街に、ルネッサンス UR都市機構

街みちネット 第23回見学・交流会「生きがい就労の現場について」

これまでの活動の紹介

活動議事録

講演2「生きがい就労の現場について」

社会福祉法人小羊会 常務理事 馬場 眞子 氏
施設の概要
  • 特別養護老人ホーム柏こひつじ園は全室個室のユニット型で、入居定員は特養90名、ショートステイ10名、グループホーム9名、デイサービス30名の施設です。建物の構成は1階に事務部門と医務室、厨房、2階以上は東側にデイサービス、西側にグループホームという配置になっており、グループホームの入口は特養とは別になっています。また、収益事業として「ティーサロンこひつじ」がございます。
  • 職員数は2019年1月現在全体で148名おりまして、そのうち生きがい就労のシニアスタッフは38名です。内訳は男性3名女性35名と圧倒的に女性が多く、年齢は61歳から84歳までで、60代13名、70代19名、80代6名です。最高齢の84歳の方は園芸のお仕事に就いています。
生きがい就労の導入の経緯
  • 導入の目的は、介護職員が不足しており、介護職員の業務の負担を軽減したいということ、また地域に開かれた施設にしたいという「地域との共生」です。先程ユニットケアであるとお伝えしましたが、ここは施設ではなく「家」であるという考えのもとで行っています。今まで自宅で生活していた暮らしを、柏こひつじ園に来てからも継続できるように、スローガンとして「柏こひつじ園に引っ越してきてください」とお伝えしています。朝起きる時間もそれぞれ、朝ごはんの時間も起きた方から、お昼ごはんや夕ご飯も同様です。そうすることで介護職員の負担は増えてしまいますが、負担を避けつつ、またオープン当初からユニットケアを行う事としておりましたので、シニアスタッフの就労を考えました。
  • 豊四季台団地は高齢化率が35%以上、今現在は40%近くに上っていると思いますが、一人暮らしの方も大変多くいらっしゃいまして、施設が始まるのであればここで働きたいという団地の皆様のご要望が法人に寄せられました。そこで法人としては、元気なシニアスタッフの方々にどの様な業務をしていただけるかと考え、身体援助に関しては資格を有する介護職員、生活援助についてはシニアスタッフにお願いすることになりました。これにより、介護職員の業務の負担は軽減しています。
  • 導入のプロセスは、まず豊四季台自治会を通じて就労希望者を募りました。導入時は10名の就労希望者を集団面接いたしまして、調理補助、園芸、洗濯・掃除、ティーサロンという4種の設定した仕事の内容を説明して、何の仕事に就きたいか希望をうかがいます。
  • 働ける曜日や時間帯を伺う際には、今までのご自身の時間を崩さないで、空いている時間を活用して下さいとお願いし、無理をして仕事をすると長続きしませんとお伝えしています。掃除や洗濯はボランティアスタッフを活用している法人も多いかと思いますが、私どもは非常勤職員として介護職員と同じ6ヶ月の雇用契約を締結して雇い入れております。
生きがい就労の仕事内容
  • 調理補助は、ユニット単位で行います。ここは施設ではなく「家」ですので、10人のユニット毎に朝昼晩、ご飯とお味噌汁を全部作っていただいています。おかずは1階にある厨房で作りますが、大皿や鉢に盛り付けてユニットに運び、各ユニットで一口大に切ったり、取り分けたりを行っています。10人の所帯とお考え下さい。調理補助の就労時間は朝は6:45~9:45の間で2~3時間、夜は17:00~19:30の間で2~2時間半(ユニットごとに設定)となっております。
  • 園芸は、敷地内に30坪程度の畑があり、当初は野菜も作っておりましたが、今はお花がメインで栽培していただいています。屋外の掃除もお願いしています。就労時間は10:00~13:45の間で2~3時間です。天候や季節、作物の状態で曜日は異なりますが、就労するシニアスタッフに計画を立てていただいて勤務時間と曜日を決めています。
  • 洗濯・掃除は、基本的に入居者さんの小さな洗濯物は各ユニットにある家庭用の洗濯機と乾燥機で行っていただき、大きなものは1階の洗濯室に来て洗っていただき、たたんでユニットに運んでいただきます。またパブリック部分のフロアの掃除もお願いしています。就労時間は午前午後2時間程度です。
