街に、ルネッサンス UR都市機構

Creative City Session @Commune246

東日本都市再生本部では広報の一環として、昨年(平成27年)10月29日(木)、URが保有する土地の暫定利用「Commune246」を拠点とする自由大学との共催という形式で「Creative City Session from UR ~クリエイティブな街を生み出すものは何か」と題し、ポートランド市開発局(PDC)の山崎満広さん、東京R不動産のディレクター林厚見さん、「IDEE」のファウンダーでCommune246のプロデューサー黒崎輝男さんをゲストにお迎えし、公開討論会を開催しました。
また、公開討論会の後は、UR職員約20名がPDC山崎さんのナビゲートのもと、ポートランドのアーバンデザイン事務所「Place Studio」を交え、より実践的なワークセッション形式により開発における合意形成プロセスを学びました。

【公開討論会】Creative City Session from UR

〜クリエイティブな街を生み出すものは何か 開催レポート (自由大学サイトより)

登壇者:
山崎満広(オレゴン州ポートランド市開発局 国際事業開発オフィサー) 林厚見(SPEAC 共同代表 / 東京R不動産ディレクター) 黒崎輝男(COMMUNE246プロデューサー・自由大学創立者)
司会:
三井禎幸(←From UR)※東日本都市再生本部 都心業務部港区エリア計画TL

世界中で現在、いかに市民を巻き込み、創造的に都市を組立てて行くのか、という課題が行政や企業にあります。消費社会の次にくる“新しい都市像”をどのように描いて行くのか? クリエイティブクラスをどのように集めて行くのか? それは、ヒューマンで個人が活かされるコミュニティーをどのように形成するかに懸かっています。表参道COMMUNE246内にあり、既成概念に囚われない学びの場をつくっている自由大学。2015年10月28-29日にポートランドのまちづくりから学ぶ「Creative City Labー創造的都市をどう作って行くのか」という講義を2日間、全5回で開催しました。

平日の午前中にも関わらず満席となり、注目度の高さが伺えます

ここでは、第3回にURも協賛して開催した公開討論会「Creative City Session from UR〜クリエイティブな街を生み出すものは何か」についてレポートします。その他も世界的建築家で、2017年オープン予定の「ポートランド日本庭園」を手がけた隈研吾氏と、自由大学創立者でCOMMUNE246のプロデュースを行う黒崎輝男氏による公開討論を開催。山崎氏による「ポートランドの都市計画」、林氏による「次世代につづく価値のつくりかた〜リノベーション」についての講義も展開。最終回は、山崎氏の主導のもとポートランドで実際に行われているまちづくりのワークショップをPLACE(http://place.la/)のアーバンデザイナーのチームと共に実践。公開討論の前段として、山崎氏よりポートランドまちづくりについての紹介がありました。

1:まちづくりは長期的なスパンで考える

山崎氏から最初に紹介されたキーワードが「RATE OF CHANGE(物事の変化率)」でした。「fashion(流行)→ commerce(商業)→ infrastructure(基本的施設)→ governance(統治) → culture(文化)→ nature(自然)」の順番で右にいくに従って、長期的なスパンでものごとを捉える必要があるという考え方です。例えば、ファッションは3ヶ月ごと、季節に合わせて着るものやトレンドが変わります。ビジネスは1年単位で決算を行います。社会的なインフラは5〜10年単位、そして行政のように大きな事をマネジメントする場合は20〜30年単位で取り組む必要があります。一方で、日本で行政のまちづくり担当者が3年で人事異動になってしまうような現状もあることに対し「まちづくりに本気で取り組むのであれば、もっと腰を据えて取り組む仕組みや予算の確保が必要なのでは?」と提案されました。

市民の生活習慣の集積が、やがて街の文化になる

生活習慣の積み重ねで醸成された文化や、何万年という時間を経て育まれた自然環境を短期的なスパンで考えて簡単に壊してしまっては取り返しのつかないことになる。このような考えをポートランドの人々は理解し、共有しています。近年、ポートランドは環境先進都市として注目を浴びていますが、1970年代は全米一公害で汚染された川がある街でした。市民が当事者意識を持ち、本当に住みやすい街にしようと行動し続けた結果、40年かけて今の姿になったのだと山崎さんは語ります。

2:市民も含めた「ジョイント・ベンチャー形式」でつくる街

また、山崎さんによれば、ポートランドでは、市の担当局から任命されたネイバーフッド・アソシエーションと呼ばれる、ローカルコミュニティの団体が市内に95もあります。日々の生活循環から地域の課題を自分たちで解決し、より良いまちづくりのために、フラットな組織として機能しています。市はそのような組織で活躍する人材のトレーニングも行っているそうです。


まちづくりは往々にして行政、ディベロッパー、市民の目標がずれてしまう場合があります。PDCはアーバンデザイナーというハードとソフトの両面からまちづくりを考えられる専門職の人たちと協業し、参画者と価値の共有化を図りながら、街にとってのベストを導きます。様々な立場の誰もがリーダーシップをとれる「ジョイント・ベンチャー形式」で、皆が同じリスクを背負ってやっていくのがポートランド流なのです。

