住まいの事例

Nosaku's Home 空間と対話しながら進めたDIY 古きと新しきが調和した空間に

case study 011

能作邸

国立富士見台団地(国立市)

間取:1LDK

自然豊かな国立市の「国立富士見台団地」は、その名の通り、天気の良い日には遠く富士山をのぞめる、気持ちのいい場所です。その一部屋をDIYして住む、能作さん一家、淳平さん(33)、香奈さん(30)、創くん(3)にお話をうかがいました。年月を経た団地の質感と、今を生きる自分たちの生活スタイルをうまく調和させるためにーー「あえて図面を作らず空間と対話しながら進めた」という、そのDIYスタイルとは?
あえて図面は作らず、流れに任せたDIY
淳平さん
僕は建築関係の仕事をしていて、個人事務所も自宅も都心だったんです。妻も、都心のワインショップでソムリエとして働いていました。なんですが、子どもができたタイミングで国立や立川あたりに引っ越そうと物件を探したんですよ。妻の実家があきる野市で、子育てについて助けてもらえたらという思いもあって。
ーーーもともとDIYをできる物件を?
淳平さん
そうですね。団地に限らず、フラットハウスとかボロボロの雑居ビルとか、そういった自由に手を加えられる物件を探していて。ですが、なかなかそういう物件を見つけるシステムがなくて困っていたんですね。そしたら、妻がこの物件をサイトで見つけてきて。
香奈さん
最初は「MUJI×UR団地リノベーションプロジェクト」でこの国立富士見台団地の物件を知ったんですが、倍率も高く、時期も合わなくて…あきらめかけていた時に富士見台団地のページを見たらDIYができる賃貸住宅と書いてあって。
淳平さん
本当にちらっとでていたんだよね。
香奈さん
しかも、問い合わせしたらもう1軒しか残っていないって言われて。
淳平さん
もう、決めよう!ってね。
香奈さん
決めるしかない!って。
淳平さん
それがちょうど平成26年の4月で、ほぼ1ヶ月間でDIYを完成させました。事務所のスタッフにも手伝ってもらって、皆、本職ですからガチでやってたので(笑)。週末は友達を呼んで手伝ってもらいましたね。
香奈さん
1ヶ月間、それしかやってなかったね(笑)。
淳平さん
でも、図面は引かなかったんですよ。それは、実験というか好奇心から。一番最初に内見に来た時、周辺と部屋の環境に「いい雰囲気だな」って思って、しっかり図面を引いて自分の間取りを決め込んで作るよりは「流れ」に任せながら作るほうがいいのかなって思ったんです。自分たちの暮らしをイメージしながら、空間の使い方や設え方、楽しみ方といったソフト的な側面からアプローチしていきました。
淳平さん
もとは6畳、6畳、4畳半の3Kの物件だったんですが、まず最初に仕切りを取っ払いました。ふすまとか柱とか壁とか、柱は3本くらい抜きましたね。お金はあまりかけられないので、材料の購入もかなり限定させようと思って、ゴミに出たものも「後で何か使えるんじゃないかな?」って、いったん取っておいて。だから、仕様書は作りながらも図面でディティールは作り込まず、「この部分は『こういう形』だから、『これ』と組み合わせようかな」とか夜な夜なスタッフたちと対話しながら進めていきました。そういう物と対峙して考えていくという作業が面白かったんですね。
ーーーその対話の結果、例えばどんな組み合わせが完成しましたか?
淳平さん
例えば、リビングの「畳ベンチ」ですね。もともと最初から、剥がした畳をベンチとして二次利用しよう、ということは決まってたんです。でも、その足をどう作るかは迷っていて。新しく買ってきた材料と古い畳を組み合わせると、どこか「フェイク」な感じがするな、と。だから、古くて、このくらいの長さの材料ってあるかな〜と思って探していたら、ちょうど頭上に鴨居(ふすまの上部分)が目に入って。「ちょうどいい長さの材料があるじゃん!」と(笑)。うまくおさまりましたね。結果、家の中で最も好きなスペースになりました。ほら、下に、襖がはまる溝がありますよ。
ーーー押入れだった部分はデスクとして活用されているのですね。
淳平さん
一般的な押入れよりも、高さが少し低めだったので椅子を置いて座ってみるとちょうどデスクとして使えるなって。これも工事をしている途中に思いついて。
淳平さん
その分、収納が減ったので、部屋のなかに納戸スペースを作りました。これも、造作としてしっかり作ってしまうと、どうしても部屋が狭くなるので、押入れから外した襖に麻布を貼って、4枚をつなげて屏風状にして立てただけです。上が抜けてくれるだけで開放感がありますね。
