街に、ルネッサンス UR都市機構

全国団地景観サミット2011 審査の風景

審査の風景 トップ

例えば、見る人が笑顔になれる、家族との絆を思い出せる。
そんな笑顔のある暮らしや、緑豊かな環境、季節感あふれる風景…。
団地ならではの魅力を、応募者それぞれの視点から、写真やスケッチに表現することで、団地に住まう人だけでなく、地域に暮らす人やいままで団地に注目してこなかった人にも、団地が持つ地域の財産としての価値を広く伝えることができます。「団地景観フォト&スケッチコンテスト2011」では、そんなコンテストの趣旨に沿い、写真や絵画の技術を評価するだけではなく、「ふれあい」「団地景観」「四季」というそれぞれの視点から、作品と作品に添えられたメッセージ、タイトルについて総合的に審査を行いました。
各部門の受賞作品の魅力、審査員の皆さんが評価したポイントなどを、審査後に行われた講評座談会でのコメントから探ります。

コメント

フォトコンテスト
大賞

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「手伝いたいの」
千葉 学
小さいころ団地が近くにあり、友だちがたくさん住んでいたこともあって、よく遊びに行っていた思い出があります。そんな経験があったからか、審査をさせていただく中でも、団地だからこそ起きている出来事や、団地だからこその視点、コミュニケーションなどに強くひかれて作品を選びました。
私自身、建築に携わるなかで周囲から言われ続けてきたことでもあるのですが、団地の外に住む人たちの中には、画一的だとか、コミュニケーションがないとか、団地を決まりきったイメージでとらえている人が多いと思います。ところが実際はそうではなくて、団地では実に豊な生活が日々営まれている。考えてみれば、当たり前のことですが。この作品は、団地の清掃や、そこで働くおじさんとの交流を通じて、自分たちが住んでいるまちに関わっていくという感覚を子どもなりに感じているということが、よく伝わってくる写真でとてもいいと思います。
さかた しげゆき
確かに、人と人のつながりを感じさせる作品が多い中でも、大人と子どものつながりをよく見せてくれている作品ですね。後ろ姿で撮っているところもいい感じですし、お手伝いをしている様子にちょっとほっこりします。色味としても、芝生がきれいですし、全体的にすごくいい仕上がりになっているのではないでしょうか。
松田 妙子
今、子どもたちが家族以外の大人に関わることはすごく少なくなっていますが、この作品のように街の中で見守ってくれたり、「だめ」と言わずに手伝いをさせてくれる大人がいるのはいいことだと思います。タイトルは「手伝いたいの」ですが、この子たちは遊びでやっている。都会の遊び方の特徴ですよね。こんなことまで楽しんでしまう子どものパワーが感じられる作品だと思います。
本城 直季
私にも共感できる写真です。実際、小さなころに親に内緒で知らない人を手伝ったり、一緒に掃除をしたこともありましたし…。最近は、団地以外ではこういうコミュニケーションは生まれないのかもしれません。こんな空間のある団地がうらやましいように思います。一枚の写真に物語があって、おじさんの、手伝ってほしいような、ほしくないような感じも表現されていて面白いと思います。
池邊 このみ
維持管理の取り組みがコミュニティに根付いている様子に光が当たったのは、4年目にしてはじめてのことで、2作品もあり、うれしいことです。子どもよりも少し大きいほどのパンパンに膨らんだ落ち葉の袋、後ろに見える白い住棟、手前の緑の広がりなど、団地らしい光景だと思います。揃えたように皆がブルーの服を着ているというのも、絵全体の色彩的にも効果的でした。
審査風景
千葉 学 氏
松田 妙子 氏

