街に、ルネッサンス UR都市機構

街みちネット 第1回見学・交流会 質疑応答・意見交換

これまでの活動の紹介

活動議事録

意見交換会
<テーマ1>密集市街地整備について
共同建替え+コーポラティブ方式の紹介

NPO都市住宅とまちづくり研究所:杉山氏
建替えや地域の課題に関する相談
  • 事業に取り組む経緯は、権利者から何らかの形で相談を受けるか、上十条三丁目のように行政からの取り組み依頼を受けることなどがきっかけとなる。
地権者のニーズは何か
  • 地権者のニーズは快適な住まい、土地の有効活用、負債の整理、借地関係の整理などである。上十条の場合は借地だったため、借地と底地の関係の整理があった。 またヒアリングの中では、マンションに住んだことがないので不安、高齢で引越しが大変、資金が出せないなどの意見も聞かれたが、 そういった問題を解決して快適な住まいを手に入れたいというニーズもあった。
事業手法を絞って事業計画をつくる
  • この事業の進め方として等価交換、自分達で資金調達をして建替え賃貸資産を持つ、あるいは処分してしまうなど様々な方法があったが、 共同建替えとコーポラティブ方式を組み合わせる手法を提案し、承認を得た。
  • 密集住宅市街地整備促進事業(補助事業)を適用している。
  • 事業費に関して特徴的だったのは、取得金額が、新規参加者に比べ地権者の方がある程度優遇されていることである。 象地域設計の考え方で、土地代の評価を上げるなどのテクニックを使わずに事業費を算定した。 事業を進める上で参加者の出資金額のベースが違うのはとしまち研としては初めてだったが、参加条件として予めよく説明すれば問題ないと感じた。
  • 事業の枠組みは、地権者は土地に関する権利、新規参加者は現金を組合に出資し、出資された土地と資金で建物を建設する。 地権者は増床による現金の追加出資や一部売却などの調整を行う。通常のコーポラティブ方式では地権者は土地を処分するだけで事業に参加しないので、 組合が土地を購入して事業を進めるが、上十条の場合は地権者参加型なので、地権者が混在する形となった。
地権者に事業計画を提案する/地権者とコーディネーター&設計者で合意書を取り交わす
  • 事業の枠組みができたら地権者に事業計画として提案する。地権者の土地の評価額、住宅取得の費用、 税金などの当該地権者自体の収支についても詳しく説明を行う。 合意が得られれば、地権者、コーディネーター・設計者など事業を組み立ててきたメンバー間で合意書を取り交わす。
コーポラティブハウス事業の参加者を募集する
  • 次に参加者の募集を行う。地権者がその事業を進めるという前提の上で、募集の主体は地権者の集団とし、合意書に基づきコーディネーターが募集代行を行う。
  • 募集の媒体として、チラシの新聞折込み、チラシのポスティング、ポスターの掲出、ホームページ掲載、現地看板、会員組織、口コミなどで広告宣伝活動を行ったが、 一番確実で効果があったのは地権者や既参加申込者からの口コミであった。近所づきあいがあり信頼できるということで、説明会に参加していなくても口コミで事業への参加を決めた人もいた。
  • 15名の募集のうち、組合設立までに地元在住の方を中心に13名が決まり、組合設立1ヶ月後には新規入居者が全員決まった。
  • 募集活動の中では説明会を開催し、かつ、個人相談会を行うため、参加希望者の人柄や資金的な裏付けが確認できる。
建設組合をつくる
  • 住んだり、所有しようという意思のある人々が、一緒に建物をつくる目的で、土地に関する権利や建設資金を出資することを約束すると、 「民法上の組合」である建設組合が成立する。民法上の組合については、民法667条~688条に定められている。
  • 事業リスクは組合員全員が負う。リスクを回避するために有限責任事業組合(LLP)などの制度も新設されているが、 私は、組合で組合員がリスクを負うのは理にかなった方法であると思っている。
  • 建設組合には総会と理事会を設ける。総会は組合員全員で構成する最高意思決定機関となる。
組合員主体の建設組合運営
  • 組合業務は、土地の確保、建物の建設が基本となる。コーディネーターが事業の基本的な組み立てを行い、サポートするが、 組合員の総意により組合業務を進めていくことが大切である。管理規約や使用細則をつくる、管理仕様や管理会社を選定する、など将来の管理組合運営に備える。
建築設計を行う
  • 設計は共用部分についても組合員の意見や希望を聞いて進める。植栽や外壁の色などについても組合で検討する。
施工する
  • まずは地鎮祭を行う。これも大切なイベントである。また施工の途中段階でも、工事の進捗状況を直接確認したり、 スイッチなどの位置を確認するため、組合員の現場見学を2~3回行う。
共同建替え+コーポラティブ方式の意義
  • 今回の事業による密集市街地の改善項目としては、老朽木造建物の除却、道路の拡幅、借地関係の解消などの大きく3つの成果があった。
  • 共同建替え+コーポラティブ方式の意義は、コミュニティの維持・発展の基礎と仕掛けをつくることである。 具体的には、まず、地権者の住みつづけたい・商売をつづけたいニーズに応えることができる。また、定住人口の増加や多世代・多様な家族構成のための住宅供給を行うことができる。管理規約では、賃借人などを「準組合員」として管理組合に参加してもらい、自治会的要素をもった管理組合活動を行うことにしている。 また、新しい住民が地権者を通してスムーズに地域社会の一員なることができる。

