街に、ルネッサンス UR都市機構

「自然エネルギーを活用した農山村の地域づくり」から考える 地方再生のあり方とは

平野氏はNPO法人の一員として、石徹白(いとしろ)(岐阜県郡上市)地区にて2007年から水車を使用した小水力発電を推進し、地域の特性を生かした地産地消型の自然エネルギーを普及させることにより、地域再生に取り組んでいる。

平野氏は、高度経済成長を終えた日本の責務は「発展途上国に市場を求め、先進国化していくこと」ではなく、「成長を終えた国がどううまく持続可能な社会を築くのか、範を示すこと」であり、社会全体が膨張から縮小へと転換している中、大きなシステムでの解決を図るのではなく、現場で一つ一つの物語を紡ぐように解決を図るべきで、そうした意味では、過疎地や被災地こそが最先端のまちづくりのモデルケースとなると主張している。

UR都市機構においても、地方都市再生のコーディネートや東日本大震災の復興まちづくり支援等を行っているが、都市部での経験をもとに大きなシステムでの問題解決を図ろうとしているのではないかとの問題意識があり、平野氏のような発想の転換が必要ではないかと考え、実際に石徹白地区を訪れ、平野氏に会い、石徹白のまちづくりの取組みを目の当たりにし、今後の我が国の地方再生、まちづくりのあり方について考察する。

平野 彰秀 Akihide Hirano

1975(昭和50年)、岐阜市生まれ
東京大学工学部都市工学科卒、
同大学院環境学修士
大学では都市計画を専攻し、地方のまちづくり・地域づくりを自らのライフワークとすることを決める。北山創造研究所で商業施設プロデュースに携わった後、ブーズ・アレン・ハミルトン(現.ブーズ・アンド・カンパニー)にて、大企業の経営戦略コンサルティングに従事。会社勤務の傍ら、現状の都市計画・地域づくりに対する問題意識を持ち続ける中で、NPO法人G-net 、G-net TOKYO の設立に参画。
2008年春、ブーズ・アレン・ハミルトンを退職し、岐阜にUターン。現在は、主に中山間地域での地域づくり、なりわいづくり、小水力発電をはじめとする自然エネルギー導入に携わり、地域再生の旗手として期待される若手の一人。

石徹白地区について

石徹白地区は、岐阜県群上市内の最北西端部で岐阜県と福井県の県境付近に位置する。標高700mにぽっかりと開けた別天地で、一晩に1.5mの雪が降ることもある豪雪地帯となっている。
白山信仰のメッカとしても知られ、近世までどの藩にも属さず、中世の自治組織が残っていた地域である。
なお、人口は276人で最近50年間で4分の1程度に減少し、また総人口の約半数は65歳以上となっていて、過疎化、高齢化の進む集落である。

石徹白地区のまちづくり

石徹白地区では、2003年に「NPO法人やすらぎの里」が設立され、キャンプ場の運営、歴史勉強会などの活動を開始し、まちづくりに向けた活動がはじまる。そして、2007年に平野氏の働きかけにより、マイクロ水力発電事業が開始されたことを契機に、活動が本格化。同年には、「石徹白地区地域づくり協議会」が設立され、地域の各種団体が構成員となり、地域づくり活動に取り組むようになった。2009年に「石徹白ビジョン」を策定し、共通のビジョンのもと、各団体が連携しながら活動を展開。主な活動は以下のとおり。

○NPO: 小水力発電の導入、地域の自然・歴史のガイド
○地域づくり協議会: 特産品の開発、定住の促進、山村留学の検討
○公式HP制作委員会: ホームページ・ブログの運営、グッズの販売
○石徹白くくりひめの会: 地域食材を使ったカフェの運営

現在では、「30年後も小学校を残そう」を地域づくり活動スローガンに据え、「みんなで、楽しく、できることから」を活動のスタンスとして、各種活動が繰り広げられている。

具体的には、「いとしろ青空学校」や「星降る里のキャンドルナイト」等、自然豊かな地域特性を生かしたイベントを展開したり、石徹白くくりひめの会によるカフェの運営で地域食材を使った料理を提供する等により、石徹白のPR活動を行ったり、また、マイクロ水力発電事業や水力発電により加工所を再稼働させてトウモロコシの乾燥品の製造を開始する等により産業雇用を創出する等、水力発電の取り組みをきっかけに、いろんな地域活動を軌道に乗せ、地域住民が生き生きと楽しくこれら活動を継続させている。

