街に、ルネッサンス UR都市機構

曳舟駅前地区プロジェクト

曳舟駅前地区は、関東大震災や東京大空襲による災禍を免れた地域であったため、老朽化した木造建物や狭い道路が多く、東京でも有数の密集市街地を形成していました。本事業で地区内に新たな区画道路を新設し、人と車の利便性や安全性を確保するとともに、商業と住宅が調和した複合的な拠点を目指し、市街地再開発事業により、Ⅰ街区では住宅棟を整備、Ⅱ街区には大型商業施設であるイトーヨーカドーを誘致し平成22年度に事業が完了しました。どのようにして曳舟駅前地区は生まれ変わったのでしょうか。事業に携わった皆さんにお話を伺いました。

UR都市機構 三木弘之×株式会社モール・エスシー開発 島村良一氏・寺田昌弘氏

  • UR都市機構
    三木 弘之(みき・ひろゆき)
    平成20年6月~平成23年3月、東日本都市再生本部墨田市街地整備事務所事業計画課長。事業計画、資金計画、補助金などを担当し、当地区の事業完了を成し遂げた。

  • 株式会社モール・エスシー開発
    島村 良一(しまむら・りょういち)氏
    (株)モール・エスシー開発 顧問。長年にわたりイトーヨーカドーの店舗開発を担当。

    株式会社モール・エスシー開発
    寺田 昌弘(てらだ・まさひろ)氏
    (株)モール・エスシー開発 開発部マネジャー。島村顧問と共に、長年にわたりイトーヨーカドーの店舗開発を担当。

Period01 施行前の地区状況(~平成17年9月)

関係者合意のためUR都市機構へ参画要請
細やかな積み重ねによる信頼構築

島村氏
私のUR都市機構の再開発事業との関わりは20年以上になりますが、公団の再開発事業部門をエースとして引っ張っておられた木村部長との出会いが初めにありました。「店づくりのための開発は要らない。まちづくりにとっての一つの要素として商業の開発があるべき」と木村部長から、商業施設のまちの顔としての貢献を示唆されました。曳舟駅前地区は、当初からキーテナントに大型商業施設を望む声が強かったんですが、地権者がとても多く合意形成が容易でないことや商業を営む権利者と大型商業施設との相反する利害を調整する必要があったことから、公平中立な専門家集団であるUR都市機構に再開発事業の施行を地権者と墨田区から要請しました。

UR三木
この曳舟駅前地区の再開発事業は、その木村部長が要請を受けて本格的にスタートさせたんです。商業施設がまちの顔という視点は、このプロジェクトにも良く反映されている気がします。イトーヨーカドーは地域商業団体との調整を重ねて共存共栄を図ったり、駐車場・駐輪場も大型店のお客さんだけでなく地域の施設として利用されています。密集市街地として防災性の向上もこの再開発事業の目的でしたが、地方公共団体と防災協定を結んで防災物資を備蓄し、商業施設が安全安心のまちづくりに貢献しています。一緒にやらせて頂いたからこそ言えるんですけど、事業の局面で幾多の攻防はありましたが、根っこのところではまちづくりの取り組み姿勢は同じだったと実感しています。

島村氏
地権者・行政・出店者・諸官庁と何度も協議を重ね、信頼関係を築き、その積み重ねにより事業を推進していく。再開発事業はこういった細やかな努力がなければ進まないし、結果として良いまちもできないのだと思います。

インタビューの様子

地権者とイトーヨーカドーが
一体となる商業施設を目指して

寺田氏
本事業では、権利変換で営業を継続する地権者の方たちとイトーヨーカドーが新たな建物に一緒に入ることから、同じ方向を見て、一体的に商業施設を運営していく必要がありました。再開発事業の場合、権利者と大型商業施設の利害が対立してしまい、合意形成が難航し、なかなか事業が進まない傾向があります。ここでは、施行者であるUR都市機構が、公平中立な立場でイトーヨーカドーと地権者の方たちの双方の利害を調整していただけたので、本当に助かりました。従前に地権者の店舗があった場所は、現在のイトーヨーカドーの正面入口となる位置でした。そこで、1街区と2街区の間に都市計画道路を新設し、地権者の要望を取り入れて道路に面した新たな商店街として整備していただきました。こういった権利者間の調整能力、解決の手法はUR都市機構ならではの成果と思っています。

UR三木
先ほどお話のあったとおり、権利者さんとイトーヨーカドーとの意見の調整、解決策の提案をUR都市機構が行ってきたと思います。商業施設は大型店と小さな店舗の集合体ですが、両者の利害が一致しないケースが多くあります。その点、イトーヨーカドーさんには事態を早め早めに相談することで、かなり懐深く計画内容を受け止めていただき、調整役として助かりました。もちろんイトーヨーカドー社内の説得には相当ご苦労されたことと思います。

