TALKING

打ち合わせ風景

各界の方々と意見交換し、多角的な視点からさまざまな施策アイデアをふくらませていく、「TALKING」。今回のお相手は、防災プロデューサーの永田宏和さんです。「イザ!カエルキャラバン!」というユニークな防災イベントの考案者として知られ、子ども向けのおもちゃの交換会と地域の防災訓練プログラムを組み合わせることで、子どもたちが楽しみながら防災の知識を身につけることができるこのイベントには、これまで日本を中心に世界16カ国で20万人以上の親子が参加、独特の防災教育で世界からも注目される存在です。そんな永田さんの経験や知見をお聞きしながら、慶應義塾大学で防災のデザインをテーマに授業を行った経験もある佐藤可士和さん、団地の防災に取り組んでいるURのスタッフが、これからの防災のあり方や新しいアイデアを、楽しく議論しました。その様子を3回シリーズでお伝えしていきます。

vol.8 団地の未来は、防災の未来~永田 宏和さんをお迎えして

防災は、団地の未来へのアクティビティ

UR尾神団地マネージャー(以下尾神) 4年前から横浜・洋光台をモデルに「ルネッサンスin洋光台」というプロジェクトを始めています。その当初から佐藤可士和さんには隈さんと一緒に加わっていただき、アドバイザー会議を1年間開催しました。駅に近い団地を核として「まちの再生」をしましょうということで進めていましたが、3年程経って「団地の未来プロジェクト」をスタートしました。

佐藤 僕は、コミュニケーションの観点で団地をひとつのブランドとして捉えて、社会にビジョンのようなものを提示していかないといろいろな人が集まってくれないのではないかと考えました。そこで、洋光台プロジェクトではなく「団地の未来」と考えたわけです。

永田 なるほど。具体的にはどんなことが始まっているんですか?

佐藤 最初にメインの広場改修があり、いまは「集会所」のリニューアルデザインアイデアコンペがスタートしています。建築家だけでなくデザイナーやクリエイターなど広くアイデアを募り、僕と隈さんも一緒に入って、まさに団地の未来を象徴するようなアイコニックなものができるといいなと。あらゆるところから見学に来てくれたり、団地住民でなくても「使わせてほしい」と依頼が来るなど、いろんなことが起きると思いますね。

永田 団地の未来につながっていくアクティビティというわけですね。僕も、防災は単なるイベントではなく、いろんな取り組みの連続の中に位置づけることで、新しい可能性が生まれると考えています。

佐藤 さまざまなことを議論している中で、防災の視点はとても重要だと思います。広いですし、多くの人がいるし、団地はきっと防災拠点になるだろうと思っていました。僕はたまたま4年前から慶應義塾大学の環境情報学部で「未踏領域のデザイン戦略」という授業を行っていたのですが、最初の2年間は防災のデザインだったんです。

永田 それは以前から聞いていました。

佐藤 たまたま11年の震災の翌年秋から13年にかけて、当時東大の准教授だった地震学者の大木聖子先生(現慶應義塾大学環境情報学部准教授)、慶應の村井学部長、メディアの筧先生と一緒に授業をしました。授業なのでもちろんシミュレーションでしたが、実際に団地で展開することになったので、ここで防災の新しい形に取り組みたいなと思っています。

永田 なるほど、いいですね。

佐藤 商業空間での企業とのコラボレーションなどもそうですが、フィルムコミッションのように映画やドラマのロケを積極的に誘致するなどいろいろなことを展開することで、今まで団地に全く関係を持っていない人が絡んできたり、若い人たちが住みたいと言ってくれたり、もしかしたら外国の人が来るとか、そんなふうに活性化してくるんじゃないかと考えています。普段の企業の仕事ではなかなかできないのですが、オープンイノベーション型にして、永田さんのような経験のある有識者の方々に自由に入ってもらおうと考えています。僕はどちらかというと、みんなに考えてもらったり、いろいろなことをしてもらえる場を設定するような役回りがいいのかなと。防災はまさにその一発目という感じですね。

