ゆたかなくらしって? まち×アート
グッドデザイン賞を受賞!森にいる動物たちのイラストが暮らしに寄り添う団地って?
お使いのブラウザによってリンクが機能しない場合があります
森の中で小鳥やリスに出会い、チョウやトンボを追いかけ、季節の花々に癒やされる。住空間の中に、イラストでそんな世界を実現したのが、埼玉県朝霞市の朝霞浜崎団地です。このイラストを描いた黒田潔さんとともにその魅力を紹介します!
小鳥、トンボ、チョウ…。各エリアで違う主役たち
どんな動物に出会えるのかな? そんなワクワク感に満ちた朝霞浜崎団地。2014年の大規模改修の際、「住んでいる人を包みこむような森」をコンセプトに生まれ変わりました。その改修で、各フロアのアイコンとなる動植物のイラストを担当したのが、イラストレーターの黒田潔さんです。
「どこの階に住んでるの?」「トンボの階だよ」「私は小鳥の階。それじゃ、トンボの階のエレベーターホールで待ち合わせようよ!」
こんな子どもたちの会話を頭に描きながら、黒田さんはイラストの制作を進めていったそうです。
「団地はどうしても似たような空間になりがちです。でもこうやって、フロアによって異なるモチーフがあると個性が出ますし、愛着が湧くのではないか、と思いました。ずっと住んでいても、毎日何かしら発見がある。そんな住空間になっていたらいいですよね。」
1号棟のエントランスには、「住んでいる人を包みこむような森」というコンセプトが伝わるように、さまざまな仕掛けがあります。外側には花が描かれたデザインフェンスがあり、植栽の緑とよくマッチしています。
中に入ると、木の根っこを中心にアンモナイトなど地中の世界が描かれた大きなガラスが現れます。そして上を見上げると、落下防止のフェンスがあり、そこにはハスや鯉など水辺の世界が表現されています。
そして、なんといっても目を引くのは、吹き抜けとなっている中庭から見える壁に縦に大きく描かれた、緑色のイラストです。
「一番面積が広いですし、多くの住民が目にするもの。そこで全体のテーマが分かるように、大樹を中心に各フロアの主役たちを書き込みました。」
まさに、この森の世界観を表す絵。朝霞浜崎団地の森の物語はここから始まり、各フロアのイラストへとつながっていきます。
生活を楽しくする、秘密めいたワードやイラスト
「満月、はちみつ、スポンジケーキ。」
「明け方、麻ぬの、温めたミルク。」
階段をのぼっていくと、ぽんと視界に飛び込んでくるのが謎解き言葉のような一文。フロアごとの“色”をイメージして考えられたものだそう。その言葉が示すようにどの階も温もりのある壁色で、建物全体は低層階から高層階へ上がるにつれ、クリームからブラウンへのグラデーションになっています。
ここに黒田さんが描いたのは、身近な森にいそうな生き物、生えていそうな植物でした。どのイラストも風の流れを感じるように描かれているので、壁から飛び出してきそう。
「住んでいる人の中には、昔はこういう生き物が近くの森にもいたな、と懐かしがってくださる人もいて。親近感を持ってもらえるとうれしいですね。」
低層階にはきのこや木の実、中層階はつつじの花やチョウ、高層階には飛び立つ鳥たちと、生息エリアをイメージして配置しているので、イラストを見れば、何階あたりにいるのかも自然と分かるのだそうです。
子ども時代の記憶として残ってくれたら
駐輪場にはモクレンの花、その隣の小さな遊び場にはアンモナイトや恐竜の骨が描かれています。団地のあちこちで、こんなすてきなイラストが見守ってくれていたら、住んでいる人は優しい気持ちになれそうです。実際、大規模改修後は、パブリックスペースに自転車やチラシが放置されることもなくなったといいます。住民の方の意識も自然と変わってきているのですね。
黒田さんは言います。
「生活の中や遊ぶ場所にグラフィックがあるっていいなと思うんです。実は、私の小学校に岡本太郎の作品があり、ずっと記憶に残っていました。そして、大人になって、国立代々木競技場の壁画などの岡本太郎の作品と再び巡り合い、大好きなアーティストになりました。こんなふうに、僕のイラストも子どもたちの記憶に残るのかなと思うと責任を感じますし、将来どこかで僕の作品とまた出会って、子ども時代の記憶とリンクしてもらえたらうれしいなと思います。」
朝霞浜崎団地の大規模改修は2014年度のグッドデザイン賞を受賞。黒田さんの代表作となったのはもちろんのこと、住んでいる人にとっても自慢の住まいとなりました!
森の中にいるような動物や植物のイラストで、愛着と癒しのある団地に
- ・団地の空間を「森」というイメージで包み込む
- ・住みながらやさしい気持ちになれる、各エリアによって異なるイラスト
- ・コンセプト&デザインセンスの高さから、グッドデザイン賞を受賞
埼玉県朝霞市朝志ケ丘1-2
JR武蔵野線「北朝霞」駅、東武東上線「朝霞台」駅へいずれも徒歩5分の快適ロケーション。3棟にも及ぶ建物全体を森に見立てた、グラデーションのカラーリングと団地各所に描かれたグラフィックが魅力的。
今回の先生:黒田 潔さん
イラストレーター。1975年東京生まれ。多摩美術大学大学院美術研究科、グラフィックデザイン専攻修了。
2003年より線画で描かれる動植物のアートワークで雑誌や本の装丁をはじめ、さまざまな分野で活躍を続ける。2005年新宿サザンビートプロジェクトのウォールグラフィックで、2014年朝霞浜崎団地大規模改修のグラフィックで、グッドデザイン賞を受賞。
2009年株式会社KABWA設立。大阪成蹊大学客員教授。
くらしのカレッジ編集部は、「くらし」に関するさまざまなヒントをお届けすることを目的に、インテリア、リノベーション、DIY、子育て、イベント情報など、生活を豊かにするアイデアや日常的に楽しめるコンテンツをご紹介しています。
お使いのブラウザによってリンクが機能しない場合があります