スケッチコンテスト
大賞

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「冬の朝」
千葉 学
何というか、本当に独特な雰囲気を持った作品ですね。見方によっては、どこにもないような風景にも見えるし、意外に馴染みのある風景にも見える。団地には、そういう印象があったとことも思い出させてくれました。
見る人によっては、団地がとてつもなく大きなよくわからないものだったり、自分の生活を投影できる場だったり、どこか遠い世界のようでもあったりという、不思議な雰囲気が表現されていると思います。一つひとつのモチーフが極端にダイナミックに描かれていたり、デフォルメされていたりする一方で、生活のシーンには妙に臨場感が溢れていて、団地が持っているたくさんのイメージが一枚の絵に凝縮されている感じがしました。
さかた しげゆき
子どもの絵の持つすごみと同じようなものを、年を重ねた人が持っていることに気づかされました。ダイナミックな描写の中にそこで生活してきた経験を投影することで、高齢であればあるほど不思議な感じを出せるのかなとも思います。この作品も、実際に真ん中に富士山が見えるのかどうかわかりませんが、その構図にまずひき込まれます。細かく描かれているごみ収集をしている人との落差もとても面白い。電線などは、ものすごく細く描いているのに、車が単純化されていたり、色が少しくすんでいる感じなのに妙に明るかったりと、見ていて楽しめる絵でした。
松田 妙子
暮らしの場所を描いた作品だと思います。団地ならではの暮らしが見えますね。清掃車の描写にも、街の息づかいというか、街が生きている感じがあって面白かったです。奥に富士山が見えるのもいいですね。ちょっとうらやましく思いました。
本城 直季
この一枚から朝の物語が始まって、ここから変わっていく予感がする。そんな、絵本の中の一枚の絵のように思えました。人々の暮らしが始まっていく、団地が動いていく、一日が始まることが想像できる作品だと思います。
池邊 このみ
団地をつくる時のランドスケープ手法として「山あて」といってアイストップに山をあてるものがあります。この作品にもそんな団地らしい景観が描かれていて好感が持てました。メッセージにも、少女と清掃業者のやりとりがあって、ごみを持っていく女の子の描写に、このまま素直に育ってほしいなという作者の希望が込められています。この団地の中で育っていく子どもたちへの想いが表現されている良い作品だと思います。
審査風景
さかた しげゆき 氏
審査風景

フォトコンテスト
最優秀賞

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「黎明」
本城 直季
純粋に色がきれいですよね。メッセージに朝焼けとありますけど、この作者は夕焼けのシーンと夜のシーンも応募されていて、本当に早朝に撮っているのだなということがわかります。街はまだ寝静まっていて真っ暗で、この団地だけが浮き立っている。何もないところに建っているように見えるけど、実は、街の一部になっている。すごく面白い作品だと思いました。
池邊 このみ
「黎明」という、最近では使わない美しい時間を表したタイトルがいいですね。峠から見える団地の美しさを宝物のように大事にしている様子が、朝と夜の両方に撮影していることからもわかりますし、シルエットの美しさも団地の一つの魅力、遠景の団地の景観の重要さが実感できる作品だと思います。
池邊 このみ 氏

スケッチコンテスト
最優秀賞

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「みどりあふれる我が団地」
池邊 このみ
作者はこの作品に描かれている団地に転居してきた方で、郊外に移ってきて健康になったとのことです。自分が健康になったことの幸せ感が、実際以上に花にあふれた空間と多彩な色彩で描かれています。花に囲まれた理想郷といいますか、本当にこんな素敵な団地に住み続けたいという作者の思いが感じられる作品だと思います。
さかた しげゆき
非常に描き慣れた方の作品ですよね。テクニックがしっかりしていますし、色味、特に緑がきれいだと素直に感じました。こういうところに住みたいと思わせてくれますし、背景にすべり台が細かに描かれていることで、こういう緑に囲まれている公園などがあると楽しいなと思わせてくれる。純粋に団地の魅力が伝わってきますし、それがテクニックに裏打ちされていて、文句なしという気がします。

フォトコンテスト
優秀賞

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「金木犀」
本城 直季
主題である花と作品に添えられたメッセージ、その両方から作者の想いが伝わってくる作品だと思います。金木犀の色を鮮やかに描写することで、そんな想いがいっそう強く見えてくるのではないでしょうか。
さかた しげゆき
すごくきれいで、単純に目をひかれましたし、孫が2歳の時の金木犀の下での思い出、そして、その孫がもう25歳だという時の流れを感じられるメッセージを読んで、さらに引き込まれました。
本城 直季 氏
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「バレンタイン雪景色」
千葉 学
人が一切写っていない作品で、主役は足跡や車の通った跡なのですが、団地で日々繰り広げられている生活や、団地に住んでいることの楽しさ、そこに流れている時間が凝縮されている感じがして感動しました。
例えば娘さんが学校に行く時の後ろ姿をお母さんはいつもここから見ていたのかなとか、逆に娘さんはいつも出がけにふと自分の家の方を振り返っていたりしたのかな、といった家族同士の温かい日常の見守りの風景が、この写真のアングルだけからでも伝わってきます。それに4階ぐらいの団地らしい高さから見ていると、雪の風景が地上の絵のように見えたりする、そういう感覚があるからこそ捉えられた光景だという気がします。
高校生ぐらいの娘さんが、日頃素直に言えない「ありがとう」という気持ちを込めて「スキ」と書いたのかなとか、そういう、団地だからこそできるコミュニケーションが見る人に伝わってきますし、写真としても、画面中央の空白になっているところに足跡だけがあって、娘さんの動きが残像として残っている点も、印象的だと思います。
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「団地の盛春(せいしゅん)」
松田 妙子
本当に、時を止めたように見える作品だと思います。瞬間を切り取った音もない世界のように見える。色もきれいだと思います。咲いている花と葉が両方見られるのも素敵ですし、背景の団地も、おしゃれな感じがして面白かったです。
本城 直季
春の感じをすごくきれいに捉えていますし、普通は木のアップなどで表現しがちな季節感を、団地も含めた全体で表現できていると思います。撮影した日は寒くて人が集まらなかったのかもしれませんが、もしかしたらこれから花見が始まるのかもしれない。そういうことが想像できる一枚だと思います。
審査風景

