街に、ルネッサンス UR都市機構

街みちネット 第11回見学・交流会 質疑応答・意見交換

これまでの活動の紹介

活動議事録

質疑応答

質問1
  • 高架下の利用にあたり、土地は京急電鉄がお持ちだと思うが、借りる時の交渉で苦労した点があったら教えてほしい。今、他の地域でも、連立事業で、鉄道が高架化して、その下の部分が駐輪場やコンテナの倉庫になっているところがあって、そうしたところをもっと有効活用するための補助の仕組みや切り口があれば教えていただきたい。
大堀氏
  • 苦労というか、京急電鉄にも若干の負い目があったと思っている。元々この高架下には違法風俗店があったが、阪神・淡路大震災をきっかけに耐震補強するからと、いかばかりかの移転補償金を積んで転出してもらったらその人たちが周囲に拡散してしまったということで、正面切っては言わないが、違法風俗営業拡大を加速させてしまった部分はあるのではないかと。今のご質問に対しては、ここの地区の特殊性が微妙な表現ですがいい形に働いたのかなと思っている。
  • もう一つは、設計は全部こちらで、地域の人と行政とがワークショップを開催してまとめたものを、京急電鉄に建設してもらうことになるので、不動産は全部京急電鉄のものである。それを家賃に割戻すので、開発費用を家賃にしたということで、実質的に京急電鉄の負担がない形で、とにかく高架下の耐震補強工事用の万能鋼板で囲われたところに風穴をあける。こういう場所で、変化を見せていかなければいけないという行政側の強い思いがあったので、副市長も含めて京急電鉄にお願いに行っている。それで、了承してもらい、それからは順調に進んできた。
  • 一番苦労したのは、工事費だった。アトリエ系の設計事務所によるデザイン的に凝ったもので、なおかつ、高架下ということで、施工に細かい条件が付いたり、資材の搬入などで難工事になり、想定していた倍以上のお金がかかった。10年間の定期借地契約というのは、開発費用を全部10で割ってお金を払っているということになる。工事をする際の色々な雑務に一番苦労したと思っている。
  • ちなみに、この事業をJR東日本が見にきて、御徒町のプロジェクトにつながっている。 あちらは、デザイン性はあまり重視せずに、キューブを置いているだけなので成功しているのかなと思う。ここは、ある程度の変化も見せなければいけないということで、デザイン性が高いものを手がけた分、そういう負担が残ってしまったということがあると思う。
質問2
  • (高架下の利用は)10年という契約だが、その後はどうなるのか。
大堀氏
  • 契約書上は、横浜市が使わない場合は撤去してお返しすることになっているが、ここのまちに対して、治安なり、賑わいをつくる要素になって、いい投資だったと京急電鉄に思っていただければ、建物的には耐用年数は十分に残っていると思うので、そこでの話かなと思っている。
質問3
  • 谷口さんにお伺いしたいが、違法風俗店を撤廃して、きれいで安心できるまちになれば、別にアートでなくもよくて、という部分があったのではないかと思うが、どうか。逆に、横浜市さんのほうが、補助金を入れたりするのにあたって、アートが一つのきっかけになったのではと思う。地元の方の率直な意見として、アートとはまた違ったビジネスのようなものができてほしいという希望はあるのか。
谷口氏
  • 10年前にスタートした時点では、ノウハウも、考えも、ほとんどなかった。とにかく街が安全になってくれることが一番いいと。ただそれだけだったが、それが一番の難問だった。
  • 県警の協力によってある程度店は閉まったけれども、今度は誰も通らないまちになってしまって、黄金スタジオの前は、郵便配達と新聞配達、あとは猫しか通らない道なので、せめて人が少しでも通ってくれるような道になるようなしつらえを設計の方にお願いした。それで、人が通らないほうに向かって窓口をあけるような開放感がある建物にしてもらったが、私たちには、どうしようという案はほぼゼロだった。創造都市事業本部がアートによる手法を提案してくれたのでそれでお願いした。
