Profile

金澤 圭祐

東日本都市再生本部 都心業務部
事業推進第3課

2011年入社。UR賃貸住宅の法人営業からキャリアをスタートさせ、その後、人事、まちづくり、国土交通省への出向とさまざまな経験を重ね、2021年に、「虎ノ門二丁目地区第一種市街地再開発事業」を担当。

「国際競争力の強化」
を目指して

1990年代以降、急速な情報化や国際化といった社会経済情勢の変化に対応したシンガポール、中国の上海や香港をはじめとするアジア諸国の都市の成長が顕著になる中、日本はバブル経済崩壊以降の景気低迷期が続き、世界的に見て東京は魅力ある都市としての地位を脅かされる立場になっていた。そのような背景があり、日本の都市の国際競争力強化を国の政策として推進するため、都市再生特別措置法が2002年に施行された。その後、この法律に基づき、都市の国際競争力の強化を図る上で特に有効な地域が「特定都市再生緊急整備地域」として政令で指定されることになった。東京都心部は、特定都市再生緊急整備地域を中心とする都市の再生により、劇的な進展を遂げてきており、その中でURは国の政策実施機関として役割を担っている。

虎ノ門の課題とURの参画

URは国の政策実施機関として、日本全国で「都市再生」を手がけてきた。
東京都心部においては、特定都市再生緊急整備地域内に位置する大手町エリア、品川駅エリアや渋谷駅エリアをはじめ、多くのプロジェクトに参画してきた。虎ノ門二丁目で進められる都市再生もその一つである。
虎ノ門二丁目には元々、虎の門病院、国立印刷局、共同通信会館が立地していた街区(以下、「虎ノ門二丁目地区」という。)があったが、いずれの建物も竣工から相当の年月が経過しており、更新時期を迎えていた。加えて、周辺道路は、不整形な形状の交差点や高低差のある地形により、歩行者のアクセス性が悪い等の課題を抱えていた。それらの課題解決を目指した虎ノ門二丁目地区の地権者の方々が再開発協議会を2009年に発足させた。虎ノ門二丁目地区では、病院機能を中断させることなく建物更新を実現し、更に周辺街区との歩行者アクセス改善もするという難しい課題を抱えていたこともあり、再開発協議会からURに対し事業化検討への参画要請があった。その要請を受けたURは、地権者の方々と共に再開発の検討を進めていくことになった。URが参画要請受けてから5年の検討期間を経て、2014年に市街地再開発事業の施行が認可され、URは代表施行者として事業を実施していくことになる。

大規模病院の機能更新を可能とした
一体的かつ段階的な整備

虎ノ門二丁目地区の市街地再開発事業においては、虎の門病院、国立印刷局、共同通信会館を含む街区を一体的かつ段階的に整備することで、虎の門病院の機能を停止することなく施設の更新を図ることが求められた。そこで、まずは国立印刷局の建物を解体し、そこに新しい虎の門病院の建物を建設する計画とした。そうすることで、虎の門病院は機能を停止することなく新しい建物に移転することが可能となった。その後も、順次、建物や歩行者デッキ等の都市基盤の更新を継続している。このように一体的かつ段階的に整備するには、既存建物の解体と新たな建物等の整備のスケジュールを綿密に練り、関係者とあらゆる調整を重ねながら事業を推進する必要があることから、URには公平中立の立場から事業全体を束ねる役割が求められた。
この事業で整備される主な建物は病院棟(虎の門病院)と業務棟である。
病院棟(虎の門病院)は、地上19階/地下3階建てで高さは約99mで、2019年に竣工し開業した。外国人対応窓口や多言語対応等国際水準の医療サービスを提供し、都内最高レベルの災害時治療・収容拠点として整備した。また、自立性の高いエネルギーシステムにより、災害時でも医療機能の継続が可能だ。
業務棟は、地上38階/地下2階建てで、高さは約180mの計画で、2020年に着工した。延べ床面積約18万700㎡の大規模オフィスビルである。中高層部に高水準・高機能のオフィスと、低層階には外国人ビジネスマンやその家族への生活支援機能等を整備する。病院棟(虎の門病院)と同様に、災害時でも事業が継続できるオフィス環境を構築し、災害時の帰宅困難者収容拠点としても機能する。URは再開発協議会の事務局、さらに市街地再開発事業の代表施行者として、地権者や不動産デベロッパー、ゼネコン、周辺街区事業者、行政など、立場も意見も異なる関係者との合意形成を図りながら、これまで事業を推進してきた。そして、2021年4月、金澤もプロジェクトメンバーとして参加することになった。

求められるのは、合意形成

金澤は、以前、北海道のとある都市においてまちづくりのコーディネートを担った経験を持つ。当時を振り返り、「地元の方々のまちに対する想いに寄り添うことの大切さを肌で感じた」と言う。今回、金澤が担うのはURの重要な役割の一つである、関係者との合意形成だ。その一つに、管理運営に関するものがある。「まちづくりは、建物等が竣工したらそれで終わりという事業ではありません。まちづくりによって整備された建物等が、そこで生活する人々にとって快適なものであり続けるために、どのように管理運営されるかというのも非常に大事な話です。具体的には、例えば複数の権利者によって区分所有される建物においては、共用部分の管理や使用のルールを定めておく必要がありますが、関係者それぞれの立場から様々な意見が出てきます。さらに、それぞれの意見には合理的な理由がある場合がほとんどです。それらの異なる意見を踏まえて合意形成を図るためには、一つひとつの意見と真摯に向き合い、議論を積み重ねて相互理解を深めていくことが重要だと考えています。相互理解を深めるための筋書きを立て、試行錯誤を重ねながら合意形成を図っています。」

主役は、
そのまちで生活する人々

金澤が、関係者との合意形成に多くの時間を費やしているのは、虎ノ門二丁目地区においては地権者等の関係者全員で合意しながら事業を進めていく方法を採用しているからだ。「困難な場面もありますが、とにかく議論を重ねるしかない。『このまちをより良くしていきたい』という想いを関係者と共有し、その想いのもと、粘り強く、地道に、関係者の意見をすり合わせ、合意につなげることを日々繰り返しています。」合意形成に向けたタフなネゴシエーションともいえるが、金澤にとっては、それがまちづくりで最も重要なことであり、また自身が大切にしている部分でもある。虎ノ門二丁目地区の市街地再開発事業も、かつて関わった北海道でのまちづくりも、金澤にとって異なるものではない。
「まちづくりに携わる上では、そこで生活する人、つまり地権者や地元住民、就業者、来街者といったそのまちに関係する多様な方々の想いや考えに耳を傾け、それを大切にすることに強いこだわりを持っています。まちづくりの主役は、そのまちで実際に生活する方々であり、URの役割は、公平中立の立場からまちづくりに携わって、その方々の想いや考えを実現することだと思っています。日々の仕事で、困難な場面に遭遇したときは、この原点に立ち戻るようにしています。」金澤は、虎ノ門二丁目地区の事業が完遂したとき、「URがこの事業に携わってくれて良かった」と関係者に思ってもらえることを目標に、今日も、ひたむきに業務に取り組んでいる。


※取材時の情報となります。