街に、ルネッサンス UR都市機構

全国団地景観サミット2010 座談会

座談会 トップ

2010年はスケッチ部門が復活し、3回目を迎えた『全国団地景観サミット』UR賃貸住宅「団地景観フォト&スケッチコンテスト」において、その作品内容が高く評価され、入賞(※1)された皆さまにお集まりいただき、座談会を開催しました。
今回は、作品撮影時のエピソード、タイトルやコメントなどの作品に込めた想い、団地に対するお考えや想いをお話しいただいたなかから、その一部を掲載します。
※1 座談会では、各部門の最優秀賞及び優秀賞受賞者にお集まりいただきました。

主催者挨拶

UR都市機構 全国団地景観サミット事務局
宮本 俊次
宮本
本日はお忙しいなか、お集まりいただきましてありがとうございます。
全国団地景観サミット事務局でも、今日の日を楽しみにしておりました。

UR都市機構では、このコンテストにサミットという名称をつけさせていただいています。これは、全国からUR賃貸住宅の建物そのものや周辺を含めた景観、そこに暮らす人々の生き生きとした姿などを写真やスケッチに表現していただいた作品が一堂に会する中から、団地のいいところを再発見しようという目的で実施させていただいているためです。
3回目の今回もたくさんの作品が寄せられ、484名の方から686作品のご応募をいただきました。

本日は、上位入賞された方にお集まりいただき、作品への想い、団地への想いなどをお聞きする機会として、座談会を開催させていただきました。都合で参加できなかった方もいらっしゃるのは残念ですが、楽しい時間を過ごさせていただければと思います。

作品エピソード

フォトコンテスト  団地×コミュニティ部門  最優秀賞

【 団地の子供たち 】
- 浅井 誠章 -

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辻堂 (神奈川県) 
浅井さん
神奈川県藤沢市から来ました浅井誠章と申します。
私は、趣味が写真で、とくにスナップ写真を撮るのが好きなんです。今回のコンテストには腕試しという意味もあって応募しました。
団地の子どもたちの写真で応募したのは、子どものころからURの団地が近くにあったからかもしれません。団地に住んでいる同級生が多くて団地のなかを遊び場にしていましたので。
事務局
撮影されたときのエピソードは、何かありますか。
浅井さん
子どもたちに今回のコンテストのチラシを見せて、撮らせてくださいとお願いしたんですが、恥ずかしいと思うのか、なかなか撮らせてもらえない。
ところが団地のこの子どもたちは本当にノリがよくて、「どうぞ、撮ってくれ」「もっと撮ってくれ」といった感じで撮らせてくれました。それがよかったのかなと思っています。
浅井 誠章さん

フォトコンテスト  団地×コミュニティ部門  優秀賞

【 楽しいひととき 】
- 渡辺 志げ子 -

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千草台 (千葉県) 
渡辺さん
千葉の千草台団地に住んでいる渡辺です。
団地の自治会の会長をやっていまして、全国の団地自治会の代表幹事が集まったときに今回の受賞を報告したら、「おめでとうございます」といわれて、晴れがましい気持ちになりました。
このコンテストには、第1回から応募しています。もともと写真が趣味で、昭和54年にヨーロッパの住宅の視察に行った時もロンドン橋などを撮影しましたし、アメリカに行った時にも、いろいろなところで写真を撮りました。実は、今日もカメラを持ってきています。持っていないときに限っていい光景に出会えるので、いつも持って歩くようにしているんです。
今回応募した写真は、団地自治会の事務所の前にある保育所の所長から、団地内の広場でお昼を食べさせてくれないかという話がありまして、その時に撮ったものです。いつも、子どもたちの写真は本人と保育所にプレゼントしているんですが、今回も、1枚ずつ引き伸ばしてそれぞれに渡しました。
この写真はそのなかの1枚です。みんないい子たちなんですよ。ちゃんと挨拶もしてくれます。
事務局
賞を受賞して、いかがですか。
渡辺さん
びっくりしました。やはり子どもたちの帽子や洋服のピンクが目立ったのかなと思って。撮影したときにも、そのバランスがおもしろいと感じたんです。偶然のシーンなので、運がよかったのかもしれませんね。
渡辺 志げ子さん

