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[後編]アートのある団地に暮らす楽しみ

茨城県取手市にある戸頭団地の外壁をアート作品化するプロジェクト「IN MY GARDEN」。2013年よりスタートし、この夏、ついに完成しました。後編として残りの8作品をご紹介します。

扉の向こう側を想像するワクワク感

「IN MY GARDEN」のアート作品に多く登場するモチーフがあります。それが扉とはしごです。扉は“扉の向こうの世界”を想像するきっかけを作る重要なモチーフであり、はしごはさまざまなモチーフと扉をつなぐ架け橋として、壁面に描かれる“物語”に動きを与えています。

見る人を思い出の世界へとタイムトリップさせるのが、日付を記した五つの扉が登場する「扉の向こう側」という作品。そのうちの一つ、未来の日付「2032.8.31」が記された扉だけは平面的なデザインで描かれています。実はこの日付は、次回の外壁補修工事が予定されている日付。普段壁を眺めながら「何の日だろう」と気にしているうちに、その日が訪れてこのアートは消えてしまっているかもしれない、そんな仕掛けを含んでいます。「非日常口」は、東日本大震災で被災し、福島県から戸頭団地へ引っ越してきた方の投稿から生まれました。震災以来、日常がないような日々が続いていること、そして、アートは非日常への入り口であること、そんな二つの意味を含んだ作品です。カバンを抱える家族とともに、カラフルな扉へと続くはしごが描かれています。 「Life style」は“ベランダから見る子どもたちの元気な姿が好き”という住民の方のエピソードをもとに、作者上原耕生さんが想像の翼を広げて描いた作品。扉から続くはしごの先にあるのは、ベランダで風にそよぐ洗濯もの。子どもを思う母の愛情が上原さんなりのかたちで表現されています。

左から「扉の向こう側」「非日常口」「Life style」

毎日見ても飽きない遊び心のある仕掛け

「Memory」は、スーパーマーケットで買い物をするママを待つ子どものエピソードと、2015年に30周年を迎えた地元のサッカー少年団「戸頭FC(フットボールクラブ)」のエピソードを融合させたもの。スーパーマーケット近くの外壁に描かれており、そこに登場する子どもが指さす先を見上げてみると、出っ張りにひっかかったサッカーボールが…。シーソーでジャンプしてサッカーボールをとるの!?  そんな楽しい構図に、思わず笑顔になれる作品です。「At home」は日々の暮らしのワンシーンが透けて見えるようなデザイン。大切な家族が生活する様子が部屋ごとにユーモラスに描かれています。この作品は珍しく平面だけで構成されており、色のインパクトで魅せる表現になっています。生活の中に存在するアートだからこそ、毎日見て飽きないように、遊び心やウイットのある仕掛けがあるのです。

左から「Memory」「At home」

生活の中でアートを楽しむ住人たち

当初、12作品で完成する予定だった「IN MY GARDEN」ですが、住民に好評だったため、最終章として3作品が加わることになったそうです。それが「Update」「路のしおり」 「Workman」 。ほかの作品が、住民の方のエピソードがもとになっているのに対し、この3作品には「たくさんの思いを伝えてくれた住民の方へ返事をしたい、活動を通して感じたことを伝えたい」という作者である上原さんからのメッセージが表現されています。キーモチーフとしてはしごを用い、あえて未完成のように見せるデザインになっています。

3年の歳月をかけてアート団地に生まれ変わった戸頭。上原さんのもとには、「家がかわいくなってうれしい」「見ているだけで気持ちがワクワクする」「アートがあるから引っ越してきた」など、住民の方々がアートに愛着を持ち、生活を前以上に楽しんでいる声が伝わってくるそうです。住む人に“想像する楽しさ”を教えてくれたアートのある暮らし。毎日の生活をさらに豊かなものへと変えていくことでしょう。

左から「Update」「路のしおり」「Workman」

戸頭(UR賃貸住宅)

茨城県取手市戸頭4 ほか
1万人を超える人たちの暮らしがしっかりと根づく、ビッグコミュニティ。野鳥や昆虫が多く生息しており自然豊か。夏は近隣でホタルを鑑賞できます。

取手アートプロジェクト(TAP = Toride Art Project)

1999年より市民と取手市、東京芸術大学の三者が共同でおこなっているアートプロジェクトです。若いアーティストたちの創作発表活動を支援し、市民のみなさんに広く芸術とふれあう機会を提供することで、取手が文化都市として発展していくことをめざします。
HP:http://www.toride-ap.gr.jp/

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