「楽しい防災訓練」が出発点でした

永田 「楽しい防災訓練」を05年に開発して、10年経ちます。阪神・淡路大震災が95年で、大体5年、10年をメモリアルとして行政が周年事業を行いますね。東北もおそらくそうでしょう。僕らは阪神・淡路大震災後10年目に声がかかったのですが、それまではまちづくりやアートイベントの仕事で、子どもたちをかなり集めた実績があったので、「永田は子ども向けのイベントに強い」ということで、「子どもをたくさん集める防災イベントを考えてくれないか」というオファーをもらったんです。そこで、いろいろ調べてみたのですが、防災訓練そのものに人が来ていない、年配の方ばかりが集まってファミリー層はほとんど参加していない、という状況がわかりました。

佐藤 僕も、被災地に行ってお話を聞いたり、2年間授業をして強く思ったこととして、結構みんな忘れていくということがありました。それはすごく問題だと思いましたね。どうやってリマインドし続けたらいいのだろうと。2年間の大学の授業でも、2年目にはもう、学生の意識の中で東日本大震災が遠い昔のようになっていったのがリアルにわかりました。たった1年でこんなに意識が変わってしまうのか、人間というのはそうして忘れていくんだなと思いました。

イザ!カエルキャラバン!「イザ!カエルキャラバン!」のロゴ

永田 そう、記憶の風化は早いですよね。そんな中でどうやって人の意識を高め、防災訓練に集まってもらうかと考え、取り組んだのが「イザ!カエルキャラバン!」でした。

佐藤 画期的な成功事例とお聞きしています。どのような取り組みですか。

永田 最初はリサーチから入って、被災者の声をたくさん集めました。167人のインタビューとアンケートを実施して整理したのが「地震イツモノート」です。被災地でどういう知識や技が使えたのかとか、どんな物が役に立ったのかといったことを、現場の声を集めて、それを子どもたちに追体験してもらう感じです。ただ、それだけでは防災意識が高まり、広がらないので、カエルをシンボルキャラクターにして「楽しい防災」のいろいろなプログラムを開発しました。カエルを消火器訓練の的にしたり、水2リットルのペットボトルが20本入った合計40キロのカエルの人形を毛布を使って運ぶ、とか。伝えている内容はすべて被災者が語ったことです。

佐藤 なぜ「カエル」なんですか?

積極的に参加できる防災イベントとは?

永田 イベントでは、被災者の声を集めて作った「楽しい防災」のプログラムをたくさんブース展開しているわけですが、それでも人は来ないんです。そこで目をつけたのが「かえっこバザール」です。藤浩志さんというアーティストが00年から展開しているアートプログラムで、家にあるおもちゃを持ってくると、受付の銀行のコーナーでポイントに交換してくれて、ほかの子どもが持ってきたおもちゃに値段が付けられて、お買い物ができるというシステムです。人気のおもちゃを持ってくるとオークション品になって、貯めたポイントでオークションに参加できるという、すごく良くできたプログラムです。子どもが持ってくるおもちゃですから、元手もかからないわけです。

佐藤 なるほど。

「かえっこバザール」オークションの様子

永田 それが00年から全国で爆発的に人気を集めて開かれ、かなりの数のファミリーが子ども連れで来るという状況だったので「これと防災訓練をくっつけよう」と考えました。「かえっこバザール」の防災バージョンとして、05年に神戸で誕生したのが「イザ!カエルキャラバン!」です。

佐藤 そうか、「カエル」はおもちゃを替えるということなんですね。

永田 はい。よく、家に無事に「帰る」と勘違いされますが。

佐藤 僕もそう思っていました(笑)。

尾神 以前に、洋光台団地でも東京ガスさん経由でご協力いただいて「イザ!カエルキャラバン!」を実施していただきました。

佐藤 僕が授業をしていた時も、もともと楽しいものではないから積極的に参加できるような仕組みづくりはどうしたらいいのだろうと思い、フェスのようにすることを考えました。ブースで防災食を試食できたり、サバイバル体験ができるような、体験型の「防災フェス」のようなものですね。そのようなことが根づいて、各地で開かれるといいのではないかと思いました。

永田 まさにその通りですね。「楽しく」あることが大切です。他にもオリジナルのカードゲームをこれまでに5つくらい開発しています。教材開発は一番得意とするところなんです。それと、おもちゃだと小学生くらいまでしか来てくれないので、中・高生には防災オリンピックのようなイベントも展開しています。これは大阪ガスにいらっしゃる陸上のメダリストの朝原宣治さんと一緒につくったプログラムです。さらに、みかんぐみの曽我部さんなど建築家の方々ともコラボして、研究室単位で身の回りのものでつくるシェルターを開発してもらって、実際に希望するファミリーが泊まってみたりといったイベントも開催しています。

