高齢者が賃貸物件を借りにくい理由

高齢者が賃貸借契約で敬遠されるのは、事故や孤独死のリスクのほか、家賃を安定して払ってもらえるかという不安があるため。保証人を立てにくいこともネックのようです。

●事故や孤独死のリスクがある

高齢になると若いころと比べて住居内での事故や孤独死のリスクが高くなると考えられます。万が一契約者が認知症になった場合や、心身の不調が原因で、火の不始末や水道の出しっ放しなどのトラブルを起こすのではと、貸主（大家さん）は心配するようです。事故により、処理対応や金銭面で大きな負担が発生した事例もあることから、高齢者と賃貸借契約を結ぶことに拒否感を示す貸主や管理会社もいるようです。

近年は一人暮らしの高齢者が増える傾向にあります。配偶者や同居人がいないと体調の変化や異変にすぐ気付いてもらうのが難しいため、孤独死の可能性が高まることが心配されます。もしもの場合、遺品処理に手間がかかり、事故物件として資産価値が下がるリスクが生じ、新たな入居者を見つけるのが大変になる可能性もあります。そのため、とりわけ一人暮らしの高齢者との契約を、物件のオーナーの立場にある人は避けたいと考えるわけです。

●経済面の不安がある

高齢になると経済力も懸念材料になります。定年退職した後は、年金以外の安定した収入を得にくいため、貸主や管理会社は家賃を払い続けてもらえるか不安を感じることもあるようです。また、健康状態があまり優れない高齢者の場合は、医療費や介護費など支出がかさむことから、家賃の支払い能力が低くなるのではと敬遠されることもあるようです。

ただし、契約の際に収入や貯蓄が十分にあるという書類を提出することで、契約がスムーズに進むケースもあるようです。条件に合った物件が見つかったら、まずは仲介している不動産会社や管理会社に、入居条件や審査の内容について相談してみると良いでしょう。

●保証人がいないことがある

通常、賃貸借契約を結ぶ際には、連帯保証人を立てる必要があります。借主が家賃を滞納したときなどのリスクに備えるためです。一般的に家族や親族が連帯保証人になりますが、高齢者は兄弟姉妹なども高齢なため、依頼できる家族や親族が少なくなります。特に連帯保証人を親族以外で認めていない物件などは、契約が難しくなることがあるかもしれません。

高齢者が賃貸物件をスムーズに借りるコツ

高齢者が賃貸住宅で暮らすには、貸主に安心して貸せると判断してもらえるかどうかが重要なポイントになります。親が高齢でもスムーズに借りるためのコツを紹介します。

●身内に協力してもらう

子供など家族と近いエリアにある物件に親が住む、もしくは、家族の誰かが協力して親の近くのエリアに住むことを選択できれば、親の体調が悪くなったときも助けやすくなります。また、子供が働いていて一定の収入があれば、連帯保証人として認めてもらえる可能性もあります。緊急連絡先となる身内が近所にいて連帯保証人になることで、貸主や管理会社が感じている親の健康面や経済面の不安を軽減でき、契約がしやすくなるかもしれません。

●家賃債務保証制度を利用する

連帯保証人になれる家族や親族が見つからないときは、家賃債務保証制度を利用することで、契約をスムーズに進められる可能性があります。一般財団法人高齢者住宅財団が行っている“居住支援サービス”の中に、家賃債務保証があります。この制度を利用して保証料を支払うことで連帯保証人になってもらうことができます。

保証料は２年間保証の場合で家賃の35％。保証の対象となるのは滞納家賃と原状回復費用です。家賃債務保証制度を利用できれば、子供など身内に頼ることなく入居審査に通りやすくなります。ただし、この制度を利用できるのは、同財団と基本約定を締結している賃貸住宅に限られることに注意しましょう。

●高齢者向け賃貸住宅を探す

高齢者向け（シニア向け）賃貸住宅を探すのも方法の一つです。高齢者向け賃貸住宅とは、介護の必要性が低い高齢者のための賃貸住宅のことです。バリアフリー対応で、高齢者が暮らしやすい構造になっています。一般的な賃貸住宅と違って、年齢や収入などを理由とした入居制限の心配は少ないでしょう。ただし、賃貸借契約の際に身元引受人が必要になる点に注意しましょう。前述の家賃債務保証制度が利用できる物件もあります。

高齢者向け賃貸住宅には、緊急時に駆け付けてくれたり、健康相談ができたりする物件もあります。老人ホームと違って、門限や外出などの制限がないため、自由なライフスタイルを維持できるのがメリットです。サービス付き高齢者向け住宅（サ高住）も高齢者向け賃貸住宅の一つで、国土交通省と厚生労働省が中心となってスタートさせた制度です。床面積や設備などに基準が定められ、安否確認と生活相談のサービスにより、高齢者が安心して暮らせるよう配慮されています。

