TALKING

打ち合わせ風景

各界の方々と意見交換し、多角的な視点からさまざまな施策アイデアをふくらませていく、「TALKING」。今回のお相手は、ブックディレクターの幅允孝さんです。幅さんは、様々なニーズにマッチした「書棚」をデザインし、多くの書店やイベントをプロデュースするなど、「人が本を開く機会」をつくる、ユニークなクリエーターです。佐藤可士和さんとは大阪・千里のリハビリテーション病院のプロジェクトでコラボレーションし、「ブックセラピー」という新ジャンルを創造しました。そんな幅さんと可士和さん、URのスタッフが、「図書館」というニーズをきっかけに、人々のコミュニケーションのあり方まで、楽しく議論しました。その様子を3回シリーズでお伝えします。

vol.11~ブックディレクター  幅 允孝さんをお迎えして団地の未来は、コミュニケーションの未来

「ライブラリー」は、多世代コミュニティのキーワード

佐藤 よろしくお願いします。以前「TSUTAYA TOKYO ROPPONGI」を手掛けた際に、幅くんはTSUTAYAの新しい本の分類アイデアを考えて、僕はTSUTAYAの新しいロゴマークをデザインしました。

 03年4月ですね。03年から08年までかな、置く本の編集・企画を務めさせていただきました。

佐藤 その後、僕が大阪の千里リハビリテーション病院のプロデュースを担当した際に、理事長先生から「リハビリに使う本を」という話があって、その時もご一緒しました。脳卒中などの後にリハビリに取り組む方々は、みなさん大人でそれなりの経験をされているのに、リハビリに用いる本はすごく子ども向け過ぎるというか、幼稚園児が読むような本しかなくて。

 「小学1年生 国語ドリル」とかね。

佐藤 すごくプライドが傷ついてしまってよくないので、字は大きいけれども、大人の知的好奇心を満たすようなものはできないかと。そこで、「ブックセラピー」という新しいジャンルが誕生したのですが、そういうものを手掛けていますね。

幅 允孝氏

 そうですね。最近は病院案件も多いです。特別養護老人ホーム、介護付有料老人ホーム、あとは、通院型の心療内科で認知症のセンターとか。もともと僕は東京の青山ブックセンターにいて、それこそ建築やデザインの担当をしていました。そこに可士和さんがお客さんでいらっしゃっていたんですよね。今はなかなか人が本屋に来てくれないので、人がいる場所へ本を持っていくことを仕事にしています。

佐藤 本屋さんもたくさんプロデュースして。そういう人ってあまりいないよね。

 そうですね。最近だと、内沼(晋太郎)君とか。彼は書店を営みながらですけど。僕はあえて書店持たずに、いろいろなところで本を手に取るオポチュニティをつくることを仕事にしています。

佐藤 非常に特異なポジションですね。

 よく食えてるねと言われます。(笑)

UR尾神団地マネージャー(以下尾神) このプロジェクトは、可士和さんにも加わっていただいてもう4年目です。一昨年(15年)3月から「団地の未来プロジェクト」として形になりました。今取り組んでいるのは昭和40年代にできた築40~45年くらいの団地です。古びていて、高齢者も多く元気がないところを、建築家の隈研吾先生にも加わっていただき、外壁の修繕改修をしたり広場改修を検討していただいている段階です。

 鉄板に木(モク)の印刷をした室外機のカバーなどですね。

尾神 そうです。

 木じゃないといけないということをよく隈さんがおっしゃっていますよね。それはいたく納得しました。

尾神 私どもが自ら手掛けるともう少しおとなしい感じの外壁修繕ですが、団地というものの骨格をより際立たせていただくような形で、今、他にも様々なデザインのアドバイスをいただいています。その中で、駅から歩いてすぐの広場が特徴的なので、そこを硬いイメージからやわらかいイメージに変えていこうということで基本設計をしていただき、これから工事にかかる予定です。その後、可士和さんと一緒に当面8つくらいのテーマで進めるべく考えているのですが、その中で、団地内の「北集会所」の改修コンペを皮切りに、少しずつプロジェクトとしての具体策に取り組み始めています。

 なるほど。

尾神 また、実は洋光台には商店が62店舗あるのですが、もっと活性化して賑わいのある空間となるようにしていきたいと考えています。その中で「CCラボ(コミュニティチャレンジラボ)」といいまして、商店を改装して家賃も光熱費も無料で、地域の方々に地域拠点としてお貸ししているコーナーがあります。まちの人と触れ合いや、活動の見える化を狙いとした場所になっています。

 商業を営んでいるわけではないのですか。

尾神 たまたま貸していなかったスペースを隈先生からアドバイスをいただいて木調の内装にして、NPOさんなどですべて運営していただいています。その時に、実は図書館やライブラリーというキーワードがありまして、うちのトップからも、ライブラリーというのは高齢者から若者まで多世代のコミュニティにつながる良いキーワードではないかと話がありました。

 公共の図書館は近くにないのですか。

尾神 ないです。建設予定もないので、本を核にコミュニティがつくっていけたり、まちづくりにつながるものがあると非常にいいなと感じていました。可士和さんから幅さんのお話をお聞きして、ぜひお会いしたいと。

 会えました(笑)

太田

URウェルフェア総合戦略部 太田部長(以下太田) まち全体で1万800戸くらいの全戸調査のアンケートを実施した際に、アンケートの自由欄にも図書館が欲しいという、実際にまちに住んでいらっしゃる方のご意見が結構あったので、「団地の未来」の中で応えていきたいと。我々だけが考えている話ではないんですね。

 どういう図書館が欲しいと思っているのかということも、本当は考えなければいけないですね。要は、話題の芥川賞受賞作が読みたいのか、もう少し見知らぬ本に出会いたいのか、モチベーションを分類しないと。

尾神 地元の本屋さんにもなかなか人が来ないようです。

 逆に、本屋さんと共闘するぐらいじゃないといけないでしょうね。

尾神 実は、これ(プロジェクトから生まれた書籍「団地のゆるさが都市(まち)を変える。」)がまちで100冊以上売れていて、まちを愛している人はたくさんいるのではなかろうかと思われます。

洋光台駅前の書店入口洋光台駅前の書店入口にて

「図書館」のニーズを細かく分析する

 なるほど。長く住んでいる方は、70年代からずっといらっしゃるんですか。

尾神 そうです。25〜30年以上住んでいる人はたくさんいます。住民の年齢構成を見ると、65歳以上の人が30%を超えてきているというまちです。

 でも、意外に20、30代の人がいますね。20.2%も。

尾神 3年前からハロウィンのイベントを大々的に開催していますが、そういうイベントを行うと、広場に5,000人くらいの人が来ます。ただ、普段は、若い人をあまり見かけないような状況です。

