TALKING

打ち合わせ風景

各界の方々と意見交換し、多角的な視点からさまざまな施策アイデアをふくらませていく、「TALKING」。今回のお相手は、株式会社ロボ・ガレージ代表でロボットクリエーターの高橋智隆さんです。高橋さんは京都大学在学中から2足歩行ロボットの開発に取り組み、大学での研究とともにご自身で設立されたベンチャー企業でも開発を続ける、ロボット研究開発のパイオニア。一人で技術開発・設計・デザイン・製作までをこなし、独創的で斬新なデザインのロボットが国内外で高く評価されています。そんな高橋さんと可士和さん、URのスタッフが、人々の未来の生活という大きなテーマのもと、楽しく議論しました。その様子を4回シリーズでお伝えします。

vol.18~株式会社ロボ・ガレージ代表 ロボットクリエーター 高橋 智隆さんをお迎えして 団地の未来は、技術の未来 1/4

ユーザーの暮らしの中に入るものを確立させたい

UR尾神団地マネージャー(肩書当時:以下尾神) 本日は「ロボットと団地」ということで、どのような切り口で、というところですね。このプロジェクトは、団地の新しい住まい方を提案して、団地の未来に光をあてるというものです。先日高橋さんに事前に説明に伺った際に「(団地を)つくり替えてはどうですか?」というお話もありましたが。

高橋 智隆氏

高橋 そもそも、建替えという選択肢はないのかなと思いまして。

尾神 このような団地40数万戸を全部建替えしようとするとすごく時間もかかりますし、今のアセットを利用しながらうまくできないかなということで進めています。

高橋 地価が高いところだと建替えてもペイするけど、ここだとそれは難しいということですね。

佐藤 そうなんですよね。ものすごく古ければ建替えた方がいいのでしょうけど、そこまででもない。

URウェルフェア総合戦略部 太田部長(以下太田) まだ若干時間がありますよね。そこまでには。

佐藤 洋光台はモデルケースとして取り組んでいるのですが、日本に40万戸もあるわけで、全部建替えていたら何年かかるか、いくらかかるかわからないですよね。リノベーションできるところはしていくのですが、建替えだけで解決しないこともたくさんあります。

尾神 団地自体が多様な課題を抱えているので、可士和さんにもいろいろな方をご紹介いただいています。今回高橋さんにお声掛けをしたのは、今の最先端技術なども取り入れていきたいという想いの中で、高橋さんの取り組んでいることをお伺いしたいなと。

佐藤 高橋さんとは、「選択する未来(内閣府・経済財政諮問会議)」や、他企業さんでお会いすることはあっても、がっつりロボットの話とか、今後の人間とテクノロジーとの話などなかなかお聞きできていなかったので、今回この「団地の未来」というテーマの中で、「団地」を題材にしてこれから人がどのように未来と関わっていくかを一緒に考えていくことで、未来に向けてのヒントが出てくるのかなと思っています。今回は直接的なアイデアを求めているのではなくて、ロボットクリエーターとしてロボットがどのように人間と共存していけば良いのか?などのお話を聞けたらいいなと思っています。

高橋 今日持って来ています。ポケットサイズですが。(「ロボホン」を取り出して胸ポケットに入れる)電話をかけてみます。(電話をロボホンにかける)

ロボホン

佐藤 これ、選択する未来委員会で事例としてお話されていたものですね。実際にできたのですか。

高橋 できました。

佐藤 あの時は開発中だったんですか。

高橋 かなりの部分までできてはいました(現在は発売中)。音声でメールもできて、ロボットなので動けます。(ロボホンに向かって)「こっちに来て」(ロボホンが座っている姿勢から立ちあがって歩き出す)

ロボホン 「オッケー、立ちあがるね」

高橋 「自己紹介して」

ロボホン 「自己紹介するね。僕、ロボホン。こう見えて電話なんだ。電話やメールもできるし、写真を撮ってプロジェクターで映せるよ」

高橋 やってみましょう。「(ロボホンを佐藤氏の方に向けて)写真撮って」

ロボホン 「うん、まかせて。みーつけた。じゃ撮るよ。ハイ、チーズ」(シャッター音)「がんばって撮ったよ」(背中のモニターに画像映る)「背中のモニターを確認してね」

ロボホンがテーブルに画像を映し出している。

高橋 さらにプロジェクターで映しましょう。「プロジェクター映して」

ロボホン 「オッケー。智隆さん、僕の正面に来て。」(顔認識でチャイルドロックを解除)

高橋 子どもに使わせないための安全機能を付けているので、少しめんどくさいところがありますが。

ロボホン 「プロジェクターの準備中だよ。ちょっと待ってね。」(しゃがんで机に画像を映し出す)

高橋 「正面に映して」

ロボホン 「りょうかーい。危ないから僕の顔を覗き込まないでね。」(壁面に映し出す)

佐藤 すごいですね。

高橋 アンドロイドのスマートフォンになっていますので、液晶画面をタッチしながらの操作もできますし、もちろん音声での操作も可能です。

佐藤 今のやりとりは、パターン化されたプログラムですか?それともAIなんですか?

高橋 パターンを膨大に入れてある部分と、さらに学習で。ユーザーの名前だったり顔だったり年齢であったり、好きな芸能人であったり。GPSも入っているので、長くいるところだから自宅じゃないかと聞いてきて、自宅の場所を登録したり、職場も同じように登録できます。

佐藤 いわゆる今言われている人工知能とはちょっと違うんですか?