高齢者が住みやすい賃貸物件の選び方

高齢になった親が住むための賃貸物件を探すとき、どんなことに注意すれば良いでしょうか。部屋の広さや共用部分、周辺環境など、選び方のポイントをまとめてみました。

●家族と近居する

「近居」とは、親世帯と子世帯が行き来しやすいよう、お互いに近い場所に住むことです。先に述べたように息子や娘、ほかの家族が近くに住んでいれば、親が賃貸物件を借りるときに入居審査でプラスに働く可能性があります。また、実際に一人暮らしの父親や母親に何かあったときでも、子供がすぐに駆け付けられる賃貸物件を選ぶと何かと安心です。契約前の手続きをスムーズにしやすく、入居後の親の暮らしも見守れる、近居の物件を選ぶのがおすすめです。

近年、親が子供の住まいの近くの高齢者向け賃貸住宅に転居する、近居のケースが増えているという調査結果もあるようです。近居が増えているのは、同居と違って程良い距離で、お互いプライバシーを守れるのが理由の一つ。「子供にはなるべく頼りたくない、世話になりたくない」という親の意向も関係しているようです。

●バリアフリーになっている

高齢になると、部屋の中でつまずいたり滑ったりしやすい場所があると、けがのリスクが高まります。内見の際は、室内に段差がなく、手すりが設置されているなど、バリアフリー対応になっているか、実際に入居する親と一緒に確かめられると良いでしょう。加齢とともに足腰が弱くなることを考えると、２階建てやメゾネットタイプではなく、ワンフロアですべての用を済ませられる部屋を選ぶのが前提になりそうです。

廊下は車いすでも通りやすい幅があるか、床には滑りにくい床材が使われているかもチェックしましょう。賃貸マンションや賃貸アパートの２階以上に住む場合は、共用部分にエレベーターなどの住宅設備が整っているかどうかも重要。建物の出入り口にスロープがあることや、火事や地震などの災害時に安全に避難できる経路があるかも確認しましょう。

●生活しやすい広さと間取りになっている

部屋の広さや間取りも重要です。高齢の親にとって広過ぎる住まいは、掃除や管理に負担がかかる可能性があります。生活しやすい適切な広さがどのぐらいかを考えて選びましょう。室内の移動で負担がかからないこともポイント。寝室やリビングからトイレや浴室などの水まわりへアクセスしやすい生活動線があるか確認することも大切です。高齢者は荷物が多い人と少ない人で差があるため、持ち物に合った収納があるかもチェックしましょう。

●周辺環境が整っていて暮らしに不便がない

快適な生活のために欠かせないのが、周辺に高齢者にとって便利な環境が整っていること。例えば、病院が住まいから通いやすい場所にあると安心です。高齢になると体の不調を感じることが増え、病院に通う頻度も高くなる傾向があるため、医療機関へのアクセスが良いエリアの賃貸住宅を選ぶと良いでしょう。ずっと通っている、かかりつけ医が決まっている場合などは、その病院に通いやすいエリアで賃貸住宅を探すという方法もあります。

徒歩圏内にスーパーマーケットやドラッグストアなどがあり、買い物をしやすいかどうかもチェックしたい注意点です。また、今は親がマイカーを持っていても、将来的に免許を返納し、乗らなくなる可能性もあります。電車やバスなど公共交通機関の駅や停留所が徒歩圏にあると、本人が運転をしなくなっても不自由を感じなくて済むでしょう。郊外の住宅街の物件なら、公共の移動手段を利用しやすいかどうかは大切な要素になります。

たとえ、病院や商業施設が近くにあっても、途中で歩道橋を渡ったり急な坂道を上ったりしなければならないと、高齢者にとって負担が大きくなります。理想は平坦な道で行き来できる場所にある物件です。事前に周辺環境の情報も集め、現地で病院や商業施設までのルートを実際に歩くなどして確認できると良いでしょう。

●これまでの友人・知人との交流が持てる

高齢になってから、友人や知人のいない地域に引っ越すと、新たに親しい人間関係をつくるのは意外と難しいものです。子供など身内だけのつながりでは、どうしても閉じこもりがちになり、心身の老化が進んでしまう可能性があります。できれば、これまで趣味やボランティアなどの活動を通して、親しくしてきた友人や知人との交流が持てるエリアで、物件を探せると良いかもしれません。

