勝田駅東口地区プロジェクト
勝田駅は、茨城県ひたちなか市の中心市街地に位置し、周辺に日立製作所グループ企業などが集中する市の重要な拠点です。勝田駅東口地区は、平成6年3月に市街地再開発事業の都市計画を決定していましたが、景気の低迷などにより事業化に至りませんでした。平成19年4月、ひたちなか市とUR都市機構が業務委託基本協定を締結。事業を再スタートし、5年3か月で事業が完了しました。事業の特徴やスキームは、どのようなものだったのでしょうか。事業に携わった皆さんにお話を伺いました。
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UR都市機構
原田 亮彦(はらだ・あきひこ)
平成19年4月~平成24年3月、東日本都市再生本部 勝田駅東口再開発事務所事業調整課長として勤務。事業調整、権利者交渉、権利変換計画及び補償業務に携わる。UR都市機構
田中 絢子(たなか・あやこ)
平成22年7月~平成24年3月、東日本都市再生本部 勝田駅東口再開発事務所事業計画課担当として勤務。事業計画、資金計画作成、施設建築物工事調整業務に携わる。 -
ひたちなか市
中山 茂(なかやま・しげる)氏
平成19年4月~平成24年3月、都市整備部都市計画課 勝田駅東口再開発事務所長として勤務。事業全体の総括業務のほか、権利者交渉及び市役所内調整業務に携わる。ひたちなか市
井上 亨(いのうえ・とおる)氏
平成19年4月~平成24年3月、都市整備部都市計画課 勝田駅東口再開発事務所係長として勤務。国庫補助金申請等の資金管理業務のほか、権利者交渉及び事務所内調整業務を担当し、平成24年4月~6月は、所長として事業完了に携わる。
Period01 事業着手前(平成19年4月以前)
都市計画を大幅に見直し、事業区域を縮小。
保留床の処分性が大きなカギ。
中山氏
施行前の事業区域には老朽化した低層建築物が混在し、防災上の問題を抱えていました。また、狭い駅前広場では送迎車両等による交通混雑が常態化し、再整備が課題になっていました。UR都市機構は都市の再生を手掛けるプロフェッショナル集団と聞いていましたし、中立・公平な公的機関であることも大きな要素となり支援をお願いしました。平成6年の計画は事業化に至らなかったため、市としては二度と失敗できないという気持ちが強くありました。
UR原田
一度決定した都市計画を大幅に見直して再開発事業の区域を縮小することは、簡単なことではありません。その重い決断を市にしていただき、都市計画の変更決定の見通しが立ったことから、再開発事業のコーディネート業務ではなく、UR都市機構初となる地方公共団体施行の市街地再開発事業の受託業務として支援することが可能となり、平成19年4月に現地事務所を開設することができました。勝田駅東口地区では、喫緊の課題であった駅前広場の拡幅を最優先事項とし、施設建築物については保留床の処分性を第一に考え、市が過剰な保留床を保有することのないよう計画を立て直しました。
事業中(平成19年4月~平成24年6月まで)
低容積型の再開発に変更。
予算266億円を57億円まで削減。
井上氏
勝田駅東口地区の特徴として3つの点が挙げられます。まず一つは、都市計画を変更して、低容積型の再開発事業にしたことです。平成6年の都市計画で決定した事業区域を縮小し、保留床の供給面積を減らしました。二つめは、民間活力の導入です。「特定建築者制度」と「特定事業参加者制度」を導入し、保留床の処分を確実にしたことで安定的に事業が進められました。三つめは、UR都市機構との連携です。再開発事務所内に共に勤務し、人にも恵まれて約5年という短期間で事業を完了できました。
UR田中
確かに民間活力の導入は大きな特徴の一つだったと思います。「特定事業参加者制度」によって早い段階で保留床の取得者を決められるため、早期に民間事業者の意向に即した設計を行うことができます。また、「特定建築者制度」によって民間事業者のノウハウを活用でき、施行者の費用負担軽減を図ることができます。特定建築者と特定事業参加者は、公募により地元企業が選定されました。事業が完了するまでの間、リーマンショックによる経済情勢の悪化や東日本大震災による影響など困難もありましたが、特定建築者も特定事業参加者も、事業が完了するまで協力体制を堅持してくれました。地元企業の力強さ、責任意識の高さを感じました。また、低容積型の再開発事業に計画を見直したことで、平成6年の計画で266億円だった予算を57億円まで削減することができました。
市とUR都市機構が一つの事務所に勤務。
