自分の想いを実現するには、確かな事業計画が必要
働き方の多様化が進み、起業を副業・兼業として認める会社も増加。国や自治体、公的機関に開業資金の支援制度が用意され、シェアオフィスのように低コストでビジネス拠点として使える施設も増えるなど、起業しやすい環境の整備は進んでいます。
起業・セカンドキャリアとお金の問題に詳しいFPの氏家祥美さんも、「顧客との打ち合わせや取引もオンライン化が進み、スキルシェアサイトなどのサービスが増えたことも、起業を目指す人には追い風でしょう」と言います。
氏家さん(以下敬称略)「ただ環境が有利だからといって、漠然と起業してもうまくいきません。まずは事業計画→事業内容→立地(店舗経営の場合)を何度も見直して、それに見合った資金の準備、調達先を探すなど、自分がやりたい事業をブラッシュアップすることが大切。副業・兼業が可能な会社にいるなら、最初は休日やスキマ時間を使った起業でリスクやコストを減らすことも検討してください」
特に注意したいのが、「想いが先行し過ぎて、無理な事業計画を立ててしまい、開業後に資金が続かなくなる」というパターンだそう。
氏家「自分が子育てで苦労したから、親子で過ごせる居場所を地域に作りたい。多様な世代が交流できるスペースにしたい。想いは大切ですが、それだけが強くても、適切な収支計画がないと事業として成り立ちません。
国が全国に設置した中小企業・個人事業主向けの経営相談所『よろず支援拠点』では、無料の起業相談も行っていますから、専門家の視点で事業計画にアドバイスをもらうことも考えてください」
さらに、地域の人が本当に集まってくれる立地なのかもよく吟味すべきでしょうという氏家さん。例えば、カフェやコミュニティースペース、飲食店のように地域の人を主なターゲットにした業種なら、大規模団地で集客に期待できる立地の「URテナント」もおすすめです。
多ければ団地だけでも1000〜2000戸の住居があり、その周囲にも住宅が広がっているところがほとんど。こうしたまとまった商圏ボリュームに加え、条件に合えば当初の賃貸料が無料になったり、保証料が割引になったりする制度もあるなど、起業しやすい環境が整っています。
次に紹介する「ちーさん家」のオーナー、大西智恵子さんもそうしたURテナントで開業した一人です。
神戸市郊外の大規模団地での子育てからカフェの開業へ
大西さんは2023年8月に、神戸市郊外の垂水区にある新多聞(しんたもん)団地のURテナントでコミュニティーカフェをオープンしました。この団地は大西さんが生まれ育った場所。大手電機メーカーで働いていた大西さんは、「子どもが生まれて、子育てしやすい団地に戻ろうと思ったことが、起業のきっかけになりました」と話します。
大西さん(以下敬称略)「長く会社に勤めていると、忙しくて住んでいる地域との接点が希薄になりがち。子どもが生まれて地域の方々があれこれサポートしてくれるのに気付き、改めて『地域のつながりっていいな』と感じました。それなら自分が昔住んでいた新多聞団地で、人とのつながりを大切に子どもを育てたいと考えたんです」
URの団地は敷地内の緑も豊かで、歩車分離だから安心です。こども園や小学校のほか、銀行、郵便局、ドラッグストアなどの生活利便施設も敷地内にあって便利でした。
大西さんが、団地周辺に引っ越したのは子どもが小学校に上がる前のタイミング。その後、コロナ禍になって出社や外出の機会が減り、新たな人のつながりに期待してライブ配信を始めたのだとか。配信で得た収益や多くの人との出会いをもとに、団地の商店街でコミュニティーカフェ「ちーさん家」の開業に至ったそうです。
大西「元々55歳くらいで会社を辞めて、商店街に地域の人が交流できる場を作りたいと考えていました。コロナ禍とライブ配信はそれを少し早めてくれた感じです」
事業計画をしっかりと立て、副業で複数の収入源を確保
会社で製品受注の計画などを経験していたおかげで、事業計画や収支計画の立案はさほど難しくなかったと話す大西さん。ライブ配信で知り合った飲食店などの経営者からは、「あれが必要、これは要らない」といったカフェの内装や設備、公的支援制度などのアドバイスをもらえたそうです。
大西「事業計画では見込み顧客数をシビアに見積もる一方で、誰もが気軽に来てほしいからコーヒーと紅茶は300円に設定。収益は食事でカバーする考えでした。ライブ配信を続けるなど複数の収入源を確保できていたので、カフェの経営で無理な収支計画を作らずに済みました」
URテナントへの申し込み時には詳細な収支計画書の提出が必要だったので、この段階で事業や収支をさらに明確化。また公的支援制度の利用を考え、ひょうご産業活性化センターの「商店街若者・女性新規出店チャレンジ応援事業補助金」にも申請しました。
この制度は補助金に加え、同センターが派遣する商業アドバイザーとの面談で事業計画をブラッシュアップできるサポート付きです。大西さんは「アドバイザーからもコーヒー、紅茶が安過ぎるとは言われましたが、そこは妥協せず(笑)。ほかはさほど問題がなかったので事業計画にも自信が持てました」と振り返ります。