それができないときは、近隣の人たちとの交流がしやすい集合住宅に引っ越すのも一つの方法です。趣味のイベント、地域の行事などが盛んに行われているところなら、比較的参加がしやすく、人とのつながりをつくることができるでしょう。

●家賃に無理がない

長く安心して暮らすためには、家賃を無理なく支払える物件を選ぶことも重要です。これまでの貯蓄、年金などの収入と、月々で固定となる支出の内容をよく確認し、無理のない家賃の物件を探すようにしましょう。先に説明したように、貸主が契約時に心配しているのは、健康面とともに家賃を払い続けられる経済力があるかどうかという点です。家賃を滞納する心配がなく、余裕を持って生活できる賃貸物件を選ぶようにしましょう。

高齢者向けサービスも充実のUR賃貸住宅

高齢者が長く安心して暮らせる住まいとしておすすめなのが全国に約70万戸あるUR賃貸住宅。高齢者向けに整備された物件も多く、高齢者向けのサービスも充実しています。

●老後一人暮らしにおすすめのUR賃貸住宅

独立行政法人都市再生機構（UR）が管理するUR賃貸住宅は、礼金・仲介手数料・更新料・保証人がすべて不要です（保証会社への加入も不要なので保証料も不要）。契約時に必要なお金は、敷金（月額家賃の２カ月分）と、入居月（入居日から当月末まで）の日割り家賃、日割り共益費のみ。そのため、入居時の初期費用を大幅に抑えることが可能になります。医療費や生活サポートを受ける費用など、老後は予定外の出費もあるため、入居時や更新時の出費を抑えられるのはうれしいポイントです。

高齢者向け賃貸住宅では、契約の際に身元引受人を求められるのが一般的ですが、UR賃貸住宅なら保証人が不要なだけでなく、身元引受人も不要です。依頼できる人を探す手間や心配が要らないのも特長となっています。

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UR賃貸住宅は建物がゆったりした間隔で建てられ、敷地内に緑豊かな公園や広場が設けられた物件が多いのも魅力です。歩車分離の考えをもとにした設計で、歩行者が安心して歩行・通行できるよう、敷地内に許可を得た車しか入れないエリアが設けられている場合もあります。日当たりや風通しの良さ、緑の豊かさ、安全への配慮など、シニア世代にとって快適で安心して暮らせる環境が整っているといえるでしょう。

スーパーマーケット、郵便局、銀行、医療機関など、生活に必要なものが敷地内または隣接地に設けられている物件もあり、シニア世代も便利な暮らしを送ることができます。また、敷地内にコミュニティカフェがあったり、住民によるイベントが開催されたりするなど、世代を超えた交流が盛んなのも特長の一つです。URでは、シニア世代が安全で安心な暮らしができるよう、五つのタイプの高齢者向け賃貸住宅を用意しています。

・高齢者向け優良賃貸住宅

物件の一部の部屋（主に１階）について高齢者が使いやすいように床の段差をほとんどなくして要所に手すりが備えられ、緊急連絡用ボタンが設置されています。所得が一定以下の場合は、家賃負担の軽減措置を受けられる場合があります。

・高齢者等向け特別設備改善住宅

高齢者や障がい者のために浴室など水まわりの段差が緩和され、緊急連絡用ボタンが設置されています。

・健康寿命サポート住宅

室内の段差をなくして要所に手すりを設置するなど、入居者の転倒防止に配慮するだけでなく、散歩したくなるような屋外空間や社会参画の機会等により外出したくなる環境を備えています。

・シルバー住宅

生活援助員が入居者の生活を支援するとともに、一部の住居には緊急通報装置などのセキュリティーシステムを導入しています。
※東京都、大阪府の一部の物件のみ

・URシニア賃貸住宅（ボナージュ）

高齢者が安全に暮らせるように仕様と設備を整え、生活を支援するサービスも充実。生命保険会社や信託銀行などと提携し、終身年金保険からの年金を家賃の支払いに充てる制度も用意されています。
※横浜市または千葉市の一部の物件のみ

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●さらに高齢者にうれしいサービスも

高齢者の一人暮らしの場合、「急な体調不良やけがなどで動けなくなってしまったら…」といった不安があるのも事実。万が一の事態に早く気付いて対応できるように、URでは提携企業による見守りサービスを提供しています。安否確認センサーにより動きが確認できないとき、必要に応じて緊急連絡先などに連絡を行っています。

・立山科学株式会社「見守りサービス」

リビングルームや寝室、廊下など住戸内のよく滞在する３カ所に設置するセンサーが、利用者の日常の活動を見守るというものです。センサーが利用者の動きを確認できないときに、コールセンターから利用者に電話で確認を行います。利用者に連絡が取れないときは、必要に応じて緊急連絡先に連絡を行います。一度設置してしまえば、機器操作の必要はありません。