高橋 そうですね。人力で大量のコミュニケーションパターンが入っているところにプラスアルファ、学習してパーソナライズさせていく部分があるというレベルです。パターン認識で顔を識別するとか、声紋や声で識別するなど音声認識自体なども、いわゆる人工知能を部分的には使っていますが、全体のやりとり自体は基本的にはプリプログラムされているものをベースに行っています。皆さん、人工知能に対して過剰な期待があって、通信さえつながれば勝手にべらべらしゃべってくれるといった期待がありますが、残念ながらそこまで行っていないです。IBMのワトソンみたいな有名なものでもそこまでいってなくて、人間と自然な対話できるレベルになっていないんですね。そしてロボットになると、ロボット個々の動作や機能が異なるので、そうした仕組みとそのまま使うことも出来ない。

佐藤 なるほど。

高橋 ロボットは下流からよくあるやり取りというのを人力でプログラムして蓄えていって、人工知能の方も上流側から充実してきて、どこかでそれがつながる瞬間が来るんだろうとは思っています。

佐藤 ペッパーもそうですけど、ここ何年かで急速にコミュニケーションロボットが出てきていますね、一番最初は何でしょう、AIBOですか?

高橋 AIBOは人間との関係性からコミュニケーションを築いていくという点では最初だと思います。あと、ちゃんとプロダクトとして高いクオリティでビジネス展開していたという意味でも最初ではないかと思います。

佐藤 なんとなくリアリティを感じたのは、僕の小学生の息子が、iPhoneのSiriと楽しそうに会話しているんですよね。それを全く違和感なくやっていて、ギャグとか言っているんですよ。よくデジタルネイティブなどと言われていますが、いわゆる心の障壁は本当になくなっていますよね。僕だとなんとなくまだ馴染めないのですが、子ども達だと、こういうものが本当の日常になって、コンピューターと友だちになったりするんだなと。

高橋 私も世代の差というのはあると思っています。ただ、見ているとペッパーもそうだし、昔のAIBOもそうだし、私がデアゴスティーニと一緒に発売したRobi(ロビ)というロボットもそうですが、意外と購入者層はリテラシーの低い年配の女性だったりしました。なんとなくこういうものって、アーリーアダプター的な、ガジェット好きで知識があって、ある程度お金のある人、というイメージだったのが、恐らくそうじゃなくて、感情で買い物をする人たち。かわいいから買おうとか。日経サイエンスではなく婦人画報を読んでいる人だったりとかが、実は購入者層になるんじゃないかなと。

佐藤 AIBOコレクターの女性もいますよね。

高橋 Robiは組み立て式ロボットで、こういうものは完全に男性向けだと思っていたのですが、ふたを開けてみたら4割近くが女性ユーザーでした。また、中高年のユーザーも多かった。ロボットは想像以上に幅広い世代に受け入れられるんだなと感じています。

佐藤 ロボット業界、と呼ぶのかわかりませんが、高橋さんのようにロボットを作っている最先端にいると、今後どのぐらいの期間で、どう変化していくとみていますか?

高橋 今は正直、ロボットバブルだと思っています。多くのIT企業が、ITの技術を使えばコミュニケーションロボットなんて容易にできるだろうと思って入ってきて、挫折してしまっている感じでしょうか。出口が見えないと。安易にこれからはコミュニケーションロボットでしょと入ってきたベンチャーも苦戦しているし、バブル的な状態は終わるのかなと思っていますが、それが終わる前にちゃんとビジネスとしてまわっていくもの、かつ、ユーザーの暮らしの中に入っていくようなものを確立させなきゃいけないなと思っています。

佐藤 そうですね。

高橋 もともとはシリコンバレーの企業がITの次はロボットじゃないかということで始めた部分があって、MITから出たベンチャーだとか、Amazonのechoという音声でいろいろやり取りできるスマートスピーカーだとか。で、iPhone、サムスン、中国のスマホとあって、その次ぐらいの3番手、4番手ぐらいのメーカーで今シェアを伸ばしているところなどは、このままスマホは続かずに、次はロボットじゃないかと。今中国もロボットをどんどんはじめていますね。ロボットと言ってもいろいろあって一括りにするのは難しいのですが、自動運転は間違いなく来るだろうというのと、ドローンは一定の市場は確立したのかな。ただ、これ以上伸びようもないかと思っています。一番大きくなりそうだけど、始めてみると結構大変だよねというのがコミュニケーションロボットの分野だと思っています。

佐藤 一口にロボットと言っても定義がわかりにくいですね。どこまでがいわゆる機械で、どこからをロボットというのでしょう。

高橋 もう、ロボットと言えばなんでもロボットなんだと思います。ウォシュレットぐらいから、ロボットと言えばロボットですね(笑)。

佐藤 ウォシュレットってものすごく自然に生活の中に入ってきていますけど、ロボホンなんかも、あまり考えないうちに自然に生活に入ってくるのでしょうか。

高橋 それはなかなかハードルが高いと思っていて、ロボホンがなんでスマホとして電話屋さんで売るような形にしたかというと、ロボット専門店に行ってロボットの為の費用を家計から割いて、今日からロボットと暮らしましょうと言っても誰もそんなことはできなくて、電話屋さんにあって、電話としての料金体系で買って、電話だから普段通りの通話なりメールなりネットなりの使い方をしていくうちに、徐々にロボットならではの使い方に気づいていってもらうことが必要なんじゃないかと私は思っています。初代のiPhoneがPDAと違ったのはそこかなぁと。つまり、通話ができるのでとりあえず買って電池の持ち悪すぎて使い物にならないと思いながらガラケーと2台持ちで使って、そうこうしているうちに段々慣れてきて、iPhone自体の性能もあがって、やがてガラケーの方を解約するということがおきてきたので、スマホとロボホンを2台持ちしてもらって、やがてスマホを解約してもらおうと。