佐藤 面白いですね。

「自立」と「ローカライズ」

永田 はい。それと、可士和さんがおっしゃったように「各地で開かれる」ことが必要ですが、ひとつだけ重要なことは、すべて、オファーが来てから支援するというルールに則っていることです。基本は地域支援なんですね。大手企業のCSR活動の一環としての防災イベントは別として、地方からはPTAのお父さんたちの「おやじの会」として依頼が来ることもあるし、いろんな地域の団体から依頼が来ます。それに応じて、事前に研修会を開いてやり方を全部伝えて、2年目以降は自立して運営してもらうという形で進めています。「イザ!カエルキャラバン!」は、14年までに23都道府県で250回以上開催していますが、ほとんどの地域は初年度だけの支援ですね。

佐藤 地域のことは地域の人たちが自ら考えて動く、ということが大事なんですね。

永田 そういうことです。さらに「自立」に加えて、地域ごとに合わせた形にしていくという側面も重要です。「カエルキャラバン」は海外16カ国まで広がっていますが、面白いのはインドネシアに行くとシンボルキャラクターのカエルが子鹿に変わったり、フィリピンではモンキーだったり…。僕らは地震災害のためのプログラムをつくりましたが、海外では洪水や火山噴火など地域特有の災害種が異なっていますし、置いている日用品も変わります。すると、プログラムを全部変えないといけません。そういったプログラムのローカライズをテーマにしたワークショップを実施して、つくり方まで教えてから去るわけですね。そうすると勝手に自走し始める。いま国際協力の分野で、私たちが一番大事にしているポイントです。

佐藤 「自立」と「ローカライズ」。なかなかハードルが高そうです。

永田 こんな事例があります。これまでの対症療法的な防災に加えて、最近では火を焚く、火を守るというような、生きるたくましさを身につけるサバイバルキャンプのプログラムも増えています。その中で「技バッジをもらえる」というシンプルな仕組みを導入しました。ボーイスカウトを参考にしているものですが、初日に練習、次の日はトライアルにして、例えば、1分間で3つのロープの結び目ができたらロープワークバッチがもらえる。そういうプログラムを開発しました。すると、子どもがこの技バッチ欲しさに必死になり、付き添いで来たお父さんも必死になったりします。これが、国内外にどんどん飛び火して、開催する地域で「ご当地技バッチ」ができるわけです。タイの技バッジは全部洪水関連のものだったり。技バッジがどんどんローカライズされていくんです。

佐藤 なるほど、仕組みというかプラットフォームを開発して、それをOSとして地域の人たちがどんどんブランディングしていくんですね。

永田 はい。それが、いま防災の世界で展開されていることです。

レッドベアサバイバルキャンプ

ロープワーク練習の様子

「レッドベアサバイバルキャンプ」のロゴとキャンププログラムの1つロープワーク練習の様子

vol.9 団地の未来は、防災の未来 ~防災プロデューサー 永田 宏和さんをお迎えして

打ち合わせ風景

防災情報をシェアする時代

佐藤 各地の特性に合わせた防災の地域ブランディングという考え方はとても大事ですね。逆に、都市部の防災イベントでの特徴やポイントなどはありますか?

永田 ある大型ショッピングセンターでは毎年3/11付近に防災イベントを行うのですが、おもちゃの交換プログラムを行うと人が集まり過ぎてパニックになるので、スタンプラリー形式にして、当たる景品を全部防災グッズにしています。ガラガラ抽選をして、いい賞品が当たったらチャリンチャリンと鳴らしたら、その音に引きつけられてみんな集まってくるというものですね。防災を学ぶ場のつくり方を、その場に合わせてアレンジしています。それと、東京ガスさんや東京メトロさんなどの企業内の防災教育や顧客向けの防災啓発を当法人で手掛けています。

佐藤 企業向けプログラムですか。確かに、需要が大きいでしょう。

永田 はい。面白いのは、携帯用の防災マニュアルなんですが、中身は同じでイラストの色がコーポレートカラーにそれぞれなっているんです。無印さんはエンジ、イオンさんはピンク。東京ガスさん用に作ったものをオープンにして展開したら、各社ともに色だけは自社カラーにするわけですね。