情報共有や意思疎通がスムーズに。
中山氏
事業の施行者は市であり、決裁行為や議会への対応は市の役割です。また、道路や広場など建物以外の整備については市が担当し、権利者との交渉については、市が前面に立ち、権利変換や補償などの説明についてはUR都市機構の知恵を借りながら、協働して行いました。
UR原田
本事業においてUR都市機構は、施行者である市のバックアップ役であり、事業計画及び権利変換計画の策定、評価及び損失補償額の算定など、再開発事業に関する専門調査業務のほか、公共施設工事と建築物工事の調整や民間活力の誘導などを担当しました。事業を短期間で完了させるためにも、UR都市機構も再開発事務所を現地に開設し、市とUR職員が一緒に勤務しました。同じ事務所内で同じ目標に向かって働いたことで、情報共有や意思疎通がスムーズになり、課題の解決にも迅速に対応することができました。
中山氏
私たち市の職員には再開発事業の経験がなく、事業の基本的な仕組みすら知らない状態で、UR都市機構から再開発事業に関するノウハウを教わりながら事業を進めていきました。事業を進める上でいろいろなことがありましたが、振り返ってみると苦労よりも手応えの方が大きかったように思います。
市の決断力と責任感に助けられ、協働して事業を推進。
UR原田
UR都市機構は、施行者として数多くの再開発事業を手掛けていますが、再開発事業の一部を受託し支援を行ったことは初の事例でした。UR都市機構は事業支援者という立場ではありましたが、施行者である市と同じ気持ちで事業を推進し、市とUR都市機構で協働して事業を施行できたと感じています。
UR田中
市から事業を委託していただき本当によかったと思います。UR都市機構は、施行者の意思決定を支援する立場です。市は、決断力があって施行者としての責任感が強く、スピード感のある意思決定をしていただいたので、方針も明確でした。一緒に事業を進めるパートナーとして心強かったです。
Period03 事業完了後(平成24年6月以降)
市民アンケートを実施。
駅前広場の満足度が大幅に向上。
中山氏
平成6年から平成19年までの間、事業は止まったままでしたが、都市計画を決定していたため、建築制限が生じていました。市民の皆さんに迷惑をかけているという思いがありましたし、早期の事業化の要望も数多くいただいていました。そこで、平成19年に再開発事務所を開設して間もなく、駅前で市民アンケートを1000名に行いました。駅前で足りないものは何かとの問いには、「歩行者のたまり空間」や「休憩できるスペース」という回答がありました。また、「とにかく駅前が寂しい」という声もありました。
井上氏
そういった声も参考に計画を練り直したわけですが、事業完了後に、再度アンケートを行い、駅前広場の満足度を調査しました。最初のアンケートでわずか40%だった満足度は、事業完了後には78%に向上していました。まだ課題もありますが、ひとまず、結果を見てほっとしています。これからもこの再開発を起爆剤に中心市街地に人が集まるようなコンパクトな街づくりを続けていけば、市民の満足度につながると考えています。
技術と知識と経験を活かしたUR都市機構の支援に期待。
中山氏
地方都市の公共団体は、どこも専門知識や人手の不足といった問題を抱えていると思います。ひたちなか市は、UR都市機構と手を携えることで、一度は事業化に至らなかった再開発事業を無事に完了させることができました。UR都市機構には、再開発事業だけでなくいろいろ活躍できる分野があり、技術と知識と経験があります。これからも公共団体を幅広く支援し、全国の都市を活性化してもらいたいと思います。
井上氏
勝田駅東口地区の事業はUR都市機構の支援なしでは成り立ちませんでした。各地で土地の価格が下落している今、事業フレームの見直しをしなければ成り立たない事業が日本には多いと思います。UR都市機構には、そういった事業に対してもひたちなか市で行ったように積極的にノウハウを提供し、能力を発揮していただくことを期待しています。
茨城県ひたちなか市 勝田駅東口地区プロジェクト プロジェクト概要
プロジェクト名
勝田駅東口地区プロジェクト
事業の目的
誰もが安全・安心に移動できる歩行者空間を形成し、人が憩い集える空間を確保して、賑わいを創出することで、市の玄関口としてふさわしい景観を形成する。
- 所在地茨城県ひたちなか市
- 事業手法第一種市街地再開発事業
- 区域面積約1.5ha
- 施行者ひたちなか市
- 用途地域等商業地域、建ぺい率80%、容積率500%
- 権利者数54名
- 全体事業費約57億円