 どこにいるんだろう、普段は、という感じですね。わかりました。

尾神 4年間携わってきて一つ思うことは、大きなイベントもいいのですが、やはり草の根というか、個人レベルの運動を大きなムーブメントにつなげていかないと、と思っています。例えば、まちライブラリーのようなものが出てきたりとか。マイクロ・ライブラリーのような、個人で図書館を設置するとかいうことが今、流行しつつありますね。

 千葉市とか。

尾神 ですよね。コミュニティとブックをうまくつなげるようなもののヒントがいただけるといいなと思っています。もうひとつ、ニュータウンというのは、今50年弱くらいたっていて、浅い歴史だけれども、まちを愛している人もいる。ただ、まちのアイデンティティとして何かあるかというと、文化的なものがそう育っているわけではないですね。洋光台ならではの音楽や風景が育っているわけではないので、知的インフラを育てていかないと。今はワーッとやっているけど、まちに愛着を持ってもらうためには、洋光台ならではの何かを展開して、全方位的ではなくて、あるところに焦点を持ってこういうまちですよと絞りながら進めていくことができれば、と思っています。そういう背景のもと、色々な意見交換を進めたいと思います。

 なるほど。わかりました。まず、図書館へのニーズを細かく分析する必要があると思います。要は、公共図書館だと流行りのベストセラーは30人待ちで借りられないから、うちの近所にも欲しいというモチベーションなのか、もう少し、知的好奇心ではないけれども、根源的な欲があってそういうことをおっしゃっているのか、それとも単純に暇なのか。つまり、どういうモチベーションで図書館が欲しいと言っているのかを、きちんと聴取することが必要かと思います。

 我々は本を選ぶ仕事ですが、意外に自分たちが好きな本を持っていってもお節介にしかならないので、お話を聞きながら、自分たちが薦めたいものとあるべきものとの距離を縮めることが大事だと思っています。世の中の全ての団地に良いライブラリーをつくるのは難しいと思いますが、ここの団地で会ったあのおじちゃんにあの一冊、あのおばちゃんにこの一冊、あのおねえさんにこの一冊というような、個に対する対応を重ねていって、最後に汎用性を獲得するという方法が、実はこういう場合、一番誠実かつうまくいくパターンになるのではないかという気がしますね。

尾神 なるほど。

 もう一つ。「図書館が欲しい」という心持ちの分類ですが、図書館が欲しいのか、本が欲しいのかということも分けて考えなければいけないと思います。現在の公共図書館だと、アーカイブと本を読ませるという両輪を走らせていて、どうしてもアーカイブのほうが重要だから「こんな面白い本がありますよ、いいですよ」と投げかけることはあまりせずに、とにかく何十年後かに検索でたどり着いた人に「きちっと取ってありましたよ」と白い手袋で出すようなことが重要視されていました。でもそれだとこれからの公共図書館は厳しいでしょう。もう少し、静的ではなく、人々に何かを投げかけるような動的な場所にしていこうという全国的なムーブメントもありますし、洋光台の地域がどういう図書館を求めているのかを考える必要がありますね。それとも、「図書館」と名付けてしまうと本好きしか来ないのかもしれません。僕がベストだと思うのは「気がついたら読んでいた」という状態をつくるほうが、本を広げるという意味ではいいのではないかと思います。図書館に行く気すらない人が、座っていたら気持ちよくて、その辺に本があったので読んでしまった、そういう状況をつくってあげることがひょっとしたらいいかもしれない。何を求めているかを少しずつすくい上げていく作業が必要かなという気がします。

佐藤 確かに「図書館」というと、柔軟に新しいことをやろうとすると、かえって縛りが出てしまうかもしれないですね。そういう意味で、呼び名もすごく重要かと思います。「ライブラリー」とか。

尾神 私はずっと「新たなライブラリー」という呼び方をしてはどうかと考えていました。

 最初から図書館誘致とは別のお考えですよね。

太田 そうです。その敷地もないですし。ただ、店舗スペースの活用は考えているので、場所として大きくなくても、本と出会えて知的欲求が満たせるような装置を、隈先生が手掛けている広場に面した部分で何か展開できると面白いと考えています。

ライブラリーは「箱」じゃない

ミッドパークライブラリー:東京ミッドタウンで毎年開催されている。H28年度の開催概要(詳しくはこちら→

 東京ミッドタウンで、毎年ゴールデンウィークに「ミッドパークライブラリー」というイベントを開催しています。一昨年はシルバーウィークにも開催しました。でも、ライブラリーといっても本棚があるわけではなく、東京ミッドタウンの芝生広場でピクニックバスケットを50個準備して、そこに本を3冊と敷物を入れて無料で貸し出すサービスをするわけです。2009年から続けていて大好評です。ライブラリーというと箱がないとできないと思われがちですが、その気になればどこでも図書館になるんですね。

 本の貸し出しのステーションのようなものがあり、バスケットには一つずつ名札が付いています。例えば「こんなところに行きたい」という名札のバスケットには、次の旅先を考えるために、ナショナルジオグラフィックの「いつかは行きたい○○の絶景」や旅日記など、やわらかい本と少し読みごたえのある本、ものすごくやわらかい本の3種類を入れて、電話番号とお名前だけステーションで書いていただいて貸し出しをしています。みんな芝生広場で寝転んで本を楽しんでいます。

 これが良いのは、本好きも借りていきますが、本が好きではない人も結構借りていってくれるところですね。なぜかというと、敷物が無料で借りられるから。そういう人が敷物を広げて、3つの角に本を重し代わりに置いて(笑)。屋外カフェが隣接していて、よく飲んでよく食べて、たぶん妻子は買い物中。陽光も気持ちいいし芝生もよく手入れされているので、本当に爆睡している人もいるし、寝転んでいる人もいる。それだけ身体的に気持ちがいいとどうするかというと、目の前の重しを読むというか、開くというか。話を聞くと4年ぶりに本を読みましたと。考えてみると4年ぶりに本を開くオポチュニティをつくることができたという意味ではポジティブで、実際、50のバスケットが1日に8回転するので、3×50×8で1200回も、人が本に出会う機会をつくることができているんですね。

佐藤 なるほど、面白いですね。

 もし、僕がこのプロジェクトにかかわるとしたら、ターゲットにしたいのは、本が好きな人はもちろんですが、本なんて4年開いていないぜ、みたいなおじさんにどうやって、体が忘れかけている読書行為をどのようにして、しかも、それを啓発的でもなく、威圧的でもなく、何となく読んでもらえる状態をつくっておくのかということが、すごく重要だと思います。東京ミッドタウンの場合は芝生広場でピクニック型のような形にしたらうまくいきました。だから、箱ありきというよりは、本さえあればどこでも読めるというくらい、やわらかい考え方で展開することもありなのかなと思います。