小水力発電事業について

前述のとおり、石徹白地区では、地域に豊富な水(農業用水)を活用して、小水力発電の取組が行われている。過疎化が進む山あいの集落において、地域の活性化の起爆剤となることを目指し、平野氏らが地域に話を持ちかけて2007年からスタートしている。

試行錯誤を繰り返し、地域の人たちと共に取組を進めてきて、現在稼働している小水力発電機は全部で3機。それぞれ規模・形式が異なるが、一番大きなものは最大出力2,200Wの上掛け水車で2011年3月に設置された。農業用水路から水を引き込んで水車を回して発電。発電した電気は隣接する農産物加工所に送られて利用されている。この農産物加工所も、かつては休眠状態であったが、小水力発電の設置と共に稼働が開始。特産品の開発もスタートし、地元食材を生かしたトウモロコシパウダーの生産が開始されるまでになった。

水車は羽根の部分に地元産の木材を使用しており、自分たちでメンテナンスができるようになっている。また、羽根以外の電気系統の部品の多くも手作りである。さらに、日常管理も地元の人たちが行っており、単なるエネルギー自給ではなく、まさに地域づくりのきっかけにふさわしいものとなっている。

導入によって、各種メディアに取り上げられ、石徹白地域を多くの人が知ることとなり、知名度アップの効果もあった。現在では全国から視察が絶えない状況であり、活性化の一助ともなっている。

小水力発電は費用対効果が課題との声もあるようだが、大規模になれば事業としても成立可能であり、また、現在稼働している比較的小規模なものであっても、地域の活性化や環境教育、啓発等の効果は十分にあるといえるだろう。

【らせん型水車2号機】

【らせん型水車2号機】
  • 発電出力:常時500W 最大800W
  • 流量0.2m2秒、落差80cm程度
  • NPO法人地域再生機構、篠田製作所による共同開発
  • 開放型水車の一種。日本では製品化されていない。
    ドイツではリーハート社が実用化
  • 流量が多く、落差が低い場所に向いている。
  • ごみがつまらないのが最大の利点。
  • 農業動力用として、かつては日本でも多数使用。
    (砺波平野では約8,000機が稼働していた)
  • 発電した電力はNPO事務所の照明、冷蔵庫、テレビ等に利用

【上掛け水車】

【上掛け水車】
  • 発電出力:最大2,200W
  • 流量0.15m2秒、落差3m程度
  • 開発:篠田製作所
  • 地元業者が施工協力し、コスト削減。
  • 水車の羽根は地元産の杉材を使用し自らメンテナンス可能。
    発電した電力は、隣接する食品加工場で使用し、特産品のとうもろこしパウダーの生産に寄与

【ピコピカ】

【ピコピカ】
  • 発電出力:2.4W
  • 流量0.01m2秒、落差不要
  • 開発:篠田製作所
  • 小型のらせん型水車
  • 超低落差、小水量でも発電可能のためU字溝に置くだけで発電可能
  • 組立が容易のため学校教材として利用可能
    発電した電力は、街路灯、獣害用電気柵等に利用

平野さんへのインタビュー

平野さんが考える次世代の社会モデルとはどういったものでしょうか?

私達、地域再生機構は「持続可能な地球をつくっていくためには、持続可能な小地域をつくっていくことが大切。そのためには農山村の豊富な資源を活用して、食・エネルギーをまかなっていく必要がある」と考えています。日本が次にめざすべきは、これまでのような経済成長を前提とした社会ではなく「足るを知る社会」であり、そのためには地域の特性を活かした地産地消型の自然エネルギーがカギになると思います。

現在の日本は人口減少社会に突入しており、地域間の競争が既に始まっています。中心市街地の衰退が問題になっていますが、田舎はそれとは状況が異なり、更に縮小・衰退が深刻であり、人を引き付ける仕掛けがないと生き残れないと思います。幸い、地方には東京にないものがたくさんありますので、それをうまく活用することが必要です。

一方、先般の東日本大震災・原発事故を経て、電力等の大きな社会システムに過度に依存することの危険性を強く感じました。「大きく高度な社会システム」を否定するつもりは毛頭ありませんが、これからは、そうした大きな社会システムと「小さく手触り感のある顔の見える仕組み」が共存すべきであると考えています。ひとたび石油価格が上昇すれば、大規模農業が立ち行かなくなり、大規模農業に依存している都会は人口が減って、食・エネルギーが自給できる田舎は逆に人口が増える社会になる可能性もあると思います。