フォトコンテスト  団地×ランドスケープ部門  優秀賞

【 夕やけぐも 】
- 近藤 司 -

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コンフォールさがみ南 (神奈川県)
近藤 司くん
近藤司です。いま小学校4年生です。
事務局
今日は、司君と一緒にお母さんの美枝子さん、弟さんの航くんにも来ていただきました。ありがとうございます。司くんには、お母さんにもお手伝いいただいてお話を伺いたいと思います。応募したきっかけ、写真を撮られたきっかけを教えていただけますか。
近藤 美枝子さん
写真に添えたメッセージにも書いてあるのですが、この写真は住んでいる団地の部屋から撮りました。夕焼けがきれいだねという話をしたら、司が「じゃ、撮る」といって、あの写真を撮ったんです。
私も高校生のときに写真部にいたので、ふだんからちょっときれいなものを見ると、子どもたちにも「きれいだね」と声をかけるようにしています。それがよかったのかなとも思っています。
でき上がってきた写真を見たら、すごくきれいだったので、このコンテストに応募してみたんです。受賞してほかの方たちの写真をホームページで見たら、立派な写真が並んでいるなかに司の写真があって…。何か申し訳ないような気持ちです。
事務局
司くんの作品については、雲の様子などもすごく素直でいいという意見が審査員からも出ていました。司くんは、賞をとったことをお友だちに話しましたか。
近藤 司くん
はい。
事務局
みんなは、何ていってましたか。
近藤 司くん
すごいって。
近藤 美枝子さん
発表の後で、賞金として商品券が送られてきたのですが、本人もお小遣いとかに興味がある年頃なのもあって、家族じゅうが大騒ぎになりました。
近藤 司くん
左・近藤 美枝子さん 中・近藤 航くん 右・近藤 司くん

フォトコンテスト  団地×ランドスケープ部門  優秀賞

【 忘れてはいけない事 】
- 北 貴幸 -

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HAT神戸・灘の浜 (兵庫県)
北さん
兵庫県神戸市から来ました北貴幸と申します。よろしくお願いします。
事務局
応募したきっかけをお聞かせいただけますか。
北さん
ひと言でいえば、震災を体験したことでしょうか。平成7年1月17日に起きた阪神淡路大震災のことです。
現在住んでいるURの団地は神戸復興計画に含まれる建物の一つなのですが、震災が起きていなければ存在しなかったということを考えると街の持つ意味も大きいと感じるんです。例えば、震災というフィルターを通さずに街を見ると、利便性が高く、整理された街並みに写るんですが、いまも震災の傷痕はさまざまな形で残っていると感じられますし…。ですから、この写真を見て震災を思い出し、私自身がしっかり生きていくための糧にしたい、そんなふうに考えています。
事務局
写真に添えられたメッセージを読ませていただいて、私たちも、震災のことやその後の様子などを思い出して感慨深いものがありました。具体的な撮影時のエピソードなどはありますか。実はこの作品は、審査員の間でも、どんなふうに撮ったのかと話題になっていたんです。
北さん
撮影したのはゴールデンウィークのころです。気候がよかったので散歩に行こうかなと思って…。近所にある美術館の写真を撮ろうかなと歩いていたときに、ちょうどビルの窓ガラスに自分の住んでいる団地の建物が映っていて、それがカタカタと歪んで見えたときに、それまで自分がイメージしていた写真像とリンクしたと感じたんです。撮影したときは、まさか入賞できるとは思っていなかったのですが…。
北 貴幸さん

スケッチコンテスト  優秀賞

【 聖夜に・・・。 】
- 苅部 優子 -

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仙台鶴ヶ谷五丁目 (宮城県)
苅部さん
苅部優子と申します。よろしくお願いいたします。
私は大学の造園緑地学研究室に所属しておりまして、公園や庭園の設計・デザインを学んでいます。応募したのは、実習の際に指導いただいた先生に、今回のコンテストについて教えていただいたのがきっかけです。
事務局
苅部さんは、クリスマスをテーマにしたとても素敵なスケッチでご応募いただいたのですが、この作品を描いたきっかけは何だったのでしょう。
苅部さん
実は私は、団地に住んだことがないんですが、中学の時に仲のよかった友人が引っ越してしまったことがありまして、その友人の転居先の住所が団地だったことから、その団地の様子を想像して描きました。
事務局
入賞の連絡が届いたときの感想をお聞かせいただけますか。
苅部さん
実は、同じ実習授業を受けている友人全員が応募していたと思っていたのですが、URのホームページで確認したら、私の名前だけが載っていたのですごく驚きました。後で聞いたら、友だちは誰も応募していなかったようなんですが…。自分の名前が載っていて本当にうれしかったです。
苅部 優子さん

