隈 三上さんのような方が果たしてくださっている「翻訳機能」は、非常に重要ですよね。
佐藤 恐らく、今世の中で一番必要とされているのは、そういった翻訳的な役割ですよね。いろいろ起きている問題は、業界と世間との…っていうところですよね。そこをどう橋渡しできるか。このプロジェクトはいろいろな方が参加してくれて、なるべくそこがオープンになるといいなと最初から考えています。
UR都市機構 太田潤
太田潤(UR都市機構ウェルフェア総合戦略部長:以下太田)) URはこれまで、公共団体とURとの間のボキャブラリーや、住民のみなさんとの「関係性」で進めれば良かったのですが、今後は民間事業者さんにも乗っかってもらって、我々だけでやるのではなく、関係する様々な方々と一緒にやっていくことが必要になってきています。そういう意味で、これまでは管理というと割とディフェンシブだったのですが、様々な人の話を聞かなければならなくなってきている。ですから、我々にももっと「翻訳機能」を要求される部分が多くなっていくと思います。それでも、いまだに住民の方と話をするときに、専門用語で話をして、余計なところで誤解が生じていたりします。もっとシンプルにコミュニケーションができるように、URも変わっていくべきなのかなと思います。
三上 専門用語だけ一人歩きしてしまうんですよね。意味の理解の仕方がいろいろありますからね。そういった意味ではURの「団地マネージャー制度」の誕生は、良かったんじゃないですか。
太田 そうですね。あれはURが自ら投入した「翻訳機」です。大きな実験だったんですよね。
佐藤 「翻訳機」の尾神さんとしてはいかがですか?
尾神 組織として入っていくより、より地域に入り込みやすいかもしれません。団地の営業マンとして、ある一定の成果はあるのではないかな、と考えています。
太田 URとしても約3,200人の組織で、今、東北に約450人近く送っていたりする中で、マンパワーとしてはとても厳しいわけです。ですので、どこでもこんなやり方ができるとは思っていないのですが、いろいろな知見を「翻訳機」を通してフィードバックして、横展開していきたいと考えています。そのために横浜・洋光台の「団地の未来プロジェクト」が、そのリーダーシップをとっていくということなのかなと思っています。
UR都市機構 尾神充倫
尾神 隈先生や可士和さんに会った最初の年は、私も本当に苦労をして、皆さんから言われることにもうまく反応できなくて。でも、4年やっているとようやく多少おっしゃっていることも分かるようになってきているかなと。かなりスキルはたまったかなと思います。
佐藤 すごく変わりましたよね。
尾神 そうでしょ?(笑)
太田 最大のお褒めの言葉ですね。
佐藤 最初、めちゃめちゃ堅かったですもん。
太田 はじめ、僕らは可士和さんに「0点」と言われていましたから。
尾神 私だけがこんなに勉強させてもらっていいのかなと思っています。スタッフにも伝えていきたいと思います。最初の頃を経て、隈先生に広場改修に関わっていただけることになり、さらに可士和さんに関わっていただくようになったことで、またフェーズが変わって、いろいろな経験を重ねていると思います。
秋元康幸氏
秋元康幸(横浜市温暖化対策統括本部環境未来都市推進担当部長:以下秋元) 私も建築系の者なのですが、今回ソフトの話に興味を持っていました。高齢化や人口・世帯数の減少もあるでしょうから、そのあたりをどう解いてくるかなというところに随分期待していました。出てきた案は、子育てや農業というように、直接的に高齢者問題をどう解決するということよりは、これまでの関係者とは違った人たちをどう引っ張り込んでいくかという視点が多かったですね。そのような解決方法を考えている人が多かったのが面白いなと思いました。今回の「集会所」は半公共建築なので、NPO的な活動にも使われているCCラボ(コミュニティチャレンジラボ:地域の方々に地域拠点として貸し出しているコーナー)とは少し異なって、居住者の皆さんを中心に、いろいろな人がいろいろな使い方をする場所。そういう、これまで極端な変化がなかったここを変えていくような新しい提案や、どうやって新しい人を誘い込むかという提案がかなりあったので、なかなか面白いコンペだったのではと思います。
大月 結構「食べる」が多かったですよね。
尾神 可士和さんもよく「食」は大事とおしゃってますよね。
佐藤 「食」はコンテンツとして反対が出にくいですし、年齢、ジェンダーも関係なく強いですよね。
藤本 建築にしやすいというところもあると思います。象徴的なキッチンも出てくるし、それを取り囲む形ができるから、絵にしたときに、あ、何かあるなと思わせられる。
佐藤 人が集まる感じがしますしね。
藤本 高齢の方や若い人が、どう一緒に集えばいいんだろうという時、「食」を囲むのはひとつのあり方だと思いますね。
佐藤 ひとりで食事するのはさみしいことだから、それに対するソリューションとして、みんなで食事をするのは、大きなことですよね。
秋元 配食されたものを食事するよりは、こういう集会所でみんなで食べたいという意識は相当出てきているようです。
大月 でも、最近は「個食」も多くて、みんなと食べたくないよ、っていう人も結構いるんですよ。大学の学食でもひとり掛けの個食ブースが用意されていて、ひとりでも様になるような席の設えがあるんです。