 もう一つわかったことは、体が気持ちいいと、人は本を手に取るということ。熱が出ているときに知らない本を読もうとは思わないですよね。身体的に楽な状態でないと、新しい好奇心のようなものを誘発するのは厳しいんです。体が身体的に気持ちいい場所をどうつくってあげるかは重要と思います。

スタッフ 団地の中にそういう場所はたくさんありますね。気持ちよく寝転んでいられそうなところ。

 あとは、無料だといいですね。ちなみに、ミッドタウンのイベントでは、貸し出しは数日ではなくて1日です。朝の開始が10時からですが、10時-5時で、その間はどれだけいても大丈夫です。ミッドタウンは、そんなに1日いる人はいないですね。団地で展開するならカスタムしなければいけないと思いますが、なるべく、本に興味がなさそうな人も巻き込んでいくプロジェクトになったほうが面白い気がします。

尾神 もし、そういうことができるとすれば、駅に近い広場に面した部分でしょうか。1階に店舗、2階は住居の住居付き店舗という形式で、現在62の戸割店舗やスーパーがあります。駅からの通過動線であるここを隈先生に改修していただくことになっているのですが、この中に少したまり場的な空間をつくろうと考えています。こういったスペースを活用しながら、ご紹介いただいたようなイベント的なものを展開することが可能かもしれません。

 そうですね。ステーション的な部分をつくって、そこで貸し出しやキープなどの対応をすると。人がどのように立ち回るかということはありますが、オペレーションは簡単にできるのかなと思います。

佐藤 そのライブラリーもすごくおしゃれにつくって、あそこだったら店を入れたいと思われるキラーコンテンツにもしたいと思いますね。

尾神 団地に店舗を出しているのは、高度成長期の成功体験を持っている人たちばかりです。だから、今は全体的に落ち着いてしまっているんですね。そこも徐々に変えていければと思っています。

 デザインの力でそこに引力をつくることは絶対に必要なことと思っていますが、本というのは、著者以外の人が読んで初めて本足り得るわけです。でも、本をインテリア化すると読まれるというよりはそこにあればよしという感じになりがちです。図書館の司書の方は読ませたいというモチベーションで働いている人がすごく多いので「格好よければ何でもいいのか」みたいな批判的な意見も多くなったりしますね。

 あと、分類に関しては日本十進分類法という厳密に守らなければいけない図書館の区分けがありますし、今後もあり続けると思います。アーカイブが図書館の一番のプライオリティだったので、例えば、何々という本をくださいというと、はい、ありますよときちんと出してくるためには、その分類が必要でした。ですが、それだけだと眠っている本が多すぎるので「こういうものがあります」という投げかけ型もあります。図書館の職員は「企画棚」と呼んでいて、編集型の本棚を分類から離れてつくることは、全国津々浦々どこでも展開しているんですね。重要なのは、ここが公共図書館でないとしたら、とにかく人気がある本だけをたくさん入れて「回転率いいよ」ということにするのではなく、本来の本の意味をうたっていく場所にするべきだと思います。

 つまり、貸し出し率の多寡ではなく、読んだテキストの一つの文章でも、一つの文字でも、人の心に刺さって、朝早く起きる気になるとか、今晩のレシピを思いついたとか、何でもいいのですが、もっとその人の生活に作用すればいいと思っています。別にたくさん読む必要もないし、途中でやめてもOK。本がその人の毎日に息づいていると思うことが大切。既存の道徳観をもう少しもみほぐしてあげて、やわらかい気持ちで本に接して、一言でも、一つの文章だけでも残っている、そういう状態をどこまでつくり上げることができるかが、これからは重要だと思います。

vol.12~ブックディレクター  幅 允孝さんをお迎えして団地の未来は、コミュニケーションの未来

上手にクラウド化していく

尾神 今、可士和さんといろいろ練っているのは、実は、ここの住戸は狭くて50㎡くらいしかないので、共用で賄えるものと専用で欲しいものを分けて、例えば本はみんなが供出していくと。

佐藤 クラウド化すると(笑)。

 確かに、ペットが病気になった場合でも、ネットを見てもみんな違うことを書いてあるから。

尾神 自分の本自慢でも何でもいいですが、そういうことできちんと戦略を練って展開することと、皆さんが供出して展開するものとをうまく併設すると、考えているクラウド化のようなものと合ってくるかなとは思います。

 その際に、ゴミ捨て場にならないように気をつけないと。

佐藤 そこは難しいところですね。

 そこがオンステージになっていればいいと思います。東京・青山の骨董通りでも、スタバはオンステージだと思うんです。外にもちょっと席があって。そこで本を読んでいる自分も含めて「骨董通りのスターバックス」という感じがありますよね。誰が何を持ってきたか責任の所在をはっきりして、どのように人に読まれるのかがきちんと追尾できるというか、そのあたりがガラス張りになっているオンステージ状態にしておく。だから、ある意味、持っていくならきちんとした本を持っていかなければいけないという緊張感のようなものを持たせる。

佐藤 それがないと、古本屋代わりになると。

幅

 「要らないからあそこに持っていけばいい」ではなく、オンステージ化すれば色々な問題も解決してくるし、そのためには、実はデザインの力や、什器や空間の力が重要。クラウド化するのは全面的に賛成です。家には本棚がないという方が多いので、そうした場合に、意外に使える。

 ネットの情報が全てと思われがちですが、意外に偏った情報であることも多いので、本の情報をどのように受け取って使い、ネットの情報はどう受け取って使うべきなのか、その情報の取捨選択のようなことを教えるというか、そういう面も視野に入れて進めていくべきだという気がします。ネットに書いてあって本には書いてないこと、その逆もありますし。その本棚の取説のようなものが必要ではないでしょうか。

尾神 そうですね。

佐藤 あとは、スペースありきですね。物理的な量が決まってしまうので、それによって、できることが結構変わりますね。全方位的には置けないですし、何か絞るのか、浅く展開するか、そこも考えないと。