受賞コメント

スケッチ大賞

【 初夏の昼下り 】
- 小沢 節子 - 

吉川 (埼玉県)
小沢さん
今回のコンテストには、UR賃貸住宅に配布されている管理報『Yourらうんじ』を見て応募しました。受賞のご連絡をいただいてからURホームページの審査講評を見ましたが、審査員の方が私の作品についてコメントしていただいているのを見て、大変うれしかったです。
私は、一昨年亡くなるまで、同じ団地に40年間住む母を介護していたのですが、その母が入院している間、娘がたまさか一年間この団地に住んでいたのです。棟は別だったのですが、ベランダから出かけたり帰ってきたりする娘を見かけるたびに手をふってみたり、曜日を決めて一緒にご飯を食べたりして、そんな一番幸せだった時のことを描いたのが、この作品です。元々、絵画を習った経験がありまして、趣味でいろいろ描いています。今回のコンテストにも2つ描いてみて、気に入った方を送りました。
私は団地にかれこれ6年近く住んでいるのですけれども、初めて住んだ時にとても住みやすいと思いました。特に私が住んでいる団地は、私が暮らす1階の窓から、遠くまで続いて見えるランドスケープがとても綺麗です。最近の超高層住宅はとても無機質に感じますが、この団地の土や緑・四季を感じるオーガニックな暮らしがとても気に入っています。
今は娘も引っ越してしまって、そばには居ないのですが、団地内に友人を作って、習い事や運動など色々な事にチャレンジしています。お隣の方とベランダ越しに話せる。そんな相手が見える関係ってとっても良いですよね。
小沢 節子さん

座談会

受賞者の団地への思い ~全国団地景観サミットを通じて~

座談会01
事務局
次は作品の舞台でもある団地のお話を伺いたいと思います。 まず、渡辺さんにお聞きしたいのですが、団地のよいところはどこにあると思われますか。
渡辺さん
団地にはオープンスペースもありますし、地域の子どもたちもやって来て、団地の子どもたちと一緒になって遊んでいます。そういう面では他には例がないと思います。以前、大学の先生の講演を聞いたときも、「いまは立派なマンションを建ててもコミュニティがない、ところが団地にはコミュニティがある。 自治会活動のなかでコミュニティが形成されていて、赤ちゃんから高齢者までが安心して住み続けられる。」とおっしゃっていましたが、確かにその通りだと思います。