佐藤 先日息子にロボット買ってと言われて、「パパはロボットを作っている人知っているよ」って言ったんです。その後これどこに買いに行けばいいのかなって?わからなくて、ネットで探したんですけど。

高橋 そうですね、小学生のお子さんに秋葉原で買ってこいとは言えませんし。

佐藤 ビジネス的には、ロボホンはどうやって始まったんですか?シャープからオファーがあったのか、逆に自社で開発していてそういう話になったなのか。

高橋 シャープさんのスマホをやっている事業部の方がやってきて、スマホと連動するロボットを作りたいと。スマホのアクセサリみたいのを作っても面白くないから、スマホに取って替わるものを作りませんかと提案したら、じゃ面白いからやってみましょうと。そうこうしているうちにシャープさんが今の状況となり、それでも面白いプロジェクトだということで、これに関わっている方は、会社が苦しい中でも、寝食忘れて一緒に開発してくれました。

vol.19~株式会社ロボ・ガレージ代表 ロボットクリエーター 高橋 智隆さんをお迎えして 団地の未来は、技術の未来 2/4

サポートや補完ではなく、もっとポジティブな存在へ

佐藤 ロボホンは一般の人が手にするものだと思うのですが、もう少し公共的なところだと、ロボットってどこに入るんでしょうか。一番想像しやすい場所だと受付やコンシェルジュ的なところかなと思うのですが。

高橋 受付・コンシェルジュというのはなかなか難しいと僕は思っています。コミュニケーションロボットの使い方にはコツが必要なんです。音声の出すタイミングだとか、ロボットにとって分かりやすい言い回し、とか。そして、スマホの方がサクサク動くのに、例えばロボホンのためにこんな面倒なコミュニケーションをしているのは、愛着なんです。受付ロボットみたいに一期一会だと愛着はないし、辛気臭いし、使い方がわからないし、フラストレーションばかりが溜まるんですね。だから受付は今の性能では厳しいと思っている。お客さんが一人一台、愛着をもって使い慣れてもらうことが大事だと思っています。

佐藤 そうかもしれない。

高橋 じゃあどんなものに可能性があるかというと、一つは倉庫の中で動くロボットで、Amazonがあるベンチャーを700 億ぐらいで買収したんですが、これは面白いですね。自動倉庫というとクレーンゲームみたいにXYZ方向に機械が動いて物品をピックアップするイメージをされると思います。倉庫の棚にきちんと分類された物品を収納したりピックアップしたり。でも、よく考えるとロボットにとって「整理」は必要ないんです。どこに置いてあっても、ロボットには置いてある場所を覚えておくことができる。空いているところにポンと置けば、システムとしては把握しているので、そうすると何がいいかというと、例えば歯ブラシの新しいブランドができたという時に、わざわざ歯ブラシコーナーを拡張する必要はなく、適当に空いている棚に置けばいいわけです。で、ロボットは歯ブラシの発注が来たといったら、その棚ごとズルズルと持って来てくれて、ピックアップして箱に詰めて発送するという仕組みなんです。面白いと思ったのは、人とロボットの特性の違いみたいなものをちゃんと活かせている事例だなと。どうしても人間基準で、人間が必要とする整理整頓ということをロボットに押し付けてしまっているけれど、実はそれって無意味だよねと。

佐藤 なるほど。インターネットの海から検索エンジンが情報を引っ張ってくるリアル版。

高橋 私は人間とベタベタなロボットをやっていますが、こんな風に一方で人間のしがらみから切り離したロボットもできてきています。コミュニケーションロボットなのに人のことを考えていないとか、物流用ロボットなのに妙に人っぽく作られているのは、賢くないなと思いますね。

佐藤 実際に流通というか小売りの現場とかにも入ってくるのでしょうか?

高橋 どうでしょう。今あるものでいうと、掃除ロボットなどはあり続けるでしょう。

佐藤 掃除ロボって意外となじみましたよね。

尾神 愛称を名づけるぐらいにかわいくなる時があるといいますね。

高橋 この部屋(SAMURAIオフィス)もまさに掃除ロボットが活躍しそうですね。半数のユーザーが名づけているといいますよね。勝手に動き回っているものに命を感じてしまうのは、一般的な人の心の琴線に触れるところなんでしょうね。

佐藤 大きな掃除ロボを作ってみたら(笑)。団地の中で。コミュニケーション掃除ロボ。

尾神 今は、色々な掃除用具をコンパクトに収納した台車を引いて清掃員が掃除をしているので、それをロボットに替えることができれば。

佐藤 掃除と警備とか。

尾神 それが見守りなどもできればね。

高橋 アメリカのベンチャーなどでは、ホテル内を動いて届け物をしてくれる。「変換プラグ持って来て」とか。人気らしいです。そういう巡回型のロボットはありえると思います。

佐藤 エレベーターだけでなく階段も多いから、届けてくれたりとかはいいかも。

高橋 もう一つは、ルンバのいいところは、ひたすらやっている間に全体がピカピカになっているとか、なんとなくフラフラ彷徨いながら、すぐにきれいになるわけじゃないけど、やがてきれいになっていて、動かし続けていれば、きれいな状態が保てるというところがいいところ。あれのポイントは見てちゃいけないこと。ここにゴミがあるのにあそこばっかりやっていたりとか、すごくイライラする。リモコンがあって操縦ができるとなると、なら自分で掃除するよとなってしまう(笑)。必ず出かけている間とか見ていないうちにやらせておくことですね。

スタッフ 案外、人型のものよりも黙々と自分のためにやっているものに愛着が湧くとか、そういうコミュニケーションに適した型ってありますか?

