case study 012
中村邸
国立富士見台団地(国立市)
間取:1LDK
JR国立駅からバスで10分、そこに広がるのは自然あふれる「国立富士見台団地」です。冬の終わりには梅の花が、そして春には八重桜が花を咲かせるその団地の一室をDIYし、ご夫婦で住まう、中村健一郎さん(34)。元の間取りは活かしながら、夫婦が「心地よい」と感じる「質感」や「素材感」を追求したというDIY空間。そこには、随所に譲れないこだわりがかくれていました。
「DIYもできる賃貸住宅」って面白い
ーーーなぜDIYができる賃貸住宅を選ばれたのですか?
- 中村さん
- 実は、もともとDIYにも団地にも絶対的なこだわりがあったわけではなくて、なんとなく「シンプルな場所」がいいなと思っていました。大体、賃貸で探すと新建材の同じような間取りで…それが好きになれなかったので、だったら逆に古い団地ぐらいのほうがシンプルでいいなと思って。そこに、さらに「DIYもできる賃貸住宅」という点が面白いなと。仕事柄、DIYが身近だったこともあって、これを機に挑戦してみようかなって。
ーーーお仕事は何をされているのですか?
- 中村さん
- 木造住宅の設計です。ですので普段の仕事では僕自身が大工さんのように手を動かして何かを作ったり、ということはしないのですが、この部屋で考えるところから作るところまでやってみるのは面白そうだなと思っていました。でも、せっかく賃料なしでDIYをできる「プランニング期間」が3ヶ月あるのに、その最初の2ヶ月間をほとんど何もしないで、ずっとほったらかしにしちゃって……(笑)。
ーーーのこりの1ヶ月でDIYとなると、なかなかギリギリですね(笑)。
- 中村さん
- そうなんです。だから、自分の会社の職人さんにも依頼して総動員でがんばりました。
まず最初は、いらない襖や畳などを全部出して、自分の会社のトラックにまるごと積み込んで捨てに行って。その後、壁と天井はペンキを塗ろうと思い、自分たち夫婦と、あと1日だけ友達にも手伝ってもらいました。
それから、床をどうしようかな…と思っていろいろ調べてみると、床を自分で張るのは大変そうだなと。それで、床は大工さん※にお願いして木の床を張ってもらいました。
(※フローリングの張替えは相羽建設株式会社が実施)
ーーー木の床にこだわりがあったのですか?
- 中村さん
- そうですね。無垢の木にしたいと思っていて。それで自分の会社でいつも使っているパイン材(ヨーロッパの松)を使いました。値段も比較的安価です。
ーーーやはり仕事でずっと扱っていて良さを実感されていた?
- 中村さん
- そうですね。すごく柔らかいので少し傷付きやすいところはありますが、木が湿気を吸ってくれるから裸足でも足触りがサラサラしていて気持ち良いです。
乾いた感じの白に無垢の木を合わせる
ーーーDIYを始めるときに、最初にテーマなどを固められましたか?
- 中村さん
- 夫婦でよく行く好きなカフェがあって、その空間をイメージして、まず壁や天井を全て白のペンキで塗ろうと決めました。天井はコンクリートの上から、壁は壁紙の上からそのまま塗っています。
ーーーなるほど、まずは「白を基調にしよう」と決められたのですね。
- 中村さん
- そうですね。まず、背景として「乾いた感じの白」があって、そこに無垢の木の家具と窓やキッチンまわりの金属、ステンレスの素材を合わせていこうと。我が家のDIYでは間取りのアイディアを練ったりするというよりも、そういった「質感」や「素材感」のほうを重視していたかもしれません。
ーーーなぜそこに注目されたのでしょう?
- 中村さん
- 落ち着く場所を求めていたんだと思います。例えばカフェなどに行ったとき、そこにある壁が白でも「テカテカした白」だと落ち着かないんです。それがマットな感じだと良い。だから使っているペンキも艶なしのもの、そして色も真っ白ではなく、ちょっとグレーが入ったものを選んでいます。
ーーー家具はその白に合うように全て新たに作られたんですか?