 そうですね。でも、ある程度ベースになる場所がないと。

尾神 そこに行けば何か情報がとれるとか。

 そう。ある程度物量がないと、ちゃちいと思われてしまいますね、空間としても。特にクラウドだけで物量を出そうとするとなおさら。

スタッフ でも、本のクラウド化をすると、いろいろな人がいろいろな本を持ってくるわけで、それを絞るのは難しいですね。浅くしかなり得なくて。すごく難しいですね。

 そうなんです。ある意味、キュレーションが効いた「本丸」と、クラウド化でどんどん集まってくる場所は、機能分けを考えながら展開したほうがいいと思います。ある程度クラウドで展開できればいいのですが、そっちだけにしてしまうと無法状態になってしまうので、要は、ここは皆さんの心の鏡ですよ、みたいなクラウドの部分と、ここはきちんとURが責任を持って、30年読めそうなレシピの本なのか、仙骨姿勢講座なのかわからないけど、その辺はきちんとキュレーションして置いておく。

佐藤 うかつに進めないほうがいいということですよね。よく考えて進めないと。

 はい。もちろん、善意で活動してくれるおばあちゃんとかもきっといますけど。

佐藤 逆にすごく立派な全集のような、これはぜひ欲しいというものがあったら、特別に寄贈してもらえるくらいがいいね。

 寄贈したら名前が残るとか。

スタッフ 「○○文庫」のような感じですね。

 そう。だとしたら、本棚を小さなボックスというかフレーミングができるような設計にして、ここのフレームは鈴木さんが寄贈してくれたブリタニカの全集であるとか、こっちは佐藤さんが寄贈してくれた「ドラゴンボール」とか、寄贈したものが一つずつきちんと区分けできるような什器を用意すると、贈った人の誉れというか、そういう感じになるかもしれないですね。

スタッフ 名前が出るとなると、変なものは持ってこないですよね。

 そうです。責任の所在をはっきりさせて、1冊ごとに、誰によって、いつごろ寄贈されたものなのかということをきちと添えておくことが重要になってくるのではないかと思います。それさえすれば、逆に、しようがないなと、すごいものを出してくれる人がいるかもしれません。

尾神 駅から5分くらい歩いた場所に「北集会所」があり、建築コンペによって団地の未来の一つのアイコンとなるような場所に生まれ変わる予定です。この中に、幅さんがおっしゃったようなアイデアが入るといいかもしれないですね。また、少し離れたいろいろな場所にもあったほうが、高齢者の方はそう広範囲に歩けるわけではないし、いいかもしれません。

 なるほど。そのためには良い地図が必要ですね。

尾神 そうですね。

テーマを絞ると面白くなる

 若者をどう惹きつけるかはすごく重要です。城崎温泉で僕が手掛けているプロジェクトがあります。もともとは、志賀直哉の「城の崎にて」という小説が書かれた場所で、当時の白樺派を中心に多くの文学者がここに来て、いろいろな物語を書いていたそうです。今、豊岡市長の中貝さんが、3期目の市政運営を進めているのですが、「小さな世界都市」を標榜し、食や環境・観光に力を入れています。中でも「文化」というのがひとつの切り口となっており、文学のまちを復活させ、最近は城崎国際アートセンターもつくって、パフォーミングアートのまちとして、だんだん知られるようになってきました。僕はそのプロジェクトに協力した時、若い方の力をたくさん借りました。

「城の崎にて」は確かに僕も志賀が好きだったし、面白い作品でしたが、とはいえ、1917年に書かれた作品で、ほぼ100年前ですね。で、何をするかというと、現代版にアップデートさせましょうということで、要は、現代の作家に昔の作家がしていたように城崎に逗留してもらって、そこで小説を書いてもらうというプロジェクトを実施しました。

初回は「プリンセス・トヨトミ」、「鴨川ホルモー」などの作品がある万城目学(まきめ まなぶ)さんに2回来てもらって、三木屋旅館の26号室という、志賀直哉が寝泊まりしていた部屋に滞在して、そこで「城崎裁判」という物語をつくってもらいました。

 その物語を書いた後で重要なことは、東京の出版社に持っていっても万城目さんだったらどこでも出してもらえますが、それでは意味がないということです。NPO法人「本と温泉」を立ち上げて、そこで旅館組合の二世会、つまり40歳以下の若旦那衆に、幾らかずつ出してもらって出版レーベルをつくりました。わざと通販ゼロで、まちの外湯と旅館、温泉だけでしか売らないことにしました。城崎のまちでは外湯めぐりが有名だから、ここで最も気持ちいい読書は何かというと、やはり風呂で読むことでしょうと。それで、表紙がタオルで、中はストーンペーパーを使って、防水の本なので風呂で読めて、体が洗えるという本をつくりました(笑)。そうしたら、これが結構、関西圏の万城目ファンを中心にバズりまして、結構売れました。

城崎裁判 :万城目学著 NPO法人「本と温泉」発行 http://books-onsen.com/

第3弾プロジェクトとして、湊かなえ書き下ろし小説『城崎へかえる』も2016年7月に発行された。

スタッフ お風呂で読めるなんて素敵ですね。

 これが面白かったのは、編集者は僕一人だけで、あとのスタッフはみんな若旦那衆たちということ。で、若旦那衆がやる気を出すというか、彼らのモチベーション喚起になったのです。小説家と仕事をするなんて思いもよらなかったと彼らはいいますが、こういうプロジェクトを始めてみると、万城目さんがまた電話をくれたとか、万城目さんとスナック聖子に行ったとか、僕を越えて、万城目さんと良いコミュニケーションが出来上がっていて、いうなれば、友達同士になっている。城崎なんて誰も来ないよと言っていた彼らも、わざわざ来てくれると、すごく誉れに感じるというか、うちのまちもまだまだイケるんだなという感じになってきて、これは結構うまく機能しています。

 この事例のように、ここの場所ならではのものや、ここでなければ体験できないことがあることによって、若い人も「おれ洋光台に住んでるんだけど、どう」みたいな(笑)、そういう感じになってくるというか。

尾神 そうですね。ニュータウンでできているまちなので、ある意味で特徴がありません。だけど、50年たってそれなりに特徴が出てきている中で、今おっしゃったように、そろそろ洋光台ならではの、というものを整理していくべきとは思っています。

 そうですね。そこにはものすごく良い図書館があるらしいとか、しかも、ただで読める、ただでかりられる、そういうものは絶対にありだと思います。ともあれ、住む人が誇らしい形で、ものが徐々に出来上がっていくことが重要かと思います。

尾神 そうですね。

佐藤 あとは、極端なアイデアですが、漫画だけに絞るとか。それもスペースによるけど。そういうこともありかもしれないですね。コミュニケーションとしては、わかりやすい。

 漫画は新しいものが出るので、最新刊を誰が補充していくのかという点のリスクが少しありますね。ただ、学校帰りにみんながここで「ドラえもん」のコミックを45巻まで読めば、絶対に悪い大人には育たないとか(笑)。漫画は、コミュニケーションのツールとしては、入り口としてやわらかいのでありだと思います。

