街に、ルネッサンス UR都市機構

~「ランドスケープデザイン」56号から転載~
街づくりをリードするガイドラインとランドスケープ

東雲キャナルコート中央ゾーン 森の広場

光井 純氏  [ペリ クラーク ペリ アーキテクツジャパン、光井純&アソシエーツ代表]

宮城 俊作氏 [設計組織PLACEMEDIA パートナー・奈良女子大学住環境学科 教授]

池邊 このみ氏[UR都市機構 都市デザインチームリーダー]

第6回のインタビューは、ランドスケープデザインの視点から景観ガイドラインのあり方や美しい景観づくりについて専門家を交えた対談を行いました。
なおこの対談は「ランドスケープデザイン」56号(2007年10月号)に掲載されたものを転載しております。

  • 光井 純氏 Profile

  • 宮城 俊作氏 Profile

  • 池邊 このみ氏 Profile

進⾏ UR都市機構 緑環境チームリーダー ⼭本 幹雄

  • 山本 幹雄 Profile


ガイドラインの役割

東雲キャナルコート中央ゾーン ビスタの広場

山本:UR都市機構(以下、UR)では、公団時代から街づくりを積極的に進めてきましたが、今と大きく違う点は、公団時代には土地利用から建物建設まで全てをひとりで実施していたことです。現在は官民の適切な役割分担に基づき、URはプロデュースとかコーディネートを担い、上物は 民間の方にお任せしています。そのときに様々な手法や道具を駆使するわけですが、そのなかに景観ガイドラインと呼ばれるツールがあります。まずは、この景観ガイドラインから、ご意見をお聞かせください。

光井:私が担当した芝浦アイランドの場合、一度アイランド全域にわたって基本デザインしてしまい、その後でガイドラインに落とし込んでいく方法をとりました。各事業者は、こういう街になるんだということを1/500程度の検討模型によってあらかじめ確認した上で、それぞれの街区の個性を発揮して頂くことになります。逆に言えば、十分なデザインシュミレーションを行なったガイドラインを用意したということになります。敷地を超えた広域で、街の将来像を十分に把握した上で、個々のデザインに取り組めたことは芝浦アイランド開発の大きな特徴だったと思います。

宮城:おそらく、今おっしゃっているのは、マスターデザインですね。光井さんのような建築家ばかりだとよいのですが、日本では建物の敷地を超えてものを考える方が少ないように思います。マスターデザインの段階では街の全体像を描くけど、個々の事業を考える段階になると、基準法でいうところの「敷地」とその中に建つ建物の関係に置き換わってしまう。建築とランドスケープは必然的に不可分なのですが、その境界領域をコントロールする可能性がある組織としてURの存在価値があると思います。ガイドラインがどんなケースでも有効に作用するとはいえないと思います。ガイドラインの有効性というのは受けとる側の状況によって変わるということ。例えば、芝浦のように条件のよい場合はともかく、そうでない立地だと、逆にガイドラインが事業の足かせになってしまうというように考える人たちもいます。まずそこの欠点というか、限界について認識することも必要でしょう。

光井:建物に投資しようとする場合、将来その辺りがどうなるのかがあらかじめわかっていると非常に親切だと思います。その開発地域の将来像が具体的な模型になっていると便利です。敷地ごとにバラバラに開発を進めるのではなく、将来を担保するという方法論として、景観ガイドラインというのがあると思う。最初から視覚的にわかりやすいガイドラインをつくっておけば、デザイナーも助かるし、投資家も助かる。いろんな意味で、具体的なビジュアルを持つことは、メリットがあるわけです。

池邊:ガイドラインが足かせにならないためにはソフトも含めた街全体のビジョンが見えるものを、景観ガイドラインのなかに盛り込むこと。街全体のコンセプトから下ろしていって、本当にこういう敷地割りがいいのか、どこを民間に託すかを決めたいですね。

宮城:ものを作ったら、その成果なり課題なりをフィードバックしてガイドラインを進化させる仕組みも必要だと思います。

池邊:そうですね、従来、景観ガイドラインというのは規制だと思われていますが、むしろそこをプラットホームにして、建築の方は建築で、造園の方は造園で知恵を膨らませていければよいと思います。問題はそれが継承されていくかどうかですね。また、ガイドラインをどうやって担保できるのが課題です。担保手法としては、地区計画や協定等がありますし、デザイン調整会議のようなものもあります。しかしながら、それらを継続的に運営していくことが難しい課題ですね。

光井:協定というものがあって、それに賛同する人に地区に入ってきてください、というような考え方もあると思 います。周りと合わないものをつくってしまうことで、不動産価値が下がるので、周囲に配慮するようになる。そのような街の人たちは、全体の景観に調和するものをつくる意識を持ち続けているのです。一方、ガイドラインががっちりできると、設計者はあまり工夫が必要なくて、常に新しい表現に挑戦したい 設計者には少しフラストレーションが溜まるかもしれません。