  • ティーサロンは、地域交流のスペースとして当初オープンしまして、近隣の方々にお昼ごはんを500円で提供しております。入居者さんが食べるものとほぼ同じで、少し量が多くなっています。他にうどん、そば、焼きそばなどのアラカルトメニューもあります。この地域は一人暮らしの高齢者がとても多い所で、その方たちはなかなか外に出る機会がないのですが、少しでも外に出ていただき、みんなと話していただく、近隣の方たちに集まっていただける場になればいいとの思いで作ったサロンです。肉と魚2種類の日替わりランチを用意し提供しております。他に、開設当初から少人数用のおせち(開設当初は2500円、昨年からは2700円)を販売しており、こちらも大変ご好評をいただいています。
    また、ティーサロンでは入居者さんとご家族のために、居酒屋も開催しております。
生きがい就労の就労体制の特徴
  • 生きがい就労はワークシェアリングが特徴です。本来は一人の業務ですが、4~5人でチームを作り、分け合って仕事をしていただいています。この時間にこの仕事をしてくれる人が欲しいですと法人から希望しまして、チームの中で話し合ってスケジュールを出していただいています。1日あたりの個人の就労時間は2~3時間です。
    お給料は千葉県の最低賃金以上とし、当初は850円でしたが、900円に上げています。有給休暇も付与しております。
生涯現役の実現のために
  • 今は政府でも生涯現役の実現のためにということで力を入れていると思いますが、2016年の平均寿命は男性80.98歳、女性87.14歳であるのに対し、男性の健康寿命は72.14歳で平均寿命との差が8.84歳、女性の健康寿命は74.79歳で平均寿命との差が12.35歳もあるのです。平均寿命が延びていますが、健康寿命も長くしないと活力のある日常生活が送れない。ではどうしたら健康寿命をのばせるのか。やはり元気な方々は少しでも働きたい、働くことは経済的な面だけではなく、社会との接点を持ちたいとい、必要とされていることに喜びを感じる、また日々決まった生活のリズムで規則正しい生活が送れるという事を、シニアスタッフの方々はおっしゃっています。
生きがい就労導入の効果
  • 介護職員の業務の負担は少し軽減され、入居者に寄り添える時間が増えています。ここの介護職員の夜勤は21時から7時までで、早番は7時からなので時間がかぶりません。朝食の支度はユニットのシニアスタッフですが、ここで介護職員1人ではどうしても早く起きて来られた入居者の方の見守りに手が足りませんが、シニアスタッフが見守りも兼ねて早く起きて来られた入居者の方にお茶をお出ししています。お茶の好みの温度まで気配りをして、やって頂いています。介護職員も朝1人ではないという事で安心感があり、余った時間で入居者さんにゆったりと生活していただくよう動けますので、入居者さんのQOLが向上しました。
  • シニアスタッフは歩いて来られる近隣の方ばかりですので、交通費もお支払いしていません。近隣の方が多いため、住人同士が地域で支え合うための繋がりができました。地域住民が施設に関わることで、法人と地域の繋がりが保てております。また、閉ざされた施設ではなく、常に地域の目が行き届いていることで、虐待防止にも繋がっています。ティーサロンはほとんど地域の方々が利用されていますので、地域の高齢者の変化などの情報がタイムリーに寄せられ、地域包括ケアや介護支援事業所との連携が取りやすいという事もあります。
  • シニアスタッフとして働いていただく方には、職員としての教育、法人の運営理念や基本方針の説明なども行っています。ここでの主役は入居者であり、入居者を支えるのがスタッフです、ということ。また、接遇マナーや個人情報の取扱いとして、この中で知ったことはお家に帰って名前を出してご家族や近所の方に言うのはやめて下さい、ということ。高齢者の尊厳を支えるケアとして、基本的には「○○さん」と呼んでください、なれなれしく接しないでくださいということ。また認知症の方へのケアについて研修を行っております。