ーーー香奈さんの好きな場所はどちらですか?
香奈さん
お風呂ですね。浴槽のなかにベンチみたいに作ってくれた段差がまたよくて。息子も座れて、本当に使い心地がよいです。実は、DIYする前のお風呂は、浴槽と洗い場の間に大きな溝があったりして、ちょっと怖い印象だったんです。それをDIYで改善できるなら、ここに住んでもいいよと言っていたくらいです。でも実際住んでみて、一番お気に入りの場所になりました。
淳平さん
もともとはバランス釜で、バスタブがポンと置いてあるだけだったんですよ。だから、そのバスタブは取っ払って元々の防水部分は生かしながら、新たなバスタブを作りました。50mmのスタイロフォームを立てて、その両側をセメントで固めて床のタイルといっしょに白のペンキで塗って。
ただ給湯は別の場所から引っ張っています。その設備と電気、ガスは業者にお願いしました。工事の様子は動画を撮影して公開しています。
最初に感じた、団地の「気持ちよさ」をのこしたくて
淳平さん
ここに住むようになって、メンテナンスをしながら暮らす、その生活のリズムが心地いいですね。
香奈さん
例えば、キッチンも使い心地がよくて、食器を食べたらすぐ洗うようになったし、部屋もワンフロアなので掃除しやすくて、起きた瞬間に床掃除をするようになって。
淳平さん
確かに、床の掃除は気持ちいいよね。
香奈さん
自然と床に物をごちゃごちゃと置きたくないと思うようになって、より空間が整うようになりました。
ーーーちなみに、床の素材はなんですか?
淳平さん
これは、Pタイル(塩ビタイル)ですね。DIYでは一般的に木の床が多いですが、僕としては「畳ベンチ」をリスペクトしたいなっていう気持ちがあったので。畳の素材感を引き立たせるために、床はなるべくその他の素材感を消すようにしました。そうすることで、より畳の心地よさに敏感になれるのかなって。
香奈さん
……私は、その「畳ベンチをリスペクトしたい」っていう気持ちは、よくわからないんですけどね(笑)。
淳平さん
(笑)。
ーーー(笑)。DIYをする上でテーマはありましたか?
淳平さん
最初の時点では決めませんでした。全部終わって、振り返って自分が何をやっていたんだろう? って言葉にすると…団地の質感、パーツなどの触感はのこしながらも、それと相反する現代の自分たちの生活スタイルを同居させるやり方になりましたね。
僕らは友人をたくさん呼んで食事やお酒を楽しむのが好きで、広い空間が欲しかった。なので、部屋の仕切りは取っ払い、間取り的には一新しましたが、最初にここに来た時に感じた「団地の気持ちよさ」も残したかったんです。
ーーー「団地の気持ちよさ」ってなんでしょう?
香奈さん
今、都心じゃ、これだけ広くて高いビルもなく開けた空間はなかなかありませんよね。秋には紅葉、春には八重桜がとてもきれいで、天気のいい日には遠くに富士山も見えるんですよ。それに、洗濯物もよく乾きます。都心に住んでた時は、なかなか外に干せませんでしたから。
団地に住むみなさんも、息子といっしょに歩いていると声をかけてくれたりして。あと、夏には団地のお祭りもあって。
淳平さん
人と繋がれそうなんじゃないかな、っていう思いがあったよね。
香奈さん
私たち、人を家に招くことが好きだから、友達だけじゃなく同じ団地に住むみなさんとも繋がれたら、ってね。
淳平さん
この部屋は、すごく楽しい場所になったんですけど、今後はさらにもっと外に向かっていきたいなと思いますね。今、団地の近くにある、昔スーパーだった物件を事務所として使っているんですけど、そこも自分たちで改装したんです。もともとは、その場所でアートイベントを主催していた方と、ここに引っ越してからご縁があって。
そのスーパーに入っていた元タバコ屋さんだった場所を、今コーヒーとワインを飲めるスペースにしたいなと思っています。近くにコーヒー屋さんやワインバーが少なくて、そういうお店があるだけで、「ここに住もうかな」って思ってもらえる人が増えるのかなって。そうやって新たに訪れる若い人と、あと昔からここに住むご年配の方々と、みんなで団地コミュニティが作れたらいいなと思いますね。
2016年12月 取材・文:高木沙織 写真:鍵岡龍門
 
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