case study 010
谷邸
フレール西経堂(世田谷区)
間取:1LDK
都心の便利な立地ながら、緑あふれる閑静な住宅街に建つフレール西経堂。そこで唯一のDIY住宅と出会い、念願だったDIYを果たした谷章生さん(34)と結さん(34)夫妻。その住まいは、高い天井と無垢材の床が印象的な、気持ちの良い空間です。暮らしを営むシンプルな箱を、気軽に自由に作り上げる、そのDIYスタイルをうかがいました。
多様な住まい方の一つとして、DIYな暮らしを発信したい
ーーーそもそもDIYに興味を持ったきっかけはなんでしょう?
- 章生さん
- 僕は建築設計の仕事をしていて、ちょうど10年目の独立するタイミングでした。それにあたり自分の仕事において、より「暮らしの多様性」を追求していきたいなと思ったんです。暮らしのスタイルは多様で、新築の住宅がすべてじゃない。リノベーションの物件、そして間違いなくDIYという手法があるはずだと考えていました。
ーーー多様なスタイルのなかで、DIYを選ばれたのはなぜでしょう?
- 章生さん
- 僕たちは今34歳なんですが、まわりの友人たちも数年前から結婚して子どもができて…ちょうどライフステージが大きく変わるタイミングに来ています。そんななかで、「こうじゃないとダメ」という既成概念がないDIYは、自分たちに合った暮らしの場を気軽に作り上げられる便利な手法。かつ、DIY住宅はなんといっても賃貸なので、良い意味で「一生もの」ではない。だからこそ、より気軽にアプローチできましたね。
ーーー「気軽で自由」だからこそ「難しい」と思う方がおられるのかもしれません。だから、多くの人は既にいろいろ決められた「新築の建売」を選ぶのでしょうか?
- 章生さん
- そうですね。だから、僕は建築の仕事に携わっていることもあって、DIYとの付き合い方をここから発信していきたい、という思いが強かったんですね。
- 章生さん
- 例えばお客さんに我が家をお見せすることで、「この家がDIYで作れるんだ」と伝えられる。自分でやっているから「これぐらいでもいいか」っていう部分があって、壁の塗りムラとか、フローリングの隙間とか。これが新築の建売住宅だったら許せないですけど、自分たちだったら「ああ、失敗したな(笑)」ぐらいで、別に気にならないし、いい思い出にもなるし、さらに続けると上達するし。それで、いいじゃないか、と僕は思っていて、それを伝えたいと。
ーーーお客さん以外にも発信をされているのですか?
- 章生さん
- SNSでの発信と、あと大きかったのはリフォームのコンテストに出展したことですね。日本にはリノベーションの2大コンクールがあって、そこには平均1500万円くらいかけた物件たちが揃うのですが、そんななかでうちはたったの90万円で済んだ物件で……
ーーーすごい金額の差ですね!
- 章生さん
- はい(笑)。いわばダークホース的な存在だったのですが、結果、特別賞と関東地区の最優秀賞をいただきました。あとは雑誌にいくつか取り上げていただいたりもしましたね。
生活と仕事がほどよく共存できる空間に
ーーーお宅におじゃまして、何よりもこの天井に目を奪われました。
- 章生さん
- 初めて内見に来たときは当然天井はふさがっていたので、わからなかったんですね。それが契約した後、ユニットバスの上から天井裏を覗いてみると、この巨大な空間がドーンと広がっていて。「おお! これは生かすしかない!」と。このときは、本当に驚きましたね。
ーーーこの1枚板のテーブルも、すごい存在感です。
- 章生さん
- このテーブルは、本当に作りたかったものなんですよ。 実は、これは工事現場で使う足場板なんですよ。足場板って最長4mで、その長さを活かしたかった。これを10階まで運ぶのはめちゃくちゃ大変でした(笑)。一部は玄関にも使っています。
僕は自宅で仕事をすることも多いので、ほどよく生活と共存できる場にしたかった。妻が一方で料理をして、もう一方で僕が仕事をしている、という。
- 章生さん
- あと、今回一番力を入れたのは床ですね。一番面積が大きく、肌にも目にも触れる部分で。三重県の尾鷲のヒノキで、なかでも間伐材っていう間引いたものを使うので、環境にも配慮できるし、少しコストを削減できるということで。ただ、間伐材といっても、50年とか十分立派な木です。
- 結さん
- 私の友人が林業をやっていて。無垢の木の素材を生かし、蜜蝋だけ塗っています。
ーーー壁の一部分だけに色が塗られているのも印象的ですね。
- 章生さん
- そこは妻が塗りました。
- 結さん
- 「イメージが違う!」って、4回も塗り直しさせられたんですよ(笑)。壁もやっぱり天然の素材を使いたくて珪藻土に。ここは珪藻土に色を混ぜたものです。クロスの上から塗れる珪藻土というのがあるんですよ。
壁は、私以外にもいろんな人が塗ってくれたから、力加減が違っていろんな風合いが見られます。 - 章生さん
- みんな「ここは俺が塗ったんだ!」ってそれぞれ言ってます(笑)。
ーーーお友達は何人くらい手伝われたのですか?
- 章生さん
- 全部で10人くらい、週替わりで手伝ってくれました。完成パーティーをしたとき、みんなでこの4mのテーブルいっぱい使って海苔巻きを巻いたんですよ。
- 結さん
- みんなで「せーの!」って巻いて。楽しかったですね。
ーーーお二人の一番お気に入りの場所はどちらですか?
- 結さん
- 私はやっぱり壁ですね。こんなに広い面を塗る経験なんてもちろん初めてだし、4回も塗り直して、頑張ったから…見るたびに涙が出ちゃう(笑)。
- 章生さん
- 僕はこの天井ですね。元の天井を落とした時、もちろん側面は塞がってなかったので、ここに壁を作るのも本当に大変でしたので達成感がありました。
- 結さん
- 出来上がるまで、3ヶ月。天井を落としたときは、「本当に住める場所になるの!?」って思っていました(笑)。でも、徐々に出来上がるにつれて、「ああ、できるんだな~」って。
- 章生さん
- いや、内心は僕も不安でした(笑)
ーーー今後ライフステージが変わるに従って、さらに作り変えていかれる予定ですか?
- 章生さん
- この家は、今の姿で心から満足しています。今後ライフステージが変わったときは別のDIY住宅を探すことになるかもしれない。家の姿をその都度リアルタイムで更新していけるのは賃貸だからこそですね。住まいといい関係性を作れると思います。
だから、僕らの家を見て、「自分でもできるんだな」って思ってもらえたらうれしいです。それは当初の思いでもあるので、これからも発信を続けたいと思います。
2016年11月 取材・文:高木沙織 写真:鍵岡龍門