高橋 どうでしょう。ただ、おっしゃるように、玩具とかひょっとするとペッパー君もそうかもしれませんが、愛情を求めてやたらプッシュしてくるヤツってとても鬱陶しくなるんじゃないかと。そこの按配ってとても難しいのかなと思っています。人間関係でもそうですが。

佐藤 日本はロボット分野の進み具合はどうなんですか?以前「選択する未来」の時にも聞いたかもしれないですが、イケているのでしょうか。

高橋 イケてる方だと思います。

佐藤 一番はアメリカですか?

高橋 うーん。分野によります。アメリカの強みは軍事の予算があること。もう一つはシリコンバレーがあることですね。で、日本の強みは、マンガ、アニメ、ゲームのおかげで、ロボットに関して理解があることです。

佐藤 日本はロボットに関して理解があるんですか。

高橋 欧米だと、まだ、ロボットと話するのってなんで?みたいな感じです。

佐藤 そうなんですか。日本はアトムやドラえもんがいるからですか。

高橋 日本だと、コロ助から何から、ロボットと話をする場面がたくさん出てきますから。けれども、日本のアニメが浸透しているアジアやフランスなどでは、日本と同じぐらいロボットに対して愛着というか友好的な感情を持っています。そこは日本の強みだと。あとはデザインですね。「カワイイ」というニュアンスなど、そうしたデザインのテイストは欧米人にはなかなか真似できなくて、どうしてもアメコミみたいになったり、不細工なものを作りがちです。キャラクターデザインの力が高く、更にユーザー側も目が肥えている。

佐藤 なんかそれ、わかります。ちょっとキャベツ人形っぽい気持ち悪い感じがありますよね(笑)。欧米のキャラクターってちょっとこわい。リアリティでキャラクターを作っているからでしょうか。

高橋 欧米人は日本人のつくるもののかわいさはわかるけど、作ってみて、と言われと、それを作るまではできないというか。

佐藤 そういう意味で言うと、これ(ロボホン)は、しっくりきます。

高橋 結構色々考えた末の形で、可愛ければいいというのではなく、ある程度は無機質であるべきだと思っています。

佐藤 ホンダのアシモはどうなっているんですか?

高橋 アシモは…どうなっていますかね。結局人型のロボットは、現時点では作業に向かなかったんですね。車輪が付いて人の形になってない方が効率良く動けますし。人型のものを作ってなに遊んでいるんだみたいなことを、東日本の震災の後に言われてしまって、それを活用した作業ロボットを作ろうという感じに迷走し始めているようですね。

佐藤 ボストン・ダイナミクスの牛やヒョウみたいな動物を模したような、あの会社はどこに向かっているんですか?インパクトがすごいですね。

高橋 あそこの技術はすごいです。本来はあれを軍事に使おう、ターミネーターみたいなのを作ろうとしていた訳です。

佐藤 それは米軍の中に?

高橋 そうですね。

佐藤 恐いですよね。顔のない動物とか。見てみましょうか。

高橋 アトラスですね。新型のものでしょうか。

ボストン・ダイナミクス社 「Atlas, The Next Generation」

佐藤 ちなみにこれは、リモコン操縦?それとも自分で動いているのでしょうか?アシモは以前はリモコンで動かしていた感じだったけれど。

高橋 これも基本的には操縦ですが、雪山などで事前に環境や地形を学ばせなくても、その場で転びそうになったら踏ん張るとか、それがすごいところ。普通だと、いろいろなセンサーを使って、ここは傾いている、ここは滑るみたいなことを綿密に調べた上で動くのですが、行ってみて滑ったら修正するという感じです。

佐藤 そうなんですか。

高橋 例えば目標位置をGPSで教えて、あとは勝手に向かうことはできると。

佐藤 ドローンなども、勝手に飛び回っている世界が来たりするんでしょうか?

高橋 私は来ないと思っています。撮影のための道具としては最高だと思います。測量、点検など。じゃあ、一人一台とティンカーベルみたいのが飛んでいるかというと、プロペラの音と風がうっとうしいんですね。ギュイーンって音が鳴り続けて、風も出て。それを人の近くに飛ばしてくるのはないだろうと。あわせてエネルギー的な問題で、その勢いで飛んでると電池が持たなくなってしまうので。普通の人の普通の暮らしの中には入ってこれないと思います。

佐藤 ロボットの世界はいろいろな方面に分散して進化してきているという感じですか。

高橋 そうですね。その中でやっぱり期待過剰であることとか、どうしても政府としてロボットを応援しようとすると、納税者の理解を得るために、偽善的な方向に行きがちかなと。つまり災害救助と介護にいっちゃうんですね。そこで本当にビジネスとして回るのかというと、ただただ補助金食うだけのものになりかねなくて、ブームだからこそ怪しいところがありますね。ちゃんと正しい方向に向かっているのか、ちゃんと産業として自立できてビジネスとして成り立つところに向かっているのか。もう一つは、アメリカ、グーグルなんかと勝負になるのかっていう視点が欠落していると、税金を使っちゃっただけのブームになってしまいますよね。

佐藤 建設の方だとロボットや人工知能って結構進んでいると思うのですが。農業なども。

高橋 農業なども、結局、地方の高齢化・過疎化への対応で進んでしまうとおかしな方向に行ってしまうので、アメリカみたいに大規模で効率化という感覚でやっていかないと勝てないと思います。建設などもそうかもしれませんが、今コマツさんなどは、ドローン飛ばして測量してたりします。今までは、水準器使ってやってきたものを、自動測量したら自動で動くブルドーザーで、ガーッとやっていくと、ピターッと平らな地面にしてくれる。この先もとても可能性があると思っていますが、そこを例えば雇用の問題とかになったり、熟練工の技能継承なんかと結び付けて考えてしまうと、おかしなことになってしまうと思います。