「密集事業の課題」

象地域設計:三浦氏
東京都の密集市街地の状況を把握しよう
  • 密集市街地は山手線外側及び環状七号線周辺に多く存在する。
  • 低、中容積の地域が多く開発のポテンシャルは高くないが、実際には都心に近く利便性の高い地域も多い。 十条も埼京線が新宿、渋谷と南進するにつれて利便性が向上した。
密集地域の住環境悪化の要因と改善の阻害要因
  • 宅地が狭い。地主がまとまった面積を所有していても土地の相続が発生するとミニ開発が行われることもある。
  • 接道条件が悪い。その結果、建替えができずに建物の老朽化が進む。
  • 古い基準での建設・増改築により耐震・耐火性能が低下している。
  • 若者が流出し人口減少、高齢化が進む。その結果、地域商業の衰退、地域コミュニティ活力の低下が起こる。
  • 借地・借家の権利関係が複雑で権利調整が困難である。
  • 密集市街地にはいろいろな問題があるが、それぞれの要因が連鎖して住宅更新のさまたげになり、建て詰まり・高密化・老朽化が進んでいる。
各課題を抽出し、事業スキームをエスキスする
  • 事業においては住民の個別要求と地区整備課題がある。個別要求はまちづくりに関係ないように見えても、 まちを形成しているものは住まいであり生活であるため、 個別要求を第一に考えないとまちは変わらない。個別要求に応えることを重視する「生活改善型のまちづくり」を行う必要がある。 個別要求をどれだけ引き出せるかが事業を進める鍵になる。
  • 今回の事業では密集地域の課題・共同化の課題があるところにコーポラティブ方式を重ね合わせた。これまでのコーポラティブハウスでは土地探し、参加者探し、資金で苦労した。共同化と組み合わせると、土地があり、生活を改善しようという意思のある地権者が参加者の核になり、新規参加者は資金を持って入ってくる。 共同化+コーポラティブ方式はこれまでのコーポラティブハウスの問題であった土地・人・資金を解決できる相性の良い組み合わせであり、 容積率に頼らない・住民の主体性や意欲を引き出す・生活圏の利便性を重視することができる手法である。
その他
  • 読売ウィークリーに掲載された記事の「デベロッパーが分譲するマンションより3割程度、全体の費用を少なくできる」という部分は間違い。 分譲価の3割程度にあたる経費を、募集に絞ることで減らし、全体の費用を少なくするという意味合いで、実際に下がるのは10~15%程度である。 また、内装などでオプションを付けると高くなるが、入居者にとっては「自分達の生活に合ったものを相応の対価を払って取得している」ことで あり納得して負担してもらうことができる。費用を負担するということは参加者の主体性を引き出す上でも重要である。
密集事業の課題