  • ただ、最初、黄金町バザールを開催するときに、この地域の人たちからそっぽを向かれないように、親しみやすいような、滞留型、参加型のアーティストを必ず入れてほしいとお願いした。あとは、来た人が休める場所がないと、留まっていただけないと考え、飲食店もつくってほしいと言ってきた。
  • 最初の段階は暗中模索で、市も、地域も、やってみなければわからないという感じだったが、それなりの評価を受けながら、参加者も徐々に増え、クオリティも上がってきて、方向としてはよかったかなと思っている。経済活動が始まらないと、この地域としては何にもならないということで、物販、飲食等も入ってもらうような提案をしてきた。
質問4
  • 一つは、アーティストの方はどういうつながりで、ここのまちに住んでみようとか、制作活動をやってみようかなと思われるのか。口コミとか、ネットでも見られる方とか、あと、トリエンナーレが結構評価が広まったきっかけになったのではないかということだが、どうか。
  • あと、美化活動などの取組みをされていると伺ったが、それについて教えていただきたい。
山野氏
  • アーティスト・イン・レジデンスは、今、世界的に増えており、日本でもかなりのところが取り組んでいる。その理由の一つとして、文化庁が最大500万円で5年間の補助金を付けるという制度を始めたことがある。
  • また、アジア圏が、アーティスト・イン・レジデンスにかなり力を入れていて、例えば台湾にはかなりの数がある。最近は韓国が始めた。それ以外の国でも、例えばタイがそうだが、お金を取って運営している。例えばタイのチェンマイにアーティスト・イン・レジデンスの施設があるが、1ヶ月間滞在して、3食付いて、空港への送り迎え付きで、日本円で7万円ぐらいと、滞在費が大変安い。そういう形で、ある意味で世界的な傾向として増えつつある。
  • アーティストというのは環境を変えて作品の制作をするというタイプの人が結構いて、そういう場所に行くと、色々刺激し合うとか、新しい情報が得られるという交流の機会もあるので、そういうものを求めてアーティスト・イン・レジデンスという事業が行われていると思う。
  • 昔のアーティストのスタイルは、どこかに定住して、アトリエを構えて、作品をつくって、どこかで発表するというものだったが、今は、ここが典型的だが、展示する場所とつくる場所が一緒で、終わったら、全部壊してなくなってしまうものもある。それがまちの雰囲気をつくり、四季の変化もあるし、人の流れを呼び込むような役割を果たしていると思う。
  • 美化については、今でも不法投棄がしばしばある。一時、トラックで捨てに来る人たちもいて、大変な時期があった。当初はいろいろと工夫して、植栽を置いたり、大体は夜に捨てに来るので、一晩中アニメーションの映像作品を流したりしていた。
  • それに加えて、地域の皆さんで毎月1回お掃除をされる、ハマロードサポーターという活動があって、今この活動がどんどん広がっている。もともと初黄町内で盛んに行われていたが、それが徐々に広がって、今度は川向こうの末吉町や長者町のエリアも汚いところが多かったのだが、そういうところの方がこちらの活動を見て、見習って一緒に活動されるようになって、ひところに比べるときれいなまちになった。これを継続的にされている。
  • 個人的にこつこつと掃除をされている方もいらっしゃる。それと、我々自身としては、黄金町バザールのときに、案内をしたり、作品のチェックをするアルバイトをたくさん雇うので、そういう人たちにゴミ袋とトングを持ってゴミ拾いをしていただいている。
  • ただ、犬の糞とか、そういうマナーはまだまだ悪い。まだそういう面もある。
谷口氏
  • 以前は川沿いの植栽帯が不法投棄の場所になっていて、月に1~2回清掃はしていたが改善しなかった。桜の木がだめになったこともあり、植栽帯を全部切って、道路をつくり直して、川を見れるような形にしようというような提案をしてきた。実現できたのは、この辺全体の環境をよくした結果だと思う。周りの環境を変えればゴミは捨てにくくなる、一番象徴的な方法かなと私は思っている。

