街に、ルネッサンス UR都市機構

全国団地景観サミット2009 審査の風景

審査の風景01
審査の風景02

団地と、その周囲の環境がつくりだす景観、そして、そこに住む人々の暮らし、新しく生まれたコミュニティ、世代を超えて育まれた豊かな人間関係…。「団地」が描き出すさまざまな情景を写した写真作品を、「団地×自然」、「団地×コミュニティ」、「団地×建物」の3部門で募集した今年度の「団地景観フォトコンテスト」。写真技術の優劣ではなく、作品タイトルや添えられたメッセージに込められた応募者の想いも含めて評価するという独自の視点で選ばれた受賞作品を、審査員としてコンテストに携わった皆さんはどのように評価されたのか。
審査後に行われた講評座談会から、それぞれの作品の魅力を探ります。

審査員:谷内田章夫氏、 ホンマタカシ氏、 服部マミ氏、 山口昌彦氏、 池邊このみ

コメント

最優秀賞

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「生まれ育った場所で」
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「寿」
過去から、現在、現在から未来に続いていく。そんな団地の可能性を感じさせてくれる。
服部 マミ
「生まれ育った場所で」は、地域の皆さんに祝福されている感じがよく分かりますよね。
谷内田 章夫
団地というコミュニティの継続を画像で示しているところに説得力を感じます。団地の様相は建て替えで変わったけれど、人と人との関係はまだ続いている。過去から現在、現在から未来に続きそうな気配を感じる作品ですね。
池邊 このみ
生まれ育った団地で結婚式をしたいと思うことがすばらしいことですね。結婚式に招かれた人だけでなく、居合わせた人達も祝福しているのが、ヨーロッパの小さな町で行われている教会の結婚式の風景のように感じられますね。
ホンマ タカシ
団地とか、コミュニティといったテーマのすべてを1枚の写真で説明するのは現実的ではないような気がして、同じテーマで応募された作品を組み合わせて最優秀賞としてはどうでしょうか。写真を組み合わせることで、コミュニティというテーマが際立つと思います。
山口 昌彦
確かに想像していたテーマではありませんでしたけど、親子二世代の作品が最優秀賞に選ばれるというのは、団地というテーマにも合っていますね。「寿」は個人写真的な感じで、「生まれ育った場所で」の方は、この二人を見ているみんなの表情がいい。無機質の象徴として団地が使われることが多いなかで、ここには賑やかさもあるように思います。

団地×自然部門

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【金賞】
「お台場の春、ゆりかもめに出会う」
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【銀賞】
「ダイヤモンドツリー」
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【銀賞】
「希望」
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【銅賞】
「みどりの散歩道」
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【銅賞】
「ふるさとの子供たち」
都市居住ならではの新しい自然観、それを生活のなかに取り入れるきっかけになる。
谷内田 章夫
自然というと緑の環境といったことが一般的にいわれると思いますが、都市居住の場合は、風とか光とか香りとか、その他の自然をどう受け取るかが重要だと思います。「お台場の春、ゆりかもめに出会う」は、風とか、匂いとか、音とか、そういったものが伝わってくる写真のような気がします。
ホンマ タカシ
確かに、住んでいる人がそこで発見する自然の方がリアリティがある。そこに住む人が発見した自然という点では、撮影者が朝起きて、発見した光景を写した「ダイヤモンドツリー」も、印象深い写真ですね。
山口 昌彦
「ダイヤモンドツリー」は、こんな風景もあるということに気付かせてくれる作品ですよね。谷内田先生がおっしゃったように、光とか風とか、そういうことも自然だという視点からみると、いい作品だと思います。
「希望」は、ちょっとだけ光が地面に落ちている雰囲気がいいですね。メッセージにも、長く住む、世代が代わっていくという団地の雰囲気が出ている気がして、地味なので、雑誌などで扱うとしても、大きくしようと思うような写真ではないんですが、メッセージを読むと今回のコンテストにはふさわしいなという気がします。
服部 マミ
「ダイヤモンドツリー」の撮影者が、40代の方で出勤する前の朝日、「希望」70代の方で夕日を描いている。そのコントラストが面白いですよね。
ホンマ タカシ
山口さんがおっしゃっていたように、「希望」はコメントがよくて、しかも写真と合ってますよね。きれいな団地の桜並木に自分の人生を重ね合わせている。直接的なんですけど切実な話ですよね。もちろん、実際の桜のアーチは気持ちいいものだと思うんですが…。
池邊 このみ
この道路の幅が、ちょうど桜の枝がアーチ状になる幅なんですね。スケール感がいいですね。私は、遠出ができなくなった高齢者が小鳥の声をきくオアシスになっているという団地裏の小道を撮った「みどりの散歩道」も印象に残りました。
谷内田 章夫
緑と水辺という組み合わせでは、「ふるさとの子供たち」の方は構築的ですね。フラットなところに建物が映り込んでいるのもきれいです。
ホンマ タカシ
「ふるさとの子供たち」は、写真的にもいいですね。ただ、写真のクオリティだけで選ぶなら「お台場の春、ゆりかもめに出会う」が、上位にくるんじゃないでしょうか。