コミュニティということでは、私たちの団地では、おむつがとれた2歳以上を対象にちびっこ保育をやっています。子どもの会もありますし、高齢者についても、ティータイムでお話しをする機会を用意しています。それと同時に、団地だけではなくて、地域との連携もある。団地が地域のなかで中心的な役割を果たしているようにも思えます。
事務局
今回の応募作品にも、夏祭りなどのコミュニティの写真が多かったのですが、渡辺さんの団地でも、お祭りなどには地域の方が参加されるのでしょうか。
渡辺さん
参加しています。今年の1月にも、団地の広い運動場を使ってどんど焼きをやりまして、そこに正月飾りなどを持って地域の人も参加してくれました。ほかにも、毎年7月には団地祭り、9月になると防災訓練、敬老の日の集いや地区の運動会、文化祭などを行っていますが、そんな行事を通して、団地に暮らす人と地域に暮らす人がお互いに協力しようという気持ちになることが大切だと思います。そういう点でも、団地の持っている役割は本当に大きいと思っています。
座談会02
事務局
ありがとうございます。渡辺さんがお住まいの団地は、地域との連携なども歴史があるのだろうと思いますが、北さんがお住まいのHAT神戸・灘の浜は震災後新たにできた団地です。コミュニティ活動や、団地のなかの雰囲気についてはいかがですか。
北さん
地域との連携は、私の住んでいるところでも行われています。お祭りもやっていますし、不定期ですが海に面した大きい広場でライブが催されて、出店が並んだりして…。人が集まる行事は積極的に行われています。
ただ、私のところは市営団地や民間マンションもありますので、どの人たちが主体になってやっているのか詳しくはわからないんですが、普通の街並みとは違う光景はよく目にしています。
事務局
近藤さんがお住まいのコンフォールさがみ南は、10年ほど前に建替えをした団地ですが、お祭りなどの行事は行われていますか。
座談会03
近藤 美枝子さん
去年の4月に引っ越してきて1年近くになりますが、遊具などが何も置かれていない原っぱがありまして、そこで夏にお祭りをやっていました。私は行かなかったのですが、司は行きました。多分、自治会の方が開催しているのだと思いますが、近所のお子さんたちもすごく楽しみにしているようで、「きょうお祭りだから行こうよ」といった会話も耳にしました。地域でも楽しみにされているお祭りなんだと思います。
事務局
転居されて約1年ということですが、団地での暮らしはいかがですか。
近藤 美枝子さん
先ほどの原っぱにしても、遊具のある公園にしても、すべて団地のなかにあるので、ここから引っ越せないという話をよく聞きます。
家を買いたいけれど、団地の環境が余りにも良くて、子どもが大きくなるまで引っ越せないということのようですね。
司はもう4年生なので、団地の外の公園に行っているようですが、弟の航はまだ1年生なので、毎日、団地の公園で遊んでいます。団地に住んでいない子どもたちも、団地内の公園で遊んでいるようですね。放課後になると子どもの声が聞こえてきます。以前に住んでいたのはマンションだったのですが、ちょっと走っただけで「うるさい」という苦情が来ていましたので、外で元気に遊び回れるところを選んで入居したという事情もあるんです。
転居の時に、URの住宅に社宅の借り上げで住めると聞いたので現地に行ってみたのです。ホームページで間取りも見たのですが、実際団地を見に行ってみたら、建物同士の間隔が広くて、建物も建替えて10年ということできれいでした。
実際引っ越してきてからは子どもたちも伸び伸び遊べるようになりました。実は、主人の会社の施設移動があり転勤したのですが、お友達でまだ前の住まいに残っている方には、「URはいいよ」って宣伝しているんです。転校で心配もあったのですが、団地内に子どもがいっぱいいるので馴染むのも早かったようです。
事務局
地域と団地ということですと、逆に浅井さんはご近所の団地で遊んでいたとお聞きしましたが。
浅井さん
そうですね。自分は団地には住んでいなかったのですが、近藤さんが先ほどおっしゃっていたように、近くにあったURの団地に住んでいる同級生と遊ぶときは団地の公園に集まって遊ぶことが多かったです。
座談会04
事務局
応募された写真も、団地に行って撮影されたんですよね。子どもたちのすてきな笑顔って、会ってすぐに撮ろうとしてもなかなか撮れないと思うんですが…。遊んでいる場面の一部を切り取ったら、こういう形になったのでしょうか。
浅井さん
そういうわけではないですね。とりあえず写真を撮らせてくださいと頼んだら、いいよと言ってくれたので、写真を撮りながら30分ぐらい一緒に遊んでいたんです。そのくらいたつと子どもたちも慣れてきて、撮影されることにも飽きてきますから、ふだんの表情に戻っていつも通りに遊び始める。いきなり行って撮らせてくださいといっても緊張してしまって記念写真のような感じになってしまうのですが、しばらく一緒にいさせてもらうと自然な表情に変わってきますね。
事務局
去年は「道端※」というタイトルで、メンコをしている子どもたちで応募されていますが、あの作品も遊んでいるところですね。
