。

映画『団地』の舞台は、最近の高層化してエレベーターのある集合住宅ではなく、僕が小学校から中学の頃に建てられたような、エレベーターのない5階建ての団地です。

僕と、この映画の主役の藤山直美さんは同じ昭和33年生まれで、子どもの頃に大阪万博があり、ニュータウンという名で次々と新しい団地が建つ時代に育ちました。当時の団地は、新しい住まいのかたちや明るい未来、快適な暮らしの象徴。映画館に行くと、本編前のニュースで空撮の団地群や室内のシステムキッチンなどが映り、「機能的で快適な生活」と紹介されていました。

それが、年月が経ち、エレベーターのない5階は空室が目立ち、デイサービスの車がお年寄りを迎えに来るなど、時の流れを感じさせる場所になっています。そんな昭和のよき時代に建てられた団地のいまの姿に興味があり、カメラを向けたくなったんです。

団地を擬人化すれば……、彼らが生まれ、彼らがずっと居続けたことで、そこには一種独特な「匂い」が漂っています。空室に行くと、ここにどういう人が住んで、どんな暮らしを営んだかを想像させられる。特に今回は大切な人を失うことがテーマのひとつです。団地が受け入れてきた、いろいろな人生、いろいろな家庭、その歴史みたいなものを借りて、人の生き死にについて語りたいと思ったのが、団地を映画の舞台に選んだ大きな理由です。

つながりと淋しさが両立する場所

映画って、セリフはもちろんのこと、映像や風景も重要な“言語”なので、この物語にはどういう団地がいちばんふさわしいかにはこだわりました。僕らが見つけた団地は、ちょっといびつな並びで建っている団地。独特な給水塔のデザインも決め手になりましたね。

室内の撮影はセットを組みましたが、美術部さんがリニューアルされる団地の部屋から、床板や流し台、吊(つり)戸棚などをいただいてきて使いました。だから、素材は本物です(笑)。
猛暑の中での撮影でしたが、その団地は高齢の方が多く、クーラーを使わないのでカーテンも窓も開けっ放し。朝は読経やラジオが聞こえてくるし、夕方はテレビの音が響いてきて、部屋の中も丸見えだから、「みんな、のぞくなよ」ってスタッフに声かけて(笑)。そんな風景を見て、団地って個々が守られつつ、どこか同じ場所で暮らしている安心感やつながりがある場所なんだなと思いました。

主人公の夫婦は、息子を失ったことで漢方薬局をたたんで、住まいを変えることになります。まったく人と関わりたくないと思えば、プライベートが確保されるオートロックのマンションを選ぶでしょうが、閉じこもって悲しみを抱えるにはしんどすぎる。建てられた当時のにぎやかだった団地ではなく、いまの団地なら、適度な淋しさと適度なコミュニケーションがあって、失った悲しみを閉じるよりも、安らげるんじゃないかと感じました。

自分の中のしこりをすべて入れ込んだ作品

主演の藤山直美さんと映画を撮るのは、『顔』という作品から数えて16年ぶりになります。舞台と映画という似て非なる現場にいますが、16年間お互い違う経験をして、同じ年を重ねてきた。一方で時代もモノづくりのあり方も変わってきて、また違う会話ができると思いました。藤山さんが一番似合うのは市井(しせい)の人で、団地の階段下の郵便受けの前が似合う(笑)。そう思えたのも、団地を舞台にした理由になりました。

この映画はまた、僕が脚本から監督まで務めた、久々の完全オリジナルです。だからこそ、自分の中に「しこり」としてあったものを全部吐き出そうと思いました。
自分の中の「しこり」とは何か……? 僕は商店街にある、仏壇屋の息子なのです。仏壇屋はずっと人の死と向き合わなければならない商売というか、人の死を商売にしているようなものでしょう。それだけに、人が亡くなったらどうなるのか、肉体は消えるけど、考えてきたことや感じてきたこと、思想なども全部消えてしまうのか……ということを、幼い頃からずっと考えていたんです。魂となって宇宙を漂っているという話もよく聞くけど、自分なりに仮説を立てられないだろうか、というのも柱にありました。その答えのひとつの現れが、映画の中の斎藤工くんの「こっち(現実社会)のほうが、非科学的なんだ」というセリフです。