オープンスペースの意味

宮城:欧米の都市の場合、建物はグランド(地)に対するフィギュア(図)として誘導していくという考え方が強いと思います。これまでのガイドラインは、建築で街並みをつくるという考え方を、オープンスペースのデザインに置き換えているようです。そこが、そもそもミスマッチングの原因ではないでしょうか。緑化や舗装、ファニチュア、照明等のデザインは重要ですが、オープンスペースにはそれ以上のものがあるのではないかということです。

光井:都市型開発は建築の密度が高く、ランドスケープが比率的に押しやられ、余った空間に植栽を植えるというイメージですが、内部空間と外部空間と連続性を考えれば、そこでランドスケープと建築との密接な関係が生まれてくる。建築というのは目的空間ですので、誰もが入っていくことはできない。つまりオープンスペースではないということ。誰でも使える空間というのは、歩道や広場のように人が自由にいられる空間です。日向ぼっこをしたり、家族と弁当を食べるなど、そういう空間のあり方が都市生活のなかで非常に大事になる思います。ランドスケープデザイナーと建築家がきちんと対話をして、接点の部分をどうするのかを考え、デザイン力を発揮すべきです。そしてさらには、敷地境界を超えて広場を計画したり辻空間を計画したり、と街全体を大きなつながりとして考えてゆくことができます。敷地を超えることができるかどうか、このことが都市の文化がどこまで成熟しているかを測る指標だと思います。しかし、日本では伝統的に自分の土地の中で完結して建築を考えてきましたので、敷地境界を超えた発想を定着させるには、少し時間が必要だと思います。

山本:敷地境界を超えて、都市づくり街づくりをする時、ランドスケープの可能性というのはどういうことなんでしょう? 建物は敷地のなかで完結するので、ランドスケープに期待がかかっているような話しですが、それは現実的に可能でしょうか?

宮城:建築の側でも解決しなければならないことがあります。それは建築基準法のしばりでしょうね。基準法の上で「敷地」と「建物」が一対一で対応する関係をなんとか崩せないかということです。事業者も建設時期も異なる複数の敷地と建物を、敷地を越えてコントロールできればいいですね。

光井:基準法はその敷地の中で、法を守る限りどんな建物を建ててもいいようにつくってあります。敷地のなかで思考が完結しているわけですね。おっしゃったように、地域全体で考える視点を加えて、例えば、このあたりの建築は建築基準法を満たしていないけれど、こういうふうな市民のための広場をつくるのであれば、公益性が高いから建ててもいいのでは、というように発想ができるかもしれないですね。

宮城:地区計画や景観計画が基準法より上位にくるという考え方ができれば、それは解決するひとつの方法かもしれない。都市再生特区は、そのひとつのかたちだったかもしれませんが。

ガイドラインの課題

東雲キャナルコート中央ゾーン S字アヴェニュー

池邊:今、我々は団地の再生も手掛けていますが、今後50年経った時に、今ある環境以上に、街としてよい環境になっていると想定できるかが課題です。景観的には、立体駐車場などの問題もあり、オープンスペースが美しいものが少ないです。あとは、民間企業への譲渡敷地を含めた街全体での検討ができていないという問題もありますね。

光井:デザインシミュレーションができていないのに決まるはずないですよ。デザインシミュレーションをやって、こういう敷地だとこういう建物になるというところまで 想定をしておかないといけないですね。

宮城:まず一度テスト設計をやってみる、というのがてっとり早そうですね。その結果、事業の前提になっている状況がガラッと変わる可能性はある。もうひとつは、周辺 の様々な条件から、制度を逆手にとって、「こうならざるを得ない」というようなところに、あらかじめオープンスペースを仕込んでおく。例えば、大阪の「桃坂コンフォガーデン」は、その方法が比較的有効だったと思います。あそこは、敷地を4ブロックに分割して、片側に病院が隣接しています。病院への歩行者通路が最初から決められていることや、接道を確保するために旗竿敷地の竿の部分を通路として束ねることが必要で、誰がやっても十字型にオープンスペースが入ることになる。街並みをつくるためのオープンスペースが最初から敷地の中に「形」として存在していたわけです。

池邊:そこがすごく大事ですね。我々としては、この街の価値はこれによって維持されるというような、いくつかの必須条件を景観ガイドラインの中に入れ、それを最低限守ってもらうという方向に持っていきたいと思っています。

