街に、ルネッサンス UR都市機構

審査の風景2019

総評

池邊 このみ氏(ランドスケーププランナー)

 今年から「フォト&スケッチコンテスト」というタイトルに変えましたが、応募作品がレベルアップしたことに驚きました。うれしい悲鳴という感じです。特に、最初にイラストを見た時点で、イラストの半分くらいは受賞作品の候補だなという感じがありました。それと今年は、『東北の「いま」』を伝えた応募作品の中で、開通したばかりの鉄道の作品や馬追の作品、実際の生業の作品も多数あり、以前よりも幅広くなったと感じました。数年前までは、復興の槌音が聞こえるというような生業の音でしたが、普段の生活の生業の音は、毎日繰り返されているなかで聞こえてくるもので、まさに、復興の歩み賞「大漁 パパの約束」は、「パパ行ってくるよ」「パパ行ってらっしゃい」と言っている声が聞こえてくるようです。
 北上川の生態系も、ようやく豊かになってきて、もとからあったヨシ原の風景がたおやかに戻ってきている。その風景の、ひなびているけれど温かいという感じを、夕日だけどあえて墨絵のような形で伝える作品もありました。展災から8年が経ちましたが、皆さんの生活が自然に戻ってきたなということを改めて感じさせるコンテストだったかと思います。

大西 みつぐ氏(写真家)

 全体的な印象としては、「復興の歩み」というものが強く見て取れる写真やスケッチだったと思います。上位に入賞した作品は、距離感で言うと、近距離から中距離くらいの我々の暮らしの風景が多いと思います。これまでは、8年前の震災によって、家族が支え合い至近距離で生きていかなければいけないという困難や、それからの復興の槌音を遠距離で見ていたりといった距離感が、今回はもう少し広がって、近距離から中距離のそれぞれの暮らしをしっかり見つめて歩んでいることが、スケッチや写真から強く浮かんできました。
 まだまだ細かな復興が続いているなかで、そこに応募者の皆さんが気取らない形で、カメラやペンなり筆を向けているというのは、貴重な人間の記録で、大事な行為だと思っています。つまり、困難から立ち上がっていく途上に、我々人間が「表していく」ということは、それが歴史に直結していくことだと思います。そういうことを考えると、このコンテストは、非常に価値あることだと思っています。その中で、毎回参加されている方もいれば、新しく、自分の写真、自分の絵で表現してみようとする方もいて、少しずつ輪が広がっているような気がします。参加者全員が余すところなく、それぞれの「表したい」という気持ちを示している良い場だと思いました。

なかだ えり氏(イラストレータ)

 スケッチ部門は、例年以上に力強く、質の高い秀作が多かったと思います。応募数は、写真に比べると少ないものの、わざわざ道具を使い、時間をさいて描いた絵は、より思い入れが深いように感じました。その思い入れの深さのようなものが表現ができている作品が多くて、心に響くものが多かったです。今回は、三鉄やラグビー、イベントなどは写真の中にも結構あったと思います。お孫さんが三鉄の絵を描いて、さらにその様子をおじいちゃんが写真に撮っている作品がありましたが、ニュースで流れている「三鉄が開通した」ということだけではなくて、その奥にある人々の生活など、写真やスケッチの作品を通して、もう一歩深いところまで踏み込んだ復興の様子を知ることができた気がしました。報道されていないようなことをこのコンテストで教えてもらった気がしています。
 全体的に、笑顔とか、日常生活の営みというような、リラックスしたムードの写真が増えたように思います。最初のころは、緊張感、祈り、鎮魂という言葉がふさわしかったと思いますが、年々、少しずつですが、復興が進んできて、今回はだいぶ明るい笑顔が増えたようなリラックスムードを感じられたことが、作品を拝見していてうれしく思いました。

西田 司氏(建築家)

