街に、ルネッサンス UR都市機構

団地のポートレート

左:高根台ボックス住棟  右:高根台建替前の航空写真

永幡 幸光氏

今回は、定年退職後に取り組みはじめた写真を、このほど「団地のポートレート」と題した写真集として出版したアマチュア写真家の永幡さんに、UR賃貸・高根台団地にお越しいただき、撮影フィールドとしての団地の魅力について伺いました。
「まずじっくり話をしてから、体温とか、汗とかが伝わるくらいの距離まで近づいて撮影している」という撮影手法へのこだわりを、団地という場はどう支えているのでしょうか。

  • 永幡 幸光氏 Profile

(2011年12月 インタビュー実施)

アマチュアらしくテーマを追求

団地のポートレート
著者:永幡幸光
発行所:冬青社

私は、定年退職してから12年になります。それまで写真にきちんと取り組んだことはなかったのですが、退職後、千葉県船橋市の写真展に応募するようになりました。船橋市写真展では、日本を代表するドキュメンタリーカメラマンである北井一夫さんが、第一回から30年以上続けて審査をされているのですが、北井先生は、「アマチュアはアマチュアらしく写真を撮りなさい」とよくおっしゃいます。どういうことかというと、アマチュアには自由な時間があるけれど、プロは収入の心配もしなければいけないから不本意な仕事も引き受けるしそのための時間も必要になります。アマチュアにはそんな心配はいらないのだから、長い時間自分のテーマを絞って追求するという一点では、プロに勝るのではないかということです。ただ、長い間ひとつのテーマを追求するためには、なるべく日常性のあるもの、撮影者と被写体が近いものでなくてはいけません。例えば千葉県船橋市に住んでいる私が北海道をテーマにしても、交通費などのお金も、時間も必要になりますから、継続することは難しいですよね。
北井先生のアドバイスは、アマチュアには技術は求めない、まずテーマをきちんと決めて、個性的で継続性のある写真を撮りなさい。そして、身近な日常性を大事にしなさいということだと思います。こうして写真集にまとめてみると、私の取り組み方は、先生の教えを素直に守ったものかもしれませんね。

団地というテーマを選んだ理由

永幡 幸光氏

船橋市の写真展に参加してきたアマチュアカメラマンの有志で、船橋市写真連盟という組織をつくっているのですが、会員には、やはりテーマを絞って集中して撮るというスタイルの方が多くいらしゃいます。そんななかで、私が、なぜ団地をテーマに選んだかということなのですが、実は、今回の写真集に収められた写真の主な撮影場所になっている高根台団地の近くに船橋市坪井町という地域があって、最初はその坪井町の農村部を撮影していたのです。ちょうど私が写真を始めてから2、3年経った時に、坪井町で開発が始まりまして、農村風景から、森を伐採し、宅地に変わっていく様子を写真に収めていたのです。開発が終わった後の新しい街の住民の方を最後に撮影すれば、記録としてもきちんと継続性のあるものになるのではないかという発想もありました。ところが、戸建ての家が並ぶ街には、「ここでなら人と出会える」という場所がありません。ただ歩き回っているだけでは、撮影対象である人との出会いが少ないのです。
そんな理由もあって、坪井町での撮影をあきらめたときに訪れてみたのが高根台団地でした。団地には集会所がありますし、いろいろな行事もありますから、出会いの場を探しやすい。しかも地域全体が一つのコミュニティになっています。たまたま撮影させていただいた方からの紹介で、そのコミュニティに受け入れてもらうこともでき、さらに出会いの機会を広げることができました。北井先生が1980年代に船橋市内の団地をモノクロで撮ったものを一冊の写真集「80年代フナバシストーリー」にまとめていますが、そんな団地の30年後はどうなっているのかという興味もありましたので、団地で撮影を始めることにしたのです。

撮影フィールドとしての団地の魅力

高根台団地では、週に一回、「ふれあい喫茶」が行われています。集会所で行われるのですが、そこに集まる皆さんとコミュニケーションを取りながら撮影させていただきました。この集会所は天井が高く、室内に光が十分に入ってくるので、ストロボを使わないで撮影する私にとっては撮影しやすい環境です。団地内ではその他にもさまざまなイベントがあって、撮影の機会が多いのも魅力です。今回の写真集にも、ふれあい喫茶や、団地内の公園で毎年行われる夏祭り、春の桜祭りなどで出会った方の写真を載せています。餅つきや子ども祭りなども撮影のチャンスになりますし、そうしたイベントを通じて、自治会の方などとも知り合うことができて、自治会の広報紙「たかね」新年号巻頭にも、3年連続で私の写真を何枚か掲載していただきました。
高根台団地は、ほかの団地と違って敷地内に入りやすいのです。いわゆるオープン型の構造で、中央に道路が通っていて敷地を区切る仕切りもありませんし、通りぬけ禁止にもなっていない。こうしたオープンな環境も、私が高根台団地に長く通っている理由かもしれません。オープンですから団地外の方もたくさんいらっしゃいますし、開かれたコミュニティができあがっていることは、暮らしの場としても魅力的だと思います。
実は、ふれあい喫茶におじゃましたのは、運営の中心になっている民生委員会長を団地内で撮影したのがきっかけなのです。お話をしながら撮影しているときに誘っていただいたのですが、そんなふうに一つの出会いをきっかけにして人間関係を築くのは、団地以外ではできなかったと思っています。団地ならではのコミュニティに参加させていただいたことで、周囲の商店街や住民のみなさんとの接点もできました。だからこの写真集にも商店の人がずいぶん入っています。コミュニティのつながりを感じますよね。