- 中村さん
- このテーブルだけは昔作ったものです。本当に簡単なコの字型のものですよ。これ以外の、げた箱や食器棚、テレビ台などは全部作りました。完成図を手書きで書いて、サイズを決めてからホームセンターに行って、「この大きさに切ってください」って。それからここで大工作業をしました。
ーーー中村さんのお宅は、元々の間取りを生かされていますね。
- 中村さん
- よく団地のDIYやリフォームで、柱を抜いたりして大きく変えるやり方がありますよね。それをしなかったのには理由があって、1つは、お金をかけすぎずにDIYしようと思ったから。この先、家族が増えて引っ越す可能性があるので、ほどほどのところでいいかな、と思いました。
あと、はじめは寝室とリビングの襖を外して1つの空間にして、仮設的に布を垂らして仕切っていたのですけど、それだと寝るときに落ち着かないという話になって。特に妻が「寝るときはやっぱりぴちっと閉じたい」と。
ーーーなるほど、寝室の、この静謐な空間がとても素敵です。
- 中村さん
- 現実的に、襖がないと特に冬はやっぱり寒いですね。それで、じゃあ間取りはそのままでいいかなと。あと妻には、リビングと寝室のカーテンやのれんを作ってもらいました。国立駅の近くの葉々屋という紅茶屋さんで布を買ってきて、裾はアイロンテープで処理しています。それにカーテンクリップを付けて使っています。
好きな物に囲まれて自分の好きな家に住みたい
ーーー玄関を入ってすぐの部屋は、和室のままに残されたんですね。
- 中村さん
- そうですね。和室が1部屋ぐらいあると便利かなって。ただ、畳は縁のない「半畳畳」に変えました。一般的な畳よりも目が詰まっているので見た目がよくてボロボロにもなりにくいんです。
- 中村さん
- ただ、まだここのスペースを生かしきれていないので今後の課題ですね。
ーーーキッチン前のカウンターがちょうど使いやすそうです。
- 中村さん
- これは後から作ったもので、初めはオープンなラックを置いていたんですけど、物が見え過ぎちゃって落ち着かない、というのがあったので、試作品として作ってみたカウンター兼ラックをそのまま使っています。
テーブルに座ったときの目線で、カウンターより下がちゃんと壁になって空間に仕切りを作ってくれていて。ちなみに家具を作るときにはすべて「床に座る生活をする」という前提で高さを決めています。
ーーーさすがですね。ちなみに、「お金をかけないように」ということでしたが、大体おいくらほどかかりましたか?
- 中村さん
- お金に関しては、最低3年は住もうと決めて、50万ぐらいまでを目安にしました。それなら中古で安い車を買うぐらいの金額だし、車を持たない分家にかけてもいいのかなって。
ーーーなるほど。
- 中村さん
- 実際には、床に30万ぐらいかかっていて、扉も建具屋さんにお願して、枚数も多めだったから約15万円……。その2つで45万ぐらいを占めていて、あとは家具の材料とペンキなど、おおよそ50万円に収まっているのかなと思います。
ーーーこちらに引っ越すにあたって、「こういう暮らしがしたい」というイメージはありましたか?
- 中村さん
- まず、陽が当たる空間で、緑が見えて…あとは好きな物に囲まれて自分の好きな家に住みたいな、という。
ーーー中村さんの「好きな家」、「好きな物」をさらに深くおうかがいしたいです。
- 中村さん
- 僕の尊敬している建築家の方で、永田昌民さんという方がいて。この方の手がける家が好きなんです。床は無垢板で、壁はペンキや漆喰の白。「洗練された昭和の家」という感じです。
- 中村さん
- あまり「私がデザインしました」と主張するような空間ではなく、実際に家に行くとすごく居心地がいい。これは、自分の仕事で目指すイメージでもあります。
ーーー今、この空間でお気に入りの場所はどちらですか?
- 中村さん
- リビングのテーブルですね。昼間ここにいると陽が入ってきて、窓の下半分が曇りガラスなので外を見るとちょうど木しか見えなくて……そういうのがいいなって。暖かい時期には緑が見えて、その木の前には八重桜があるんですよ。外に出れば梅の木もあります。そういう木々を見たりできるのがいいですね。
ーーーこちらに引っ越して暮らし方は変わりましたか?
- 中村さん
- 家具とか、ちょっとした持ち物だけじゃなくて、「家自体」に対して愛着が湧きましたね。もうすぐ、最初に決めていた3年を経過するところですが、もうしばらくここにいそうです。
2017年1月 取材・文:高木沙織 写真:鍵岡龍門