 今回、東北らしい風景、東北の生活がうかがえる風景ということが応募要項の中にもあったからか、かなり日常的な作品が多くあり、復興が日常に近づいてきていることを示しているように感じました。今回の審査で印象的だったのは、作品が「復興の歩み」であるかどうかといった議論が起こったことで、写真技術を競うコンテストに応募するような作品があり、そこで日々生活している人たちが普通に写真コンテストに出すモチベーションで応募されている作品も多いということを示していると思います。それはある種、復興が次のステージに近づいてきている感じがします。
 もう一つ印象的だったのは、お子さんの作品が最後の議論まで多く残っていたことです。彼らにしてみると、震災が起きたときはまだ実感がない年齢だったりもすると思いますが、それは、次の未来を考えていくときにも、着実に東北が前進している感じがして、それも踏まえて、今回は印象的な審査会だったと感じました。

復興の歩み大賞

[応援旗にメッセージ]

池邊 このみ
  • 釜石市でラグビーワールドカップの試合があったことは、東北の人たちにとってすごく大きなイベントでした。この作品は、応援イベントの後に来場者が、応援旗に「がんばって」というメッセージを書いていること自体がすばらしくて、そのことに心を打たれたことを描いた作品だと思います。この作品は誰もが認める。最初に見たときから心を打たれました。これは圧巻の作品ですよ。
なかだ えり
  • このスケッチは、圧巻でした。力があり質が高い。審査員全員が、他の作品を大きく引き離して選びました。イラストが大賞になるのはめずらしいことでうれしく思います。

復興の歩み賞(池邊 このみ選)

[真っ直ぐ祈りに向かって]

池邊 このみ
  • 設計士の意図を上手く取り入れた秀逸な作品で、水面に映る林立の陰が効果的です。
大西 みつぐ
  • 撮り方として、実は案外難しいですね。ワイドレンズですと、少しゆがんで写ってしまう。当然、このゆがみを直すことも後からできますが、この作品は、直さず応募されています。
なかだ えり
  • フレームを入れると見栄えがする気がしますが、技術的には簡単ではないのですね。シンメトリーな構図に、静寂と美しさを感じます。
大西 みつぐ
  • そうです。フレームを入れると難しくなります。例えば、地面に少しトーンが出ていますけど、真っ黒にすることもできるわけです。トリミングすることもできるし、いろいろなことができるでしょうけれども、あえてそのままで応募されています。

復興の歩み賞(大西 みつぐ選)

[大漁 パパの約束]

大西 みつぐ
  • 今回は「東北のいま」ということで、ストレートな市民生活を記録として捉えてほしいという希望がありました。この作品のように生活感がある写真は、ものすごく強いイメージを持っているんですね。一歩踏み込んで撮っており、画面がしっかり成り立っています。
池邊 このみ
  • 中央に映っている男性が本当に「パパ」っていう顔をしてて、これがなんとも言えず素晴らしいですね。
大西 みつぐ
  • そうなんですよ。そっけない顔をしていたら、ちょっと嫌なんですが、お母さんの顔がすこし見えているところもよいですね。
池邊 このみ
  • 笑っていてね。
西田 司
  • 福島の今がわかる作品ですね。
池邊 このみ
  • そうですね。いわきの小名浜港ですから、とても良い作品ですよ。

復興の歩み賞(なかだ えり選)

                                          

[がんばれ-!!]

池邊 このみ
  • 7歳のお子さんが緑化のことをテーマにして描いてくれたことがとてもうれしく思います。
西田 司
  • コメントがすごく良いですね。
なかだ えり
  • 平仮名で書いてあるのがかわいらしいです。
池邊 このみ
  • 「赤ちゃんの木が大きくなってみんなを守るんだ」といったコメントから、木が災害からまちを守ってくれることが親から子へきちんと伝わっていることもこのスケッチから伝わってきます。 

                      

復興の歩み賞(西田 司選)

[閉じゆく仮設商店街も復興の形]

西田 司
  • 閉じ行く復興商店街が、寂しく感じますが、復興の兆しも同時に感じられる作品ですね。
池邊 このみ
  • 復興の一場面で閉店するといったところにも焦点を当てていて、半分明るく捉えていることもすごく印象に残りました。

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