 一方、最近は、僕らは保育園のライブラリーなども手掛けさせてもらって、沼津のインター近くにある新築の丘の上保育園のライブラリーに携わりましたが、そこは、子ども用ばかりではないライブラリーを設置して、結構うまくいっています。狭い8畳くらいの1部屋に本が200冊くらいですが、絵本だけではなくて画集なども入れました。もともとは、うちの子が、家に転がっていたマティスの「ジャズ」という切り絵の作品集を、赤色を覚えた直後にゲーム用に使っていたんですけど、赤、赤、赤と言って。だんだん興奮すると、赤ではないピンクや紫も、赤と言っていて、あれは楽しそうだったので。そうしたら、興奮したのか、クレパスのようなものを持ってきて、赤の上に、黒、といきなり描きだして(笑)。おいおいこれ高いんだぞ、という心の声をおし殺しまして…。(笑)。

 でも、それを見たときに、大人は、マティスとはこうで、彼は晩年に絵筆が握れなくなったとか、輪郭の問題など美術的な文脈でしか見ないのですが、子どもにとってはただの鮮烈な色の連なり。でも、逆にその見方が面白いと思いました。子どもにもインタビューしましたけど、彼らは子ども扱いされることをすごく嫌うから、そうではないものを見せてあげてる。例えば、女の子は、年中さんくらいになると、お洋服やファッションに興味があって、プリキュアの変身や着せ替えでは飽き足らないので本物のモード写真を見せてみたり。僕の時代にはそういうものはなかったけど、今は、道具箱にドレスが幾つか入っていて、それをお昼などに着せ替えて遊ぶわけです。

尾神 すごいですね。

それぞれのコンセプトを集積していく

 とにかく洋服が好き。じゃあということで、「ヴォーグ」などで活躍しているティム・ウォーカーというファッション写真家の本を持っていきました。ティム・ウォーカーは、ファッション写真の中でも寓話をもとにしたファッションストーリーを結構撮る方で、例えばページを開くと、小人が何人かいて、リンゴが落ちていて、ああ「白雪姫」だとか、トランプの兵隊がいるから「不思議の国のアリス」だとか、子どもでもわかりそうなストーリーが多いんです。それを持っていったら、案の定、アリスだ何だと言っているわけです。本当に、クリスチャン・ディオールの何百万円とか、もっとしそうな、すごく白いドレスが載っていて。保育士さんは、そういうものを持っていくと、英語などはわからないとか、こういう洋服はよくわからないとドン引きですが、園児は大興奮で、その真っ白いドレスを、これ着てお嫁に行くとか言っているんですよ。

 それはそれで、今しか言えないと思いました。つまり、それが、クリスチャン・ディオールの値段や歴史を知ってしまったら、気軽に、これ着てお嫁に行くとは言えないでしょう。要は、その時期にしか見られない純粋なものの見方があって、そのときに本物を見せてあげることが重要だと思います。

 例えば、ウルトラマンの怪獣の本など、子どもだとボードブックで10体くらい怪獣が載っているものですが、たまたま円谷プロが全監修する「ウルトラ怪獣大図鑑」が出て、「ウルトラQ」から、ウルトラセブンの息子の「ウルトラマンゼロ」までの怪獣が何百体と並んでいる本を持っていくと、7,000円だからさすがに家では買わないし、ああいうものは、子どもはびっくりするくらい覚えるんです。怪獣博士が保育園に大量出現するわけです(笑)。そういうふうに知識ゼロの子たちに本を読む習慣を身につけさせることに、個人的には興味がありますね。

尾神 子どもには少しレベルが高いけれども、体験してもらうといいようなものをね。

 そう。子どもは意外に理解しますし、こちらの作為も全部見抜いてしまうくらいです。あとは、おじいちゃんおばあちゃんですね。実は、もう文字が読めないんですけどね。僕もよく、特別養護老人ホーム、認知症の病院などの方とお話ししましたが、入所の度合いによりますが、テキストはもうムリで、ビジュアルのほうがいいと。高齢者は、つい先ほどのことは苦手ですが、長期記憶は残っていることが多くて、中でも、万博がどうだとかなどの国民的記憶や自分の職業に近いことなどは覚えていて、佐賀で認知症の病院の仕事に携わった際には、ご家族と一緒に患者さんにインタビューしたら、昔の農耕具の図鑑などを持っていったら、農業従事者が多かった土地柄なので、これは「しろかき」のときに使うとか。あと、すごくマニアックな車の出版社から出ている、1930年代の国産オート三輪を集めた「国産三輪自動車の記録」という本がありまして、オート三輪の写真と当時の広告が見開きで載っているものですが、あれなどは、農協の月賦でこれを買った云々と。息子の名前も忘れそうなのに、急に思い出されたり。出版社の人も、まさか認知症の病院でその本が機能するとは思わないでしょうけれども、ああいうものがそこに置いてあると、すごくいいなと思いました。

 今、特養などではどうしても映像に頼ってしまっています。ひたすら「おしん」を流しておくとか。みんな集中して見て、徘徊防止などにもいいらしいですけど、映像は、途中で止められないんですね。でも、本は自分で手に取って好きなページで止まれるし、戻ったりできます。

 つまるところ、保育園児からおじいちゃん、おばあちゃんまで、何か訴えかけていくようなプロジェクトにしたいなと思います。

スタッフ 今お聞きしていると、わりと絞ったほうが面白いことができそうなのかなという気がしますが、それほど絞って幾つも部屋があるわけでもないし、それで、団地だからいろいろな人に来てほしいとなると、尾神さんがおっしゃったように、商店街の中や北集会場の中など、いくつかの場所があって、その絞ったものが幾つかあるけれども、それがある期間で回って、この月は高齢者の人たちのものがあって、こっちは子ども向けでと、入れかわっていくと結構面白いですね。