・ヤマト運輸株式会社「クロネコ見守りサービス ハローライト訪問プラン」

このサービスで見守りのキーとなるのは電球です。トイレや廊下など、毎日使用する電球を「ハローライト電球」に交換することで、この電球が一定時間使用されていない場合に異常を検知。事前に設定した家族や友人などの連絡先へメールで知らせます。

家族や友人がすぐに駆け付けられないときは、ヤマト運輸のスタッフに利用者のもとを訪問するよう依頼もできます。電球の取り付けはヤマト運輸のスタッフが行うので、利用者の作業は不要です。

・東急セキュリティ株式会社「見守りサービス（SAFE-1）」

首都圏の団地対象のサービスです。利用者の部屋に安否確認センサー兼非常ボタンを設置。このセンサーが利用者の生活を見守り、24時間反応がないときに異常を検知します。また、利用者が非常ボタンを押すことで、自らSOSを求めることも可能です。そうした場合、事前に設定した家族や友人などの通知先にメールが届きます。

通信回線内蔵のため、電話回線や設置工事は不要。センサーを部屋に置くだけでスタートできます。さらにオプションとして、東急セキュリティ株式会社の委託先の警備員が現地へ駆け付ける「駆けつけサービス」を追加することも可能です。

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・高齢者相談窓口（シニアアドバイザー設置窓口）

物件探しの際に、高齢者が安心してUR賃貸住宅を選べるよう一部の営業センターに相談窓口が設置されています。入居を希望、検討の際に気になる点について、社会福祉士やケアマネジャーなどの有資格者（シニアアドバイザー）に聞くことができます（開設日時が窓口によって異なるため、利用時は事前の電話予約が必要です）。

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・生活支援アドバイザー

URでは、地域医療福祉拠点化の取組みを進めている物件を中心に、生活支援アドバイザーを配置しています。高齢者の方が安心して暮らし続けられるよう、各種相談対応や電話による安否確認（あんしんコール）、交流促進のためのイベントなどを実施しています。

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●子世帯と近居でさらにお得に

UR賃貸住宅には、初期費用だけでなく家賃も節約できる、ライフステージに応じたお得な家賃プランが複数用意されています。条件を満たしている場合は、ぜひ活用すると良いでしょう。ここでは親世帯と子世帯が近くに住む場合に適用されるプランを紹介します。

＜近居割＞

募集家賃から５年間、５％減額されます。対象となるのは同じUR内、もしくは半径２km以内の別々のURで、親世帯・子世帯の二世帯が近居する場合で、新たに契約した世帯の家賃が減額されます。また、二世帯同時に契約する場合は、両世帯とも減額されます。
条件を満たした子育て世帯については、最長５年間、家賃の20％（上限４万円）がサポートされます。ただし、世帯の所得合計が月25.9万円以下で、対象が一部団地となるなどの条件があります。

＜近居割WIDE＞

募集家賃から５年間、５％減額されます。対象となるのは近居割WIDEエリア内のURとUR以外の住宅です。親世帯・子世帯の二世帯が近居する場合で、新たにUR賃貸住宅を契約した世帯の家賃が減額されます。近居割WIDEは、地域医療福祉拠点化に取り組んでいる物件を中心に導入されています。
条件を満たした子育て世帯については、最長５年間、家賃の20％（上限４万円）がサポートされます。ただし、世帯の所得合計が月25.9万円以下で、対象が一部団地となるなどの条件があります。

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UR賃貸住宅なら高齢の親も安心して快適に暮らせる

親が高齢のため一般の賃貸住宅を借りにくいときは、年齢などの入居制限を受けない高齢者向け賃貸住宅を選ぶのも良いかもしれません。日常的に介護が必要になったら介護付き有料老人ホームなどを検討することになりますが、まだ介護の必要性が低く自立した生活を希望されているならUR賃貸住宅がおすすめ。五つのタイプの高齢者向け賃貸住宅が用意され、物件によっては生活支援アドバイザーが暮らしをサポート。万が一の際に素早く対応できるよう「見守りサービス」も提供しています。

UR賃貸住宅なら、入居時の初期費用を大幅に抑えられるだけでなく、親世帯と子世帯が近居する場合は、お得な家賃プランの利用が可能です。住居費をトータルで節約できるのが魅力といえるでしょう。UR賃貸住宅のHPでは豊富な物件の中から、希望するエリア、家賃の範囲など条件を設定して、親が高齢でも安心して暮らせる住まいを簡単に検索できます。ぜひ気軽にチェックしてみてください。

監修／大久保 恭子