公開プレゼン後 審査委員座談会[前編]

2016年4月18日、東京都文京区の求道会館にて行われた一次審査通過者による公開プレゼンテーションを経て、各審査委員による「審査会」で最優秀賞をはじめ各賞を決定、その後、審査委員の皆さんによる「審査員座談会」が実施されました。二次選考に進んだ6アイデアの全体講評に始まり、今回の設計対象である「集会所」をシンボルとする“集まって住む”という団地の意味や、そうした場所の建築設計を通じて考えるこれからの「住まい方」など、審査員の皆さんがそれぞれの立場で、コミュニティの未来を楽しく語ってくださいました。その様子を2回に分けてお届けします。

座談会風景

建築の定義を、「ちょっとずらす」

尾神(UR団地マネージャー:以下尾神) では、(コンペ審査会に引き続き)座談会に入ります。まず、今回のコンペの審査を踏まえて、今後の団地の未来の可能性など含め、全体の講評をお願いします。

佐藤可士和(本プロジェクト プロジェクトディレクター:以下佐藤) 審査員の皆さんおひとりずつ、具体的にお話いただけるといいですね。では藤本さんからお願いできますか。

藤本壮介氏

藤本壮介(建築家:以下藤本) あらためて、いい意味での難しさというか面白さっていうのが、団地には数十年積み上げてきた歴史があって、それを踏まえた上でこれからどうするのかというところ。団地そのもののストラクチャーがあって、そこに配置計画や、今回の場合は地形も絡んでいて、単なる新しい建築ではない面白さがあったなと。さらに居住者の皆さんの今の活動がある。それをどう未来につなげていくのか。ハードとしての建物、ランドスケープ、そこで行われていることが、脈々と積み上げられていて、その中に未来につなげていけるエッセンスをうまく見つけられると、すごく納得感があるかなと思いました。一方で難しいのは、何か新しいことが起こったというインパクトみたいなものも必要で、一般の人にとって「これから団地って面白そうだよね!」と思えるものでないといけないんですよね。その課題の面白さ、難しさがあったなと思いました。今日審査して、最終的に1等に選んだ案が、最初、私もクリーンな案として1票入れていて、深読みしていくと、あそこに今あるもので一番残さなきゃいけないのは「地形」なんじゃないかと思うようになったんです。地形は人が日々動いたり、窪みを使って活動したり、階段上がったり下がったり、無意識の中で記憶の中にとても絡んでいて、その部分をあえてまずは取り出して、物は全部新しいが、地形だけはそこに根ざしているというあり方というのは、可能性としてはあるのかなと。既存の物も残すとしても、全体としての新・旧や、過去と現在と未来のつながりがつくれるといいんだろうなと。1次審査をしている時はそこまで思い至らず、今の躯体をどうしているのか、まったくさらにするのか、というぐらいのレベルでしか見ていなかった。より深いところでいろいろな記憶が脈々と流れていくのを感じられると面白くなると思います。

最優秀賞「OPEN RING」 提案から

佐藤 先ほど(審査会で)、隈さんや藤本さんは、選ぶときにストーリーが重要で、(最優秀の案が)今という時代に対して今的なのか?ということをおっしゃっていたんですが、建築でいうと何が今的なのでしょうか。今的というか、今必要とされているストーリーとはどんなものでしょうか。

隈 研吾氏

隈研吾(審査委員長、本プロジェクト ディレクターアーキテクト:以下隈) 今、藤本さんの言った「地形」などは、割と今的なものですね。上物が建築だっていうこれまでの普通の考え方を、建築って上物よりも周辺の地形だったのかもね、とか。建築の定義の仕方をちょっとずらすと言いますか。ちょっとのずらし方なんだけれど、そのずらし方をうまくやったものが新しく見えるというようなね。「団地の未来」というプロジェクト自体がそういうものだと思っていて、団地自身をちょっとずらして見ると、団地自身がとても新しく見えて、カッコ良く見える。今のプロジェクトの皆さんは、そういうものを見つけられるメンバーじゃないかなと思っています。「ちょっとずらし」の感じが出てくるといいなと思っていたけど、コンペで「ちょっとずらし」の感じのものを探すのって、とても難しい。コンペって短期間で選ぶから、ワッとずらした方が選びやすい。でも、今回選んだ案は、次点のほうがパッと見の新規性がある感じだけれども、最終的に選んだ案は、建物は新築のように見えていて、実は地形は保存している。そういう意味では、リノベーション的な提案と言えるわけで、深く読むと「ちょっとずらし」の案なのかな。時間が経てば経つほど、良く見えてくる案かもしれないです。