 そうですね。それもありだと思います。とにかく、小さくてコンセプトが合ったものを幾つかしっかり集積させていくことはありだと思います。動線に近い場所で。

佐藤 あとは、運営をどうするかですね。

 そう。本は重いので、入れ替えるのは意外に大変です。

佐藤 一回現場を見てもらいたいと思います。行くと、何か空気を感じるからアイデアがたくさん出てくると思います。

 可士和さん的には、今のところどういう空気を感じていらっしゃいますか。

佐藤 洋光台の団地はモデルケースになるような団地だけあって、けっこういい感じです。さみしい感じはないんです。古いけど、すごくゆったりした空気が流れていて。

 可士和さんと隈さんのインタビューを読ませていただきましたが、内装は結構、和モダンな感じでしたし。

スタッフ あれは昔からのもので、現在はあまり残っていないです。

佐藤 そのままカフェにしたらよさそうな感じのものではあるけど、少し小さいですね。

尾神 50㎡内外の広さで、今の感じからすると少し狭いです。

佐藤 そう。だから、店を開いたり何かするには少し狭いので、それをどうするか。

尾神 あとは、壁は取れないけれども、連続コーナーとしては使えるので。

 壁は取れないんですか。

尾神 構造上、取れません。

太田 柱梁構造ではなくて壁で支える構造ですので、室内の壁は取れますが、隣との境の壁は取れません。ドア1枚分くらいなら大丈夫かもしれません。

佐藤 あとは、行ったのが冬だったということもありますが、あまり人が出ていないというか、そういう場所もないというか。なので、ライブラリーがその役割を担うのかどうかわからないけど、人が集っている場面がちゃんと見えるようになればすごくいいなと思います。おじいちゃんとおばあちゃんと若い人が一緒にいるような場が、ビジュアルとして見えるというのが、目指しているイメージですね。

 そうですね。あそこに行くと触れ合えるというような。

佐藤 改修した場所で、外に椅子を出してもいいと思うし。

 確かに。日常使いの場所にしてもいいですね。

尾神 そうですね。

vol.13~ブックディレクター  幅 允孝さんをお迎えして団地の未来は、コミュニケーションの未来

ライブラリーは、人が集まる場所

佐藤 朝とか決まった時間は人がたくさん通ったりするけど、それ以外の時間は基本的には団地はがらんとしている。だから、一部分でも何か賑わっているとまではいかなくてもいいけど、集っている感じがあると急に雰囲気が変わっていいと思いますね。

尾神 イベントでも、多少でも外に人がいると意外と来たりするんですよね。

佐藤 「TSUTAYA TOKYO ROPPONGI」も、外のテーブルが効いていますよね。

 効きましたね。

佐藤 あれは、最初はそう設計されていたものではなかったんです。あそこを見に行って、せっかくだからここのデッキもぜひ使ったらいいのではないかという話をして、ぽつぽつとテーブルと椅子を置いたら、季節のいい時期はむしろそっちがメインになったような感じがある。犬を連れた人が、犬を外に結わえてお茶したり。あれがよかったのかなと思いますね。

 気持ちがいい場所ですよね。

佐藤 あと、「TSUTAYA TOKYO ROPPONGI」で大きく変えたのは、2階はガラスだけど、そこが棚になっていたら外から見えないわけです。で、それをやめて外から見えるようにして、ガラスに面して作られたカウンターで視聴できるようにしたわけ。つまり、中で人がやっていることが外から見えるようにしたんです。あれがすごく大きいよね。

幅洋光台CCラボでの「帰宅部」活動の様子。高校生が中心となり、小学生から自由に過ごせる居場所づくりを実施。ツイッターやライブ配信なども自身でおこなっていた。

尾神 CCラボなども、アコーディオンタイプで全面開く形にして、いい時期は全開にしてイベントを実施しています。シャッターも、基本的にはしまうときにしか下ろさず、カーテンもない。何をしているか見える空間にはなっています。

 ここで、あるときに、高校生以下の青少年に、帰宅部といって、勝手に使っていいよと。漫画も置いて、ファミコンもしていいとしたら、相当集まりました。だから、先ほどおっしゃったようなニーズは絶対にあると思います。そうすると、お母さんたちの評価も結構上がってきます。

幅洋光台CCラボでの「帰宅部」活動の様子。高校生が中心となり、小学生から自由に過ごせる居場所づくりを実施。ツイッターやライブ配信なども自身でおこなっていた。

 CCラボって、いいことしてるじゃないと。

尾神 もう一つは、高齢者対応も、小規模多機能でいろいろなところで私どもも展開していますが、大工さんだった認知症の人に大工道具を与えると、認知症がもとに戻ってくるとか、あるんですね。昔、自分ががんばっていた時代のことをさせたりする。それは本でもそうだと思いますが、当時の本を見せたりすると、やはりいきいきとしてくる。自分が自慢できるようなものだと記憶が戻ってきたりするので、そういうところはあるのだろうと思います。

 とにかく、部屋から外に出てきていただいて、それが集う場所として機能して、しかも、それがまち行く人々にとって、いるなあ、みたいな感じで。

 上野公園にスターバックスができた際に、上野公園というのは今までは通りすぎる場所だったものが、たまりができる、集いができたという感じがすごくしました。別にあれがスタバであるかどうかはさておき、こういうところにも、ガラスハウスではないですが、そういうもので本の場所ができると面白いと思います。本の場所というか、「図書館」というと本に興味がない人は来ないですけど、それこそファミコンに興味がある人が来てもらってもいいですし、そういう、少し集う場所としての機能のさせ方のほうがいいのかな。

佐藤 一回、広げて考えてみてもいいかもしれない。ゲームなどもありと広げて考えて。

 アニメのDVDがそろっていて、見放題とか。それだと若い子がものすごく来るし。

尾神 シンゴジラの撮影場所としてはネタとして使えるので、1年半か2年はそれで人を呼べるかなと思っています。

佐藤 本当は、若い子たちが集まってきてくれるほうがいいですね。

尾神 いいですね。

佐藤 老人しかいないのではなく世代が交わっている感じがいいですよ。

 若い子がたくさん、ゲームやDVDを見ている横で、おじいちゃんは新聞を読んでいるような感じですね。

佐藤 それはいいですね。

尾神 すばらしい。

スタッフ 今、中学生や高校生あたりの子が集まる場所がないんですね。下手に集まっているとたむろしていると言われてしまって、なかなか集まる場所がないから、そういう子たちが集まれる場所ができると理想ですけどね。

 となると、ある程度のスペースが欲しくなりますね。

佐藤 そうですね。スペースの問題がありますね。

 本の量はそれほど要らないかもしれないけど、コンテンツはあるような。

スタッフ 島で一つの場を共有しているけれども、その中の細かいところはそれぞれにいてもいいようなもの。

佐藤 そうするとカフェも欲しくなりますね。

 東京都武蔵野市にある「武蔵野プレイス」という図書館の1階がそれに近い感じです。2階より上は結構きちんとした既存の図書館然とした静かな場所ですが、1階のコミュニティスペースのようなところは、飲み物、食べ物オーケーで、多少声を出してもよくて、学校帰りの子たちが自習しに来たり、映画を見に来たり、結構活用されています。「武蔵野プレイス」は、今、図書館の世界では結構評価が高いです。1階には自習室もあります。何らかの、宿題をする場所を欲しがっているというニーズは、ここの企画を手掛けた人に聞いたら、やはりあると言っていました。