佐藤 サポートということよりも、もっとポジティブに。

高橋 はい。衰退していく産業、衰退していく地方にロボットを投入するという考え方だとしんどくなると思います。

佐藤 なるほどね。それは、すごいヒントというか。なんとなく、この世界の先端にいるからわかることで、どうしても人の補完をすることを考えがちですよね。そこを見誤ると発展しないってことなんですね。

高橋 あと、ロボット業界の体質として、産業として独り立ちしないまま補助金をもらいながら来ていると、どうしても物乞い根性がしみついちゃって、どういう題目をつけて申請すると補助金がおりて…という方向にいっちゃうんですよね。

佐藤 なるほどね。

高橋 そこから卒業しないと世界と戦えないなと思っています。

佐藤 今の話はとてもいい話ですね。

vol.20~株式会社ロボ・ガレージ代表 ロボットクリエーター 高橋 智隆さんをお迎えして 団地の未来は、技術の未来 3/4

わかりやすい役割を与えてあげるのが大事

高橋

太田 団地に話を戻しますと、団地って効率的な生活とある程度環境と両立させながら、昔で言うとある理想に燃えてああいう空間を作ってきたんですね。ロボットに明確な目的を持たせてやれば、効率的な生活をちゃんと全面から、例えばデリバリーとかそういう方法でやっていけば、あまり人型とかそっちに行かなくても、うまくいく方法があるんじゃないかなと思うのですが。

高橋 まずは、宅配ボックスじゃないかなと思います。宅配ボックスがない中で、宅配のお兄さんがひたすら留守のところピンポンして。アメリカだったら、アマゾンが玄関先にポイポイ捨てて行っちゃいます(笑)。あの仕組みがナンセンスですよね。今、戸建住まいなのですが、宅配ボックスを付けています。ロボット以前に、そこは宅配ボックスつけて欲しいですね。

太田 確かに。

スタッフ 先ほどお掃除ロボットの話が出ていて思ったのですが、広いお庭を掃除しながら、写真を撮って、昨日まで来ていた人が今日は来なかったとか、わかるかなと。

高橋 私が少しデザインにも関わったロボットで、幼稚園に置いておいて勝手に写真を撮るというものがあります。昔、遠足などにカメラマンがついてきたように。先生が普段写真を撮るわけには行かないので、でも親はわが子が幼稚園で何しているのかなと気になるわけです。そうすると後で買ってくれるわけです。そんなサービスをしていて。園内を動き回りつつ、適当に記録もしながら、いろいろプライバシーの問題もあると思いますけれど、それらを欲しい人に対して提供する。というのもあるかも知れないです。

佐藤 集会所のコンペをやって、案を決めたんですが、そういうことと絡めてやってみるのもいいかもしれないですね。いきなりロボットが出てきても、なんだかわからないですから。集会所もリニューアルしてコンテンツが入れば、かなり活性化すると思っています。活性化してきたら、少しロボット的な要素も入れる事ができるかもしれない。なかなか、デジタルとかITとかこのプロジェクトに上手く使えなくて、僕としては少しもどかしい。何か方法ないのかなとずっと思っているんです。

高橋 例えば、何か、掃除ロボットの上にポストがついているような、例えば団地内だったら無料で手紙が出せるとか。何が言いたいかというと、わかりやすい役割を与えてあげるのが大事だと思います。コミュニケーションロボットだからって、仲良くなってね、何でもしゃべってねという感じだと、逆に使いようがない感じがします。

佐藤 さっきの話で言うと、iPhoneはi"phone”にしたから成功したってことですよね。

高橋 PDAだと普通の人は何に使っていいか分からないですよね。

尾神 最初これで電話として使えるのって言われましたけど、今はみんな使ってますね。

佐藤 最初の入口は単機能の方が理解しやすく使いやすいんでしょうね。

高橋 これはどういうジャンルのもので、今まで我々が使っていた延長線にあるね、という感覚は大事だと思います。

尾神 集会所の中に来る人と双方向のコミュニケーションができるものに、プラス新しい機能が付けるようだといいんですが。

高橋 その方向で「こんにちは、おじいちゃん」みたいなコミュニケーションのレベルを求められたりすると、ちょっとしんどいと思うんですね。

佐藤 なるほどね。

高橋 「彷徨うポスト」っていいと思いますけど。

佐藤 集会所のような場所に新しい技術を活かせるといいなと思っています。団地の未来プロジェクトは、日本の社会課題を扱っているので、オープンイノベーションをコンセプトにいろいろな方に入っていただいて、一つの実験モデルみたいに発信していければいいと思っているんです。

高橋 逆に伺いたかったのは、お話しを聞いていると、これだけ空室率が上がってきている世の中で、どういう再生の道筋があるのかなと思っていて。可士和さんが引き受けられたってことは、何か妙案があるのかなと。今治のタオルなんて、本来的には救いようがないようにみえるのを大逆転されて、ここにもそういう何かがあるんじゃないかと、感じられているんじゃないかと。

佐藤 今治タオルもかなり大変なプロジェクトだなと思ったんですが、団地の未来はさらに(笑)。妙案というか、もう少し複雑ですよね。タオル、ユニクロ、セブンイレブン…どれもひとつのブランドとして扱いやすいんですけど。これはすごく扱いづらいんです。だからものすごく難しくて、いろいろな方に入ってもらおうと(笑)。

高橋 なるほど。

佐藤 何か1つの事をやったからと言って、来年急に団地にワーッと人が来るってものでもないと思いますし、急にそうなっても、空き部屋もないでしょう。そもそも、こういう問題に対していろんなクリエイターが入って何かをやろうってこと自体がなかったというか。