質疑応答

質疑
  • 事業期間が長いが、入居者を含む関係者のモチベーションはどのように維持したのか。
象地域設計:江國氏
  • 2002年6月から行った学習会は、当初1年を予定していたが2年くらいかかった。その後の検討会を含めると合意形成までに約3年を要した。 会合に出席しない権利者は個別に訪問し、それぞれが抱える悩みを解決するような提案を行い集合住宅のマイナスイメージを払拭することで合意形成に至った。 合意の時期はそれぞれ違ったが全体の足並みが揃わないと実現はできない。そこに約3年かかった。
象地域設計:三浦氏
  • 権利者に関しては、最初のモチベーションを維持するというよりも実現に向けて節目ごとに段階的にモチベーションが上るようリードするし、 実際に実現の確度が上がるにつれてモチベーションが上がる。むしろ、行政・専門家が最初の段階から高いモチベーションを持って頑張れるかの方が重要かと思う。
質疑
  • 2002年6月の段階で「共同建替え懇談会」が開催されているが、当初から共同建替えを前提としていたのか。
象地域設計:江國氏
  • 共同建替えというより、共同の土地利用を行うことで住環境を向上させるねらいだった。 その前の年から2番地から8番地で一軒ずつ面談を行い、共同化への意向が比較的多く見られたのが5、7、8番地だった。
質疑
  • 共同化への意識ができつつある地区で懇談会を開催したということか。
象地域設計:江國氏
  • 意識ができつつあった訳ではないが、5、7、8番地は単独建替えが難しく、道路の拡幅という課題もあったため、 土地の共同利用を提案したところ関心を示す権利者が比較的多かった。他の地区は単独建替えが可能で、共同化への関心を示す権利者はいなかった。 費用面では初動期に東京都防災・建築まちづくりセンターの専門家派遣制度を利用した。
質疑
  • コーポラティブ方式では通常の分譲マンションに比べて販売費用がかからない分全体のコストが抑えられるということだが、 他にコーポラティブ方式を使うことでコストを下げられることがあるか。
NPO都市住宅とまちづくり研究所:杉山氏
  • デベロッパーによる事業の場合、3割程度の経費や利益を見込み事業リスクの対価とする。 コーポラティブ方式では参加者が事業リスクを負うシステムであるため、設計料やコーディネートフィーを差し引いても15~20%くらいデベロッパーより安くなる。 ただし建築費自体は、デベロッパーの方が画一的なものを作るため安くなるが、トータルでもコーポラティブの方が10~15%ほど安くなる。 土地の値段ありきではなく、対象地区でどれぐらいの値段なら参加してもらえるか考える。要は儲ける主体がいないということ。
質疑
  • 共同化の合意を得た後でコーポラティブという手法を決めているが、 空きが出るリスクがあるにもかかわらずどうやってコーポラティブ方式を決めたのか。
象地域設計:江國氏
  • 経費を積み上げ、坪単価が実費で約150万という試算を行った。デベロッパーへの打診もしたが、 販売費用等25~30%を上乗せすると坪単価が180~190万になり、上十条の市況から言うと高価であるため、比較的コストのかからない募集に踏み切った。 権利者からは売れ残ったらどうするのかという質問はあったが、コーディネーター側の事業の組み方や、 近くで既に募集を行っていた飛鳥山の状況を勘案しても見通しはあったため、権利者にリスクを説明した上で発案した。 最悪の事態として1~2戸残った場合、地主さんに引き取ってもらうことなども検討した。
NPO都市住宅とまちづくり研究所:杉山氏
  • 参加者の責任で行う事業とはいえ空きが出てしまっても実際には負担を負わせるわけにはいかない。 いつも、空きが出たら自分が引っ越しをしてでも埋めるというくらいの気持ちで携わっている。
質疑
  • 北区からの補助の総額、内訳、事業費に対する割合は。
象地域設計:江國氏
  • 補助金の割合については、標準設計で申請し自由設計を行ったので一概に言えないが、標準設計の金額に対して8~9%くらいであった。 これまで私達が経験してきた共同化の補助事業(都心共同住宅供給事業、優良建築物等整備事業等)では15%程度だった。 今回は北区から密集事業の補助を使うよう要請があった。
質疑
  • 借家人対応はどのように行ったのか。
象地域設計:江國氏
  • 50歳以上の借家人(3名)に対して転居先として北区から近隣の都営住宅をあっせんしてもらうことができた。
質疑
  • 外部委託を含めた事業の体制は。
象地域設計:江國氏
  • 象地域設計が6年ほど前から地元に入り権利者の合意形成や事業方式の検討などを行っていた。事前募集を検討した際にとしまち研に打診をし、募集からは協働でコーディネートを行った。
質疑
  • 民法上の組合で事業を行うメリットは。
NPO都市住宅とまちづくり研究所:杉山氏
  • 共同出資で住宅を建設する場合に解散した時の組合財産の分割がしやすいこと、精神的にも共同の意識が生まれることである。
質疑
  • 権利者の仮移転先はどのように用意したのか。特に高齢者の場合どのような配慮をしたのか。
象地域設計:江國氏
  • 今回は第一期の4件の権利者の約1年間の仮移転先が必要となった。概ね移転の3か月くらい前から探せば従前住宅と同条件の物件に入居できる。 権利者自身が自分で探すことが原則で我々がサポートを行った。マンション形式の物件を借りた人もいた。 北区の密集事業の「仮設住宅等設置費用」で仮移転費用の半額程度の補助を受けることができた。 高齢者は仮移転に抵抗がある人もいたが、事業のメリットが大きいため納得してもらった。 高齢者が多い地区なので、高齢者向けの移転先が比較的見つけやすかった。

テーマ2>街みちネットについて

  • 入居者の話が聞けてよかった。品川区でも共同化事業をこれから行う地区があり、としまち研などに協力を依頼している。 事業に生かせるノウハウを期待したい。(行政)
  • 共同化の勉強会を行っていると高齢者に関心を持ってもらうのが難しいと感じる。 三浦さんの個別の要望を引き出すことが大事という話はためになった。具体の事例でのエピソードを積み重ねていくことが大事だと思う。 補助金の中で仮設住居設置費用を仮移転費用に充てるという話があったが、 付き合いのある行政では費目の活用は情報としては伝わっていてもうまく使えないということがあった。行政なりの悩みがあると思うので、 こういう場で議論していくとよいのではないかと思う。(民間コンサルタント)

<総括>閉会の挨拶

玉川まちづくりハウス:林氏
  • 今日は興味深い事例を見せてもらった。
  • 街みちネットでHP、SNSなどを活用すれば、現場での課題について情報の共有や意見交換がリアルタイムでできるので実施したらどうか。 既存の会員向け情報サービスを利用すると、個人の属性や得意分野を登録することで情報のネットワークができる。 30歳未満のネットワーク「U-30」もまた違う情報交換ができると思うので実施してほしい。

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