街に、ルネッサンス UR都市機構

復興インタビュー コロッケさん

URPRESS 2016 vol.45 UR都市機構の情報誌 [ユーアールプレス]

復興Interview

決して忘れず、継続すること。僕は東北で多くのことを学びました

東日本大震災の発生から2週間足らず。
まだ携帯電話もつながらない状況のなか、被災地へ向かったコロッケさん。
「とにかく行かなきゃいけないと思って」と現地に足を運んで以来、支援活動を継続しているコロッケさんは、「大切なのは思い出すこと。そのためにも、被災者のこと、被災地で活動している人たちのことを伝えていきたい」と自身の思いを語り始めた。

ものまねタレント コロッケさん

コロッケ
1960年生まれ、熊本県出身。1980年のデビュー以来、テレビ、ラジオに出演するかたわら、全国でものまねコンサートや劇場での座長公演を務める、ものまねタレントの第一人者。2016年日本芸能大賞を受賞。
その一方で東日本大震災被災地支援活動を精力的に行い、2012年防衛省防衛大臣特別感謝状を授与されている。

被災地にはじめて笑い声が聞こえた日

震災発生直後、どんな思いで被災地に入ったのですかとよく聞かれましたけど、言葉が見つからないんです。役に立てるかわからないし、勝手に行ける状況でもないなか、たまたま山形にいる友人が救援物資を運んでいることを聞きつけて。友人は山形から芋煮を運んでいたのですが、人がひとり乗れば、その分、運べる食糧が減ってしまう。自分たちが車に乗ることで救援物資を減らさないように荷物をギリギリまで詰めて、芋煮の鍋を抱えるようにして、一緒に山形から福島、仙台を経由して、被災地に向かいました。

緊急支援に入っていた方々は、どこに行けばよいかわかっていたようですけど、そのときはまだ携帯電話もつながらないので、行った場所にはすでに別の団体が支援に入っていることもありました。とにかく支援が届いていない場所を探しながら動いて、最初に入ったのが宮城県石巻市でした。

「炊き出しの準備ができました」とお声がけすると、30分くらいで500〜600人の方が並びます。そんな状況のなかで物資を配布しているとき、列に並んでいたおばさまに「何かやってよ」といわれたんです。ものまねをするつもりで行ったわけではなかったし、今はそういうものを見たくないという人も当然いると思ったので「(やって)いいんですか?」と聞くと、そのおばさまが一言「笑ってないのよ、ずっと」って。周りの方も、やってほしいという感じで笑顔を見せてくれたので、リクエストに応えて、そこにあった拡声器を使って森進一さんの「おふくろさん」をやらせてもらいました。

その場に笑い声が上がると、僕らが来ていることを知らない人たちが、どうしたんだとざわざわして。たぶん震災直後から、ずっと気を張ってがんばってきたけれど、なかなか物資も届かず、いろいろなことが滞っていたこの時期、みなさんは憔悴しきっていたんだと思うんです。そんなとき、初めて聞こえてきた笑い声に、多くの方が反応したのだと思います。

2011年 3月25日~27日 宮城県石巻市

けっして忘れずずっと関わっていく

2011年 3月25日~27日 宮城県石巻市 けっして忘れずずっと関わっていく 実はこのとき、先に炊き出しをもらった女性の「コロッケが来た!」という知らせを聞いて、食べ物のコロッケだと思って駆けつけた女性が、コロッケ違いに大笑いした「自分の名前を恨んだ事件」があったそうで、次からは救援物資にコロッケを加えたというコロッケさん。
被災した方々の笑顔を見たとき、ものまねで役に立てることもあるのかなと思ったというものの、「芸能人が被災地に入ることで、現場に迷惑をかけた例も耳にしていたし、他のことがおろそかになってはいけないので、まずはその場の代表者や周囲の方に、うかがいをたてました」というように、その気遣いは終始一貫している。

逆の立場で考えれば、それは当然のことなんです。避難生活をしている方にとっては、誰が来ても「何しに来たんだろう、ただ来るなら何か持って来てほしかった」と思うのが当然の状況でしたし、僕自身、何であれ押しつけるのはよくないと思っていました。それで炊き出しを配って、体が温まって少しほっこりしたところで、ショーができるか代表の方にうかがいをたてたら、「やってください」といっていただけて。

避難所になっている体育館に入って、みなさんに挨拶をしていると、「何かやらないの?」といわれて「やっていいですか?」と聞いたら、奥の方からも「やって」と声がかかったので、一緒に足を運んでいたコージー冨田、ツートン青木、トニーヒロタと僕の4人で1時間弱、ものまねをやらせていただきました。

そのとき僕は、ショーが終わって「それじゃあ」とその場を去るのはよくないと思ったので、並んでくださる方がいる間は、写真とサインに応じることにしたんです。ただ、そうなると1カ所に3〜4時間滞在するので、1日4カ所回るのが精一杯でした。