佐藤 防災情報をシェアしているんですね。

永田 その通りです。そこで、どうせ内容が同じならと「東京防災ミーティング」を先日開きました。みんなで一緒に何かできないかと。イラストでつながっているだけですけど、同じ情報、同じ思いを持っているので、東京の災害に備えて各社バラバラに対策を行うのではなくて、例えばすごく良いマニュアルをみんなで作成して一緒に啓発するとか、何か協力してできるのではないかと考えまして。

コミュニティの醸成が不可欠

佐藤 企業が情報をシェアして分かりやすくすることは、非常に重要ですね。一方で、団地のように比較的都市部に住む一般市民の方々が防災として一致団結できるような取り組み方はありますか?

永田 今回のプロジェクトを見させていただき、これまでの経験と照らし合わせて感じたポイントがあります。それは「コミュニティの醸成」です。例えば、いま神奈川県のFujisawa SST(藤沢サスティナブル・スマートタウン)のコミュニティ醸成プロジェクトに協力しているんですが、防災も手掛けつつ、コミュニティもつくってほしいというオーダーなんです。当然そうなるはずで、防災は突き詰めるとコミュニティの問題なので、定期的にイベントを開催していますが、全部参加型というか、住民をお客さんにしないイベントの開催方法を大切にしています。

「+クリエイティブ」プログラム「不完全プログラム」と「+クリエイティブ」プログラムやイベントを完全なパッケージとせず、一緒に参加する部分をあえて作っておく「不完全プログラム」。そしてプログラムやイベントは魅力的なものとする「+クリエイティブ」。この2つが住民参加を根付きやすくする極意。

佐藤 「お客さんにしない」とは、どういう意味ですか。

永田 わかりやすく言うと、サーカス興行やアンパンマンショーが開かれると大勢の人がやって来ますが、みんなお客さんとしてそれらを観に来るだけで、プログラムが終わったら帰ってしまいますね。そうでなく、僕らは「不完全プランニング」と呼んでいますが、完全にプログラムをパッケージングせずに「あなたも入っていいよ、一緒にやりましょう、プログラムを変えてもだいじょうぶ、キャラクターも好きにしてください」と余地をつくるわけです。例えば、灯ろうで地上絵を描く「灯明」というプログラムでは、子どもが描いた魚の絵を並べると夜の水族館になるんですが、それがすごい数になると、みんなで手伝わないと絶対にできないわけです。そうすると、こちらで仕掛けているけれども、住民の方々みんなが出てこないと成立しない面もあって、気づいたらその地区の恒例行事として根づいている、ようなことが起るわけです。

佐藤 まさに「自立」ですが、コミュニティの立ち上げまで考える必要があるんですね。

永田 そうなんです。僕らは2-3年しか関われないので、その間にどう自立させるか。最終的にはどう彼らのものになるかという部分をひたすら手伝っています。その中には、もちろん防災も入ってきます。
それともうひとつ、コミュニティ醸成支援の例があります。ある250戸程度のマンションで、たまたま公園の前に集会所があるというシチュエーションだったので、その場所を勝手に「カフェ」と呼んで、大きなムクの木が前にあったので「ムクの木カフェ」と名づけました。デベロッパーさんが大がかりな内装工事まではさすがに許してくれませんでしたが、家具デザイナーが入って、そのスペースに置く家具や棚を住民みんなでつくりながら、一緒に運営するイベントを展開していまして、すごくうまくいっています。まだ途中ですが、参加率が全住民の6-7割という驚異の参加率になっています。企画会議でもイニシアチブをとる主婦の方がたくさん出てきていて、アイデアもどんどん出ます。こういうことをしたいと…。洋光台の建築アイデアコンペの「集会所」とも絡むテーマですね。

佐藤 それには何人くらい参加されているんですか。

永田 全体では200名、企画会議やワークショップも30人くらいは集まります。棚づくりや椅子づくりなど、物をつくる系のプログラムだと好き嫌いがありますが、反応する人がいる。いろいろなものを仕掛けながら、レイヤーを重ねていく実験をさせていただいています。僕らからするとありがたい話ですね。何しろ2年くらいで去らなければいけないので、それまでに根づくかどうかというところを今は検証しています。その中に「イザ!カエルキャラバン!」も入っている状況です。

