NEWS2024.12.26up
2011年から洋光台団地(横浜市磯子区)のリブランディングを実践し、2021年からUR賃貸住宅の団地ブランディングディレクターとしてURのブランディングを手掛けてきた佐藤可士和さん。
URに10年以上伴走した佐藤可士和さんが考える「団地ブランディング」とは。団地の認知向上を図るプロモーションから団地のデザインまで、具体的な事例を交えながらその心髄に迫ります。
はじめに、団地のプロモーションについてお伺いします。
URでは、約1400の団地が個別に作られていて、社会に対してそれぞれの活動やその関係性が伝わりにくい、といった課題が前提としてあるのではないでしょうか。他の企業も同じ課題を持っています。
団地の未来プロジェクト※は、「団地の未来」というブランドのベース価値を持たせることで、劇的にプロモーション効率を上げよう、というプロジェクトです。
まず団マークロゴを制作いただきましたね。
リテール業界とは異なり、団地のブランディングはすぐに結果が見えるものではありません。
そこで、プロジェクト自体に団地の「団」をモチーフにしたロゴをつくり、プロジェクト全体のブランド化を図りました。また、団地内の集会所やライブラリーにも、わざと「団地の○○」と名付けています。
これらは、普段の生活の中で「団地」という言葉に触れない一般の方に対して、あえて「団地」をリマインドすることで、コミュニケーション上の団地の認知を上げる戦略的イメージコントロールです。
WEB上では、「団地の未来サイト」を立ち上げて、全国の面白い取組みや、四季が感じられる団地などを「団地であそぼう」という切り口でまとめています。これによりプロモーション効率を上げながら、こんなに楽しい生活ができるんだということをさらに印象付けたいですね。
次に、2020年にSAMURAIデザイン監修のもと改修した洋光台北団地の芝生広場についてです。現地確認の際に可士和さんが、団地の日常の風景である柵や看板、段差をなくすとおっしゃったときは、居住者が感じる安全面での不安を払拭できるかなど「できない理由」ばかりを思いついていました。
現地を一緒に視察した時に、中川さんをはじめURの職員の方々は心配そうな顔をしていましたよね。
ところが、自治会からは「柵などがなくなって不安の声が出ないか心配だったが、全く逆で驚いた。子どももたくさん集まってきて、何の問題も出ていない。あるのが当たり前だと思っていた柵や段差がなくなって快適な広場空間になったことを、居住者自身が一番実感している」と感謝の言葉もあり、快適な空間になったと改めて感じました。
デザインといっても、芝生広場では「やめる」こと、引き算しかしていません。それだけでもすごく変わりましたよね。
団地も時代の経過とともに、「住民のための団地」から、思い切って地域に開き、地域の方にも積極的に来てもらった方が活性化する。
洋光台ではそこを目指して現在の姿があります。オープンにすることは、団地に限らずあらゆるところで求められていますね。
次は、同じくデザイン監修いただいた団地の外壁についてです。洋光台北では外壁に「白」を選択されました。
団地は真っ白ではなくクリーム色のような明度や彩度が少し落ちている色を選びがちです。それも悪くはありませんが、「明るい印象」を取り戻した方がいい。広場も周りの団地が白いから余計に明るくみえるという効果もあります。私は空間全体を色彩で捉えています。
ブランディングは「印象のデザイン」なので、どういった雰囲気や印象を作るかが重要です。それには色彩が大事な要素です。形より色彩の方が情報として伝わるのが早い。
そういった色彩の特性を利用していて、外壁の「白」は今回とても重要な要素でした。その視点で物事を見ると考え方が少し変わるかもしれません。
活動や商売をしていく上で「社会に対してどのような価値を提供できているか」ということが、特に企業ブランディングではすごく強く求められています。
ビジョンを持っていない企業も中にはありますが、URはもともと利他的な会社の成り立ちであり、ビジョン自体が素晴らしいだけでなく、実際に日本の社会を作る素晴らしい仕事をされています。
どんな場所に住み、育ったかということは、その人の人生そのものを規定します。URの職員の方々が一人でも多くの人に素晴らしい環境を提供し続けることは、日本そのものを作ることと言っても大げさではなく、社会にとって非常に重要な役割です。ぜひ高い志をもって、一緒にいい仕事ができればと思っています。