ウェストウェイの事例紹介

事務局
  • まちづくりの組織が経済的に自立する事例として、高架下つながりで、イギリスのウェストウェイの事例を紹介する。こちらは高速道路の高架下で、規模もかなり大きく、歴史も40年以上ある。
  • 高架下の土地を自治体から長期借地して、そこにスポーツ・レクリエーション施設、公益施設等々をつくって、それを運営することで、その賃料収入等で財政的自立を果たしているという組織である。
  • スポーツ施設があったり、ジャンクションの内側のループの中にテニスコートがあったり、イギリスなので乗馬施設があったり、いろいろな施設が運営されている。また、軽工業ユニット、事務所ユニットといって、床を貸して賃料を得ている施設もある。あと、スポーツジムや店舗などもある。社会福祉的なものでは、保育所や公園なども整備されている。高架下約1.4kmという長い延長の中でいろいろな施設が整備されている。
  • 財政状況(2011年度)は、資産全体が日本円で約37億円あり、そこから、700万ポンド、日本円にして9億円くらいの収入を得ている。支出については、スポーツ施設の運営なども含めてではあるが、9割近くを慈善目的、社会的目的に使っている。
  • このウェストウェイのまちづくり事業は、イギリスでもかなり先進的な組織である。
NPO玉川まちづくりハウス:林氏
  • 高架下の活用について、京急電鉄だけではなく、御徒町などでも関心が出ており、日本もロンドンと似てきたのかなとか、のんきなことを考えていた。
  • ウェストウェイの事例は、西山康雄さんと八重子さんの詳しい調査が「イギリスのガバナンス型まちづくり」にまとめられている。その中で、サッチャー、メージャー、ブレアの三つの政権で、都市再生やまちづくりの体制がどのように変わったかということが説明されているが、一つ注目すべき点がある。それは、特に三番目のブレア政権の時代に、政府とその他のセクターとの間にあるパートナーシップである。これは日本で言う曖昧なパートナーシップとは違い、政策的に、きちんとしたお互いの対等な契約関係をベースにしたパートナーシップである。自治体なり政府が仕切るのではなく、民間企業、自治体、地域諸組織と並び、ボランタリー・セクターという、日本で言うとNPOと市民セクターのような組織がお互いにそれぞれの特長を生かして、パブリックなプロジェクトなりプランの中で、提案もできるし、パートナーシップの約束の中で競争的に仕組みを構築していけるという関係がある。日本はいつまでも行政が仕切るという考えが抜けきらない。黄金町の場合は、横浜市が長年の経験で上手に運営しておられるが、なかなかそういう形にはならない構造が日本の中にはたくさんある。
  • 東北の震災復興の中で一番欠けているのは、このパートナーシップだと思う。陸前高田などは自治体が崩壊しているが、日本の政府の仕組みでは、復興事業は全部行政の流れの中で一つずつ進めないといけない。しかし実態は、その手続をしていくときに、陸前高田は、庁舎をほとんど喪失しただけではなく、職員は自分の家族すら非常に大変な事態に陥っているところに、今まで経験したことがない事務をたくさんこなさなければいけなくて、大きな負荷がかかる。現場ではそういうほとんど成し遂げられないような話がいくらでもある。
  • そうすると、その他のセクターのパワーが外から来たとしても、職員は、行政的な意味で自分たちが行うべき仕事としての位置づけがないから、きちんと受けとめることができない。それで、地元の人たちが一生懸命に自分たちでプランを立てて先へ進もうとしても、行政のところで止まってしまうことになる。
  • 今、安倍政権は、やたらと予算を増やしてこれで前へ進めるとのんきなことを言っている。彼らも全くそれに気がついていないわけではないと思うが、そこをパートナーシップの関係の中で説いていくことを考えているわけではない。
  • イギリスは、サッチャー政権時代は、都市の衰退が激しく、自治体では何もできないという状態は同じで、それを何とか動かそうと、トップダウンで民間と取引しようとしたけれども、それも、そろばんに合わないところはうまくいかない。メージャー政権は、地方自治体を中心にして、動かそうとしたけれども、それもうまくいかないというので、ブレア政権はまた違った形で、それぞれの主体ができるだけ力を発揮できるように考えた。
  • 日本でもそのことが、東北の復興には特に必要になっているが、そのことはほとんど議論されていない。自治体などは、職員を数ヶ月とか1年くらい送り込んでも、自治体の被害状況にもよるが、それだけで何とかできるくらいの軽傷な状態ではない。
  • ということで、制度的なことも深く考えていく必要がある。自治体が少しずつ実験をし、地元が一生懸命にいろいろな形で活動しているこういう地域の中に、本当の芽がきちんと見えていると思う。それをもっと一般的に展開するにはどうしたらいいかということは、まだ課題が残っている。

まとめ

事務局
  • 大変興味深い取り組みだった。私自身は、「日経アーキテクチュア」で、山野さんがおっしゃっていた「今の状態は警察の存在を前提にしたフィクションである。バザールによって、その先の理想像を見せて、それに現実を追いつかせようとしている。」という言葉が印象的で、それが現在取り組まれている姿であり、今、理想に向かって動いている途中なのかなと理解して、今日は、そういう取組みを実感できた。
  • 密集市街地の整備に直接つながるものではないかもしれないが、こういう、各主体の協働が、まちの姿を変えていくきっかけになっているということは勉強になった。

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