高根台団地
高根台団地
高根台団地

団地のポートレート

「団地のポートレート」永幡幸光著より

この「団地のポートレート」という写真集は、私が3年連続で船橋市の写真展の最優秀賞を受賞したときに、北井先生が出版を勧めてくれたものです。自分がいいなと思うものや市写真連盟の神保君雄会長にいいと評価された作品、2600枚ほどの中から、構成に携わっていただいた北井先生や出版元の冬青社の高橋国博社長をまじえて選び出した作品を集めています。「団地のポートレート」というタイトルは編集会議で決められたのですが、実際は、「団地の」というには少し幅広い被写体を扱っています。団地以外で撮影した写真もまじっているのですが、そのことで逆に面白さがでているように感じますし、団地というキーワードがコミュニティの広がりを感じさせてくれるのではないかとも思っています。

最近は、プライバシーの問題もあって、人物写真を撮るアマチュアカメラマンはほとんどいなくなりました。私の場合は、真正面から人物を撮影しますので、モデルになっていただく方と合意が無い限り撮影はできませんし、写真集にまとめる時にも撮らせていただいた方全員に改めて許可をとりました。
撮影許可や写真集への掲載の承諾が得やすいという点では、団地というコミュニティの存在はありがたかったですね。

ただ、最後の一枚の写真だけはちょっと大変でした。モデルの少年が成長してどこへ向かうのだろうというイメージの広がりもあって、写真集の締めくくりにはぴったりだろうと、北井先生も、私も、こだわりの一枚だったのですが、この少年の親元が見つからなくて、通学で利用しているかもしれないし、誰か知り合いが通るかもしれないということで、高根台の駅で2時間ほど待ったのです。そこでやっとモデルになった少年の知人が見つかって、親元を訪ねて許可を得ることができたものです。そんな苦労もありましたが、写真集としては満足な仕上がりだと思っています。

団地は一期一会の出会いの場

写真集を見ていただければお分かりになると思うのですが、私の作品は、まずじっくり話をしてから、体温とか、汗とかが伝わるくらいの距離まで近づかせていただいて撮影しているポートレートばかりです。写真集にまとめるときも、ふつうは風景写真を挟んだり、被写体との距離を置いた写真を入れたりするのですが、そうした構成にはしていません。ですから、被写体に近づきすぎるとか、全部の作品の距離や目線が同じだから圧迫感を感じるという批判を受けることもありますし、時には、どうしてこんなに綺麗なモデルを汚い壁の前で撮るのだといった意見をちょうだいすることもあります。
ところが、例えば、真冬の風が強い日、たまたま街角で出会った少女を撮影するといった場合、その少女との出逢いは、たった一瞬の出来事です。日を改めて綺麗な背景の前に立ってもらう機会はありません。たまたま出会ったその日、その瞬間にしか撮れない写真ですし、その瞬間の出会いを写し撮りたいと思うのです。私自身、こうした撮影方法にこだわっていますし、撮影スタイルは写真を始めたときから変わっていません。
魅力的な人との出会いがあってはじめて撮影できる写真ですから、私にとってはなおさら高根台団地というコミュニティの存在が大きかったように思います。昨年、一昨年と週に1回以上通いました。写真集にまとめたことで少し撮影に訪れる頻度は下がっていますが、これからもぜひ私の写真の拠点にしたい場所ですね。

「団地のポートレート」永幡幸光著より

アートヒル高根台・高根台

緩やかな丘陵地の地形を活かして住棟を配置した高根台団地は、昭和36年に誕生しました。高台部分に低層住宅、谷筋沿いに中層のボックス住棟を配した空間構成により、自然地形に寄り添った景観を持つ団地です。
現在進んでいる団地再生計画によって、一部はアートヒル高根台として生まれ変わりました。丘陵地の地形を活かした配置計画を継承しつつ、新しく心地よいまちを実現しています。

アートヒル高根台
高根台地区現況配置図

[ アートヒル高根台・高根台 ]
住所:船橋市高根台1-1ほか
交通:新京成線「高根公団」駅徒歩5分~


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