質疑応答・意見交換

生きがい就労の現場について
質問1
  • 特養について、現在の入居率の状況と入居者がどこから来られた方かお聞かせください。また生きがい就労のチームでの仕事や時間の調整について、チームの大きさやチームリーダーがいて差配されているのかお伺いしたい。
馬場氏
  • 特養は常に満床です。広域型でして、柏市内が約70名、市外が15名です。
    シニアスタッフのチームは、当初は10名でスタートしましたが、その後東京大学の秋山先生がセカンドライフの働き方というセミナーを立上げまして、その4回のセミナーの卒業生が20~30名面接に来られました。調理補助は4~5名で1チームです。リーダーは初めは特に決めていませんでしたが、徐々に自然とリーダーとなる方が出て来まして、それもずっと同じにならないよう交代でやって頂いています。定期的にシニアスタッフと介護職員、法人が出席する情報交換の場を設け、話し合いを行っています。シニアスタッフの体調が悪いなどの場合には、チームリーダーにまず連絡が行きます。絶対働く日:◎、もしかしたら働ける日:○、都合により:△、という様な形でチームリーダーがメンバーの勤務表を管理していますので、そこでリーダーに調整していただき、それでも無理な場合は職員で何とかするというように、シニアスタッフに無理はさせないようにまわしております。
質問2
  • 地域の方がスタッフですと、入居者と顔見知りの方もいらっしゃると思います。プライバシーについて気をつけている点や良い点をお聞かせください。
    また、園芸が野菜から花になった理由は何でしょうか。
馬場氏
  • 顔見知りの方もいらっしゃいます。困った点は、入居者さんが「あれを買ってきて」とシニアスタッフさんにお願いすることがあります。入居者さんのお小遣いは預り金という形で運営側で持っていまして、必要なものがあれば介護職員が買いに行きますが、シニアの方にはトラブルを避けるためにもお金は渡せませんので、入居者さんに買い物を頼まれたら職員に伝えてもらっています。良い点は、今までのお友達、知った顔の方がいるので、入居者さんが安心できるというところです。ここは「お住まい」ですので、近隣の情報が入ることは良い所だと思います。
  • 当初はきゅうり、なす、トマトの野菜を作っていました。菜園経験者のシニアスタッフがいらしたのでとても生育が良く沢山収穫できまして、ユニットの調理でお漬物やサラダにしたり、ティーサロンで安く販売したりしていました。ところが、隣の団地にお住まいの方から、「ホットスポット」であるのにそこで野菜を作ることには問題があるとのご意見をいただきました。そのため野菜はやめることにしました。
馬場氏
  • ではここで、3名のシルバースタッフをご紹介します。一番初めからいらっしゃる方と、セミナーの1期生でスタッフになった方々です。
シニアスタッフA氏
  • 食事補助を行っています。量や温度、大きさなどを調節して食事を提供(食事介助を除く)したり、食器を下げて洗っています。
馬場氏
  • ここでは入居者さんのお茶碗とお椀はそれぞれご自分の物を使っていますので、初めはそれが一番苦労したのではないでしょうか。裏に名前を貼ったり写真に撮ったりして対応していました。
シニアスタッフB氏
  • ティーサロンで週に1回11:30~2時まで出ています。毎日いらっしゃる方が何人かいらして、名前もコーヒーのお砂糖やミルクも覚えています。お砂糖はおひとつですねとお声掛けすると、喜んでいただけます。お天気によってお客さんの波があるのが悩みですが、いつも楽しく働いております。
馬場氏
  • 男性の方々が外に出ないという事があるため、ティーサロンを作りましたが、お陰様で近隣の男性グループが毎日の様に食事をとりにいらしています。サロンで女性グループとの交流も生まれています。またある女性のサロンを利用してらした方などは、ある時はデイサービス、ある時はショートステイと必要に応じて様々なサービスを利用したりしています。
シニアスタッフC氏
  • 現在75歳です、東大のセミナーを受けてからこちらに来て、8年目に入ったところです。非常に規則正しい生活をさせていただけまして、とても健康です。サラリーマン時代を思い出し、前の日に翌日の計画を頭で考えたりしながら朝を迎える日々を送っています。実際は働いているのは週2回ですが。園芸の仕事をしていますが、仲間も増え、今ではちょっと外に出るにも変な恰好は出来ないなという引き締まった思いがします。小学校の登校の見守りもはじめて3年になりますが、こちらの仕事がきっかけで始めた事です。お小遣いもいただきながら非常に楽しく仕事をさせていただいております。
シニアスタッフB氏
  • この年で働く場所があって、お小遣いもいただけるというのは、最高に素晴らしいことです。
馬場氏
  • 費用対効果について補足申しますと、朝と昼の食事補助を介護職員が行った場合、2時間で働いてくれる人はそういませんので4時間としますと、月に90万円以上プラスで経費が掛かります。シニアスタッフの採用は大変な効果です。
質問3
  • 介護保険からはシニアスタッフの補助は出るのでしょうか。
馬場氏
  • 介護保険からは出ません。処遇改善等も一切出ておりません。
質問4
  • こちら以外では、仕事はないものでしょうか。
シニアスタッフB氏
  • ボランティアはあり、他にやっていますが、有償はありません。
シニアスタッフC氏
  • 私は昨年の4月まで他の仕事も並行してやっておりました。技術屋なものですから、資格の保有などもありまして要望があり続けて参りましたが、責任と処遇などを考えた結果、こちらを優先する事にいたしました。今はここだけです。
シニアスタッフA氏
  • 私はこの仕事に就く前は、お直しなど縫物をやっていました。この仕事が始まるとき豊四季台団地の会長にお声掛けをいただき、縁あってはじめてもう7年が経ちました。ここに来たおかげで気持ちが明るくなりました。毎日の食べることですし。最近は若い方たちとお仕事できて、元気でいられて、とにかく楽しいんです。
質問5
  • 他の施設での生きがい就労の実施の可能性についてどのように考えますか。
馬場氏
  • 別の法人ですがグループで北区に特養を作った際に近隣の興味がある方を集めてセミナーを行っており、そこは自治会などはないのですが、今シニアスタッフが10名以上います。入居者より多い状態です。逆に、似たような採用を行ったけれど上手く行かなかったケースも見受けられますので、目的や役割を明確にする事が大切だと感じています。この施設ではスタッフお一人お1人に何ができるかをしっかり見定めてお仕事をお願いしています。今まで働いたことがないという女性の方でも、家でご飯を作っているのですからその道ではプロなわけです。また、働く方に無理をさせないことも大切です。
  • 一番苦労したところは、初めはシニアスタッフがタイムカードを押せなかったところです。必死で教えました。細かい所では沢山ありますが、一つづつクリアしていく事で介護職員の負担は確実に減るのです。この業界は離職率がとても高いのですが、お陰様でここの介護職員の離職率は10%以下で、その理由も結婚などであり仕事がきついと言うものではありませんでした。押さえ処さえ押さえれば、全国どこでも生きがい就労の実施は可能だと思います。生涯現役のシニアの方々の働く場所は沢山作れるのではないかと思います。当法人でも今後も新しい場所でも実施していきたいです。

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