佐藤 要するに、コミュニティがきちんとできないと、防災のプログラムもきちんと機能しないということですね。

最初から、コミュニティづくりが好きでした

永田 単に防災イベントのアイデアだけを手掛けても、実は難しいわけです。僕らにオファーをくださる地域団体は、地域の目指すべき目標がはっきりしていて、コミュニティもしっかりしているケースが多いのですが、逆にやり方に困っているというか、空回りしているような団体が全国的には多いですね。オファーの内容が事前にまとまっている場合は、たいていチーム自体に問題がなく、彼らにやり方を教えれば絶対に人は来てくれるし、イベントも成功するわけです。そうすると、彼ら自身に手応えがあって、どんどん成長していきますね。

佐藤 ビジョンが定まっていれば、自走するんですね。

永田 逆に、コミュニティが希薄でまちのビジョンが定まっていないところは、コミュニティから先につくらないといけないので大変です。どんな住民が住んでいるかわからないところからスタートしているから意識の統一が必要になってくるんですね。その点、洋光台団地とは少し違うかと思います。既に住民の方がいらして、その方々のニーズがどこにあるのか、高齢者が多いと思いますが、どういう年齢層なのか。顔が見えてきて、何を求めているのかということがある程度わかってくると、どういうアプローチが良いかがわかります。

佐藤 素晴らしいですね。すごいです。もともとそういうことをしたかったわけですか。

永田 そうですね。最初、ゼネコンに入ってこういうことを手掛けたかったのですが、居場所がなくなりまして(笑)。建てるよりも、建ってからのほうに興味があったので…。建ってからもうろうろとそのプロジェクトに関わっていたらものすごく怒られて。おまえの仕事じゃないと。

佐藤 大学の専攻は建築ですか。

永田 建築ですが、隈さんや安藤さんが全盛の頃で建築の世界でやっていくのは無理だと思って。あのとびぬけた才能は自分にはないと。当時はアーバンデザインという概念がアメリカから入ってきた時期でしたので、そこで都市計画に傾倒しました。大学院での経験が大きかったんですが、先生の専門がまちづくりだったんです。それでまちの現場にバンバン放り込まれて、住民参加のプロジェクトに結構携わりました。今はもう現場に入る時間はないですけど、それが相当勉強になりましたね。ゼネコンは、行くところを間違ったと言われました(笑)。

佐藤 ゼネコンは建てるところですからね。何年いらしたんですか?

永田 間違ったんじゃないかと言われつつ(笑)、8年いました。

佐藤 長いですね。

永田 設計部、開発計画、まちづくりのコンサルのようなところ、そして営業という感じで、たくさんの部署を異動しました。実は、営業部の最後のほうから独立の準備を始めまして、ご存じかと思いますがE-DESIGNの忽那さんは親友で、彼と一緒にパートナーシップ研究会という集団を立ち上げて、それぞれがまだ会社に所属しながら、アフター5で商店街の活性化などいろいろなことに取り組んで、結果的にみんな独立しました。

佐藤 忽那さんから、大阪の病院を一緒にやろうと言われて、千里リバビリテーション病院のブランディングを手掛けさせてもらいました。

永田 そのお話はときどき聞きます。

防災も、コミュニケーションデザイン

佐藤 僕が慶應の授業でご一緒した地震学者の大木先生と一緒にプロジェクトを実施されたそうですが、どこでお知り合いになったんですか。

永田 ある会社から大木さんを紹介されてお会いしたら意気投合しました。手掛けていることは共に子どもが対象だったこともあって、近いので、一昨年・去年と、僕が神戸のデザイン・クリエイティブセンターで実施した「EARTH MANUAL PROJECT」のアドバイザーに入っていただきました。インドネシア、フィリピン、タイ、日本のクリエイターが災害に対して取り組んでいるいろいろな素晴らしい活動を全部取材してまとめて展覧会を開きました。この間も、東京ガスさんのシンポジウムでご一緒しました。

佐藤 そうですか。大学をしばらくお休みしていて、最近復帰されたのかな。

永田 面白いというか、考え方が非常に似ているんですね。僕は地震学者の人を何人か知っていますが、事実や情報を一般の人に届けようという努力をしている人はあまりいなかったように思います。ところが大木先生は、学者レベルの方々が持っている地震学の知識をどう一般の人に伝えるかということまで考えて行動されているんですね。僕が一番感銘を受けたのはそこです。彼女の説明はすごくわかりやすくて、あちこちの講演で「大木先生はこう言っていました」ということで彼女から教えてもらったことをお伝えさせていただいていますが、本当にわかりやすいです。素晴らしい活動をしていると思います。

