Profile

久保田 琢斗

西日本支社都市再生業務部
中国まちづくり支援事務所
広島都市部再生課

2015年入社。入社後は、主に震災復興に関する業務に従事。2018年よりUR賃貸住宅における団地再生事業を経験したのち、2021年より現職。福山市のコーディネート業務や広島市内の再開発事業を担当している。

福山駅前の「スポンジ化現象」

中国地方で4番目の人口を誇る福山市、その中心部である福山駅は、日本百名城の一つである福山城に隣接し、新幹線のぞみが停車する瀬戸内エリアや備後圏域の玄関口だ。しかし近年、都市のスポンジ化現象※が進行していることを機に、2017年、URは福山市からの要請を受け、福山市が掲げた「福山駅前再生ビジョン」の実現に向けた支援を開始した。

※大型商業施設の撤退や郊外型店舗の進出等により、都市内部で空き店舗や空き地がランダムに数多く発生し、多数の小さな穴を持つスポンジのように都市の密度が低下すること

地方都市再生という
新たなチャレンジ

URは、「福山駅前再生ビジョン」の実現に向け、これまでになかった新たな支援を実施している。その中でも代表的な支援が、民間企業と連携したリノベーションまちづくり支援だ。本来の「リノベーションまちづくり」は、借り手の付かない空き物件を安価で借りてリノベーションを行い、最小限の投資で素早くまちを活性化させる事業だが、借りることが難しい物件、例えばオーナーが物件を売却したい場合、投資額が大きくなることでリスクが増大し、リノベーションまちづくりが進まない状況になってしまう。URは、そのような物件に対し、土地を取得して自らがオーナーとなることで、民間企業のリスクを抑え、リノベーションが実施できる環境を作り出している。2019年12月にはこの支援の第一号として、ゲストハウスがオープンした。このURの支援も契機となり、福山駅前には様々なリノベーション物件が誕生し、着実に「リノベーションまちづくり」が進展している。また、民間の不動産だけではなく、道路や空き地などの公的空間を活用したまちづくりの支援も実施している。この支援は、地元の方々と連携し、一定期間、道路や空き地、青空駐車場を活用して、「居心地がよく歩きたくなるまちなか」を実験的に作り出すものだ。地元の方々と一緒に考えた公的空間の新たな使い方を社会実験という形で具現化させることで、新たな空間の使い方の検証やまちの魅力の再確認、まちづくりの将来像の共有などが可能となった。これら福山での支援は、従来の都市再生のようなスクラップアンドビルドでなく、今あるものを再利用(リノベーション)して、小さな単位でできることから実施し、将来の大きなまちづくりへつなげていくといった、URの新たなチャレンジである。

「居心地が良く歩きたくなる」
まちへ

「「福山駅前再生ビジョン」の実現に向け、民間企業と連携したリノベーションまちづくり支援や、道路や駐車場を活用し、居心地の良い空間創出のための社会実験を並行して実施することで、福山市が福山駅前で目指す“ウォーカブル”な空間形成を目指しています。」本計画を担当する久保田が話す。
では、なぜ、今「ウォーカブル」なのか。
「都市の街路空間というのは、従来、車が中心でした。それを人中心の空間に再構築・利活用しようという考えがウォーカブルのベースにあると思います。人が集い憩い、多彩な活動を行う場としてのまちづくり。それが都市に新たな活力を生み、持続可能なまちの実現にもつながっていく。単に機能性や利便性の追求に留まらず、にぎわいを生むコンテンツ(ソフト)を創出することで、ウォーカブルな街路空間を形成することが、エリア価値を高めていくと考えています。URが実施した実証実験やリノベーションまちづくりも、ウォーカブルなまちづくりの一環なのです。」

ソフトを起点とした、
新しいアプローチ

「ウォーカブル」なまちづくりについて、将来ビジョンや具体的な進め方は模索する最中だ。久保田は現在、その実現に向けて何に取り組んでいるのか。
「そもそも『居心地が良く歩きたくなるまち』とはどのようなものか、明快な定義があるわけではありませんし、人それぞれイメージも異なってきます。その中でどのようなアクションを行っていくのか。これまでの取り組みの踏襲になりますが、道路や駐車場を利用した実証実験を積み重ねることで、ウォーカブルで居心地の良い空間のあり方や可能性を見出していく。また、リノベーションの誘発や促進をしていくことで、地域に、人と投資を呼び込み、にぎわいを創出していく。まずはそれらを推し進めたいと思っています。まだまだ始まったばかりなので、引き続き新たなチャレンジを積極的に進めていきたいですね。」
また、この「ウォーカブル」なまちづくりは、非常に画期的な側面を持つと言う。「ウォーカブルなまちは、地元の人たちとの会話を重ねることで、その姿が見えてくると思います。こうしたアプローチは非常に新しい試みです。従来まちづくりは、事業計画をもとに、民間をはじめとした周囲の関係者を誘導していく形でした。トップダウンでハードをつくる、これがいわゆる「まちづくり」だと捉えられてきました。しかし今回は、まちを利用する人たちや、地元の人がどのようなまちにしたいか、それが出発点にあります。つまり、ボトムアップのまちづくりであり、そこで求められるのは、ウォーカブルなまちに相応しいコンテンツなど、ソフトを起点に考えることだと思っています。これは、これからの地方都市再生に必要なアプローチと言えると思います。」

広島を、強く活力ある都市に

久保田は、福山市の他に、広島市の再開発事業にも携わっている。
都市再生緊急整備地域にも指定される「広島紙屋町・八丁堀地区」に位置する「基町相生通地区」。広島市営の立体駐車場(数百台規模)の老朽化の課題等をきっかけとして始まった、再開発事業である。地権者や行政等とともに原爆ドーム周辺の景観改善等も絡めて事業化に向けた検討を行い、2021年8月に官民連携のリーディングプロジェクトとして、連携・協力し、事業を推進することの合意に至った。まさにスタートラインに立ったところだ。再開発の対象となるのは、約7,500㎡の広大な敷地。そこに再開発のシンボルであり、広島都心の新たな顔となる、同地区最大級の31階建て、高さ約160mの高層ビルを建設する。商工会議所が移転するほか、店舗や駐車場が入り、中層階にはオフィス、高層階はホテルにもなる。久保田は着任以来、再開発事業の事業組成のために、関係権利者の意向を踏まえながら、事業を推進する上で必要となる約定、資金計画の整理や作成、広島市への都市計画提案資料の作成など、多岐にわたる業務に従事してきた。約7,500㎡という広大な敷地の地権者には、広島市、電力会社、新聞社、不動産管理会社、広島商工会議所など、多くが名を連ねた。「関係者にいかに理解・納得をいただくか、その落としどころを探していく作業が続きました。変電所の機能を持続させたまま建物を更新すること、など地権者の意向は様々です。また、関係する担当者も、再開発事業は始めてという方々が多いので、お互い協力して進めています。私も再開発事業は初めての経験ですので、シンプルですが、ご要望は1回呑み込み、とにかく会話を重ねること、これが重要だと実感しました。会話を重ねることで、お互いに理解が深まっていく。相互理解がプロジェクトを動かすのだと実感しました。」本プロジェクトは、まもなく都市計画が決定され、22~23年度着工、高層棟・変電所棟は27年度の完成、駐輪場棟は29年度の完成を目指す。広島市内に生まれる新たなにぎわい――、それをつくり出すために、久保田の挑戦は続いていく。


※取材時の情報となります。