スケッチコンテスト
優秀賞

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「楽しや、今年も団地の盆踊り」
さかた しげゆき
夏まつりの絵ですが、踊っている人が妙にリアルだったり、ちょうちんに書いてある文字も、普通はここまで書かないだろうというくらい細かいところまで描いているのがいいですよね。後ろにうっすらと見える群衆もよく見ると詳細に描かれていて、根気よく描いていらっしゃる感じが好印象でした。
「子ども広場は楽しいな」
さかた しげゆき
作者の年齢を見て、一番びっくりしたのがこの絵です。79歳の方が描いたとは思えないほどポップな色づかいで本当に驚きました。子どもの動きの一つひとつがすごく不思議で面白くて、しかも活気が伝わってきて、見ているだけでほっこりするような感じの絵になっています。壁に描いてあるライオンの絵も、人の絵とマッチしていて好印象でした。
審査風景
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「老いも若きも」
本城 直季
団地の街を舞台に、今から生活が始まるという躍動感がすごく出ていると思いました。手前のおじいちゃんやおばあちゃんにも、団地に向かって行くという力強さのようなものがあって好感が持てます。一人ひとりの動きがはっきりしていて、そこで生活していることがよくわかる作品だと思います。
手前にガードレールがあることで、見ている人はまだ中に入っていないけれど、これから絵の中に入っていく。そんな感覚にさせてくれる作品だと思います。躍動感があって引き込まれますよね。

キッズ・ジュニア賞
5作品

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「団地と川と船」
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「夕ばえの空」
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「ぼくのおきにいり」
松田 妙子
写真も、スケッチも、どれも迫力があって、選ぶのに少々悩みました。上手に見せようとしていない、あまり狙って描いてないという点でも、子どもらしく自由で面白かったです。悩んだ末、「団地と川と船」、「夕ばえの空」の2作品を選ばせていただいたのですが、「団地と川と船」は、夜の明かりが灯っている描写から、家族やいろんな人が住んでいる場所だという印象を強く感じます。4歳でここまで表現できるのはすごいですよね。
逆に、「夕ばえの空」の作者は14歳ということで、自分とは何かとか、いろいろなことを考える時期ならではの思いがあるのだろうなと感じられます。メッセージに「建替え前」とありますから、この景色はもうない。そんな中で自分が生まれ育ったところを想っての作品ですね。
さかた しげゆき
写真部門にもとてもいいものがあったのですが、私自身が絵を描いていますので、やはり絵のほうに注目して見ていました。その中で、「ぼくのおきにいり」と「団地と川と船」の2つが気になったのですが、「ぼくのおきにいり」は、メッセージのところに「通称チョコマン(チョコレートマンション)」とあって、この子どもらしい説明にひかれました。絵そのものも、人が住んでいることの楽しさ、その周りで遊ぶことの楽しさが伝わってくるようで、すごく気に入りました。
「団地と川と船」は、遠くから見ても窓の黄色が光っていて夜の団地の景色だなということがわかるし、近づいてよく見ると、船など周囲の様子が伝わってくる。アンテナなど細かなところもちゃんと見ているというのが印象的でした。