佐藤 そうですね。慶應での授業の時も、大木先生に地震の話をもっとしてほしいと思って入っていただきましたけど、ずっとコミュニケーションの話でしたね。伝わらない、みんな知らないから、こっちと言っても逆に逃げてしまって死んでしまったとか、そういうことがたくさんあって、コミュニケーション能力が課題なんだと。もともと僕の仕事はコミュニケーションのデザインだから、すごく面白かったですけどね。それにしても、何だかいろいろつながりますね。

打ち合わせ風景

vol.10 団地の未来は、防災の未来 ~防災プロデューサー 永田 宏和さんをお迎えして

コミュニティの立ち上げ方って?

佐藤 今後ぜひ一緒にいろいろな活動をご一緒したいのですが、具体的に、例えば防災フェスのようなことを開催したいといったら、永田さんにどういう形で入ってもらえますか。

永田 東京・豊洲で防災EXPOを開催していますし、経験もありますので、手法としてフェス系のイベントもお手伝いできると思います。

佐藤 ありがとうございます。

永田 きょう一番聞きたかった核心は、洋光台団地の住民参加の状況です。先ほどからお話している「コミュニティ」の問題ですね。僕らはいつも、防災活動の地域支援として、そもそも防災活動を展開しているけど困っている人や、地域をまとめようと奮闘している熱い人たちに「魚を直接渡すのではなくて、魚の捕り方を教える」というスタイルで支援させていただいているわけです。そういうことをひたすら行っていますので、洋光台団地でも僕らが出張っていって大きな防災イベントをバッとやることもできますけれど、一度開催してまずは来てもらって、そこからパートナーを見つけていく、というような作業になるかもしれません。そのあたりがどういう状況で、どういう地域のパートナーの方がいらっしゃるのかということが一番気になっていました。

洋光台中央 CCラボ

佐藤 いまはまだ、すぐにできる形にはなっていないと思います。突然イベントを行っても急には集まらないような状況でしょうか。URさんから、どうやってそういうチームを組んでいけばいいのかとお話を受けていたところです。尾神さん、どうですか。

尾神 そうですね、まだまだの状況です。もともと「まちづくり協議会」もありますので、そのあたりの方々には出ていただくようにお声がけして、防災についてはもう少し時間をかけて呼びかけていきたいですね。いま、CCラボ(洋光台団地のコミュニティ活動チャレンジスペース)で活動している住民の方々ともたくさん知り合いになれているので、そういう人たちにも声をかけたいです。

永田 なるほど。そういった場合には、最初に講演会を開くことが多いです。広く呼びかけるというか、この間も、横浜市の戸塚で防災講演会を開催して、たくさんの人にご来場いただきました。これまでご紹介したような活動の様子をプレゼンすると、観衆の中から興味を持ってくださる人や自分もやってみたいと思ってくれる人が、必ず現れましたね。その人たちと、最初は小さな輪ですが、一緒に何かのイベントを行い、そこからまた輪を広げていったりと、そういうプロセスを踏むことが多いです。

佐藤 結局、やりたいと言ってくれる人が出てこないと自走できないですよね。

永田 そうですね。しかも、聞いてみないと何かわからないじゃないですか。企業と展開するイベントなどで多いのは、規模が大きくてイベント自体がメディアになっていることもあって、イベントに来た人の中から「次は自分もやりたい」とご自分から手を挙げる人が必ず出てくるんです。だから、イベントを行うことはその場を盛り上げることでもありますが、次の活動を生むきっかけにもなっているので、そういうプロセスを踏めると、100%とは言えませんが、可能性があると思います。