石徹白(いとしろ)地域で取り組んでこられた地域づくりの内容をお聞かせください。

石徹白地域は日本の三名山に数えられる「白山」の裾野にあり、村のいたるところに農業用水用の水路が張り巡らされているなど、もともと水が豊かな土地であり、加えて木材や農作物といった素材、資源が豊富で、エネルギーや食を自給できる素地がありました。そうした地形上の条件のほか、縄文時代以来の歴史を持つ白山信仰のメッカだったことも地域再生のモデルとして適していると考え、地元のNPO法人とも協働して2007年から小水力発電事業に取り組んできました。

最初はベトナム製の機械を使用して発電を試みましたが、ごみ等が詰まってうまくいかず、専門家にアドバイスを頂きながら、色々と試行錯誤を繰り返してきました。

現在、稼働している小水力発電機は全部で3機あり、街灯一本をまかなう小規模なものから、農産物加工所の電気をまかなうものまであります。

この小水力発電の導入による効果は、さまざまな面で表れています。一つめは、小水力発電の取組みが報道されることで、多くの方に石徹白の名前を知っていただくようになりました。二つめは、移住者の増加で、2011年度には4世帯9名が移住しており、私もその一人です。

そして三つめには、さまざまな地域づくりの活動が行われるようになりました。たとえば、小水力発電が設置されるのと同時に、休眠状態にあった「農産物加工所」でとうもろこしのパウダー等の特産品開発が始まり、加工所が活動するようになりましたし、30代の子育て主婦が中心となり、地元食材を活用したカフェを始めるようになりました。「石徹白人」というホームページも立ち上がっており、地元の人たちの地域のために何かしたいという思いが形になりつつあります。小水力発電の存在が地域づくりの活動に活力をもたらしていることは間違いないと思います。

将来的には、100KW近くの小水力発電所を建設し、地域のエネルギー自給率100%以上を実現することが当面の目標です。

大都市も含めたこれからの都市再生についてアドバイス等がありましたら教えて下さい。

たとえば、大都市で行う市街地再開発事業や土地区画整理事業では必ず駅前広場や広場を作ると思いますが、その空間自体にビジネスチャンスが潜んでいることもあると思います。いかに憩える空間を作るかという空間設計的な側面ももちろん大事ですが、キャンペーン活動や屋台設置等の利活用によって収益を確保したり、太陽光発電等の設置によるエネルギー自立や余剰エネルギーの売却等といった大胆な仕掛けも考えられます。特にクリーンエネルギーを使用しているというのは対外的に大きなPRにつながりますので、スマートグリッドとして、太陽光、燃料電池、バッテリーの組合せにより、できる限りエネルギー的に自立した開発が理想だと思います。

それから、地域には必ずものづくりに長けている人、面白い人がいるので、そういう人の存在を知った上で、そういう人の活力をうまく開発に取り込んでいくことも重要だと思います。

まとめ

平野氏のお話を伺って重要であると感じたのは、一つ目は、その地域固有の資源に着目し、当該資源を活用した地域づくりやまちづくりを行うことの重要性である。特に電力をはじめとするエネルギー問題は現代社会において大きな課題となっており、石徹白地区での取組みのように自然エネルギーを活用したエネルギー自立型の地域づくりの有用性について再認識したところである。特にこれからの都心部における開発では、電力会社頼みではなくエネルギー的に自立し、かつ、生み出したエネルギーを他に売るくらいの大きな仕掛けが今までにも増して求められることになるだろう。

二つ目は、まちづくりは地域や住民のために行うべきという根本の大切さである。平野氏が取り組まれているフィールドとURのフィールドは必ずしも同一ではないが、まちづくりにおいて大切にしなければならないことは全く共通であり、人と人とのつながりや自立した営み、また、それらを通じた、誇りが感じられるようなまちをいかに形成すべきかといったような部分にきちんと目を向けていきたい。

最後に、まちづくりを地域や住民が主体的かつ継続的に行える体制や雰囲気を作ることの大切さである。平野氏は、実際に自身も地域に住み、地域に溶け込み、地域と協働でまちづくりに取り組んでおり、小水力発電事業という大きなきっかけを与えるだけでなく、事業そのもの、また事業以外の関連する諸活動をいかに発展的に継続させていけるかという視点を持って取り組まれている。その姿勢が、地域全体で住民が主体となって活動を継続していくための原動力となっており、様々な波及効果を生み出している。従って、事業単体だけではなく、以後の継続的自立的なまちづくりを視野に入れたうえで取組むことが、全てのまちづくりに共通する重要な要素となってくると考えられる。

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