Profile

桑村 裕子

東日本賃貸住宅本部
ストック事業推進部 事業第1課

2013年入社。賃貸住宅の維持修繕に係る業務からキャリアをスタート。「MUJI×UR」などの企画にも関わってきた。その後、東日本大震災の災害公営住宅に係る業務を経て、2021年より現職。ヌーヴェル赤羽台建替え事業のマネジメント業務を担当している。

20年を超えて続く、一大プロジェクト。

旧・赤羽台団地は、1962年の建設当時からその斬新さに大きな注目を集めてきた。特徴の異なる建物を組み合わせて単調さを避ける「直行配置」や、中央に公園を抱える「囲み型配置」。また、2020年に団地としては初めて登録有形文化財に登録された「スターハウス」と呼ばれるY型ポイント型住棟も取り入れていた。しかし、老朽化には抗えない。耐震面の課題も出てきた。そこで、URが目指す「多様な世代が生き生きと暮らし続けられる住まい・まちの実現」のためにも、多世代が交流できる都心近接住宅地として建替えられることになった。建設から38年が経過した、2000年のことだ。

最終コーナーからの参加。

着手からすでに20年あまり。「赤羽台団地」から「ヌーヴェル赤羽台」への建替えは順調に進み、完成したA~D街区はグッドデザイン賞を受賞、すでに2,114戸を擁する瀟洒な建物群が建ち並んでいる。残るはヌーヴェル赤羽台としてはF街区のみ。F街区が完成すれば、さらに約660戸の賃貸住宅が供給されることになる。この大規模プロジェクトに、2021年4月から参加したのが桑村だ。大学では都市再生やコミュニティ再生について学び、「団地再生をやりたくて」URに入社してきた。今回の異動は、まさに本望。ただ、これまでの経験も大いに役立っているという。「入社以来、賃貸住宅の管理・ストック活用や災害公営住宅の設計担当など、さまざまな経験を重ねてきました。おかげで、モノを見る視点が複眼的になったと感じています。本当に大切なことは何なのか、いくつもの角度から確かめ、速やかに判断し、プロジェクトやミッションのイメージを的確につかむ。そのスキルが、今も活きていますね。」

居住者の目線で、新しい風を吹かせる。

「ヌーヴェル赤羽台」には、単なる建替えに留まらない多様なゴールが求められている。都心近接住宅地として、ファミリー層のニーズに応えること。地域活性化の機能を導入すること。魅力的な都市空間として「赤羽台の森」を創出すること……。先人からプロジェクトを継承した桑村に、その中身を語ってもらおう。「『新しいけれども懐かしい』というコンセプトは当初からありました。そのため住棟配置においては、縦横の道路と緑の軸による緩やかな囲み配置を採用。旧赤羽台の骨格を継承しています。また、イチョウ並木をはじめとする樹木の原風景も残すなど、長年住んでいただいている方々の想いに応える団地を目指しました。さらに、旧赤羽台団地のコミュニティを継承するため、居住者の方々との意見交換も積極的に実施。いずれの取り組みも『徹底してお住まいの方の目線に立つこと』が核心です。」
「ヌーヴェル赤羽台」には、もうひとつ先進的な取り組みがある。それは、複数の専門家と協働しながら設計を行っている点だ。建築家、設計事務所、デザイナー、そしてURによる「デザイン会議」が設置され、多様な個性が共存するまちなみを形にしてきた。こうした挑戦が、桑村の表現を借りれば「新しい風」を吹かせた。2006年の入居開始から現在に至るまで、「ヌーヴェル赤羽台」は屈指の人気物件となっている。

住み続けたくなる、コミュニティを。

プロジェクトの最終コーナーでバトンを渡された桑村は、いわば司令塔のポジションにある。その業務の多くは、団地再生事業を前進させるための「調整役」だ。「行政、誘致した大学、地元住民、社内関係者等との連携は不可欠です。また、同時に複数の工事が進行するため、スケジュールや関係者の意見を調整することも重要です。苦労も多いですが、常に全体の状況を把握し、将来への影響を見通したうえで方針を定めるように心掛けています。」
調整業務と並行して力を注いでいるのが、コミュニティマネジメントの実践だ。「ヌーヴェル赤羽台」は、子育て世代を含むファミリー層にも人気が高い。一方で、若い世代がなかなか定着しないという課題もある。長く住んでいただくためには何をすべきか。その施策のひとつがコミュニティマネジメントだった。「F街区にはコミュニティ拠点を設け、広場も形成します。コミュニティ拠点には、オシャレなカフェなど開設予定。団地内外の人々が気軽に交流できる場にしたいと考えています。広場では、UR、東洋大学、地元住民によるイベントの開催など、さまざまな世代の人が集える仕組みづくりを考えています。」

この経験を、いつか次の団地で。

大学を誘致したことも、まちづくりにおいては大きな財産となった。桑村は、誘致した東洋大学のライフデザイン学部との連携に積極的に取り組んでいる。大学の研究内容に、団地の資源を組み合わせて新たに何ができるかを探っているのだ。ここで吸い上げた意見やアイデアは、いずれ具体的な施策へと落とし込んでいく予定だ。さらに桑村は、これから建設される建物の使い方・使われ方といった設計仕様の検討も設計部門と協力して行っている。実は桑村は「いつか団地再生を手がける時のために」と、一級建築士の資格を取得済み。設計そのものは外部に委託するのだが、資格勉強で得た知見はもちろん役に立っている。「着工した20年前とは、社会情勢も働く環境も大きく変わってきています。それらを踏まえた提案をしていきたいですね。たとえばテレワーク対応の住戸や、家事負担を軽減できる間取り、あるいはデジタル化に対応した集会所利用の仕組み。今とこれからを見据えた住まいを検討中です。」
F街区の入居開始は2023年夏。そして、約四半世紀かけたプロジェクトは2024年の夏に完了する予定だ。「最後まで見届けたい想いはあります。もしそれが叶わなかったとしても、ここで得たノウハウやナレッジを継承し、他の団地再生プロジェクトに活かしていきたいですね。でも、それはまだ先の話。この場にいる限り、全熱量を注いでプロジェクトを推進していきますよ。」


※取材時の情報となります。