古くて新しい団地の未来(1970〜)
古くて新しい団地の未来


逆転の発想で鉄骨とともに住む
古い団地のリノベーションも盛んに行われている。
建て替えるのではなく、住棟はそのままに、室内を大規模にリノベーションするもので、UR独自のリノベーション企画に加えて、MUJIやイケアといった企業とのコラボレーションや、大学との連携などが進められている。
そんなリノベーション住戸のなかでも、ユニークという点で、ここは別格だろう。
上の写真は、大阪市にある伝法(でんぽう)団地の約44m2のワンルーム。玄関ドアを開けると、目の前に鉄骨が! ここは鉄橋の下か、工事現場か? とわが目を疑った。
この鉄骨ブレースは耐震補強のため。この部屋のある伝法団地の1号棟は廊下を挟んで左右に20戸並ぶ細長い建物で、1階の住戸4部屋にこの鉄骨ブレースを入れることで、建物全体の耐震性能を向上させている。
もとは2DKの典型的な団地の部屋。UR都市機構西日本支社は、この室内を貫く鉄骨ブレースを逆手にとって、強烈な個性を放つワンルームに仕立て直した。現在この部屋に住む永井秀忠さん(26歳)は、「約16畳あるワンルームにひかれて決めました。正直に言えば、もちろん鉄骨はないほうがいいですよ。でも住んでみれば、もう気になりません。酔って帰ってきても、ぶつかることもありませんし(笑)。訪ねてきた男友達にも、秘密基地みたいでおもしろい、と好評です」と満足の様子だ。
玄関の扉から鉄骨までは約2メートル。この間のスペースにトイレ、浴室、洗濯機置き場の水回りが集まっているので、動線も効率的。武骨な鉄骨が、ゆるやかに居室を分けるアクセントになっている。
UR都市機構の担当者によると、他にも耐震補強のために室内に鉄骨を通している団地はあるが、部屋として貸し出しているのは、今のところこの伝法団地の4戸だけだという。ちなみにこの4戸、すべて入居済みだ。


MUSIC COMMON CAVE MORINOMIYA
鉄骨部屋が音楽スタジオに変身
大阪市の森之宮団地にも、室内に耐震補強の鉄骨ブレースが通る部屋がある。
こちらは構造上、ドアを開けると目の前に鉄骨だ。住むには厳しいこの部屋が、音楽スタジオ「MUSIC COMMONCAVE MORINOMIYA」に変身。室内に防音ルームを設け、好きな楽器の練習などに使ってもらえればと考えている。




エイトデザインとのコラボ 斜めに廊下プラン
玄関からベランダまで、斜めに部屋を突っ切る廊下がある部屋。キッチン、リビング、寝室がゆるやかにつながっている。
斜めに廊下?土間のある部屋も
UR都市機構中部支社でも団地リノベーションプロジェクトが進んでいる。名古屋市の鳴海(なるみ)団地にあるこの部屋、玄関を入ると誰もが思わず「アレ~?」と声をあげるだろう。部屋の中を廊下が斜めに延びていて、部屋が無限に広がっているような、不思議な感覚におちいるのだ。
これはUR都市機構中部支社と、名古屋市にあるリノベーションを専門とするエイトデザイン(株)とのコラボレーション。3DKの部屋を1LDKにして、玄関からLDKの部分に斜めに廊下を通してある。
UR都市機構の担当者は「斜めに廊下をとることで、部屋に広がりが出るだけでなく、空間の自由度が上がります。この団地は子育て世代に人気があるので、小さなお子さんのいる夫婦を想定してリノベーションしました」と話す。
鳴海団地にはエイトデザインとのコラボがもう1室、こちらは広い土間と14畳の和室のあるプラン。土間は自転車を置いたり、趣味のスペースにと考えられている。名古屋市の豊成団地でもユニークなリノベーションプランが進行中だ。
こうやって見てくると、つくづく団地のもつ新しさに気づかされる。古くて新しい団地。その未来の可能性に注目したい。

【武田ちよこ=文、佐藤慎吾、青木 登=撮影】
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