現在のポートランド人気は40年に及ぶ市民の行動の結果だと語るPDCの山崎氏

3:地元や自然を愛するポートランド的価値観が、イノベーションを生み出す

PDC職員は本気で街を良くしよう、と地元愛に溢れる人たちばかり。生活循環からも地元経済を活性化しようと「アメリカ産コットンで作られた、地元の職人がつくったシャツしか着ない!」という人がいるほどです。人口60万人ほどの地方都市に、ナイキ、コロンビアなどの地元企業をはじめ、企業誘致を行っていないにも関わらず、世界中からジャガー・ランドローバー、アディダス、ミズノ、アンダーアーマーなどがポートランドに集まる理由は「考え方が鋭く、自ら答えを切り拓くマインドを持つ人々を惹きつけるライフスタイルがあるから」と山崎氏は言います。


また、都心から1、2時間も車で移動すれば、海や砂漠、積雪のある山などに辿りつくことが可能で「新製品をあらゆる自然環境でテストし、フィードバックを次の日に返せる。そのスピード感がスポーツ産業のイノベーションを促している。」と説明しています。2010年から二酸化炭素の排出量を押さえながら、経済と人口が成長をしており、環境先進都市として注目されることを誇りに思う住民も多いことでしょう。

4:ポートランドと、都市の実験場である表参道COMMUNE246

「身内がポートランドに在住している関係で、足掛け40年ほど通っている。」という黒崎氏。PDCと民間ディベロッパーが共同で再開発したパール地区の事例を引き合いに、「古いものをリノベーションしたり、新しいものをつくったり、多様なものをミックスさせるバランスがうまい。」と分析します。


また、市内に全米一番といわれている600台以上あるフードカート・カルチャーや、300種類以上の自家醸造ビールが飲めるブリュワリー、街中で頻繁に行われるイベントやフェスティバル、宿泊者以外がミーティングやチルアウトスペースとして利用するエースホテル1階のラウンジにも触れながら、ポートランド文化の多様性の魅力を伝えました。


これらポートランドの良い部分を取り入れながら、独自性を出して作り上げたのが、本討論会の会場となったCOMMUNE246です。URはまちづくり用地の暫定利用のために、この場所の事業者を公募しました。そして黒崎氏のプロデュースの元、コンテンツ企画、ランドスケープ、建築、運営、コミュニティ形成、情報発信など包括的に展開。一つの世界観でハードからソフトまでを一手に行っています。「都市の実験をしよう」というコンセプトを共有する建築家やデザイナー、出店者がアイデアを出し合いながら主体的に関わっています。敷地内にある「自由大学」も、黒崎氏の実験の一つ。ナイキ、アップル、グーグルが本社のことを「キャンパス」と呼ぶことに着眼して、「企業の本質というのは、時代に応じて学び続けるという過程で事業が大きくなっていくのではないか」と説き、学びたいときに学べる場を用意したのだと語ります。

会場となったCOMMUNE246の総合プロデュースを手がける黒崎輝男氏

5:街の未来に貢献する一般市民の存在

東京R不動産の取り組みは、既存の物件の価値に再注目するという点で、古い倉庫街を改装して新たな価値をつくり出たパール地区を想起させます。そんなR不動産の林氏に対して、UR三井氏は「ポートランドではなぜうまくいっているのだろうか?」との質問を投げかけました。

林氏は「もともと自然が素晴らしく、街の中心を川が流れ、海が近いから物流が有利。林業、半導体産業が発展した反面、環境が悪くなった状況を市民の間で自分事として共有できたのが転機となったのではないか。そして、ここから環境都市的なベクトルができて、これが2010年ごろからの時代の課題と、ファッション的な意味も含めた価値観とが合致したことで、これだけ注目されることになったのではないか。」と仮説を立てました。ただ、「ポートランドの事例は、まねできるものではないし、まねするものでもない。まちづくりというのは、そこにある固有のリソースを活かすもの。」と冷静です。

SPEAC 共同代表 / 東京R不動産ディレクターの林厚見氏(写真右)

山崎氏は林氏の意見に同意しながら「核となるリーダー」「肥大化していくサンフランシスコに対して、街を小さいままにする努力」「ビジネスセンスをもった一般市民」の存在を強調します。例えば、1エーカーの土地ひとつ売る場合でも、売却先がどのくらい街に貢献して社会的な価値を生み出すのか、PDCの審査委員会で議論されます。市長から任命された“一般市民”の役員は、普段はゼネコンや銀行、ディベロッパーのトップなどのビジネスのプロたちで構成されています。