大西「URテナントは商業地域ではなく住宅地にあるので、周囲に競合相手が少ない傾向があるのも安心感があります。団地とその周辺に住む人をターゲットに、地域密着を軸に事業計画を立てられるので、個人事業主や小規模ビジネスの開業もしやすいと思いますね」
定期的なイベントで地域交流をもっと盛んに
オープンして2年で、「商店街に来たときに休む場所ができた」「ここで毎日誰かと話せるのがうれしい」と地域の人に親しまれている「ちーさん家」。現在は午前中から訪れる地元の方や、週替わりのランチを食べにくる団地の方でにぎわい、17時過ぎには学童保育を終えた子どもたちが通りがかりに声をかけてくれるそう。「カフェも18時30分まで営業して、夏には凍らせて半分に折る棒状アイス、冬には棒つきキャンディを販売するなど、子どもたちが気軽に立ち寄れるようにしています」と大西さん。
大西「食事はレギュラーメニュー以外に、地域の方や飲食業の方が作る『ワンデーシェフ』の日も設定。ほかにも高齢の方から子育て世代、子どもまで、より多くの人が交流できる場を目指して、折り紙会や塗り絵会、ハーバリウム作りなどのイベントを毎月数回開催しています。講師も主に団地に住んでいる方で、『みんなが参加していろいろできる場所』という当初のコンセプトに近づいたと感じています」
こうした取り組みについて、氏家さんは「地域から評価されるお店を運営していると、人のつながりが新たなビジネスチャンスを生み、外部から仕事を依頼されるケースもあり、今後が楽しみ。本人の強い思い入れやストーリーを持つお店・サービスは、3年くらい続くとファンになった人が拡散して、情報が一気に広がることも多いからです。
また今後は『ワンデーシェフ』以外にも、将来レストランを開業したい人による『間借りキッチン』の日を設けるなども考えられますね」と高く評価します。
コスト面でも有利な「URテナント」。初期費用が抑えられて賃貸料無料の期間も
大西さんが開業時に反省している点の一つが、「賃貸料が一定期間無料になるチャレンジスペースを利用するチャンスを逃したこと」なのだそう。実はURテナントには以下の制度があり、一般的な事業用物件と比べてコストが抑えやすいこともメリットです。
大西「私の場合は、その後に公的支援制度の補助金を受けられましたが、これからURテナントで開業を目指す人には、チャレンジスペースに該当する物件かどうかのチェックもおすすめしたいですね」
氏家「開業前や開業後しばらくはあれこれ出費も多く、経営を軌道に乗せるのにも苦労する時期。そうしたときに初期費用や毎月の賃貸料が抑えられるなら、落ち着いて事業に取り組めると思います」
URテナントには、2階が住居になっているタイプや、駐車場が付いている場合などもあり、くらし方や働き方に合わせてさまざまなタイプのテナントを選択できるのも魅力的。「それに設備のトラブル対応も団地内の管理サービス事務所が窓口になってくれるので便利です」と、大西さんは改めてURテナントで良かったと感じているそうです。
エビの陸上養殖を契機に地域全体の活性化へ
「ちーさん家」がある新多聞団地ではURのユニークな取り組みとして、以前は診療所だった建物の1階を養殖場にしたバナメイエビの陸上養殖が行われています。大西さんは小学生と保護者が参加する養殖エビの体験プログラムでの協力したことが縁となり、団地の養殖エビを使ったメニューをカフェで提供する試みも始めたそうです。
大西「非常においしいエビで、ちらしずし、エビフライ、天丼などを作って提供しました。ただ、養殖エビは一度出荷すると次の出荷まで数カ月はかかるので、そのタイミングで途絶えていたお祭りも『エビまつり』的なイベントとして再開しようと、商店街の方に声をかけているところです。この件でURの街づくりの担当者とも接点ができたので、今後は養殖エビを団地全体で盛り上げたいですね」
URテナントには「ちーさん家」のようなコミュニティーカフェをはじめ、多様な業種・業態が出店。新たに開業する人への受け皿が広がっています。広域な街づくりの観点から世代間の交流や地域社会の交流促進に積極的に取り組むことで、URの団地は「古い」「昔ながら」といったイメージから新たなチャレンジを応援する拠点になっているのです。
さらに団地にあるUR賃貸住宅では若者や子育て世帯が増え、高齢者から子育て世代、若年層、子どもまで多くの住居者がいます。そんなさまざまな住民と触れ合いながら、地域コミュニティーに根ざした店舗運営にも期待大。「自分がやりたい事業がそうした顧客層とマッチしているなら、URテナントは有力な選択肢だと思います」と氏家さんはアドバイスします。
集客やコスト面で有利な「URテナント」でマイペースな事業経営を
郊外の緑豊かな広々とした環境で、職住近接のライフスタイルにも向いているURテナントの物件。大西さんは「カフェをはじめ飲食店は、全国規模のチェーン店も多いですよね。そんななか、個人事業主でもURという大きな組織と連携して起業できるのは、とても安心感があります」と話します。
既に店舗を探している人も、将来の独立開業を考えている段階の人も、まずは近くにあるURテナントの物件情報を見てみませんか。以下のリンクから、首都圏、中部、関西、福岡の都市圏を中心に、全国約450団地に開設されているURテナントの物件を地域ごとに探せます。