尾神 ないですね。URの中だけでやっていますね。

高橋 過疎の問題などは、地域のNPOがセンスのある人たちに頼んで復興させていくとかあると思いますけど、私が面白いなと思ったのは、全国区というかワールドワイドな方々が入って取り組まれていると。そうするとどういうことになるのかなと。

佐藤 今治やその他僕が関わっているブランドのものと比べて、成功のモデルが一つじゃない。こうやって売上が上がる、というものとも違う。

高橋 時間もかかりそうですよね。

佐藤 かかりますね。

尾神 物をつくって、めちゃめちゃ売れるというものでもないですから。もともとあるものをどうやって良くするかとことですね。

佐藤 最初、隈研吾さんに団地の未来プロジェクトになる前の洋光台のアドバイザリー会議に誘われて。隈さんも団地をリデザインしていくというのではなく、何かこういうことに取り組んでいくこと自体が面白いんじゃないかと。僕もそこはピンと来たんです。

高橋 全国に適用できる何かが見つかると面白いなと。

佐藤 そうですね。僕はクリエイティブの力を使って、もしかすると団地の社会の中でのポジショニングみたいのは変えられるのではないかと思っています。昔は最先端だった団地の考え方も40年、50年経って社会状況も変わって、またここで集まって住むってことがうまくパワーになることができないかなと。まだ、探っているところですけど。だからこのTALKINGも僕にとっては新しい試みで。「団地の未来」というプロジェクトを立ち上げて、いろいろな人に入ってもらって、知恵を出し合って少しずつ一緒に考えていくみたいな感じになっています。すごく特殊なプロジェクトですよね。今治タオルも最初は今みたいになるか分からなかったです。これが問題点だというところはパッとすぐ分かったのですが、それでブランディングの活動をして本当に売上が戻るのかというのは、分からなかったですね。

高橋 本当に頭の堅い人たちもいそうですしね。

今治タオル 奇跡の復活 起死回生のブランド戦略

著 者:佐藤可士和

    四国タオル工業組合

出版社:朝日新聞出版

佐藤 僕は、自分の意見をすんなり受け入れてくれているんだと思っていたら、後で本を読んだら全然そうじゃなかった(笑)。「今治タオル 奇跡の復活」という本があるのですが、同プロジェクトを僕と組合側から書いていて、それぞれ視点が違って面白いんです。「佐藤可士和さんに白のタオルでやろうって言われてみんな目が点になった。」って。白のタオルって、僕はタオルの品質を語るなら白に決まっているでしょと思って言ったのですが、白のタオルって粗品みたいな一番安いものだと組合の皆さんは思い込んでいた。そこに柄とかデザインとか染めたりするから付加価値が付くと思っていた。でも僕に「白で勝負してください」と言われて、「えっ!」て(笑)。団地の未来をやり始めて2年ぐらいなんですが、大きな成果じゃないですがちょっとずつ進んでいますよね。防災のこととか、フィルムコミッションのこととか。いろいろ偶然も含めて。少しずつ、少しずつですが。恐らくプロジェクト立ち上げてないと何も起きてないかもしれない。

太田 どう対応していいのかもわかっていなかったかもしれないです。

佐藤 集会所などが実体としてできあがってくると、その辺から活性化するかなと思っていて、できあがってくるのが1年後ぐらいにあるから、いろいろと今のうちに仕込みたいんですよね。

尾神 アセットが最大の魅力ではあるので、共用的な施設であるとか、空間に少しこう手をかけて、少し閉じこもっていたところを外のまちと絡んで何かできるといいなと。

佐藤 古い集会所が建て替わりましたというだけだと機能が変わらないので、何か新しいソリューションを入れてみたいなと。トライでもいいから。それが、またメディアなど目に触れると新しい知恵が集まって来る。関心を引くというのがすごい大事だと思っています。一番怖いのは、誰も関心を持ってくれないことですよね。

高橋 隈さんが外壁の色を変えたり、室外機の見え方を変えたりしたように、そのレベルで何かガラッと変えられるといいですけれど。

尾神 そうですね。これは予想以上に効果は高かったと思います。

洋光台駅前にある洋光台中央団地
隈研吾氏のデザインにより外壁と広場の改修が進められている。

高橋 屋上を全棟ビアガーデンにしてみたいですよね。屋上とかテラスとか水辺とかに関して、日本人って圧倒的に扱い方が下手だなと思っていて。

佐藤 屋外の使い方ね。

尾神 今は居住者の方が屋上で洗濯物を干している程度です。

佐藤 風見鶏みたいなロボットがいて、毎朝コケコッコーと鳴くとか。

高橋 街にある時計台みたいな。

佐藤 そういうことでも何か変わっていくかもしれない。銀座のからくり時計だけでもみんな写真撮りますが、そんなシンプルなものでも。変化がないんですよね。新しい刺激を入れたいんです。

(vol.21に続く。)

vol.21~株式会社ロボ・ガレージ代表 ロボットクリエーター 高橋 智隆さんをお迎えして 団地の未来は、技術の未来 4/4

キーワードは「愛着」

佐藤 ロボットのプロジェクトは、どのくらい動いているんですか?

高橋 だんだん集約されてきていて、ロボホンが今一番大きな仕事ですね。デアゴスティーニのロビで200億円ぐらい売れたので、ロボットとしては記録的に売れた方です。あとはロボット教室をやっていまして、生徒さんが今1万人以上います。この3つが大きいところです。あとは単発で。

佐藤 いろいろとロボットを作られていますが、全部市販されているんですか?