Period02 複合的な拠点を目指して(平成17年10月~平成22年10月)

お互いが歩み寄り
一つひとつ困難を克服

従前の曳舟駅前地区

島村氏
従前の曳舟駅前地区は多くの権利者が居住・営業する地区でした。事業区域に残る権利者の負担を軽減するためにも、移転先確保への協力に努めるとともに、新たな住宅を確保しながら事業を進めることが必要でした。I街区の住宅棟を先行して整備することで課題を解決したわけですが、これを実現できたことはUR都市機構の強みだと思います。

UR三木
地区内にお住まいの方々には一旦地区外へ転居していただき、従前建物を除却後、新たな建物が竣工してから戻っていただくのが一般的です。権利者の方は2度の移転が必要となりますし、施行者としての立場ではその分の補償費がかかってしまいます。そこで、Ⅰ街区の住居棟を先に建設して住まいを確保してから、Ⅱ街区に大型商業施設であるイトーヨーカドーを建設する段階施行という方法で権利者負担を軽減しました。

島村氏
着工は平成17年度のことですが、平成22年度の事業完了に至るまでさまざまな苦労がありました。建設工事に着手する前の段階で資材価格が高騰し、工事費の大幅な上昇に見舞われましたが、墨田区の協力を得ながらイトーヨーカドーでは建物の構造の変更を行うなどして、工事費を抑え、なんとか竣工を迎えることができました。

UR三木
地中障害物の撤去や土壌汚染の対策工事が必要になったことも困難の一つだったと思います。対策工事により約1年間スケジュールが遅延し、イトーヨーカドーのオープンも非常にタイトなスケジュールとなりました。UR都市機構としては、費用を抑えるためにできることは何か、オープンに向けていかに関係者の足並みを揃えていくかと、できる限りのことをやりました。非常に大きな課題ではありましたが、お互いが歩み寄ることで無事に事業が完了できたのだと思います。

イトーヨーカドー

寺田氏
本事業は、にぎわいづくりも大きなテーマの一つでした。当地区の事業が起爆剤になって周辺にも新しいマンションができたり、商売をやっている方はこの事業に合わせて店舗を改装されたりと、街そのものが面的な拡がりをもってきれいになったと思います。人が集うことで活気が生まれ、新たな人の流れができたと感じています。

Period03 事業を完了して(平成22年11月以降)

市街地再開発事業を通じ地域活性化を担う
力強い組織として期待

寺田氏
権利者等272名のみなさん一人ひとりにとって、土地建物は大切な財産です。権利者交渉と一言で言っても生半可な気持ちでは納得してもらうことはできません。これまでいくつも再開発事業をUR都市機構と二人三脚でやってきて、その実力を熟知していますし、確実に最後までやってくれるという強い信頼感があります。再開発事業は、構想段階から含めると30年もの気の遠くなるような時間がかかります。サラリーマン人生に匹敵するような長い時間がかかりますので、民間ではそのための専門の人材はなかなか育てられません。おそらく、日本の中で再開発事業を施行する専門組織はUR都市機構だけだと思います。そういったプロ集団であるUR都市機構をもっと有効に活用すべきだと思います。

事業完了後の様子
事業完了後の様子2

島村氏
東京23区内には、従前の曳舟駅前地区のように少子高齢化の進展により都市機能を維持できなくなってきた街が数多く存在する気がします。災害に強く、かつ、にぎわいのある中心市街地を形成するため、再開発事業をいわば「まちのインフラ整備」として展開していく必要があるのではないでしょうか。今、世の中に求められている防災・減災のためにUR都市機構は今まで以上に市街地再開発事業に力を入れていただきたいと思います。それが地域活性化につながっていくと信じています。行政改革という名の下にこれまで「官から民へ」という動きが加速されましたが、今、官が主導になり、民が協力する時代が来ているのではないでしょうか。より強固な組織としてUR都市機構に再開発事業を通じた地域活性化を担っていただきたいと思います。

東京都墨田区 曳舟駅前地区(イーストコア曳舟)プロジェクト プロジェクト概要

プロジェクト名

曳舟駅前地区(イーストコア曳舟)プロジェクト
事業の目的

老朽化した木造建物や狭隘な道路など、密集市街地の防災性の向上と、土地の高度利用による新たなまちの拠点形成。

曳舟駅前地区(イーストコア曳舟)プロジェクトのイメージ写真
  • 所在地東京都墨田区
  • 事業手法市街地再開発事業
  • 区域面積約2.8ha
  • 施行者独立行政法人都市再生機構
  • 用途地域等商業・近隣商業地域
  • 権利者数約270名
  • 全体事業費約432億円

プロジェクトインタビュー

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