大月敏雄(東京大学教授:以下大月) そういう意味では、可士和さんがつくられたプロジェクトのロゴ表現の、団地の団が+と●点の組み合わせになっているのが、「ちょっとずらす、ちょっと足す」ことの新しさにつながっていますよね。

 そうですね。私もこのロゴを見たときに、これだったら団地の未来プロジェクトに込める想いのエッセンスをぴったり形にしてくれているなと。「これならうまくいく」と実感しましたね。

佐藤可士和氏

佐藤 ありがとうございます。先ほど、藤本さんがインパクトの話をされていましたが、今デジタルの世界だと、どちらかというといかにデザインしていないか、何もしていないというのが結局いいよね、という傾向にあります。ただ、フレームの機能性とコンテンツはまた別の話だと思います。建築でいう「姿を消していくようなデザイン」の話と「コミュニケーション的なコンテンツ」としてのインパクトなどは、建築的にはどう解釈されているんですか?

 私は1次審査で見始めた時は割とコンテンツが気になってみていました。でも、今日三上さん(洋光台まちづくり協議会長)にお話を伺うと、(審査会でおっしゃっていた、住民の皆さんが集会所で日常的に行っている)「ラジオ体操」のリアリティの前には負けるなと。今日のアイデア6点だけでなく、コンテンツの内容で頑張って考えられていたものも多かったけれど、それよりも、もっと本質的なところで、あの「場所性」をつかんでいるかどうかが決め手になったところがある気がします。

佐藤 場所性から選んだということであれば、つながりますよね。

藤本 建築とコンテンツの関係は結構難しいですね。新しい場所のつくり方として「新しいコンテンツで」っていうのはたまにある話ですが、それを狙って頭でっかちにコンテンツだけをゴリゴリ考えていくと空回りしてしまうこともありますよね。場所の特性とそこで起こることは、人間のやることなので、そんなにクルクル変わるものじゃないですし。でも、そこをあきらめちゃうっていうことでもなくて、何とも言えないところがあるかなと。ただ、建築として「新しさ」がどうなっていくというのは、やはり模索していくべきものだと思います。まさに「団地」っていうのは、それまでの近代建築の流れの中で相当大きな変革だったんだと思うんですよね。でも、同じようなインパクトを狙っても、説得力がないものかもしれない。我々の生活のベースが、どこに根ざして何が変わって何が変わっていないのか、しっかり見極めないと、なんとなく空回りしてしまうなと思います。

地域の人々と一緒に、色を付けていく。

大月敏雄氏

大月 今回、このコンペ自体が、新しいやり方だったと思います。実はこのコンペと並行して、横浜市の「左近山団地中央地区」という、公団が分譲した昭和40年代団地の集会所コンペの審査委員長をしていました。そこは、分譲団地なので所有者さん達の管理組合があって、予算は6,000万円程度だったか、お住まいの方が身銭を切ってコンペに出したんです。そうすると、居住者の参加の仕方は俄然違って、さっき三上さん(洋光台まちづくり協議会長)がおっしゃっていたような、昔はあれやっていた、これやっていたという話がバンバン出てくるんですね。そういう雰囲気の中でやるコンペもあれば、今回のように賃貸メインの団地で、大家であるURが間に入って、自治会やまちづくりの組織の代表選手とやり取りしながら、さらに我々みたいな専門家が取り巻きながらという面白いコンペもある。いろいろなコンペのあり方が団地でこれからいっぱい模索されていく中で、横浜のURの分譲と賃貸のいわば代表選手が同時にこういう形で独特の路線を狙いながらコンペをやったというのは、相当新しい。さらに面白いなと思ったのは、結構若手で駆け出しのような人たちがたくさん応募してくれたところ。最近はコンペというと何千㎡の実績がないと応募すらできないことが多いけれど、こういうコンペが全国に広まっていくと、もっともっと若い人がいろいろ参加して、身近な空間をどうつくるべきかという議論が、ガーッと巻き起こっていくと、すごく面白いなと。その導火線に火をつけたんだぞと言うことができると、このプロジェクト自体は大成功なんだと思います。

佐藤 コンペのいいところと良くないところって何でしょうか?