高橋 一品ものもあります。ロビは販売していましたが、あとは在庫があるだけで、今は次の世代を開発しています。あと、宇宙ステーションに行ったものは非売品です。あとパナソニックの乾電池コマーシャル用のもあります。

佐藤 ロボホンが一番みんなが買えるものになるんですね。

高橋 そうですね。

佐藤 いくらなんですか?

高橋 19万8千円です。もう少し体力のある会社なら本体自体は赤字の出る値段設定をしてくれたかもしれませんが。

佐藤 普通にドコモやソフトバンクで買えるんですか?

高橋 SIMフリーの端末になりますので、ヨドバシだったらヨドバシで格安携帯などのSIMとセット売られるという感じです。Wi-Fiでも使えるので、家の中だけで使うとかでもいいかもしれません。

高橋

佐藤 ロボット電話みたいのは海外でもあるんですか?

高橋 ないです。つまり完全にぶっ飛びすぎてて、賛否半々なんですが。でも現状、iPhoneのコピーみたいのをみんなが売って、そこにのせるコンテンツを作って7、8年やってきていますが、とうとうアップルですら減収減益になり、サムソンもシャオミも、ってことで、確実にスマホにぶら下がっていた産業全体がジリ貧になっていくんですよね。とすると、スマホに不満はないけれども何かしら形を変えないと世界的に大ピンチで、だから時計型じゃないかメガネ型じゃないかとやってみているけれども、それもパッとしなくて。なんでここ(ロボホン)に辿り着いたかというと、スマホの唯一の欠点は音声認識を皆使わないことだと思って、十分賢いのにみなさん日常使わないですよね。理由は四角い箱だからじゃないかなと。家で飼っている金魚や亀にでさえ話しかけるのに、なんで賢い物に話さないかというと、命を感じられないからだよねと。人の形をしたらしゃべりかけるんじゃないかと。しゃべるとユーザーのライフスタイルのビッグデータが根こそぎ取れるので、それに合わせたサービスが返せるだろうということで、スマホの次は音声認識を促す端末になるんじゃないかと思いまして。それで人型にして勝負に出てみようと。

佐藤 なるほどね。

尾神 PC画面で見ていたよりも欲しくなりますね。

佐藤 うん。とてもかわいい。

尾神 もう少し大きいのかなと思っていました。

佐藤 なんとなく動いたりするのは、どういうこと?

高橋 センサーや音声でスリープ状態から起きるとそうなります。

佐藤 ちょっと生きているみたいですよね。さわると突然動いて。

高橋 ロボットじゃなくても人の形って、結構意味を持っています。リカちゃん人形の首を切ってみようなんてできないですよね。そんな感じで、人の形ってものにそれだけ強い影響力があるのに、それを活用した工業製品ってなかったなと。それができたら面白いんじゃないかなと。あとはアプリを足していけるので、これをプラットフォームにしていってもらえれば。今スマホのアプリは飽和していて、作っても全然売れないので、ここにそのアイデアを注いでもらえればと。

佐藤 ゲームとか考えていないですか?

高橋 はい。ゲームは今はクイズと釣りのゲームを準備していまして。ちょっと変わっているゲームで、ロボホンが勝手に釣りをするというもので、操作して釣りをするのではなくて、ロボホンが釣りしているのを人は眺めておくという。なんでそこに至ったかというと、職場でも家でもいいんですが、これをほったらかしにしているんですね。で、こいつは何をしているかと。たまに「ねぇねぇ暇だよ」とか話かけられたら鬱陶しいわけです。勝手に何かして遊んでおけと。それが成り立つのは何かというと、歌を歌っていても嫌だし、踊られたって困るし、釣りだったら勝手にやっていられると。例えば外で弁当食べているときに、釣りしているおじさんがいて、ぼんやりそれを眺めていて、釣れてても気にも留めない時もあれば、でかいの釣れたっぽいとなったら見に行って「釣れましたか?」と声かけるという、あの感覚。勝手にやっていて、人の方が興味のある時だけ関わる、ゆるいゲームなんかが成り立つんじゃないかなと思っていて、ついでにGPSの情報とあわせてご当地の魚から、それこそ魚以外のものが釣れてもいいかなと。カフェのクーポンが釣れるとか、そういうことが成り立つかなと。待ち受けゲーム的な感じの。

尾神 個人を一人ずつ認識しているのですか?

高橋 もちろん私は、登録しているので認識しています。また、家族や友人として顔や名前が登録済みの人を見つければ「○○さん久しぶり」と。

佐藤 子どもが携帯を持つとなったらこれにしてみようかな。びっくりされるだろうね。

太田 おじいちゃん、おばあちゃんとロボットって、また違った関係が生まれるのかなと推測するんですが、実際はどうなんでしょうか。

高橋 ロボットとして話をするということもあるでしょうし、これをアバター的に使って孫とのハンズフリー電話にすれば、こいつが動きながら話しますし、メールなんかも動作を交えながら読み上げるので、そういう使い方も含めて意外と年配の方にも使ってもらえるんじゃないかなと思っています。ただ、独居老人の見守りみたいなイメージがついてしまうのは避けたいので、表向きにそれは謳いませんが、実際はそういう使い方もあるんじゃないかと思います。