[※全国団地景観サミット2009受賞作品]
浅井さん
そうです。あのときもメンコをしている子どもたちを見つけて、撮らせてといったら、いいよって。こちらには全く関心がない様子で、メンコに集中していました。
事務局
今回の作品の笑顔も、私ども職員には好評でした。
浅井さん
撮らせてくれる子どもたちあってのことなので、子どもたちに感謝ですね。
事務局
子どもたちを撮るときに、たとえば団地以外の場所と団地では、違いはありますか。
浅井さん
かなり違いますね。いま地域の絆とか、そういったものが希薄になってきていると思うのですが、団地の子どもたちはしっかりしたコミュニティに守られている感じがします。地域の絆が昔のように温かいというか、しっかりした絆があるのを感じますね。団地以外の子どもたちの場合は、いきなり撮らせてくださいというと、警戒してしまうことが多いのですが、団地の子どもたちは、人と人の付き合い方が上手な感じで、しっかり受け答えをしてくれる。そういうコンテストがあるなら、撮らせてあげてもいいかなみたいな感じで温かみがある。そんな印象を持っています。
事務局
苅部さんは、ふだんからスケッチをされているんですか。
苅部さん
大学2年のときから、実習でスケッチをする機会が増えてきましたね。もともと絵を描くことは嫌いではなかったのですが、きちんと習ったことはなくて…。大学に入ってから、ちゃんとした色鉛筆を買って、この絵も全部色鉛筆で描いたものなんです。ふだんは公園の絵など、平面図やパース図を描いています。
事務局
このコンテストは、作品だけではなくて、タイトルやメッセージもあわせて審査させていただいているのですが、苅部さんの作品はストーリーがあるということで審査会場でも話題になっていました。
苅部さん
自分の経験ならもっと素敵なんですけど、この作品に登場している2人は想像で描いているので、残念ながらこういう素敵な経験はありません。中学時代の友だちが、たまたま団地に住んでいたことを思い出して、コンテストのテーマにぴったりだったので描き始めたんです。絵は冬のシーンですが、実際に描いたのは応募締め切り直前の夏です。その友だちとは、雪の日に一緒に遊んだり、こたつに入って一緒にミカンを食べながら勉強したという想い出があったので、冬のクリスマスの絵にしました。少し大人っぽくなった彼女に素敵な出会いがあればいいな、という願いを込めて描きました。
事務局
審査員からも、団地でこういう出会いがあったら素敵だなという話がありました。苅部さんご自身は、URの団地に行った経験はおありですか。
苅部さん
大学でランドスケープ関係の勉強を始めてからは何度か行っていますし、団地関連のDVDも見ています。先日も相模原の相模台団地に行きました。大学の授業のプレゼンに同行したんです。
座談会05
事務局
そんなふうに団地を訪れた時に、何か感じるものはありますか。
苅部さん
相模台団地に行ったときは、受賞の発表をしなさいと先生にいわれていたので、すごく緊張していたんです。この絵には少女漫画チックなところがあるのに、団地の皆さんは大人の方ばかりですし、どう思われるのかなと心配だったのですが、気さくな方ばかりで、発表しているときにも「すごくいいね」とかおっしゃってくれて、すごくうれしかったです。
事務局
相模台団地の雰囲気はいかがでしたか。
苅部さん
いま住んでいる場所の近くの団地が古いせいか、団地というと何か暗いイメージがあったんですが、相模台団地はちょうどリニューアル工事されているようで、すごくきれいでした。周囲の自然もちゃんと手入れがされていましたし…。
事務局
北さんがお住まいのHAT神戸・灘の浜には、私も行ったことがあって、すごくいい空間だと思っているのですが、実際に住まわれてみての印象はいかがでしょう。
座談会06
北さん
悪いところは全然思い浮かびませんね。特に感動したのは、スロープの多さとか、手すりの多さ、階段の段差がすごく低くて歩きやすいことです。体の不自由な方たちや、高齢者の方に配慮されている街だなと思います。部屋のなかにも何カ所か手すりがついているんです。医療関係の施設も充実していますね。街づくりが人にやさしい、そんなふうに思いました。
事務局
ありがとうございます。デザインなどの面で好きなところはありますか。
北さん
エリアに電柱が一本も立っていないんです。全部地下に埋まっている。HAT神戸から出ると電柱があって空に電線が伸びているのですが、HAT神戸に入った瞬間に電柱も電線もなくなって木だけが生えている。未来的といえば未来的なのかもしれませんね。昭和生まれのせいか、時々無機質に感じることはありますが、将来はあの形がスタンダードになっていくんじゃないかなと思います。
事務局
ずっとURの団地に住まわれているんですか。
北さん
いえ、住み始めたのは震災後ですから10年目ですね。僕が入居したときにはまわりには何もなくて、2棟のうち1棟はまだ建設中でした。徐々に周りも復興していくなかで、副都心という町ができてくるという、すごくいいものを見させてもらった10年間でしたね。
事務局