いわば、日常や常識をひっくり返したわけですね。16年の間に、僕も藤山さんも身近で大切な人を失う経験をしている。そこから生まれた実感を、重苦しいテーマでなく軽妙に表現したい、というのが、この映画の根っこになっています。

©2016「団地」製作委員会

団地再生の鍵を握るのはいまどきの若者

最近のURの団地では、空室になった部屋をMUJIやイケアなどとコラボして、若者向けにリノベーションしていると聞きました。面白い試みですよね。団地が登場した当初は、おじいちゃんやおばあちゃんのいる大家族から解放された、核家族の若い夫婦を対象にしていたのだと思います。だからこそ、均一化された間取り、均一化された内装で、中流の平均の象徴としての住まいだったのでしょう。それがいまはリセットされて、高層階には20代の若者が住み、低層階には80代の方が住んだりしている。こういうコミュニティーは、団地以外にはなかなか見られないのではないでしょうか。

いまの若者は、将来車を持つ予定のない人が70%近くいるなど、ものを持ちすぎない、背伸びしない人が多いでしょう。そういう人たちにとって、適度な開放感と適度な淋しさと、適度に人とつながっている感のある団地は、すごく魅力的に映るのかもしれません。

案外、リノベーションしないのもありかな、とも思います。というのも、僕がデビュー作の『どついたるねん』でロケに使った通天閣界隈は、当時は昼間から酔っ払いしかいない町だったのが、いまや若いカップルがいっぱいで、通天閣に登るのに30分待ちになっている。もう映画を撮るのは無理(笑)。若者は楽しみ方の選択肢をたくさん持っているんですよね。新商品に魅力を感じる人もいれば、違うものを感じたいという人たちもいっぱいいる。彼らが何を面白がるかわからないから、これからの団地再生は若者に期待すると、どんどん面白くなるのではないでしょうか。

●映画『団地』のDVD・ブルーレイディスクが2017年1月に発売予定。

映画『団地』のあらすじ

大阪近郊の団地に、一人息子を事故で失ったのをきっかけに老舗漢方薬局をたたんだ、山下ヒナ子(藤山直美)と清治(岸部一徳)夫婦が引っ越してくる。自治会長の行徳正三(石橋蓮司)と君子(大楠道代)夫婦をはじめ住民は、新参者に興味津々。そんなある日、些細なことでへそを曲げた清治は、「僕は死んだことにしてくれ」と床下に隠れてしまう。突然姿を見せなくなった清治に、住民たちは失踪か、と大騒ぎ。さらに不思議な言動をとる青年(斎藤工)が山下家を訪れ、物語は意外な顛末に。劇中には「団地ってオモロイなぁ……噂のコインロッカーや」とか「ありえないことがありえるのが、団地」など印象的なセリフもちりばめられている。

【阿部民子=構成、青木登=撮影】

動画

阪本順治監督 インタビュー

地域とコラボ
「団地の暮らし」が壁面アートになった

茨城県の戸頭団地では、地域のアートプロジェクトとUR都市機構が共同で行う「アートのある団地」プロジェクトが完成。団地の壁面に現れた楽しい空間が大好評だ。

美しき
団地ギャラリー

こだわりのデザイン。心なごむあたたかな光や、地域との調和から生まれたかたち。
住む人をやさしく見守る、団地で見つけたさまざまな「美」を集めました。

大学とコラボ
パブリックアートで団地を活性化

関西では大阪芸術大学と協働で、「団地」に眠るパブリックアートを再発見、お住まいの方々とアートを通した交流を進める取り組みが始まっている。

阪本順治監督インタビュー
団地の歴史と景観を借りて人の営みを描きたかった

今年公開された映画『団地』は、阪本順治さんが脚本から監督まで務めた完全オリジナル。団地には、適度な開放感と淋しさ、そして人とのつながりによる安らぎがある、だからこそ団地を舞台に映画を撮りたかったという阪本監督。

  • ツイート(別ウィンドウで開きます)

UR都市機構の情報誌 [ユーアールプレス]

UR都市機構の情報誌[ユーアールプレス]の定期購読は無料です。
冊子は、URの営業センター、賃貸ショップ、本社、支社の窓口などで配布しています。

メニューを閉じる

メニューを閉じる

ページの先頭へ