PDCが公園の活用指導をしたのが、街のリビングルーム”と称されるポートランド市中心街にある「パイオニア・コートハウス・スクエア」です。所有権は市にありますが、運営を任された財団が使用権を100%持っています。様々な企業から使用料をとって、年間300以上のイベントを開催し、その利益の一部を市に還元しています。アルコールの販売など、行政が立場上判断の難しい領域をアウトソースする事で街ににぎわいをもたらす企画を実現しやすくし、雇用も創出しています。

前日の強風でテントが破損したハプニングを乗り越えて、秋空を満喫しながらの討論会となりました

6:「ゆるさ」「いい加減さ」「曖昧さ」がクリエイティビティを促進させる

「まちづくりの合意形成において、100%の正解はない。日本にはクリエイティビティがないわけではないが、あまりにもルールやミッションを遵守して、いかにキレイに、合理的に、どうやったらテクニック的に成功できるか、一つの側面からしか物事を捉えていないのが問題ではないか。例えば、最近だとすぐに『コワーキングスペースをつくろう』という話になるが、そもそも『働く』ってどういうことなんだろう?と考えてみる。本質を捉えるために動詞から考察してみる。“何が問題か?”を問うこと。それが自由大学のテーマであり、クリエイティブになるために必要な要素。」と黒崎氏は唱える。


発想の転換については林氏も「新築物件で建具の不具合が少しあるだけで気になるが、中古物件を多く扱うR不動産では経年変化が魅力であって、建具の不具合は物件の“味”と捉えて価値観を共有している。そのため、理不尽な要求をしてくる“モンスター”が現れにくい。」と言います。山崎氏は「組織の属性を示すスーツ、名刺、100%合意形成するための根回しなど形骸化したものにこだわるのではなく、正解、不正解で対立しない本質的なディスカッションを駆り立たせるファシリテーターが必要。対立意見を乗り越えるアイデアを絞り出すのがクリエイティビティなのではないか。」と説きました。

7:公的な主体が街づくりの中でクリエイティビティをあげるために何が出来るか

ポートランドでは、”KEEP PORTLAND WEIRD(風変わりのポートランドで在り続けよう)” という市民が掲げたスローガンがあります。「キレイで合理的に管理・整備されすぎるとヤバい、という価値観が市民の根底にある。」(黒崎氏)しかも「市民が“風変わりである事”を求めているからという理由で、街のトップが受け入れる。」(山崎氏)という非常にシンプルで民主的なロジックが成り立っているのがすごい。ホームレスの人々が快適で人間らしく過ごせるようなサポートを市民が運営しているのも、ポートランドらしさを象徴しています。だから、全米中のホームレスが住みやすいポートランドを目指して集まってくる、なんて冗談も飛び出しました。


スポーツのように「健全に戦う=よい議論」し、人間らしい「いい加減さ」や「曖昧さ」を許容しながら個人の意見や力をうまく引き出す仕組みが、いま求められている。三井氏は、「社会全体をいきなり変えることは無理かもしれないが、ネイバーフッド単位で取り組めば可能性があるのではないか。」と討論を締めくくりました。

UR職員+ポートランド市「PlaceStudio」とのワークセッション

この日の午後に行われたワークセッションは、PDC山崎氏やPlaceStudioのメンバーがファシリテーターとなり、立場や利害を超えて街の未来を議論し、合意形成をはかるコミュニケーション・デザインを体験するものでした。URからは約20名の職員が参加。以下、その時の模様を写真でレポートします。

自由大学内のワークスペースに一同に会して。PDC山崎さんよりイントロダクション。
ワークセッションの進め方を説明するPDC山崎さん。当日はワークセッションを円滑に 進める「専用キット」を使用。エリアの将来像を検討する際に必要な様々な視点があら かじめ示されています。
3つの班に分かれていよいよワークセッション開始!
セッションは「ロールプレイ」形式。立場を越えて街の将来像を検討するため、参加者 はそれぞれ「地元の高校生」「近くに住むお年寄り」「会社役員」「子育てママ」など、 普段とは異なる立場に立って意見を出していきます。今回のテーマエリアは「神田」。
出された意見をもとに、図面に重ねたトレーシングペーパーにどんどん書き込んで行く Placeのメンバー。書き込むことでイメージの共有が図りやすくなります。
職員もだんだん調子が出てきたのか、どんどん意見やアイデアを書き込んでいきます
豊かな知見をもとに、ファシリテーションしつつシートに書き込んでいく。
ワークセッションもいよいよ佳境に。議論も白熱。
ワークセッション終了後、各班から発表。まずは一班から。中央にマルシェ的な空間を 囲んだプランになったようです。
続いて二班から発表。こちらは神保町の「スポーツ品街」を意識して、中央にスポーツ 用品のイノベーション+デモンストレーションを行う「ラボ」的な空間を配置。
続いて、「機能」や「用途」ではなく「環境」「自然」というミッションを持った三班 からの発表。
各班の発表終了後、ワークセッションの感想など意見交換。普段はやらない新たなプロ セスに職員にも良い刺激となったようでした。

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