防災の視点から、輪を広げていこう

佐藤 尾神さん、具体的にどうしたらいいと思いますか。洋光台の中で行うのか、もう少し広げるのか。

尾神 近隣のホールなら借りられると思います。

UR太田 神奈川エリア経営部長(以下太田) URの思いをお伝えします。エリアでは3,000戸くらいのコミュニティ、一つの団地1,000戸以上のコミュニティがあって、高齢化が進んでいます。まちとしても、昭和40年代のまちなので、これから生まれ変わっていかなければいけないわけで、その中へ若年層にもっと来ていただきたいということが我々の思いとしてあります。少しずつ増えてはいますが、既にあるコミュニティは高齢者主体のコミュニティで、避難訓練などをしても、結局会長さんが民生委員と一緒に「大丈夫ですか」と確認して回るレベル、つまり個人の力で何とかまとめていっているレベルなんです。そこに若年層を連れてきて、パワーを持って、リニューアルコンペを進めている集会所もあわせたひとつのムーブメントを起こしていけるか。そして、若い人たちに支持されるような、コミュニティの延長線上の防災を何とか持ち込むことで、新しい住まい方のとば口に入れないだろうかということがURの思いですね。

佐藤 いまある本当の洋光台のコミュニティだけで活動しようとしても、高齢者の方ばかりだから、なかなかそうはならないということですね。

尾神 以前に「イザ!カエルキャラバン!」を展開していただいた時を思い出しても、プログラムには来るけれども、それが防災のコミュニティづくりにつながるかというと、やはり時間がかかると思います。もう少し別の角度から対応したほうがいいかなと。永田さんがおっしゃったように、講演会などは外部の人も来ますし、その上に防災のフェスを開きますとなれば、だいぶ盛り上がってくると思います。

佐藤 外部の人も巻き込むのは、やはり重要ですね。洋光台の周辺の人たちも「洋光台でやってくれれば、いざというときにちょうどいい」と思ってくれそうですし。そういうふうに、自分事化してもらえるようなエリアの人がいいですね。

尾神 そうですね。

太田 例えば、子どもたちや、子どもたちの保護者あたりからその輪に入ってもらうというのも、話を聞いていて、結構効果的な気がしました。

永田 団地だけを見るのではなくて、もう少し広いエリアで見る、お祭りとして考える。そのほうがいいと思いますね。

世代を超えた取り組みへ

永田 質問ですが、URさんの取り組みを見させていただいて、MUJIと組んだりしていますね。実際、空室に若い夫婦や世帯が引っ越してきたりという動きはありますか。

尾神 割引制度もありますので、空室に入る30、40代の人を中心に若干増えていますが、やはり全体としては65歳以上が30%です。

永田 本当は、若い人たちとも組みたいですが、地域活動に参画いただくのが一番難しい世代でもあります。でも、そういう人たちを巻き込んで何とかして、若い人たちと高齢者をつなぐというのも、防災の考え方の大切なポイントだと思います。

佐藤 講演会もすごく良いと思いますが、例えば、実際に住んでいる人にピンポイントで話をするような機会はないですか。そういうことをできそうな若い人に声をかけたり。

尾神 いいですね。CCラボ(洋光台団地のコミュニティ活動チャレンジスペース)で活動している人たちには声をかけられます。例えば、お母さんイベントで来る人には、隣に子育ての施設もありますし、うまく、そういう方たちを集めることはできると思います。多人数ではないかもしれませんけど。

佐藤 そういうところでまずアナウンスして、まずは洋光台の人たちのタッチポイントを増やしたいですね。CCラボでも個別に展開したりして。洋光台の人たちにはなるべくコアメンバーとして入ってもらって、さらに周りの人たちも増えてくれるといいかなと思います。

永田 町田市の町田山崎団地で無印良品さんが「防災キャンプ」を実施したのですが、僕らがMUJIの社員の方々に技術的なサポートとトレーナー養成をして、その方々が実際の防災キャンプを運営する形でした。ブースを出して、セレクトしたワークショップのプログラムをテントごとに行い、それを体験してもらいました。新しい試みとして実験的に少しずつ始めているところですが、こういったアイデアを持ち込むのもいいかもしれません。

佐藤 泊まったりできるといいですね。

永田 面白いです。

「高齢者防災」という新しいコンセプト

洋光台北団地

佐藤 あと、僕の希望としては、永田さんにとっても何か新しいトライがこの中でできて、実は洋光台の団地の未来プロジェクトで展開したのはね、と、いろいろなところで永田さんが話せるような事例にしてほしいわけです。そうすると、それ自体がこの「団地の未来プロジェクト」のブランディングにつながるわけです。