 難しいけど、やり方によっていろいろあるよね。審査委員によっても善し悪しが出てくるしね。

藤本 ちゃんとした専門家が審査して議論をして、こういう理由で決めたとアナウンスをするのがとても大事だと思っています。公開審査っていうのもありますが、あれも善し悪しがあって、単にオープンにしたからいいでしょ、という免罪符になってはいけないし、時間が限られていたりして突っ込んだ議論ができなかったりする場合もある。ただ、コンペというシステムを、日本の建築の世界ではもっとしっかりと確立をするべきかと思っています。隈さんも参加されていますが、私はフランスでコンペに参加することが多いのですが、向こうはコンペに関してちゃんとしたシステムを持っています。大きめのディベロッパーが開発するようなものもコンペになるし、もちろん公共もそうです。完全なオープンではないのですが、選ぶ5チームのうち、ある程度若い人を入れなければいけないとか、海外の人を入れなければならないとか。そういう風にシステム化されていると、常にチャンスが開かれていて、単にいい・悪いだけでなく、いつも様々な議論の俎上に建築が上がっているという感じがしますね。あのような仕組みが日本にもなければいけないと思っています。

大月 そうしないと、議論のクオリティ自体も上がっていかないですね。

 フランスの場合は、ヨーロッパの中でもシステムとしてちゃんとしていますね。ひとつは与件の整理の仕方で、プログラミストという計画の専門家の人が入っていて、かなり精査してプログラムを考えている。その人もいれて、最初のファーストリストを5社ぐらい選んでいます。もうひとつは、リスクヘッジの仕方もちゃんとしていて、コストに関しても、あとでとんでもないことにならないように、コストが合わずに設計をし直したりすると、一日についていくらとか、罰金を払わせる仕組みになっている。前段階のプログラミストと後段階のリスクヘッジがちゃんとしていて、それでオープン性も担保されていて、若い人を入れるとか、バランス感覚もあって。学ぶ点は多いと思いますね。今回の場合、ある種のリスクヘッジとして可士和さんと私とURで決定後にディレクションをするというのを事前にアナウンスしていますが、これは画期的だと思います。

佐藤 そういうのは(日本では)あまりないのですか?

 ほとんどないと思いますね。きちんと言わずに後でガンガン変えちゃうのはまずいのですが、そうではなく、今回のコンペはちゃんとそういう考えを持ったコンペなんだと事前にアナウンスしたわけです。口を出すほうも、それぞれに理念を持って口を出すと言っているわけですからね。そういう意味でも画期的だと思います。

大月 名前が「アイデアコンペ」のわりにはクオリティが高いですよね。

藤本 出してもらったドキュメントは、この規模の実施コンペのレベルだと思います。若い人にもチャンスを与えて、クライアント側で、最後できるもののクオリティもキープして。そういうことを少しずつ積み重ねていくと、ちゃんとコンペで選んだもので良かったよね、それなりのクオリティが出るよねとなっていきますね。そういう積み重ねをしていくしかないのかなと思います。

尾神 毎日、何件応募が来たか、聞いていました。最終的には148件来たので良かったです。出だしは悪くて、ヒヤヒヤしましたけど。

 そういうものですね。

三上勇夫氏

三上勇夫(洋光台まちづくり協議会会長:以下三上) コンペ応募者の皆さんが団地を訪れるようになって、最初は居住者の方々から「団地の中をうろうろしている人たちがいるよ」などと言われて。でも、自治会ニュースでの配信や口頭での説明などを通じて少しずつ伝えていったところ、意外とみな楽しみにしているなと感じるようになりました。応募者の皆さんも居住者から声をかけられたり。そういうことを通じて、洋光台団地や北集会所の特性などをいろいろ掴んでいったのかなと思いました。ですから、(最優秀者が)誰になっても、パートナーとしてやっていけるんじゃないかなと思って見ていました。こういうコンペは珍しいですよね。

 今回選んだ案は、割とどの部屋もニュートラルな内容だから、それに色を付けていくのは地域の方たちだと思います。

佐藤 地元の三上さんのような立場の方にこのように言ってもらえると、一番うれしいですね。

 よくあるのは、三上さんのような立場の方が途中から黙ってしまうとかね。議論が専門家だけで進んでしまって、関係ない雰囲気になってしまうというか。今回は、審査のプロセスもいい感じだったと思います。

三上 私も建築屋としてコンペを経験していますし、これまでも、住民との翻訳的な役割もしていますので。

[後編]団地の未来はコミュニティの未来

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