審査を終えて

千葉 学
生活の一コマを、実に多彩な視点で捉えた作品が多く、それが何よりもいいなと思いました。団地という場ではさまざまな生活が繰り広げられていて、住んでいる人の数の分だけ思い出がある。そういう日常に対する鋭敏な感覚が作品の基盤にあるというのはとてもすばらしいことだと思います。特に、子どもたちの絵を見ると、子どもにはこういうふうに建物が見えるんだなとか、団地という大きな建物を見たときの感動とか、そういうことも伝わってきて…。何か特別な行事ではなく、むしろ日常にこそ豊かさがあるといったものの見方が、自分自身の建築家としての視点を広げてくれた感じがしています。

私も設計という立場で集合住宅に関わっていますが、これからの日本では、集まって住むことの楽しさや安心感がますます重要になってくると思います。いい集合住宅がたくさん建てられなければいけないと思いますし、人の集まり方が多様になる中で、団地という存在がその集まり方をうまくサポートしていけるといいなと思います。建築だけではなくて、ランドスケープや土木といった視点も含めた環境整備に期待しています。
さかた しげゆき
子どものころに団地に住んだことがあって、今でも団地が好きです。もちろん、当時は地域のコミュニケーションとか、そういうことは全然考えなかったのですが、今はコミュニケーションの感覚が変わってきていて、子どもを外で遊ばせられないといった考え方も増えてきている。そういう点をもう少し改善して、外でもっと遊べる環境になったらいいなと思います。
今回審査させていただいた作品にも、団地それぞれに、お祭りや季節のイベントなどがあって、コミュニケーションを深めようとしているのだなと実感できました。そんなコミュニケーションが今後も続いて、よりよく暮らしていけるようになればいいなと思います。
松田 妙子
こんなにいっぱい見たことはないというほどの写真やスケッチを見せていただいて、私も写真が撮りたくなりました。

写真にも絵にも、音や匂い、空気感といったものを伝えてくれる作品がたくさんあってとてもうれしく思いましたし、人の暮らしを切り取った作品もたくさんあって、URのキャッチフレーズではありませんが「人は、ふれあって育つ」ということが実感できました。子どもはもちろん、大人にもふれあいは必要ですし、団地からは、クールだけどいい距離感で新しい関係性のようなものが生まれているのかなと思います。

昨年の震災以降、「絆」という言葉が注目されていますが、団地は、若い人の支え合いたいという気持ちを助けてくれる。そこに建っているだけで、近所を巻き込みながら、支え合う関係をつくってくれるような場所なのだと改めて思いました。
本城 直季
私も団地が好きなので、審査であるにも関わらず本当に楽しめましたし、一枚一枚の作品に本当に作者の思い入れがあるのだなと感じられました。ついついメッセージもじっくり読んでしまって時間もかかりましたが面白かったです。スケッチも、どれが大賞になってもおかしくないと思えるクオリティでしたし、自分たちが住んでいる団地への想いが表されていて、よい作品ばかりだったのではないでしょうか。

私は、団地には緑が大事だと思っていますし、完成してから何年か経ってからようやく住みやすさとか、団地独自のカタチが見えてくるのだろうと考えています。以前にフランスの集合住宅を取材したことがあって、「フランスが間違えたコミュニティのつくり方」という雑誌の特集だったのですが、団地が外部とコミュニケーションできないような設計だったために孤立してしまったという記事でした。立ち寄る人もおらず団地から外出する人もいないと、街はどんどんすたれていってしまう事例なのだと思います。ですから、プライバシーを確保した上で、人が流れる空間をつくっていかないといけないのかなと思いました。
池邊 このみ
私は、講演などで、「景観はコミュニティの心を映す鏡」というフレーズを使用をしているのですが、まさに今回の作品でも、景観のもつそうした側面が感じられました。団地の温かさが景観ににじみ出ていると思いますし、そんな温かいコミュニティが美しい空間になっている団地を住民の方のみならず、近隣の方にも感じていただきたいと思います。

UR都市機構が歴史の中で発信してきたライフスタイルは、例えば我が国でまだなじみの薄かった洋風トイレをいち早く導入するなど、他にない先進的なものもありました。これから先は、新しいものをつくることは少ないかもしれませんが、古いものを再生していく中でたとえば東雲キャナルコートCODANのような新しいライフスタイル創造で再生を考えるといったことにトライしていただきたいと思います。

応募作品に描かれた団地の美しさをより多くの方と共有できれば、団地は素敵だなと人々に思っていただけますし、新たな団地の魅力を引き出すこともできます。団地の良さ、集まって住むということの安心感といったものを若い世代に伝えていくことも、URの役割として大事なことだと思います。
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