浅井さんは、団地に住まわれていなくても、子どものころから団地に接していて団地のことをよくご存じということもあって、今回の作品もそんな背景があるから撮れた写真なのかなと思いますが…。
浅井さん
小学校のころは団地の子が憧れだったんです。団地じゃないところに住んでいると、公園に遊びに行くにも自転車をこいで行かなければいけないのに、団地に住んでいる友だちは、「ちょっと3階の友だちの家に遊びに行ってくるね」みたいな感じで行けてしまうのがうらやましかったですね。
座談会07
事務局
家が集まっているという印象でしょうか。
浅井さん
人と人とのつながりが、すごく濃い空間なんだと思います。子どもたちが小さい空間に寄り集まって遊ぶというのは団地でしかあり得ないんじゃないでしょうか。公園だと人と人との距離感はもっとありますし…。肩を寄せ合って遊ぶというのは団地だからこそできる人間関係なんじゃないかと思います。
人と人との距離感って、いまは離れてしまっているじゃないですか。例えば電車のなかでちょっと肩が触れるだけでも不快に思ってしまうことがある。それが団地のなかだと、不思議と距離が近くても苦にならないんですよね。
事務局
住んでいる人同士の顔が見えているということなのかもしれませんね。
浅井さん
そうですね。写真を撮っていて思うのですが、団地という空間と外の空間では、人と人との付き合い方が全然違う感じがします。
事務局
コミュニティづくりも私たちのテーマの一つなんですが、そういうコミュニティがすでにあるということを感じていただけるのはうれしいですね。渡辺さんの写真は、審査員だった建築家の藤本先生が、団地の中にピンクが点在しているのがとても不思議でおもしろいと絶賛されていました。建物の白と公園の青のなかにピンクが入っているのが不思議な構成になっているということをおっしゃっていたのですが、こういう色の配置を写真に収められたというのは、撮影時の狙いなのでしょうか。
渡辺さん
たまたまです。保育所の子どもたちは、年長、中年、年少と、年齢で帽子の色が違うんですよ。私も、優秀賞になったと聞いたときに、多分このピンクに審査員の皆さんの目が集まったのじゃないかと思いました。
座談会08
事務局
ピンクの服を着た女の子もいて、偶然だとしたらすごい偶然ですね。写真がご趣味だとおっしゃっていましたけれども…。
渡辺さん
そうですね。今回の作品は子どもたちですけど、花なども被写体としてはおもしろいですよね。菖蒲の花が犬の顔に見えたりして、写真からいろんなことが想像できる。そういうのがすごく楽しいですね。千葉の鋸山にも、岩がライオンの顔に見えるところがあったりして…。写真は想像力を豊かにしてくれるものだと思っています。
事務局
近藤司くんの写真には、イラストレーターのなかだえりさんが審査のコメントをつけていますが、写真家の大西さんも審査の時に「何気ないアングルだけれども、何か力がある」といわれてました。写真の構成としてはセオリー通りではないのかもしれませんが、何か味があって、力があるということだと思います。司くんは写真部だったお母さまのDNAをちゃんと引き継いでいらっしゃるようですね。
座談会09
近藤 美枝子さん
子どもには、きれいな景色があったら心を動かすということを教えていきたいという想いはありますね。絵は技術が必要なのかもしれませんけど、写真はどこを撮るかでその人の個性が出る。被写体を選ぶ感性といったらいいんでしょうか、そういうものがすごく出るものだと思います。
今回は、夫が団地管理サービス事務所でコンテストのチラシを見て、本当にたまたま、いい写真だねというだけで応募したので家族でも驚いています。本人は構図などを考えることもないでしょうし、ほかの受賞作品がすごく計算されているのを見ると、よくもこれを選んでくれたなあと本当にびっくりしています。選んでくださった審査員の方にピンとくるものがあったのかもしれませんね。実は、今回の賞金で司は自分のコンパクトカメラを買って、それからは弟と競い合って写真を撮るようになったんですよ。
近藤司くん
ママは「打倒、ぼく」でがんばってる。
近藤 美枝子さん
はい、打倒息子です。(笑)
座談会10
事務局
全国団地景観サミットでは、写真やスケッチなど作品そのものもしっかり拝見するのですが、添えられたメッセージやタイトルも含めてトータルに評価するコンテストなので、審査員を務めていただいた写真家の大西先生も「こういうコンテストは初めてで、とてもむずかしい。」とおっしゃっていました。
大西先生は他のコンテストの審査などでたくさんの写真を見ていらっしゃるのですが、このコンテストの審査は全く違うということで、本当に時間をかけて見ていただきました。
一般のコンテストとは違って応募した方の想い、作品に込められた想いまで評価させていただくというのが事務局の考えでもあります。ですから、本日は、皆さんの団地に対する深い想いまで聞かせていただいて、非常に喜ばしい、貴重な機会になったと思います。
コンテストは平成23年も開催しますので、またご応募ください。本日は、ありがとうございました。
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