永田 なるほど。素晴らしい考え方ですね。

佐藤 ですから、ぜひ永田さんの新しいコンテンツになるような視点が入れば最高です。

永田 ちょうど、ひとつあります。昨年の10月に私が副センター長を務めるデザイン・クリエイティブセンター神戸(KIITO)でLIFE IS CREATIVE展という展覧会を行ったのですが、「クリエイティブの力で、もっとワクワクできる高齢社会がつくれないか?」ということがテーマでした。その展覧会の中の一つのコンテンツとして「高齢者防災」を見つめ直したんです。これまで私が手がけてきた「カエルキャラバン」は子どものためのものですから、少し違うわけです。「カエルキャラバン」を250回開催していると、高齢者のまちでも定着している例があって、勝手にアレンジして、おもちゃのプログラムの代わりにスタンプラリーくらいにしているとか、高齢者向けの防災グッズも一般の人向けとは少し違うとか、そういうことが見えてきました。そこで、日本で初めての「高齢者のための高齢者による防災」ということを考え始めていたところです。家具の転倒防止などは、高齢者ではできない人が多いので、元気な高齢者が体の不自由な高齢者の家に家具の転倒防止をしに行く仕組みなど、いろいろと考えています。まだまとまってはいないのですが、そういうことを新たに展開して全国のお手本になればいいなと思いますね。

佐藤 いいんじゃないですか。

永田 元気な高齢者も増えていて全員が介護されるわけではないので、高齢者も二層化するはずです。元気な高齢者をどう扱うかということは結構重要なテーマだと考えています。

佐藤 まさに社会課題にも取り組めて、いわば一石二鳥ですね。永田さんにとっても、それが団地というそもそも高齢化しているところで実験ができて、何か新しい成果が得られるとすごくいいかなと思います。

永田 全国を見るとそういう地域ばかりですから、お手本になれるエリアだと思います。

佐藤 それで行きましょう。(笑)

近居割URの家賃減額制度のひとつ。親子世帯が同じ団地や近隣のUR団地にともに住む「近居割」とURとUR以外の住宅でもOKな「近居割WIDE」がある。(エリアの指定や世帯の年齢制限があります。詳細はこちら→

太田 URでも、親子の世帯がある程度近居だと割引になるという制度がこれから始まります。同じ団地でなくても、URに住んでいなくても。そういうことまでしていいのかと思っていますが(笑)、もうそういう状態になっているということです。高齢化への問題意識はみんな持っていると思います。

佐藤 例えば「自分の親のことを考えると…」というようなリアリティにうまく結びつけたいですね。

永田 そうですね。

佐藤 しかも「高齢者」をキーファクターにすれば、子、孫世代の人まで自然についてきてくれますね。

太田 高齢者だけに終わらせないと。

佐藤 それで行きたいですね。いいコンセプトです。楽しみです。

永田 はい、社会の課題まで一緒に考えられるなんて、素晴らしい取り組みになりそうですね。(終わり)

打ち合わせ風景

永田さん×佐藤さん×URによる、シリーズ「団地の未来は、防災の未来」はこれで終わりです。引き続き、TALKINGにぜひご注目ください。

永田 宏和   Hirokazu Nagata NPO法人プラス・アーツ理事長 株式会社iop都市文化創造研究所 代表、デザイン・クリエイティブセンター神戸 副センター長

永田 宏和

永田 宏和   Hirokazu Nagata NPO法人プラス・アーツ理事長 株式会社iop都市文化創造研究所 代表、デザイン・クリエイティブセンター神戸 副センター長

1968年兵庫県西宮市生まれ。1993年大阪大学大学院修了後、株式会社竹中工務店入社。2001年同社を退社後、まちづくり、建築、アートの3分野での企画・プロデュース会社「iop都市文化創造研究所」を設立(2006年株式化)。2012年8月よりデザイン・クリエイティブセンター神戸(KIITO)の副センター長に就任。主な仕事として、楽しみながら学ぶ新しい形の防災訓練プログラム「イザ!カエルキャラバン!」の企画・プロデュース・運営(2005~)、都市キャンペーン型アートイベント「水都大阪2009・水辺の文化座」の企画・プロデュース・運営(2009)、KIITOオープニングイベント「ちびっこうべ」の企画・プロデュース・運営(2012、2014~)などがある。『第1回まちづくり法人国土交通大臣賞【まちの安全・快適化部門】』『第6回21世紀のまちづくり賞・社会活動賞』他 受賞。

UP