佐藤 「リビング学習」の延長だよね。

 そうです。それで、親が安心するということがあります。あそこで宿題してくると言ったら、どんどん行ってこい、みたいな。

佐藤 緩やかな学童保育というか。

 そうですね。学校が終わった後、親が帰るまでの時間をどうするかと。そうした場合のセーフティプレイスとして。

佐藤 あとは、おじいちゃんおばあちゃんと一緒に若い子たちが、交わらなくてもいいから、一緒にいるだけでもいいと思う。同じ場所にいるというだけで、会話しなくても、すごく違うと思います。

 そうですね。慣れの問題というか。

佐藤 自然に、徐々に慣れてくる。

 逆に、会話を促進させようと作為的にことをするとうまくいかない気がします。放っておけば、交わる人が出てくる。

佐藤 ちょっとすいません、と言うとか、そういうことでもいいと思う。そういうほうが自然かな。

スタッフ 会話しろというほうが無理ですよね。話題が違うので。

佐藤 でも、自然にはできるんですよね、きっと。

温度を宿すのは、そこで働く人

幅

 そうですね。いいと思います。あとは、本当にそういう場所をつくるとしたら、図書館的に考えるならば、司書がいたほうがよくて。

佐藤 そうだね。あとはスタッフをどうするかですね。

 まちの人がよくわかっていて、顔が大体わかる、代替不可能感が重要かと思っています。新潟市に、「北書店」といって佐藤雄一さんという人が営んでいる書店があります。もともと彼は新潟の中規模の書店チェーンに勤めていましたが、そこがつぶれてしまって、悔しいからと、借金して自分で1店舗だけ在庫と什器を借りて、一人でインディペンデントな書店を始めた人なんですが、面白い書店ということで、本屋業界ではよく知られています。僕はそこで一度、2日間、お店の店頭に立たせてもらうイベントをやったことがあって、とても面白かったです。置いてある本は、総合書店なので、NHKのテキストや雑誌などがたくさんありますが、あるおばあちゃんがその注文に来るんです。で、注文書に名前を書こうとそのおばあちゃんに下の名前をたずねたら、おこられてたんですね。私の下の名前も覚えてないの?と(笑)。要は、お客がそこまで求めているということが新鮮でした。今は、誰がいても回っていくというシステムのほうが大事にされていますが、北書店は、あの佐藤さんがいるからみんなそこに来る。一方で、小さな書店だから全部あるわけではないので、ないならないで、しようがないわねと言ってこれを買っていくというような寛容さもある。

佐藤 なるほどね。

 あの代替不可能な誰かがそこにいるような感じは、こういう場所はこれからきちんと継続して続けていこうと思うとすごく重要で、そのくらいの覚悟というか、もちろん、オペレーションは最も難しいところですが、コアになるような人を1人育てるようなマインドが必要ですね。でも、それでまちの人がわかっていると、あの人がこういうことをしたから、この人がこの本を薦めるなら聞いてやろうかとか、お客もそうですし、一方で、図書館を運営しているほうもそういう意識ですね。

 先週、石垣島の市立図書館に行ってきました。そこも、いる人はもう20年くらい司書として勤めているから、来るお客の顔が大体わかるわけです。近所の何とかさんと何とかさんが、休館日に新聞を読みたいというニーズを知っているから、どうしているかというと、休館日ですが、入り口の扉が二重になっているのですが、それの外側だけ開けておいて、自動扉の間の小さなスペースに机だけだして、その日の新聞だけを出しておくわけです。そうすると、近所の人が読みに来て、喜んでくれる。

 そういうことなど、まちがそれほど大きくないからまちの人がわかっているということもありますが、この人が来るから新聞を出しておくかというような、完全に、その人のためのサービスがうまくカスタマイズされている状態は、すごく面白いと思いました。

 図書館員も楽しそうに働いているわけです。例えば、絵本コーナーで「たろう選手権」というものを展開していて、「最強のたろう」は誰だと。ノミネートされているのは、桃太郎、金太郎、浦島太郎、ちからたろう、三年寝太郎、ゲゲゲの鬼太郎、ねぎぼうずのあさたろうなど、この本を1冊読むとシールがもらえて、「最強のたろう」にシールを貼っていく。こういうものを、auのCMを見ていて思いつきましたと開催していて、まちの人が、しようがないなあと、借りて読んでシールを貼っていく。コミュニティとして、無理なく、でも楽しそうにしていました。ちなみに、今の1位は忍たま乱太郎ですとか何とか、実況中継をネット上でしてお客さんをあおったりしています。

 最近はきれいな図書館が多いですけど、空間やデザインの力もかりながら、最終的にそこに温度のようなものを宿すのは、そこで働く人だとすごく思います。どのようにして、その人をモチベーション喚起から育てていくシステムを構築していくかなど、そこが重要な気がします。だから、ここで働く人の給料を上げることも重要だと思います。

佐藤 ボランティアではなくて。

 ボランティアではなくてね。石垣市の場合は、館長さんが、その辺の待遇を工夫しているみたいです。もちろん、給料はなかなか思ったようには上げられないのですが。図書館の新刊購入予算も重要だけど、人件費をどう上げるかということを真剣に考えていらっしゃって、ある意味、それは正しいと思いました。

スタッフ 石垣市の図書館は、公立ですか。

 市立図書館です。要は、最初は派遣で採った方を何とか正規職員にしたいとか、そういうことに腐心していると館長さんはおっしゃっていました。

佐藤 一回洋光台を見に行ったほうがいいかもしれない。その後、インタビューするのか、アンケートを実施するのか、ニーズをもう一回調べてもらって。スペースは、やはり当たりをつけるのかな。

スタッフ 1階のほうがいいでしょうか。人が溜まっているところを見せるとなると。

佐藤 目的としては、このプロジェクトをビジュアル化したいんです。見える化しないと、せっかく展開してもらっても発信しにくくなってしまう。もちろん1階のほうがいいかもしれないけど、それはわからないですね。

スタッフ かどっこで、ガラス張りで全部見えるような。

尾神 これから、継続的なアンケートを実施します。今これだけ動いているので、評価がどう変わったかなど。このアンケートの中に、図書館の設問を入れられます。

佐藤 いろいろなアンケートの中に組み込めるわけですね。いいんじゃないですか。

 それはいいですね。

佐藤 そのアンケートの設問を考えると。

尾神 そうです。

 いいと思います。

佐藤 あとは、もう少し先でもいいかもしれませんが、ライブラリーをつくるために本を収集するのに、どのくらい予算がかかるなどのことも考えないと。

尾神 そうですね。

佐藤 内容にもよるかもしれないけど。

 内容にもよりますね。でも、たくさんあるからすごいでしょ、という感じにはしないほうがいいと思います。数では闘わずに、これがあるというような。本の一冊一冊に意味があるような感じ。あとは、本当は動的というか、新陳代謝で回り続けるほうがいいと思います。今月は、佐藤可士和さんに漫画10タイトルについてコメントしていただきましたという本がフレーミングされて、翌月は全部取り替えるとか、わかりませんが、動きがあるようにしていく予算も考えておかないといけないでしょうね。