尾神 AIBOも今だに修理する人がいるぐらいですし。

太田 愛着ってキーワードが先ほども出ていましたが、おじいちゃん、おばあちゃんにおける愛着って格別なのかなと。

高橋 愛着って結局、私もスマホを持って世界中廻って写真を撮って、全部この中に記録が入っているわけですが、iPhoneと一緒に育ったとか、iPhoneと一緒に旅したとか、という感覚はないですよね。でもロボットだとそれが出てくるんじゃないかと思っています。団地にも通じると思うんですけど、ここで育ったとかという経験を共有した感覚って価値が出るんじゃないかと。ロボホンで撮った写真も、僕がいついつ撮った写真だよとか言いながらスライドショーしてくれて、老夫婦的な感じで、愛情の形が変わって、ずっと苦楽を共にしてきた共有体験こそが価値、みたいになりうるんじゃないかと思っています。

尾神 相棒みたいな感じで。

佐藤 確かに、今、話を聞いていたら、今これは新品だけど、これが傷だらけになったやつの方が、愛着がわくかもしれないですね。

高橋 そうですね。どこそこで、頭打った時の傷とか。

尾神 服を着せたりね。

佐藤 ボロボロになっているんだけど、かえって捨てにくいよね。

高橋 人形ですら捨てにくいですからね。供養するぐらいですから。団地も、引越せばいいのにと外からは思ってしまうところもあるのに、多くの人が住み続けているのは、ひょっとするとここで長く住んでいるということに何かがあるんだと思います。

尾神 そうですね。元々住んでいる人はそうですが、新しく来る人や若い人に早い段階でそう思ってもらえるようにしたいと思っています。

佐藤 ロボホンは、落下とか衝撃に対してはどうですか?

高橋 ある程度のレベルまでは試験をパスするようにしていますが、それを超えると首などがもげちゃいます。防水でもないですし、結構かさ張りますし、値段も張ります。でもiPhone自体も大きいし高いし、落とすとガラスが割れちゃいますし。何年か前のガラケーの時代だと、小さいし安いし防水だし、Gショック携帯なんかもありましたよね。そういうものだと太刀打ちできなかったのですが、今は、ロボットにとっては何とか勝負になるんじゃないかなと。

佐藤 ロボホンは構想どれくらいですか?いつぐらいから?

高橋 3年間やっていますね。数年前からこのアイデアがあって、色々なところで「将来、目玉おやじみたいになりますよ」と。それがようやく実現したというところです。

佐藤 なるほど、わかりました。何か洋光台に対して一緒に考えていけたらなと思っています。

尾神 アイデアを出し合いながら、コミュニケーションという何か新しい視点で関わっていただければと思います。

佐藤 今日僕が思ったのは、何かのサポートや補完じゃなくて、もっと積極的に活用を考えないとうまくいかないというお話は、すごくいいなと思いました。

高橋 ペッパー君みたいな感じの受付、共用ロボットみたいのは、一番得策じゃなくて、もしもコミュニケーションロボットを持たせるのであれば、一人一台完全にユーザーにべったり紐づいたものを使うべきだし、共用にするのであれば、さっき言ったみたいなポストと掃除機が合体したものとか、機能がはっきりしているもので、人間と変に近すぎないものの方がうまくいきそうな気がします。寡黙で無愛想だと思っていたけど、気になるし、かわいく思えてきた。そんなぐらいの方がいいと思います。

佐藤 一見、受付みたいなものをと考えがちだけど、それは一番得策じゃないんですね。

高橋 フレンドリーっぽく見えて、なんだ、こいつポンコツだなと思われるとダメで、それよりは、話しかけづらい管理人ぐらいの方が、意外と頑張って働いているよね、いいやつだよね、という感じで、キャラクター的にいいかもしれないです。

佐藤 一流ホテルのコンシェルジュぐらいサクサク動いてくれればいいけれど、ショッピングセンターのインフォメーションで何聞いてもちょっとお待ちくださいって言われちゃうと、もういいよってなっちゃうしね。

高橋 期待値の高さとそれにまったく見合わないロボットの現状の落差が一番の問題で。ロボホンが小さいこともそれに寄与していて。小さいので期待値が低いんですよね。なにかちょっとできると、プロジェクションできるとか、話しかけると答えてくれるとか、期待値をちょっと超えるだけで、よくやっていると。等身大だと完全に一人前の知性、一人前の働きを期待してしまうので、期待に届かないとがっかりしてしまう。

佐藤 180cmあるのに写真のプロジェクションしかできないとかなると…(笑)。

高橋 小さいと一つのことができるだけでも、すごいなと。

佐藤 確かに。

高橋 人間にも言えます。期待が大きさと身長は比例する部分があって、大きな人はボーッとサボって見えがちで、同じ働きぶりなのに小さい人は頑張っているように見えてしまう。大型犬と小型犬とかも。ロボットはなるべく性能に対して小さいと満足度は高くなるということですね。

佐藤 なるほど面白いですね。いろいろ考えつくされているだろうから。

尾神 持ち運びできるというのがいいですよね。常にいじれるというか。

高橋 個人のパーソナルなデバイスになるというのが大事なことだと思っていて。ホームロボットになると家で留守番していて、それこそお母ちゃんと共用って、昔の共用のパソコンや固定電話みたいになってしまって、距離が縮まらない。持ち歩いて出先でも旅先でも、というところに経験の共有が生まれると。

佐藤 わかりました。いろいろありがとうございました。

ミーティング風景

高橋 智隆   Tomotaka Takahashi

高橋 智隆

高橋 智隆   Tomotaka Takahashi

1975年生まれ。京都大学工学部卒業。代表作にロボット電話「ロボホン」、ロボット宇宙飛行士「キロボ」、デアゴスティーニ「週刊ロビ」、グランドキャニオン登頂「エボルタ」など。ロボカップ世界大会5年連続優勝。(株)ロボ・ガレージ代表取締役、東京大学先端研特任准教授、大阪電気通信大学客員教授、グローブライド(株)社外取締役、ヒューマンアカデミーロボット教室顧問。

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