特集:団地の未来 アートする団地 > 「団地の暮らし」が壁面アートになった
地域とコラボ
「団地の暮らし」が壁面アートになった
戸頭(とがしら)団地 茨城県取手市
茨城県の戸頭団地では、地域のアートプロジェクトとUR都市機構が共同で行う「アートのある団地」プロジェクトが完成。団地の壁面に現れた楽しい空間が大好評だ。
団地の壁面が楽しいキャンバスに
遊歩道から見上げる住棟横の壁面に、洗濯物がひるがえっている。張り渡した紐に下がっているのは、シャツやトランクス、カラフルなタオルもあればジーンズもある。あちらの棟では書棚に手を伸ばす人影が見え、こちらの壁には配管が縦横に走り、むこうには電柱がそびえ立つ。その一つひとつが作品で、絵に半立体的な造形も加え、楽しくてちょっと不思議な世界を団地の空間に創り出している。
千葉県との県境に近い茨城県最南部にある取手市の戸頭団地。2010年、取手アートプロジェクト(TAP)はUR都市機構の協力のもと、「アートのある団地」プロジェクトを立ち上げた。その活動の中で、戸頭団地の11棟にこれらの作品を手掛けたのは上原耕生(うえはらこうお)さん。13年から今年8月までの3年がかりで完成させた。
上原さんのプランは、居住者から戸頭団地にまつわるエピソードを集め、それをもとに作品をつくって壁面に展開していくというもの。目指しているのは、アートを美術館でしか見ることができないものではなく、身近な生活空間にある日常のものにすること。自分のプランを「IN MY GARDEN」と名付けたのも、団地に住む人たちに「自分の家の庭にアートがある」と感じてほしいからだという。
団地活性化のために「前例なし」を超えて
ここ取手市には、1991年に東京藝術大学美術学部が取手キャンパスを開設。これを受けて市と市民、大学が協力して若いアーティストを支援し、同時に市民の芸術体験の場を広げようと、99年にTAPが生まれた。芸術のまちを目指す取手市をフィールドに、これまでにも地域の人たちと連携してさまざまなプロジェクトを進めてきた。
「そのTAPさんと一緒に、アートで団地を活性化し、若い人にアピールするために何かできないか、と考えたのが始まりでした」
UR都市機構東日本賃貸住宅本部で東京東・千葉地域本部長を務める由利義宏は語る。折しも戸頭団地では、約20年ごとに行う外壁修繕を控えていた。この機に乗じて壁にアートを展開しようと、プロジェクトは動き始めた。
UR都市機構の団地では、壁を絵で飾ることはあっても、これほど大規模にアートを展開したケースは他にない。そのため実現にはさまざまな苦労があったという。例えば作品を特徴づけている半立体の造形だ。これは上原さんにとってはこだわりのポイント。
「室外機や配管など生活の中にあるものを、よりリアルに作品に表現することで、日常とアートの間にある『敷居』を低くしようという狙いがありました」
しかし、人が住む団地では何より安全性が最優先だ。外壁に突起物を取り付けるのはUR都市機構では前例がなかったが、軽く強い建材を採用し、入念な安全リサーチを行って乗り超えたという。
アーティストと住民のコラボレーション
団地の空き店舗を利用して、創作活動や居住者との交流拠点となるスタジオを作ることから始まり、エピソードの募集やプランニングの検討会、節目で行うイベントなど、プロジェクトは居住者参加のもとで進められた。
「スタジオのペンキ塗りを手伝ったり、楽しい経験ばかりでした」
プロジェクト開始当時の自治会長だった篠田信五さんはいう。実は戸頭団地では、以前にも使わなくなった施設をTAPのアート展に提供したことがある。居住者も参加して盛り上がったが、会期が終われば、それでおしまいだ。
「今回はプロセスを見たり参加したりするだけでなく、作品も残り、いつも目の前にアートがある団地になる。それが一番の喜びです」
TAPによれば、プロジェクトではアーティストと居住者がコミュニケーションを重ねながら活動すること自体もアートの一環ととらえるが、団地では居住者の創造の力や発想の豊かさに驚かされることが多いという。さまざまな背景と資質をもつ多様な人たちが集まって住む団地。アートのフィールドとして、大きな可能性を秘めた存在だといえるだろう。
団地の空き部屋がホテルに変身
「サンセルフホテル井野団地」 取手アートプロジェクトが取手市にある井野団地で開催している「不定期出現ホテル」。これは井野団地の空き部屋を客室に変え、住民有志によるホテルマンがおもてなしをするとともに、お客様と一緒にソーラーワゴンを使って太陽光を蓄電するといったユニークな試み。今年は9月18・19日の1泊2日、約40年前にこの団地に住んでいたご家族をお客様に迎えて開催された。
地域とコラボ
「団地の暮らし」が壁面アートになった
茨城県の戸頭団地では、地域のアートプロジェクトとUR都市機構が共同で行う「アートのある団地」プロジェクトが完成。団地の壁面に現れた楽しい空間が大好評だ。
阪本順治監督インタビュー
団地の歴史と景観を借りて人の営みを描きたかった
今年公開された映画『団地』は、阪本順治さんが脚本から監督まで務めた完全オリジナル。団地には、適度な開放感と淋しさ、そして人とのつながりによる安らぎがある、だからこそ団地を舞台に映画を撮りたかったという阪本監督。
UR都市機構の情報誌 [ユーアールプレス]
UR都市機構の情報誌[ユーアールプレス]の定期購読は無料です。
冊子は、URの営業センター、賃貸ショップ、本社、支社の窓口などで配布しています。