まちのニーズがつくるライブラリーへ

尾神 もともと派手なまちではないので、地道な手法のほうが発信力としてはいいのかなと思います。こんな場所にこんなすごいものをつくりましたというよりも、小さいながら、まちのニーズも拾いつつ、新たな形態で展開していくほうがいいかなと思います。

佐藤 「団地の未来プロジェクト」は、洋光台をモデルケースにして日本全体の団地の未来を考えるプロジェクトなので、集まって住んでいるからこそのパワーを上手く活用したようなプロトタイプになるといいですね。

尾神 「まちづくり協議会」という、少し年齢は高いのですが、核となる役員さんのつながりは1万800戸の中にあります。

 アンケートを行う際に、「図書委員募集」みたいな形にして。

佐藤 それは全然ありですね。

尾神 いいですね。

 たぶん、委員会のそれと図書委員のそれは、組織を分けて考えて、図書委員は、僕が面談のようなことをして、全体の総論としてのアンケートと、コアになりそうな、温度の高い人たちが何を考えているかは直接やりとりしながらディスカッションというか。

佐藤 いいですね。

 それはぜひ。

佐藤 それこそ幅君と一緒にライブラリーをつくろうと。

尾神 初めから場所があってということではなくて、せっかくCCラボというコーナーがあるので、ワークショップ的なもので、幅さんをお迎えしてお話をしてもらって、意見交換のような形で。それでニーズを拾っていくと。

 そうですね。

佐藤 あと、たまたま東京ミッドタウン・デザインハブで浅葉さんとトークショーをしていたら、最後に話しかけてくれた人がいて、僕は実は洋光台に住んでいるんですと。若いデザイナーでした。このプロジェクトがあってうれしいですということを言ってくれたので、彼だと思って(笑)、僕と一緒にやってくれるかと言ったら、そのつもりですと。そういう感じでつながりができました。そういう人をぜひ引っ張り込んだほうがいいです。

尾神 元司書とか絶対にいるはずですし。実は、今、すごくマスコミに出ている、首都大学東京の木村草太さんは洋光台出身で36歳、憲法学者です。それが最近わかりました。結構堅く見えるけど面白いらしいです。

佐藤 報道ステーションに出ていましたね。

尾神 そうそう。洋光台で関わっていただいている首都大学東京の小泉雅生先生のつながりで、一回やりませんかと言われたので。意外と面白いかもしれないです。都市論が好きなようです。

佐藤 今回、「団地の未来プロジェクト」では、そういうオープンイノベーション型にしようと思っています。僕はファシリテーターで。いろいろな人に入ってもらって。一企業のブランディングなどでは、人が増えすぎてしまうとまとまらなくなるでしょう。でも、これは、どんどんいろいろな人が入って積極的に関わってくれたほうがいいかなと思っています。

 それぞれの各パートが独立自尊で、セパライズされたら楽しいね。

佐藤 で、例えば広場改修ができたりとか何かのタイミングで、関わってくれた人がたくさん集まってシンポジウムのようなことを開催するといいなと考えています。

尾神 開きたいですね。

佐藤 それは相当の面白いことになるよね。

太田 関わる人がどんどん増えていく。

佐藤 緩やかに、絶対に「防災」と本はつながるし、必ずそうなるかもしれない。それこそ、ゴジラの本のアーカイブが充実しているとか、そういうこともあるかもしれない。あとは、ノスタルジックになるかどうかわからないけど、それこそ昭和の良い記憶のようなものとかね。

 「三丁目の夕日」的なものとか。

佐藤 そうそう。

尾神 ゴジラの庵野さんのご自宅が鎌倉だそうですが、鎌倉に住んでいるとなると、もともとあの辺の土地勘で、団地のカクカクという感じが好きなので、ぜひ団地を撮影させてほしいといらっしゃったんです。ところが、URはあまり協力的ではないので、ダメもとで私どもに来てみたら、こちらは、ぜひにと言ったものだから、びっくりしていました。

佐藤 もともとは、そういうことに協力的じゃないんだ(笑)。

尾神 ダメもとで言ったら、こっちはぜひと言ったものだから相手がびっくりしてしまって。

佐藤 このプロジェクトの皆さんは、命をかけてURを変えようと(笑)。

 では、ぜひ、背中押しくらいで。

尾神 今はやっといろいろなものが出てきて会社の中でも認知度が上がってきましたけど、最初は、ええって感じでした。いつまでやるの、みたいな。で、一生やるよと。

佐藤 僕は、最初はアドバイザー会議のメンバーになってくれと言われたんですよ。それまでは、「団地の未来プロジェクト」ではなくて、洋光台でこういう取組みをしようということで1年間。1年携わって、その後、仕事をするまでに1年くらいだから、2年かかりました。

尾神 隈先生も、このときは仕事モードではなかったので。1年間のアドバイザー会議が終わった次の日に、隈先生から、手掛けたいと。隈先生に携わっていただくまで1年かかっていて、そこからプラス2年で可士和さんです。

佐藤 もともと、アドバイスをいろいろな有識者に聞いて、自分たちで手掛けようとしていたわけですよね。

 大胆ですね。せっかくですから、僕も巻き込まれたいと思います。

尾神 本日はありがとうございました。

-了-

ミッドパークライブラリー

永田 宏和   Hirokazu Nagata NPO法人プラス・アーツ理事長 株式会社iop都市文化創造研究所 代表、デザイン・クリエイティブセンター神戸 副センター長

幅 允孝

幅 允孝   Yoshitaka Haba ブックディレクター 有限会社BACH(バッハ)代表

1976年愛知県津島市生まれ。未知なる本を手にしてもらう機会をつくるため、本屋と異業種を結びつけたり、病院や企業ライブラリーの制作をしている。最近の仕事として、「ワコールスタディホール京都」ライブラリー制作、「ISETAN The Japan Store Kuala Lumpur」3階 書籍フロアなど。その活動範囲は本の居場所と共に多岐にわたり、編集、執筆も手掛けている。著書に『本なんて読まなくたっていいのだけれど、』、『幅書店の88冊』、『つかう本』。愛知県立芸術大学非常勤講師。www.bach-inc.com

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