佐藤 ひとりずつ仕切られているラーメン屋も流行ってますね(笑)。
大月 神戸大学に行ったときも大きなテーブルに仕切りを設けて、互いが見えないようにしている。ひとりのブースで、という形よりは、みんなでオープンな場所で個食し合っています。
隈 ひとつのコミュニティですね。「見えないけどコミュニティ」っていうのもあり得るんだね。
大月 他人の音とか匂いとかはわかるじゃないですか。そこから話を始めるという第一歩がデザインされているんです。個食から始めるコミュニティというのがあっても面白かったかもしれないですね。
秋元 最初のとっかかりとしては、あるかもしれないですね。
藤本 個と個のダイレクトな関わりの間ぐらいの、がっつりパブリックでもないけど、完全にアイソレーション(孤立)でもないようなところを再発見していかなきゃ、という雰囲気はありますよね。シェアの話なども、なんとも言えないような混ざり具合だと思うんです。今回のような中規模の集会施設で、誰でも来るんじゃないけど、全員と仲良くしなくちゃいけないわけでもないっていうような場所なのかな。
秋元 そのあたりの感覚は大切ですよね。
佐藤 ネットの環境で「個人のアドレスを持ちながらも、全部とつながっている」っていう、プライベートを守りながらも、つながっているコミュニケーション。そういうことに皆慣れている。それが心地良いから、同じことをリアルにも求めてきているのかもしれないですね。
藤本 いきなり全部さらされちゃうと気持ち悪いですしね。
隈 そうですね。実名でいくか匿名でいくかのオプションがいろいろ出てくる。
佐藤 それによって、アプリを使い分けていく。匿名でいったり実名でいったり、コミュニティをつくったり、完全に一体社会だったり。いろいろなアプリを使い分けていくわけですよね。そういうコミュニケーションに皆ものすごい勢いで浸っているから、なんとなくリアルにもそれが表れてくるのかもしれない。
大月 集会所というと「ドカンと皆で集まりましょ、集まったらおしまい」という感じが今までのスタイルでしたが、今回出てきた作品は、いろんなつながり方のニーズがちゃんと空間化されていて、場所がユニークなこともあって、なおさら面白かったです。集会所的というより「村」をみんなで設計している感じがしました。
隈 最終的に地形がすべてを結び付けてくれるという安心感がありますよね。
三上 集会所では、2ヶ月に1度、ひとり暮らしの高齢者のお食事会をやっています。だいたい40人ぐらい集まります。ほとんどがおばあちゃん達です。旦那さんが亡くなってすごく元気になっているのかもしれませんが…。会費200円と、あとは横浜市からの補助でやっています。手づくりの料理なので、とても楽しみに来てくれています。集まる人のほとんどが地方から来た人たちなので、昔食べたようなものをつくっています。お正月などもニシンの昆布巻きを出したりしています。団地は空間がたくさんありまして、蕗がでたり、つくしがあったり、そういうものも調理して食べてもらったりしています。普段は皆さん静かに寄り添って生活していますので、誘い合ってきてくれます。でもそこに来ると一人暮らしを感じさせないぐらい元気に話しているんですね。さっきの話のように、ひとりでいることも必要なんだけれど、皆で話をすることも大事だなと感じています。
大月 実施設計の時には、三上さんをはじめ、たくさんの地元の人にインタビューしてもらうといいですよね。今やっている宝物をいかに失わないようにするか。
隈 図面だけでなく、大きな模型をつくって皆で見ながら話すとね、いろいろなアイデアが出てきていいと思いますよ。
三上 6月以降、模型があれば皆にも見てもらいながらやれるといいですね。
隈 ワークショップの時は言葉だけでやると言葉のうまい人だけで話してしまうけど、模型を前にすると、具体的な意見が出てくるから面白いと思いますよ。そのプロセス自体も宝物になると思います。
尾神 (最優秀に選ばれた)「OPEN RING」のプランだったら、いろいろできそうですよね。
三上 入賞作品は展示とかするんでしょう?集会所でやって欲しいですね。
佐藤 是非見てもらいたいですね。
隈 プロセス自身がとても面白くなってきているから、知恵を絞ってこのプロセスの共有化を図っていきたいですね。地元の人々や今回選ばれた設計者のチームといろいろ話し合いながら、いろんな課題をどう解いていくか。そして、それをちゃんと次のものに活かせるようにしていくと、今回やったことの意義が出てくると思います。この「団地の未来プロジェクト」は、ある意味でこのプロジェクト自身が歴史をつくっているという意識がありますよね。様々な団地の集大成として、日本の団地再生を実現して新しい姿をつくろうというスピリットが全員の中に芽生えているから、それを途切れさせないで意識を盛り上げていってほしいですね。それが「俺たちすごいプロジェクトに関わっているんだ」って言ってもらえる感じになってくると、他の地元の人にもますます浸透していくのではないかと思います。
佐藤 以上でよろしいでしょうか。皆さん、ありがとうございました。
最優秀賞「OPEN RING」 提案から