団地×コミュニティ部門

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【金賞】
「団地で育った幼馴染」
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【銀賞】
「道端」
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【銀賞】
「夏の朝」
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【銅賞】
「帰り道」
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【銅賞】
「大切なもの」
今という時代をドラマ性豊かに描き出した作品に団地が育む多様な生活が見えてくる。
谷内田 章夫
「道端」は、団地でなければ生まれないような付き合い方を表現していて、ゲームをやるような場合とは違う、コミュニティのちからと新しさを感じられる点で魅力的な作品だと思ったのですが。
ホンマ タカシ
僕は「団地で育った幼馴染」がいいなと。「道端」にあるような団地ならではの行為は、こうあって欲しいというノスタルジーに感じるんです。こちらの方が、今のリアリティがあるような感じがして…。
池邊 このみ
切れ味がシャープなんですけど、ぎこちなさもあって、視線が絡まる感じですね…。照明も効果的ですよね。
山口 昌彦
いろいろ想像をさせてくれる写真ですね。ドラマ性があって。「帰り道」も、ある種いろいろなことを考えさせる写真ですよね。緊張感もあるし。
谷内田 章夫
団地らしさという点では、「夏の朝」はどうでしょう。朝の公園だと年配の方ばかりなんですけど、団地だと子どもも集まってくる。こういう交流の光景が見られるのは、団地ならではだと思います。
服部 マミ
ラジオ体操をしている光景ですよね。いろいろな世代の方が写っていて、動きがばらばらでそろっていないところが逆に面白いですよね。建物も大きくきれいに写っていますし…。
山口 昌彦
「大切なもの」は、コミュニティ部門の入賞作品の中で、唯一人が写っていない作品ですね。
谷内田 章夫
人はいないけど、人の雰囲気を感じさせる写真ですよね。団地は建て替えられたけれども、ポストは残っている。時の流れも感じさせてくれます。
山口 昌彦
このポストは、団地のなかの小さなランドマークですよね。僕は、この二人の兄弟の後ろ姿も、好きなんですが…。
ホンマ タカシ
どれもそれぞれによいところがあって、コミュニティ部門は、評価が難しいですね。
山口 昌彦
そうですね。ただ、こうして、いろいろな生活が見えてくるというのは、この部門の主旨に合っているんじゃないでしょうか。

─団地×建物部門

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「雪後の団地」
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「ヌーヴェル赤羽台1号棟外観夜景」
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「団地里地」
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「団地を見下ろす。団地全景」
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「置いてけぼり」
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「三角ぐるぐる」
撮影者それぞれの団地への思いが、写真の見方を変えることで際立ってくる。
ホンマ タカシ
「雪後の団地」は、雪の風景なんですけど朝日が当たっていてすごくきれいな写真です。メリハリもあって、メッセージに書かれている通り、雪の朝を迎えた明るい感じが気持ちよいと思って選びました。
山口 昌彦
撮影された方自身が楽しかったんでしょうね。メッセージにも楽しい朝を迎えていますとありますし。
谷内田 章夫
たまたま撮ったという自然さもいいですよね。感動をそのまま画像にしたというか…。「ヌーヴェル赤羽台1号棟外観夜景」も、この団地で長く暮らした方が、建て替えでこういう状況になったことに感動して撮ったと思うんです。そういう感動が写真から見えてきますね。
山口 昌彦
「ヌーヴェル赤羽台1号棟外観夜景」は、写真としても迫力があって近未来的ですね。逆に「置いてけぼり」は、この建物がキャラクター的に見えてかわいらしい感じ。足とか生えてきて動き出しそうな…。
谷内田 章夫
「三角ぐるぐる」は、建物のなかで外に面する廊下、階段を上から撮ったというのが面白い。中味を露出させたユニークな視点ですよね。
池邊 このみ
「団地里地」は、自然豊かな里山を切り開いて造った団地群を見ていて、親しみや愛着のこもった故郷の里山を見ている気持ちになるというコメントがいいですね。ユニークな発想だと思います。
服部 マミ
「団地を見下ろす。団地全景」ですが、これだけいろいろな年代の団地が一枚の写真に収まっているこの景色を毎日見られるなんて、団地好きとしてはうらやましいのひと言。この場所に住みたいと思ってしまいます(笑)。
山口 昌彦
この作品には注目していなかったんですが、今の服部さんのお話を聞くと、写真が違って見えてきますね。
服部 マミ
この部門も選びにくいんですが、「雪後の団地」はいいんじゃないですか。空気感がありますよね。
池邊 このみ
子どもの頃の雪の降った朝、妙にまぶしくて起きた時の気持ちを思い出します。

審査を終えて

生活の情景が、バラエティ豊かに描かれた応募作品
服部 マミ
コミュニティらしいシーンを写したものから、温かみを排除した建物の写真まで、予想していたよりもいろいろな写真があったことが意外でした。
山口 昌彦
そうですね。団地というと、ステレオタイプなイメージがあると思うんですけど、そのなかでは、思ったよりいろいろなことが行われているんだなという印象です。バリエーションの多さというか、これだけテーマに幅があるというのが驚きでした。
池邊 このみ
景観というと街並みのようなイメージに思われますが、団地景観サミットは、子どもから高齢者まで、生活の情景を描いた作品が多いコンテストだったのではないでしょうか。
ホンマ タカシ
写真といっても、いろいろな種類の写真があるんだなということを、改めて考えさせられましたね。興味深かったのは、池邊さんが選ぶ写真と、服部さんが選ぶ作品、山口さんが選ぶ作品が違うということ。やはり視点が違うと、こうも一枚の写真が変わって見えるのかと、そういうところが面白かったですね。
谷内田 章夫
物の見方によって、写真も違ってくるという感じ。専門的なことは分かりませんが、構図やメッセージなどかなり意図的につくっているところがあって感心しました。特に賞に残ったものは、質が高い作品だと思います。
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