2回目以降は自分にも少し余裕ができてきましたけど、当初は道も寸断されていたので、行ける所を探りながら、小さい所で20〜30人、大きい所だと700人以上の方がいる避難所をいくつも回りました。

現地に入って、みなさんと言葉を交わす。その時点で責任が生まれたと、僕は思ったんです。亡くなった方が大勢いるなかで生き残った方々に、雰囲気だけで安易な言葉を口にして、後で忘れてしまうのはいちばん失礼なことだから、たとえ大きなことはできなくても、ずっと関わっていこうと。実際、あの津波を経験した当事者同士では、話せば話すほどつらくなることでも、僕たち部外者には話せることもあるようで、「ほっとしました」といわれたときは、こうやって話を聞くことも支援になるのかなと思いました。

被災地にも神様はたくさんいた

今、コロッケさんがいちばん考えているのが子どもの支援。子どもたちのために、素敵な大人がひとりでも多くいることが大事だと思っている。

ある避難所で、女の子が自分と友達の分のサインをくださいと、折り紙を2枚持ってきたんです。「友達にも渡してあげてね」といって折り紙を返すと、「友達は天国に行ったので、これは私が天国に行くときに持って行きます」とその子に笑顔でいわれて……。

自分に何ができるかと考えたとき、東北に限らず、子どもが犠牲になる事件の少なくない今の日本、世の中に対して、大人が話し合ってきちんとしていかないといけないと思ったんです。大きなことができるわけではないし、自分の考えが必ずしも正しいわけではないけれど、僕は人前に立たせていただく仕事をしているのだから、とにかく動こうと思っています。

最初に東北に行ったときは、神様はいないんだなあと思いました。もしいるなら、せめて1時間前でいいから、地震や津波が来ることを教えてくれればいいのにと。物資を配り終え、仮眠をとる車の中や、物資を入手できるところまで夜中に車を走らせながら、神様って何だろうと自問自答していました。でも、考えているうちに、実は神様はたくさんいることに気がついたんです。

まだ自分の家族の安否もわからないなかで、翌日から地域のために動き出した人、ボランティア、自衛隊、警察、消防……みんなのために活動するそういう人たちが、僕には神様に見えてきました。人間の力はやっぱりすごい。僕らはそれを伝えていこう。そして、何か感じてもらえた人に動いてもらうしかないだろうと思いました。

今も賛同してくれる仲間たちと年に一度、「ものまねキャラバン」を開催して、その収益金を義援金として送っていますが、一緒に避難所を回った仲間たちと「自分たちは、このためにものまねを覚えたんじゃないか」と話すことがあるんです。僕は今まで、ものまねはご本人とファンの方にとっては〝目の上のたんこぶ〞のようなものだと思っていたんです。でも、ものまねは一瞬でわかる笑い、最速の笑いで、つらい思いをしている人々に笑顔を届けることができるんだと、これも被災地で考えて気づきました。

風化という言葉はいやですが、震災から5年たって、忘れている方、気にかけなくなっている方が増えているのは事実です。東北以外でも各地で自然災害が起きているし、人間だから忘れるのは仕方ないけれど、何かのきっかけで思い出すこと、そうやって気持ちを継承することが大事なことではないかなと思います。そういうことを考えるようになったのも東北に通い出してからで、僕自身、東北で多くのことを教えられました。

2011年5月26日、27日 岩手県(大槌町、山田町、釜石市、宮古市)
2012年3月19日 宮城県石巻市、多賀城市
2012年5月12日 福島県南相馬市

Stage Information

笑って泣いて楽しもう!

明治座6月コロッケ特別公演
スペシャルゲスト 青木隆治

第一部 古典落語「死神」「文七元結」より 神隠し!?
第二部 コロッケものまねオンステージ2016

【公演期間】
6月1日(水)~6月28日(火)

【場所】
明治座(東京都中央区)

【お問い合わせ】
明治座チケットセンター
Tel 03-3666-6666

今回は第一部で大好きな落語をもとにしたお芝居をやる予定です。古典落語の「死神」と「文七元結(ぶんしちもっとい)」をミックスした「神隠し!?」です。笑いの世界から人情喜劇が減っている昨今、人情のある物語が残っているのが落語の世界。喜劇の世界に生きてきた中村メイコさん、佐藤B作さんを迎えて、お芝居では泣いて笑って泣いて笑っての世界をお届けします。
もう一つ考えているのが「ものまね楽語」で、自分でいうのも何ですけど、これはおもしろいと思います。スペシャルゲストに青木隆治さんを迎え、ものまねも含めてすべてが見所というショーをお届けします。どうぞお楽しみに。

【塚田恭子=文、佐藤慎吾=人物撮影、被災地の写真提供=ファインステージ】

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