光井:建築設計では、個々の持っている価値観はまったく異なる。言うなれば、どれも正解なんです。ゆるやかな景観ガイドラインの条件では解釈が多様になって、各提案はそれぞれバラバラになるだろうと思う。建築家は基本的に人と違うものをつくろうとする人種だと思っています。「統一感のある景観…」といっても隣のデザインをコピーすることは無意味ですし、逆に相当にかけはなれたデザインであっても、様々な説明が十分に可能なのが建築デザインなのです。
    いくつかのゆるやかな条件で景観をある方向に向かわせることができると思うのは、楽観的すぎるのでは、思います。

池邊:それはそうだと思います。住宅展示場のようなばらばらな街をつくっても仕方ないし、逆にみんな同じになってしまっては美しいとは言えません。

光井:個人の能力にもよりますが、条件について細かく取り決めをしても、その中で、創意工夫ができる人が集まっているかどうかにかかっていると思うんです。模型もつくらないで図面だけ書いて、図面通りに建設すれば、それでいいと思うような人たちだったら、どこも同じようなものができる状況は当然生まれるでしょう。要するに個人の質だということです。

宮城:私の場合、建築家といっしょに仕事をするときは、とにかく相手の考えていることは何であろうが、またどんなものがつくりだされようが、よほどのことがないかぎりそれはそれとして受けとめます。そこでぶつかり合っても仕方がないから(笑) 。ランドスケープは敷地や建物の外側からデザインやプランニングにアプローチするので、建築案はどんなものでも構わないと思うわけです。ランドスケープのほうで「形」をつくっても、建築はそこにははまらないで
    しょう。たいていの建築家ってそんなものだから。あくまで建築は「図」であっていいし、ランドスケープは「地」になる、それは後ろ向きな意味で言っているわけでは決してありません。人のアクティビティとか、季節の移ろいとか、光や風の変化とか、そういう動きのようなものがランドスケープにおけるフィギュアの特性で、建築のフィギュアとランドスケープのそれとは違うと思いたいですね。

光井:まさに骨格になれるのは外部空間であって、ランドスケープの骨格、空間というのは、100年、200年変わらない。建物と建物の間というような意識ではなく、まず外部空間のしっかりした骨格があって、そのまわりに建物が建っているという意識のほうが、景観のコントロールとか、将来に渡るものをつくるということでは、近道だと思っています。ランドスケープがグランド(地)になるケースもあるでしょうし、逆に100年単位で見れば、ランドスケープがフィギュア(図)になるケースもあるでしょう。それはどのようなタイムスパンで見るかによって変わってくるわけです。むしろ長い時間変わらない緑の骨格というのがあって、そのような姿がもっとも永続的なものになりうると思います。

池邊:芝浦アイランドのガイドラインを見ますと、強剪定をしないために樹木の間隔をきちんと取っています。地方自治体による緑化義務が本数や緑化率になってしまうのは、問題ですね。その点は、地方自治体にも理解を求めないといけない。数ではなくて、将来的な緑地の質の担保をしていくべきです。最近の緑化の傾向としては、多種多様な高木や中木や灌木を植え、さらにグランドガーバーや壁面緑化もやるというように、総花的になりがちですが、それが本当に美しいのかどうか難しい問題です。

東雲キャナルコート中央ゾーン
オカメザクラの中庭

池邊:URでは、公団の頃から、工場敷地だったところに、森をつくるとか、防災公園をつくったり、屋上緑化を先駆けて行なったり、様々な試みを行ってきました。住宅とランドスケープが一緒になって、まちをバリューアップしたということだと思います。東雲も、昔はあまりいいイメージはありませんでしたが、今では誰もが知っている住宅ブランドになりました。まちのブランドをつくるものがガイドラインであると思います。

光井:ガイドラインを使って、URがどんな街をつくろうとしているかが見えないと、ガイドラインが体をなさないわけです。ガイドラインだけがあって、この先どうなるかわからない、というのでは困る。そのゴールに向かってこれだけはやろう、というのがはっきりしている方が、参加する方としては、こんなことを考えて、こんなガイドラインができているんだな、じゃあそれに基づいて考えよう、ということになり、いい環境が生まれる可能性は高いと思う。

池邊:URが、自ら住宅をつくらなくなって、こういうまちをつくるぞ、というようなパワフルな主張が弱くなっています。我々としては、URが入れば街が変わる、と期待されるようなプロデューサーになりたいと思っています。建築家やランドスケープアーキテクトと協働して、もっといいものをつくっていこうとする姿勢が必要です。これからの景観ガイドラインについては、まちをつくる上で基本となるテーマについて、建築、造園、土木などの技術者と事業者が十分に議論をし、街の環境を長期的に担保できるものとしていければと思っています。

山本:かなり興味深い話ばかりで、あっという間に時間が来てしまいました。ありがとうございました。

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