暮らしのリスタイル1
会わなくても安心できる
「近居(きんきょ)」という暮らし方を広めたい from 名古屋
近隣に住み、適度な距離感を保ちながら高齢者世帯や子育て家族を支え合う「近居」を促進しようと、家賃を割り引く「近居促進制度」。
この制度を利用して同じ団地に「近居」しているご家族を訪ねた。
新居は同じ団地
地震への強さも決め手に
名古屋駅から地下鉄で約20分。
名古屋市東区にある大幸東(だいこうひがし)団地は、まるで都会の中のオアシスのように、緑に包まれた高層団地。ここにUR都市機構の「近居促進制度」を利用して住む2組のご家族がいる。
藤井英雄さん、美智子さん夫妻ははともに63歳。この団地に住んで26年になる。昨年11月に長女の佑紀さんが結婚、同じ団地で新しい暮らしをスタートさせた。
「あちこち住まいを探しましたが、交通の便のよさと部屋の広さで、この団地が一番気に入りました。不動産屋さんから『URの団地は基礎がしっかりしているので、地震にとても強い』と聞いたことも大きかったですね。さらに『近居促進制度』にあてはまるので、僕たちの家賃が5年間5%引きになると教えてもらったことが決定打になりました」と夫の松本武さん。「近居促進制度」を利用すると、松本さん夫妻の場合は家賃が5年間、毎月5000円ほど安くなる。
「月5000円で年間6万円。これはうれしいです」と佑紀さんも目を細める。
かくして同じ団地の別々の棟で、2組の家族の近居が始まった。
近くにいるという安心感がいい
結婚しても仕事はそのまま続けている佑紀さん。最初のころは仕事と料理など家事のペース配分に苦労したという。
「仕事で遅くなったときなど、母が届けておいてくれたおかずに助けられました」
だが母の美智子さんは「たまたまたくさん作り過ぎたものを、届けただけ。私がおせっかいし過ぎてはいけないと思っています。娘には、自分たちの家庭の味をつくっていきなさいと言ってるんですよ」と冷静だ。
英雄さんも「どちらかが依存すると同居と同じになってしまうので、最初の頃は距離の取り方に気をつかいました」と言う。
近居を始めてそろそろ1年。ドアトゥードアで5分の距離に住む親子だが、「最近は暮らしのペースがつかめてきました。生活時間帯も違いますし、会うのは2カ月に一度くらいかな」と佑紀さんが言えば、「一緒に食事するのは、四半期に一度くらい」と英雄さんも笑う。
若い2人は毎日、両親の住む棟の前を歩いて、駅に向かう。
「1カ月会わなくても、安心できるんです。会わなくても、連絡がなくても、あそこにいるから大丈夫と思える。何かあれば飛んでいける距離にいるということは、そういう安心感をお互いに抱かせてくれる。それが近居の一番のメリットではないかしら」
美智子さんの言葉に、皆が満足そうにうなずいた。
【武田ちよこ=文、佐藤慎吾=撮影】
新しい支援のかたち
URの近居促進制度とは
下記要件に該当する世帯同士が、UR都市機構の指定する同一団地、隣接する団地又は概ね半径2キロ圏内にある団地に居住する場合、新たに入居する世帯の家賃を入居後5年間5%割り引く制度です(なお、両世帯同時に新規入居いただく場合、両世帯とも割引の対象となります)。
【世帯要件】
『優遇対象世帯』
- 子育て世帯:満20歳未満の子を扶養する世帯(妊娠中の方、孫、甥、姪などの親族を含む)。
- 高齢者世帯:満60歳以上の方を含む世帯。
- 障がい者世帯:4級以上の身体障がい、または重度の知的障がいなどのある方を含む世帯。
『近居世帯』
- 優遇対象世帯を支援する直系血族、または現に扶養義務を負っている3親等内の親族を含む世帯。
東日本大震災を契機に「家族は近くに住みたい」という近居へのニーズが高まったことが、この制度誕生のきっかけです。平成25年9月から本格的に実施しており、利用者は増加中。現在約1,100団地のUR賃貸住宅に、この制度が導入されています。
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