Profile

新谷 英朗

東日本賃貸住宅本部 埼玉エリア経営部
ウェルフェア推進課

2010年入社。多摩地域のまちづくりに関するコーディネートに従事した後、人事部や技術・コスト管理部といった多様な経験を積み、2019年~2021年に埼玉エリア経営部に従事。埼玉県における住戸の商品企画、団地活性化、ミクストコミュニティ推進等を担当。

さらに「生き生きと暮らせる団地」へ

埼玉県北本市。ここに、URの5階建てを中心とする71棟・約2,000戸の北本団地がある。1971年に建設され管理開始から50年経過する賃貸住宅だ。当時の市長が「北本団地は市の宝」と述べたほどに存在感は大きい。築50年ながら、ゆったりとした住棟間隔と広大な芝生、7つの公園、防災施設を備えた広場など、その魅力は健在だ。世代間交流が活発で、都心への通勤にも至便であるなど、東京のベッドタウンにおける団地の理想像とされてきた。
北本団地のような「メインストック」では、建替えだけではなく、古い団地を活かしつつ、新しいモノ・コトの導入によってさらに「生き生きと暮らせる団地」へ進化させる試みも行われている。北本団地においても、UR、公共団体、民間企業などが協働し、団地から地域を活性化していく斬新なプロジェクトが始まっていた。その中心メンバーの一人として参画したのが、入社12年目の新谷英朗だ。

課題解決に向け、5者が集結

「北本団地は築年数こそ経っているものの、立地、緑・公園・商店街等がある環境、3万円台からの家賃など、住まいとしては魅力的です。一方で、アーケード商店街は空洞化が目立ち、居住者も高齢化している。このまま放置すれば、団地全体が衰退する危機感を覚えていました」。
そこで新谷は、商店街の空洞化状況を仔細に分析した。
「わかったのは、住宅付店舗(1F店舗、2F住宅)の空きが増加していること。また、団地に若者世代を呼び込み、多世代で交流できる拠点づくりが必要ではないかと考えました」。新谷は、北本市長から「暮らしの編集室」を紹介された。北本市を拠点にまちづくりに取り組むローカルプレイヤーだ。その人脈で、民間企業の良品計画とつながった。良品計画が展開する無印良品の住空間事業「MUJI HOUSE」は、URとすでに提携している。こうして、UR、北本市、暮らしの編集室、良品計画、MUJI HOUSEの5者が集結。団地のみならず、地域活性化までも視野に入れたプロジェクトがスタートしたのである。翌2020年3月にはURと北本市で、まちづくりに関する連携協定が締結された。

※写真右:中庭を経営している岡野 高志(おかの たかし)さん

「住宅付店舗」の新しいカタチとは

新谷がまず取り組んだのが、住宅付店舗の新しい使い方である。どのようなカタチなら、団地と地域の活性化につながるか。新谷は関係者とプランを練った。検討を重ねた結果、2階住宅を若者がシェアして暮らせるようにMUJI×URリノベーション。1階店舗は、2階で暮らす若者による地域活性化のための多様な活動の場とした。北本市は、1階店舗の改修費を支援するため、ふるさと納税型クラウドファンディングを開始。暮らしの編集室は、入居者募集と1階店舗の改修・運営を担当。良品計画は、1階店舗の活動支援や情報発信を担った。それぞれの取り組みからもわかるように、プロジェクトの核心は住宅付店舗の新しいカタチにあった。プロジェクトが進む中で、1階店舗のあるべきカタチは次第に見えてきた。決定的なヒントは、1階での活動をメインで行う入居者がジャズミュージシャンとカフェ経験者の夫妻だったこと。そうして生まれた新しいコミュニティスペースが、シェアキッチン&ジャズ喫茶「中庭」だった。

公平性が見出す、最善の着地点

順調に進んだように見えるプロジェクトだが、多数の関係者が関わることの難しさも感じたと新谷は言う。「目標は同じでも、公共団体、民間企業、ローカルプレーヤー、URと、それぞれ文化もルールも異なります。関係者それぞれの強みを活かし、連携できるような役割分担と体制づくりが求められました。意見や考えがぶつかれば、何度も意見交換を重ねることで着地点を見出しました。団地というフィールドに加え、独立行政法人として公平性・中立性も有するURの存在が、全体をコーディネートするのに活かされたのではないかと思います」。もちろんURだけではなく、5者がそれぞれに力を発揮してこその成果だ。
「特に、暮らしの編集室に巡り会えたことは大きかったと思います。地域活性化においては、地域に根差したローカルプレーヤーの存在が重要です。暮らしの編集室は、プロジェクト推進の大きな力でした。」

団地は、社会課題の解決フィールド

「中庭」は完成したが、プロジェクトが終わったわけではない。むしろ、本格的に始動したともいえる。1階店舗で具体的に何を行い、何を発信していくか。暮らしの編集室による運営のもと、ジャズライブや子ども食堂、健康相談併設のお茶会、大学生によるかき氷販売など、さまざまな企画が実施されている。2店舗目として、シェアアトリエ&ギャラリー新設の構想もある。
「団地だけではなく地域まで活性化できるように、拠点である『中庭』をオープンな場所とすることで、団地の役割や機能を多様化したいと考えています。また、『中庭』からの情報発信と併せて、若者向け住戸の供給による呼び込みも戦略的に組み合わせて進めています。」今回のプロジェクトは反響も大きく、さまざまなメディアに取り上げられた。団地の自治会長や北本市長からも、期待の声が寄せられている。新谷は改めてURの存在意義を強く感じたという。
「団地という場では、様々な魅力がある一方で、高齢化や人口減少、単身世帯の増加、地域活力の減衰など、多くの社会課題が顕在化しています。つまり、団地活性化や団地再生の取り組みは、地域の課題解決につながっていく。URは団地を約70万戸管理していますが、それはすなわち、社会課題の解決にチャレンジできるフィールドを有しているということではないでしょうか。」
団地という社会課題の最前線で、新谷のチャレンジは続く。


※取材時の情報となります。